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15.豊かな大地を維持するには
しおりを挟むドラゴレインには近年、干魃や洪水の被害はない。コルツ王国では南の方の地域で干魃が起きていたが、王家は何もしないままだった。こう言う時にこそ、魔法やそれに伴う薬剤等の出番ではないのかと思っていたクレアだけれど、今はもう何もできることはない。
それはともかくとして、自分が生きている間にこの国で同じことが起きないとも限らない。そう思ったクレアはどうすれば安定した食物の供給が可能かを考えていた。何も起こっていないからこそ研究をする余裕があるのだと彼女は作物を見ながら考えていた。
干魃の際、他所から水を持ってこられれば良いのだけれど、そういった時は大抵川も枯れている。
結果として、水があれば良いんだよなぁと思ったクレアは箱庭に人為的に干魃を作って、対策を考えることにした。
箱庭の不毛地帯を眺めるクレアに、ソフィーは「こちらはどうなさるおつもりですか?」と尋ねると、小さな青く輝く石を取り出した。
「この辺りに溜池を作って真ん中にこの魔石を設置。魔力を一定数注ぐと貯まる仕組みができれば干魃対策になるかの実験をしようと思って」
「干魃でございますか?そのような兆候は聞いておりませんが」
「ん。コルツ王国の南側でそういうことがあったのを思い出しただけ」
その瞳にどこか憂いを感じたソフィーではあったが、クレアが命令してもいないのに勝手にあの国の人間を救うのも何か「違う」気がしていつものように笑みを浮かべるだけにとどめた。
「ある程度、技術を確立できていれば、この国で何かあった時にも役に立てるだろう」
単純に肥料や虫除けの薬なども作っている。それだけでも相当役に立つはずだ。そう思いながら、あって困る技術ではないのでソフィーも「食べ物がある、というのは重要なことですからねぇ」と頷いた。
「そうだ。私が幼いときも、近くの村で飢饉が起こった。悲惨なものだったよ」
その言葉にソフィーはスンと真顔になった。主人の過去話には重いものしかないのかと少し邪推し始めている。
「まぁ、国か領主かは判別があまりつかんがどちらかのせいだから仕方がない」
さらりとそう言って、溜池の中に石を落とす。少しだけと魔力を流すと洪水のようになってしまった。
「まぁ、はじめから上手くはいかないな」
何も気にしていないとでもいうように手を離した。
「挑戦と失敗を繰り返して、成功とは生まれるものですわ」
クレアは割と「引退したから好きなことができて良いな」と思っているだけなので、呑気にゆっくり実験を重ねればいいと思っていたりする。そもそもクレアの元々の専門は生活に根ざした魔法技術の開発だったりする。いわば趣味と実益の延長線上だ。
金銭に関して言えば、庭の薬草や野菜を見た庭師などに肥料などを融通したことをきっかけに販売をすることになり、定期的な収入になりつつある。女王が間に入ってくれているからか、値切られたりもしていない。なので金銭的にも余裕が生まれて好き勝手しているだけだ。なぜか国のために頑張ってくれているとか思われているが。本人は美味しいものを安定して食べたいだけなのである。
「ルビーベリーの品種改良はもう少し経たないと結果がわからないな」
甘い果物が食べたいという理由で品種改良を頑張っているが、その過程で冷害にも強くなる可能性があると知って女王も注目していたりする。ソフィーは同じように勘違いをしているが、クロエは少しだけ困った顔をして後ろで見守っていた。
(ご主人、ソフィーが考えてるみたいに尽くす女じゃねぇんだよなぁ)
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