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第二百八話 全てが同じでなくても助けたい

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「この地図の何もないと思われていた島、ここがヴァンパイアたちの真の王国であるアンペラトリスだろう」

大賢者ラウトの影が地図の中にある一つの島を指し示した、地図では分からないがそこは岩の絶壁に囲まれた自然の要塞であると言う。崖しかないので船をつけることもできず、今までそこに何があるかは誰も知らなかったのだ。だがラウトによるとここは世界の根源の力が流れている場所の一つで、ラウト自身のような高度な精神を持った魔道具を作るのに最適な所だった。

「レクスたちはミゼを除く全員で、『転移テレポーテーション』を習得したほうがいい。特にレクスはそれを戦いの場でも無意識で使えるくらいになるんだ、そうすれば戦いの幅が広がっていくだろう、それに大きな魔力は使えば使うほど体の中の魔力を急成長させる」
「またラウトの好きな特訓だな、無意識での『転移テレポーテーション』の習得、それが必要ならやってみるか」

「それからこれは『転移テレポーテーション』を習得する皆に言う、『転移テレポーテーション』する前に必ず転移先が一瞬だが魔力で見えるから、転移する先を気を付けて操作できるようになりなさい。『転移テレポーテーション』は下手な場所にとべば、地面の中に出たり水中で溺れたりするんだ」
「………………俺も危なかったのか、そんなに難しい魔法だとは知らなかった」

「レクスの話を聞いたところによるとレクスは世界の根源と同調して『転移テレポーテーション』した、世界の根源たる力は何がそこにあるかを分かっている、だから問題なく『転移テレポーテーション』できたのだ」
「なるほど、そうか。それじゃ、世界の根源の力が使えなくても『転移テレポーテーション』できるようにならなくてはいけないな」

そこでラウトはまた少し黙り込んだ、既にラウトにはヴァンパイアがいる真の王国、アンペラトリスに三人で行くことを話してある。ラウトは一人以上と会話をすることが難しい、情報が多すぎて処理に時間がかかる魔道具が本体だからだ。だから少し考えこんでいたが、やがてまた口を開いた。

「見知らぬ場所にとぶのは難しい、あの場所には世界には根源の力が流れている、だからドラゴンの少女。貴女が聖者とレクスの『転移テレポーテーション』の指針になるといい、貴女が世界の根源の力を読み取って最初にアンペラトリスに飛ぶのだ、帰りに聖者がここエルフの王国であるラウト国に戻ってくればいいだろう。初めて行く場所に『転移テレポーテーション』するのは危険だから、世界の根源の力が使える者がおこなうほうが成功率がとても高い」
「分かった、僕がアンペラトリスに皆と『転移テレポーテーション』すればいいんだね。世界の根源の力か……、それまでに同調をもっと深くできるように気をつける」
「大丈夫ですか、ファンさん。レクスさんのように血を吐くような鍛錬をしてはいけませんよ、僕には世界の根源の力に触れることができません、でも回復の魔法は使えますから僕のいるところで練習してください」

「………………聖者よ、それは心配ないだろう。ドラゴンは太古の生き物で世界の根源の力と自然に同調しているのだ、今回は随分と長い距離をとぶ『転移テレポーテーション』になるだろうが、聖者が心配しているよりもドラゴンは本能でとぶことを知っている、………………そうであろう、ドラゴンの少女よ」
「そうだよ、ラウト。ディーレもありがと、大丈夫。僕は世界の根源の力を感じ取れる、どこでも自然にそこに根源となる力が流れてるって分かるんだ。それは大きな力を使うことじゃない、遠くにある力でも辿っていけば必ずそこへ、アンペラトリスまで辿りつけるよ」
「そうですか、それは少しほっとしました。レクスさんのように体に負担がかかるのではないかと思ったのです、それなら心配は少しですみます。……ですが、無理はしないでくださいね。ファンさん、貴女はまだ幼い少女なのですから」

ラウトが再び考え込んだ、同時に複数の者と話す時はこうなるらしい。エルフの長老たちと話す時もいちいち時間が必要なのだそうだ、それもそうだろうまるで生きているような自我がある、そんな魔道具というだけで凄い技術なのだ。人間は複数の者と話して自然と会話するが、ラウトにはそれで得る情報が多すぎて難しいのだ、それでも彼から溢れ出る多様な知識はとても役に立つものだった。そんなラウトが俺のほうをゆっくりと見て、とても難しい顔をしてゆっくりと口を開いた。

「………………問題なのはレクスだ」
「ん?俺か、確かに俺はまだまだ力が足りないが」

「フェリシアを助ける為の時間はあと一月足らずだ、レクスには無理矢理にでも世界の根源の力を引き出して使ってもらう。そして、それを連続して使えるように鍛錬が必要だ。おそらく私は酷いことを言っている、それはレクスの体を蝕むような力を使えということだからだ。しかし、それができないようではフェリシアは助け出せない」
「ラウト……、あんたが俺たちの味方で良かった。ファンから祝福されし者の力の使い方を教わっていたが、それでも今回はそれじゃまだ足りないことは分かっている。あんたは酷いことを言っているんじゃない、俺が望んでいることを叶えるために必要なことを教えてくれているんだ」

ラウトに頭を軽く下げて感謝をしてから、俺はディーレとファンを振り返った。頼りになる俺の大切な優しい仲間たち、それに今回も甘えてしまう、助けを求めて応えてもらえるということが、それがどんなに嬉しいことか皆は知っているだろうか。

「ディーレ、お前には負担をかけるが俺の無茶につきあってもらいたい。俺は祝福されし者にはなれない、だがその力を不完全でも使いこなすことが必要だ」
「…………レクスさん、本当は止めたいですが最後までおつきあいします。貴方にとってフェリシアさんがとても大切な方だと知っていますから、神よ。今こそ僕たちのそばに来てください、あなたの光の輝きで僕たちを照らし導いてくださいますように」

「ファン、お前にも力を借りることになる。だが絶対に無理はするなよ、ドラゴンとして強いお前を知っているが、保護者としてはこんなに危険なことにつきあわせて失格だとも思っている」
「レクスってば甘やかすだけが親の仕事じゃないよ、普通のドラゴンだってもっと厳しく子どもを育てるんだ。だって世界には危険が満ちているんだから、僕は十分にレクスに守って貰ってきた。だから、今度は僕がレクスを望む場所まで案内してあげられる」

俺はこの時に覚悟を決めた、前からフェリシアを助けたいと思っていたが、今度は絶対に助けてみせよう。俺の大事な仲間たちがそれを助けてくれる、こんなにも味方がいてそれができないわけがない。たとえ俺の体がどうなろうとフェリシアを説得してみせるのだ、俺は今まで本当の彼女と向き合えなかった、どうしても祝福されし者になれない自分の弱さが遠慮を生んだのだ。本当はもっと彼女と話し合うべきだった、そうして俺自身を見てもらうべきだった。

だがもう分かっている、俺はフェリシアと同じ祝福されし者にはなれない、俺は草食系ヴァンパイアだ。たった一人しかいない俺だけの種族だ、それが分かっているが彼女を助けたいという気持ちは本物だ。必ずフェリシアを説得してみせる、それができなくてたとえ死ぬことになったとしても、仲間を悲しませてしまうがきっと誰も恨むことはない。

「皆さま、私のことをすっかりお忘れでございます。全くもう私がフェリシアさんの居場所を見つけたのに、それをさっさとなかったことにされています。私という役にたつ従魔がいるのに、労働環境の改善を訴えますよ!!」

ミゼ、俺の初めてでそして最後であろう従魔。こいつは相変わらずだ、何があっても自分の心に正直に生きている。俺は不満そうなミゼの頭を優しく撫でてやった、ミゼはもう十分なことをしてくれている。お前がいなければ俺はフェリシアを探し出すこともできなかっただろう、中級魔法までしか使えないミゼをアンペラトリスに連れていくことはできない、残念な話だが危険なだけで戦力にはならないからだ。

「ミゼ、お前はもうよくやってくれた。なんなら俺の従魔をやめて、このエルフの国で自由になってもいいんだぞ」
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