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2.魔導師クレア
しおりを挟む赤髪の魔導師。名前はクレア。
平民として生まれ、母と娘2人でその日その日をなんとか生き残ってきた。
母はそれなりに美しい人で、旅立つ前は茶髪に変えていたが、本来の髪色は赤である。クレアは全体的に母に似ていたが、唯一その瞳の色だけは違うものだった。父のことは何も知らず、母もクレアに話すことはなかった。
小さい頃のクレアは人見知りで、無料開放されている冒険者ギルドの図書館に籠っていた。そんな彼女には魔法の才能があった。
少しずつ、ギルドに所属する優しそうなお姉さんに魔法を習う日々。それはクレアにとって楽しいものだった。
そんなクレアの人生の転機は12歳。
母が病気で倒れた。
人見知りであっても引きこもっているわけにはいかず、金銭を得るために必死にダンジョンと呼ばれる場所でモンスターを倒して素材を集め、お金になりそうな薬草や鉱石などを集めた。
結果的に師となった魔導師に「支援金を使って魔法を学ばないか」と声をかけられて安定した職を得るために学校に通った。
学校に通いながらもお金は必要なので、勉強と冒険者活動で青春は過ぎていった。
最短で卒業の資格を得ると、王城で働けることになった。
平民にしてはそこそこ良い給料が出たので母の看病をしながら働いていた。ようやく母子の時間が取れるようになって、良い薬も見つかった頃の今回の招集だった。
クレアは母の看病のこともあったし、断るつもりだった。
けれど、継ぐ家もない優秀な魔導師……要するに死んでもいいけどそこそこ優秀な人間が必要だった国は王命だといって無理矢理クレアを魔王討伐の任に就かせた。
見返りとして、母の治療代や生活費は国から出すと彼らは言った。
王命である以上、クレアのような平民はなす術もなく参加することに決まってしまった。
彼らは約束を守らなかった。
母の治療費は支払われていなかった。
医者もお金がなければ生活ができない。
クレアの母に効く薬は高額だった。クレアが帰ってくるまで支払いを待つことなんて出来なかった。
母はクレアが残していったお金と貯めていたお金を切り詰めて生活をしていたが、ある日倒れてそれっきり、目を覚ますことはなかった。
その知らせの手紙も住んでいた家のご近所さんが送ってくれていたはずだったのに、勇者たちが魔導師がいなくなっては困ると握りつぶしていた。
全てを知ったのは魔王を倒した後だった。
クレアは、「こんなヤツらを守る必要性を感じない」と、すでに魔王を倒したことを後悔している。
引退するだけで済ませたのはむしろ最後の良心だ。
昨今、土葬ではなく火葬へと変わった。
クレアが再会した母は小さな壺の中に居た。抱え切れる大きさになってしまった、などと考えても感情が凍ったようで涙は出なかった。けれど、よほど酷い顔をしていたのだろう。しばらくゆっくりしてはどうか、とご近所さんたちは気遣うように言った。
ここに居ても、母のことをより強く思い出してしまう。そう考えたクレアは母の遺骨を抱えて遠くに行くことにした。幸せそうな周囲を見て、何もしない自信がなかったとも言える。けれど、クレアの母はそういうことを望む人ではなかった。母のことを思って、このような目に合わせた人間に何もすることなく王都を離れようと決心した。
そうして、国を守って家族を守れなかった魔導師は、己の愚かさを呪いながら報奨の一部として押しつけられた遠い国境の森へ旅立ったのだった。
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◆なろう版で指摘頂いたので恋愛ジャンルからファンタジージャンルに変更します。恋愛ものと思って読んで下さった皆さまごめんなさい。
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◆なろう版にて多くの感想を頂いています。
その中で「声が出せない以外は健康で優秀」という設定に違和感があるとご指摘を頂きました。確かに障碍というものは単独で発現するものではないですし、そのあたり作品化するにあたって調べが足りていなかった作者の無知によるものです。
ですので大変申し訳ありませんが、現実世界ではない「魔術もある異世界」の話ということで、ひとつご容赦願えればと思います。誠に申し訳ありません。
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