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第百五十七話 用心し過ぎることはない

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フォルティス国に行くにあたって一つ大きな問題があった、それは俺たちの身分証だ。冒険者ギルドの身分証はなるべく使わない方がいい、ベラーターの街に入った時には身分証を失くしたと言って、通行料を倍額払うことで何とかなった。だが、いつもその手段で街や都に入れるとは限らない。

「俺たちにできそうなことは……、傭兵だな」
「確かに白金の冒険者証は目立ちすぎます、でも僕たちが傭兵になれるでしょうか」
「傭兵と冒険者はどう違うの?」
「冒険者は幅広くいろんな依頼がありますが、傭兵は戦争の時に雇われたりする臨時の戦力です」

「戦争が無い時には護衛依頼を受けたりするな」
「今はなるべく人にも関わりたくないですから、護衛依頼も避けた方がいいでしょう」
「それじゃ、傭兵になれないんじゃないの?」
「いえ、そうとも限りません。別の国に仕事を探しに行く、それで言い訳ができると思います」

クロシュと関わっていない間に俺たちはベラーターの街で傭兵になった、傭兵になるのに必要なのはたった一つどれだけ戦えるかだけだった。つまり強ければなれる職業である意味で簡単だった、傭兵になった後は戦争に参加したり、護衛依頼を受けて実績をつんでいく必要がある。でも俺たちが欲しいのは身分証としての傭兵と言う肩書だけだったから、最初の試験に通るだけで良かった。

「俺は素手で審査する教官を叩きのめすだけで済んだ」
「僕も同じでした、ムラクモ国で学んだ武術が役に立ちました」
「えへへへっ、ちょっと強く殴り過ぎちゃった」
「……ファンさんったら、教官さんが空を飛んでましたよ。この幼女、強い」

猫であるミゼには身分証は必要ない、俺たちは全員が傭兵になれた。傭兵ギルドで実績がいかに大事かとか、いろいろ説明があったのだが、必要なこと以外は聞いていなかった。要は身分証が手に入ればいいのだ、それ以外のことは本気で傭兵になるわけではないので必要ない。こうしてなんとか身分証を全員確保して、フォルティス国への旅にでることができた。

「歩いていっても一月ほどの国だったな」
「空を飛べませんから、地道に歩いていきましょう」
「僕とレクスで走っていってもいいよ」
「緊急時はそうしましょう、普段は歩いたほうが目立たないと思います」

ヴァンパイアたちがどこに潜んでいるか分からない、俺たちは姿を消す魔法を覚えたが、村や街そして都に立ち寄ればどうしても誰かに関わることになる。そうなるとどこからヴァンパイアに情報が伝わるか分からない、国によっては大貴族にも紛れていたヴァンパイアがいた。用心し過ぎることはない、俺たちはなるべく人と関わらずに一月を過ごした。

「はぁ~、あれがフォルティス国の都か」
「野宿が多くて体が疲れています、まずは少し休みましょう」
「うーん、ドラゴンは元々外で生きてくからかな。僕は平気」
「ファンさん、ちょっと私を抱いていってください。……本気で疲れました」

傭兵の身分証で入ったフォルティス国は発展した国だった、水道や下水道が完備されていてあちこちに魔法具が設置されていた。例えば自動的に灯がともる魔法具だ、セラの魔法で見た大きな時計台も同じように魔法のしかけらしかった。

まぁ、とにかく今は休むことが第一だ。俺たちはちょっと高めの宿を借りると、飯を食べて風呂に入ってそれぞれ眠りについた。2日ほどはそうやってゆっくりと休んで過ごした、さてこれからが問題だ。

「この国は確かに魔法が盛んらしい、だがヴァンパイア退治の魔法を広めるにはどうしたらいいんだろう」
「魔法を研究している方に話してみてはどうでしょう、魔法使いは新しい魔法が好きだと聞きました」
「ヴァンパイアがいないとただの強い光の魔法だもんね、興味を持ってくれるかな?」
「私が思いますに難しいところですね。この魔法を面白がってはくれそうですが、普及させるとなるとどうしたらいいのでしょう」

「ディーレの言う通り、魔法を研究している人間に会いたいが、簡単に会えるものなのか」
「レクスさんの白金の冒険者証が使えないのが勿体ないです、あれを使えれば商人でも貴族でも興味を持ってくれるでしょう」
「今の僕たちただの傭兵だもんね、人間って身分でいろいろ変わるから難しい」
「傭兵がもっている魔法、興味をそそられそうにありません」

「しばらくは魔法のことは忘れて、まずはこの都について調べてみよう」
「そうですね、この都がどういうところか、それが分からないと動きようがありません」
「分かった、いろんなところで話を聞いてみるんだね」
「私はファンさんと一緒に動きます、レクス様とディーレさんで組んでください。……くっくっくっ、幼女を独り占めでございます」

ミゼのやつの発言には問題があるが、確かに俺とディーレで動いたほうがいい。男二人で動くのは簡単だが、ファンを連れていくとどうしても俺たちを侮る奴がいるからだ。それにファンもミゼを連れて歩けば、俺たちとは違ったところで思わぬ情報を拾ってくるかもしれない。俺たちは二手に分かれて、フォルティス国の都を調べていくことにした。

「国立図書館が使えないのが辛いな、冒険者ギルドの図書室なら使えるが、何かあった時に冒険者証の提示を求められるかもしれない」
「図書館は諦めたほうがいいかもしれません、大きな学校があると聞きます。そちらをあたってみてはどうでしょう」

フォルティス国の都にはアウル魔法学院という場所があった、俺たちはその周辺の飯屋や酒場で聞き込みをしてみた。確かに魔法学院の中ではいろんな魔法が学べるらしい、だがその生徒になるには試験が必要だという話だった。上級魔法を使える者は無条件で生徒になれるらしいが、それは同時にこの国に捕まる危険があるということだ。幸いなことに生徒は随時募集しているようだ、一旦ここの生徒になって研究者を探してみるのも良いかもしれない。

「ここの学院の生徒になってみるか、そうすれば図書室が使えるし、研究者とも会えるかもしれない」
「試験に通ればという条件付きですね、魔法はいろいろと覚えましたが大丈夫でしょうか」

結論を急ぐことはない、俺たちは夕方になって宿屋でファンたちと合流した。するとファンから思いもしない提案があった。

「レクス、僕たちを作ろう!!」
「はぁ!?それは一体どういうことだ、本なんか作ってどうするんだ?」
「ファンさん、ミゼさん。詳しく教えてくれますか」
「はいでございます、つまり自費出版の魔法書を作るのです」

ファンとミゼが商業地区で聞いてきた話はこうだった、普通は魔法書は高くてなかなか手に入らない。だが、自費出版で本を作るなら内容は好きに選べる、それを魔法使いに配ればその魔法は広く伝わることになるということだった。確かに魔法書は高くて普通なら手が出せない、それをただで配るとなれば、多少怪しくても無視されることはなさそうだ。

「そんなに簡単にいくとは思わないが、駄目で元々だな。試してみるか」
「商業ギルドの方とお話する必要がありますね」
「無料で配っても、どんな本なら無視されないかな」
「くっくっくっ、フルカラーPP加工で四色刷り。なーんて憧れでございました」

本当に駄目で元々の話だ、たとえ無料で配られた本でも興味を持ってくれなければ読んで貰えない。俺は商業ギルドの本を作っているところと話をしてみた、自費出版の本を作るのは金さえあれば簡単だそうだ。

「ヴァンパイア退治の本を作りたい、予算はそうだな金貨でとりあえず1000枚くらいだな」
「どういった本になさいますか、そのご予算だったらかなりの冊数が作れます」

「誰でも簡単に読めて、魔法が覚えやすい本がいい」
「それでしたら、絵本・・などはどうでしょう」

「……絵本か、確かに誰でも読める本だな」
「それに初級魔法をセットでつければ、きっと多くの人が読んでくれるでしょう」

「うーん、まず見本を作ってくれ。それから量産するか決める」
「分かりました、すぐに絵師と写本をする者を確保しましょう」

本を作る予算は俺が最初に攫われたヴァンパイアの屋敷、そこから持ってきた金貨で解決できた。俺は本を作る職人ではないから、中身を確認しながら作ってみることにした。

魔法を知らない人間でも手にとるように初級魔法をいれることにした、それから『強きストロ太陽の光ングサンシャイン』と『完全なるパーフェクト強きストロ太陽の光ングサンシャイン』の二つの魔法を必ずいれてもらう。この魔法を使う時の注意点である、直接光をみないということは必須だ。そして高位ヴァンパイアには効果が無い、そのことも忘れずに書いてもらった。しばらくすると簡単な見本が作られてきた、とりあえず皆で読んでみた。

「分かりやすくて読みやすい本だが、これで大丈夫だろうか?」
「子供でも読めるように、文章が簡単でいいと思います」
「ページが少ないから、立ち読みでも読めそう」
「ああ、ここに活版印刷があれば、……っていけませんね、技術革新が起きてしまう」

本当に駄目で元々だ、俺たちはとりあえず何度か中身を考えて変えてもらい、最終的に子どもでも読めるような本を作って貰った。まずは5000冊を作って貰った、それで冒険者ギルド、魔法学院、国立図書館と本があるところに片っ端から寄贈した。冒険者ギルドや魔法学院には全冒険者や全生徒に渡してくださいと、かなり多めに寄贈しておいた。

しばらくは何も無かった、俺たちは他に魔法を広める手段はないかと考え続けていた。そんな俺たちのところに、ある日招いてもいない客がやってきた。

「失礼ですが、この本を書かれたレックスという方はおられますか」
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