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第百七十七話 噂話に罪はない

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「白金の冒険者レクス、お会いできて光栄です」
「…………悪いが、人違いだ。なぜ俺が白金の冒険者だと思った」

「違うのですか、メイスを振るう白金の冒険者レクス。法衣を着た冒険者ディーレ、ドラゴンの化身の少女ファン。それに喋る猫のミゼ。白金の冒険者レクスの仲間たちと特徴が一致しています」
「…………それでその白金の冒険者をどうするつもりなんだ」

「はい、この国の王から命令がでています。白金の冒険者レクスを丁重に王宮にお連れするように」
「なるほど、分かった。それじゃ、『スピリット神支配ダーミネーション』」

俺はギルド長に向かって魔法を使った、精神を支配する魔法だがちょっと考えて手加減した。俺たちがここを出ていった後に3か月経ってから、白金の冒険者レクスの噂を密かに流せそしてそれ以外は忘れろと命令したのだ。俺の魔法でギルド長はしばらくぼーっとしていたが、やがて気がつくと何故ここにいるのか分からない様子だった。そして冒険者ギルドの長は首を傾げながら、そのまま帰っていった。

「ここを離れるぞ、今すぐがいい」
「はい、分かりました」
「了解だよ、さぁ行こう」
「はぅ、慌ただしい旅でございます」

俺たちはレーチェという都をすぐに出ていった、それにしても高位ヴァンパイアの支配領域は広いようだ。庶民の俺たちには王族を押さえられたら何もできなくなるのが辛い。それに仲間の情報まで冒険者ギルドを通して伝わっている、冒険者ギルドが大きな組織なのが完全に仇になっている。とりあえず今日聞いた俺たちの特徴は消しておくことにした。

俺はメイスを封印してフレイルという武器に変えた、ディーレはまた法衣を脱いでもらって普通の冒険者のような姿になって貰った、ファンには男の子をふりをしてもらうことにしたが意外と似合っていた、ミゼは人のいるところではお喋り厳禁だ。そうしたらパーティの雰囲気が結構変わった、人のいるところではそう振る舞うようにした、しかし高位ヴァンパイアの包囲網には頭にくる。フェリシアの言っていたことが頭に浮かんだ。

『そして、高位ヴァンパイアを侮らないで。何百年も生きている彼らは思ったよりも狡猾だよ』

「だが逆をつくのがどうだろう、白金の冒険者レクスのいろんな噂を適当に流すんだ」
「ああ、相手をかく乱させるのですね。でも、どうやって?」
「そうだよ、どうやってそんな噂を流すの?」
「なんとなく分かりますね、レクス様えぐい手も結構使いますもん」

適当な噂を流すというのは難しそうだが実はそうでもない、ちょっと酒場に行って酒をおごれば偽の噂を流すのは簡単だ。もしくは『貧民街スラム』の人間でも顔役となっている者に金を支払う、もしかしたら無駄になるかもしれないが、俺たちが出ていった後に時間差で偽の噂を流してもらうのだ。吟遊詩人などに話を吹き込むのもいい、彼らは情報が少ないこの世界での数少ない貴重な情報源だ。

旅を続けながら、そんなことを繰り返した。その国にいる時にではなく、出ていくときにそういう偽の噂を流す。その噂で傷がつく者はいないはずだ、白金の冒険者レクスという個人の噂話だからな。傷がつくとしたら白金の冒険者レクスの名前くらいだが、俺は噂など気にしないので適当にでっちあげた話をばらまき続けた。

噂は俺たちの足より速く広まっていることもあった、中には俺が聞いて驚くような噂話になっていることもあったくらいだ。この世界は娯楽が少ない、その中で白金の冒険者というは一種の憧れの存在だ。俺自身には全くそんな自信はないが、世間の冒険者は白金の冒険者なら凄い人物だと思っている。俺たちは行く先々で奇妙で面白い、白金の冒険者レクスの噂を聞くようになった。

「白金の冒険者レクスの噂を知ってるかい、すごい大男で一人で冒険者をしているんだって」
「ドラゴンを退治して、従魔にしてしまったらしいよ」
「白金の冒険者レクスってすげぇ女だよな、絶世の美女だって聞いたよ」
「武器は剣しか使わない、都の剣士でも敵わないそうだ」
「仲間はいない、孤高の冒険者さ」
「沢山の従魔を連れているんだって、だから人間の仲間はいらないそうだ」
「新人の冒険者を鍛えてまわっているらしい、仲間は多すぎて数えきれないと聞く」
「白金の冒険者レクスを知ってるかい、どこかの国でとうとう貴族になったとか」
「高い身分などいらない、そう言って王様に断って冒険者を続けてるんだ」
「男なのに女みたいに話す奴だって噂だ」
「悪を憎んで戦っている、今時珍しい冒険者だとさ」

俺が聞いたら苦笑するような噂も混じっていた、だがそれぐらいでちょうどいい。白金の冒険者レクスの噂が独り歩きしている、こうなると高位ヴァンパイア側もやりにくいだろう。噂を隠れ蓑にして俺たちは相変わらず旅をしていた、そして行商人の身分証で都や街に出入りしていた。宿屋で旅の疲れを癒して、その都や街を出ていく時には時間差で噂をばらまいておいた。

「こうなるともう誰が白金の冒険者レクスか分からないな」
「そうですね、随分と適当な噂が流れています」
「むぅ、ドラゴンに勝ったっていうのは訂正して欲しい。僕はレクスに負けてないもん」
「ファンさんたら、そのふくれっ面可愛いです。ああ、スクショに負けない魔法を見つけなくては」

「白金の冒険者という身分が逆に功を奏している、白金の冒険者は滅多にいないからな」
「都でも一人から三人にいれば良い方ですね」
「レクス、後で勝負しよう。ドラゴンは強いって教えてあげる」
「ファンさん、勝負となるとレクス様は強いですよ。もう、手段を選ばないんだから」

ファンはドラゴン退治の噂が気に入らないようで、俺に勝負を挑んでくるようになった。別にいつもと変わりはない、対人戦の訓練になる。このフレイルという武器はメイスに似ているようで、ちょっとコツがいるのだ。遠心力を利用して振り下ろすと良い武器になった、まぁファンの相手は素手でしたがなかなか強くなっていて良い対人戦の訓練になった。

祝福されし者の修行は継続中だ、かなり力の使い方に慣れてきた。やはり世界を森のようにイメージするといい、すると俺はその森からいつものように力を分けてもらうだけだ。ただ、その森はいつもより広くて奥が深く、気をつけないと最奥に引きずり込まれそうになることもあった。森の中に入り過ぎずに、必要なぶんだけ力を分けてもらう。それが俺の今の日課だ、草食系ヴァンパイアなのは変わらない。

「ファン、世界から力を分けてもらうのは難しいが、できれば結構な力になるな」
「えへへへっ、そうでしょ。僕がこんな小さな人間のような体で強いのもそれが理由、ドラゴンは世界の力の使い方を自然に知っているんだ」

「そろそろ、フェリシアとまた話をしてみたいが……」
「うーん、まだ無理だと思う。レクスが思うよりもずっと力を沢山使うから、また体にかなり負担がかかるよ」

「そうか、では止めておくか」
「フェリシアさんと会えないのは辛いね、もう少しだと思ってゆっくりと力を使っていって」

そんな日々を過ごしていた時のことだった、フリートという街でいつものように宿屋に泊まって休んでいた。フリートはとても小さな街だった、なにせ街なのに冒険者ギルドが無いくらいだ。だからいつもよりのんびりと休んでいる時のことだった、飯屋に行って食事にしようと思ったのだがそこで面白い噂話を聞いた。

「ねぇ、聞いた。白金の冒険者レクスがこの街にいるんですって」

そう給仕をしている飯屋の女の子、彼女らに話題を振られて俺は咄嗟に苦笑いした、どうやら俺の偽物まで出てきているらしい。街の飯屋の女の子というのもわりと貴重な情報源だ、飯屋にはいろんな人間が立ち寄るし話題が豊富だからだ。まぁ、俺の偽物なんて興味はない。何を考えて白金の冒険者レクスを名乗っているのか分からないが、それで何が起ころうと相手の自業自得だ。

「俺は豚ともやしのスープ、具は無しで果物ジュースを二杯くれ」
「ええと、僕はデビルラビットの薬草蒸しにパンと卵のスープをください」
「僕はここからここまで全部だよ、それから猫用に肉入りのスープ肉多めで」
「………………(ありがとうございます、ファンさん)」

ミゼは白金の冒険者レクスが高位ヴァンパイアに狙われている、そう分かってからずっと普通の猫のふりを人前ではしている。だからファンがその面倒をみていた、ミゼも俺やディーレよりファンを気にいっているので遠慮なく甘えていた。さて、それぞれの料理が運ばれてきて、俺たちが楽しく食事をしていた時だった。

通りを多くの人々が走っていく、まるで王族か貴族の行列ができた時みたいだ。俺たちも食事が終わったらそれを見にいった、するとまだ若い少女が剣を持って多くの冒険者を従えていた。

「おや、旅の人。見物かい、あの少女が噂の白金の冒険者レクスだってさ」
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