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4.罪滅ぼしでもない
しおりを挟むクレアがちゃんと他所の国に行けと言ったというのに、彼らはクレアの家の前で野宿をしていた。自分だけ暖かい寝床で休んでいることに少しだけ罪悪感が湧く。
何日目かに咳をしている母親を見て、クレアはついにお節介を焼いた。
「君たち、家の中に入りなさい」
「だ、誰がお前なんかの家に!」
「いや、君のためじゃない。そっちのお母さんのためだよ。野宿では治るもんも治らないでしょ」
子どもが可哀想、なんて今更あまり思ってはいない。彼女は病気で苦しんでいるのに、なお自分のために働こうとする母を思い出しただけだ。己の母を救えなかったからこそ、口が出たとも言えるかもしれない。
睨みつけてくる子供を見ても表情は変わらないまま。
クレアは、勇者一行として旅するうちに段々表情が変わらなくなってきていた。今では意識して笑顔を作ることも作れない。少し前まではなんとか笑顔を作れていたけれど、母が死んだと知ってから、本当に表情筋が死んだように表情が作れなくなった。確実に精神に負荷がかかりすぎているせいだろう。
「……意地を張って、一生会えなくなるよりは一瞬でも私を利用した方が良い。
大きくなったら私たちを殺しにおいで。君にはその資格がある」
そう言うと、唖然としたような表情を見せた。
これは彼女の本音だ。
意地を張って、母との平和な未来を信じて戦った結果、クレアはそれを失った。
彼らの一部を逃しはしたけど助けられたわけではない。異種族を追い込むような真似をしたこともある。だから自分が殺されるのもきっと仕方がない。そう思っていた。
「何なんだよ、お前」
何なんだと言われてもただの魔導師だ。
英雄になれるほど心の強くない、ただの女だ。
きっと、クレアが胸を張って勇者一行だなんて言う日は来ないだろう。
クレアのことを疑いながらも親子は私の家でしばらく療養した。
食べ物も手に入りにくく、天幕すら持っていない彼らは、野宿のまま森で過ごすより、きっとクレアの家は過ごしやすかっただろう。
親子が元気になった頃、クレアは彼らに変化の魔法を教えた。人間の姿に変わることを嫌がっていたが、無事に竜の国に入るまでだと言うと渋々頷いた。
「何で俺たちを助けるんだよ」
少年がそう言うので、クレアは助けない理由もないからだと伝えた。彼らに少しばかり旅に必要なものを分け与えて、送り出した。
それからしばらく、なぜかこの森を通って竜の国へと向かう亜人が多くなった。異性を家に入れるのも嫌だったので、簡易の小屋を建てた。
彼らに少しばかり協力して送り出すと、彼らは噂は本当だったと非常に感謝して去っていく。噂とは。
何名かクレアを殺そうとする者もいたが、そういう時は大抵誰かが止めてくれる。
クレア自身が「自分が生きている意味とは」とか考えてるためか、殺そうとする者もあまりいなかった。それどころか、「生きていることそのものがあの子にとっては罰になるだろう」とか誰かは言った。
(おかしいな。彼らに比べれば私なんて別に大したことしてないのに)
(まぁ、私の前で死なないでくれるならなんだっていいか)
軽く訪問する者たちを支援しながら送り出す。窓の外を見る彼女はどこか眩しいものを見るようだった。
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