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6.エルフの奴隷王子様
しおりを挟む「君たち、この女に騙されてるんじゃ…グェッ」
「おい、ご主人。コイツやっぱ放り出そうぜ」
「クロエ。その人病み上がり。降ろしてあげなさい」
首元の服を掴んで吊し上げているクロエを止めた。確かに初対面の相手に向かって失礼ではあるけれど、全体的に国、引いては自分を含めた勇者パーティーが悪い。言われても仕方がないことだ。
クレアが彼らを見逃しているのも、別に償いというわけではない。単に、取り締まるのが面倒なだけだ。後、何故か自分の家の前で行き倒れているため、仕方なくだった。放置できるほど、クレアは冷たくもなれなかった。そのあたりが、勇者パーティーや魔導師なんてものに向いてなかった証かもしれない。けれど、最小限の倫理を捨ててまで、それに人生をかけることは彼女には難しいことだった。
そうは言っても、ソフィーとクロエがいるためか、他人を助ける割合は減った。クレアの知らない間に二人が森の外に捨ててきている時だってある。「助けられたくせにご主人に手出しするなど生意気」というのが二人の意見である。間違ってはいない。
「ご主人はそもそも、我らに興味がない。騙すほどの価値も感じていない」
「ご主人様は基本的にご自分にも興味がなく、あまりにも心配なので私たちは自主的にお仕えしているに過ぎません」
「俺たちは強者に仕える一族だからな」
それは咳き込む青年に向かって言うセリフだろうか。
クレアは彼の背をさすってやりながらそう思っていると、「すまない。ありがとう」とお礼を言われた。同居人が迷惑をかけているというのに、謝ってお礼を言うあたりが律儀であり、どこか育ちの良さも感じさせる。
「確かに助けてもらって名も名乗らぬまま疑いを口にするのは申し訳なかった。
私はリヒト・ファータ・フィオーレ。西の森の王族である」
「ああ。私が高熱で寝込んでいる間に勇者に燃やされた森か」
クレアがポロッとこぼした言葉に三人の目が自分に向いたのがわかった。後味の悪い出来事だったからクレアもよく覚えている。
西の森に住むエルフの一族はそれはもう美しかった。王はその姫君を御所望だった。種族が違うとはいえ、意思疎通のできる人たちだった。勇者たちの剣やそれを強化する聖女の魔法で蹂躙された。
クレアはその時過労で熱出して寝込んでいた。クレアが止めればそれなりにうるさいことを見越して、「これ幸い」と乗り込んだ。
クレア以外のメンバーは貴族か元貴族であった。王の命令は絶対が染み付いているのもあるかもしれない。だが、騎士や聖女としてそれは正しいのかと思わざるを得ない。
「……お前は、加担していなかった。そう言いたいのか?」
「加担はしていないが、おそらく私が居たとしてもやったと思う。何名かは逃してやれたかもしれないが、大きな解決策にはならなかった筈だ。
人間にとって魔王討伐は確かに意義のあることだったかもしれないが、その裏でこういうことをするのはおかしい。一応訴えてはいたが……平民の言うことなんて価値がないのだろうな」
実際に、瘴気は消えて作物が育てやすくなったり、瘴気による病も消えた。人に害を及ぼす本来の魔物も数が減り、おそらく数年で元の生態系へと戻るだろう。それだけでもこの世界への貢献度は大きいものだといえる。
「だが、やり過ぎなんだ。そのうちきっと、人間も大きなしっぺ返しをくうに決まっている」
「ご主人様、それくらいに」
クレアはソフィーに止められて、どうしたのかと少しだけ首を傾げた。「目が…」と遠慮がちに言われる。とりあえずよほどひどい顔をしていたのだろうと考えて、その話はやめる。
「で、なんだ。私を殺す?一瞬で済ませてくれるなら抵抗はしないが」
「ご主人様」
咎めるような声音にまた首を傾げた。
クレアは己が彼らにとっての仇であると知っている。何もおかしなことは言っていないだろうと腕を組んで当然だと言うようにリヒトを見た。
「分かったか?ご主人はこういうやつなんだよ」
「こんな者たちに国を奪われたのか、我らは」
「ご主人から漏れ出た話を繋ぎ合わせると、少し狂っちまったっぽいご主人以外、割とろくな連中じゃねぇ感じだからこれを参考にすんのも良くねーぞ」
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