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第百五十話 望みを叶えることしかできない
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「元ヴァンパイアハンターのロスカ・バーチェーとは俺様のことさ」
俺たちはその言葉を聞いて驚いた、ヴァンパイアハンターが本当にいたのは昔のことだと思っていた。だが、このヴァンパイアは元はヴァンパイアハンターだと言った。
「……本当にヴァンパイアハンターだったのか、この国にヴァンパイアがいたのはかなり昔のことだろう」
「死ぬ間際に嘘をついてどうなる、それで俺はどうされるんだ。国に引き渡して火刑か、どっちみち太陽が出てきたら、それだけで焼けて死ぬけどな」
俺は判断しかねた、このロスカという男をどう扱っていいか分からない。仲間たちを振り返ってみる、ディーレやファンもどうしていいのか分からない、ミゼを除いて皆そんな顔をしていた。
「本当にヴァンパイアハンターでしたら、ヴァンパイア用の魔法を知っているでしょう。それがどうして返り討ちにあっているんです?」
「なんだよ、この猫。人間の言葉を喋るのか、珍しい従魔だな。魔法のことまで知ってるとは、あんたら本当に何者だ?」
唯一ミゼだけが臆せずにロスカという男に問いかけた、ディーレのフードの中から彼の肩に上ってそのまま男に話しかけたのだ。
「私たちはヴァンパイアを倒す魔法を探していました、ですがそれを使うヴァンパイアハンターがこの様子では、まともな役には立たない魔法のようですね。」
「うるせえな、役に立たなくはない。だが高位のヴァンパイアには効かないんだ、俺だって退治しに行って初めてそれを知った」
「なるほど、低位や中位のヴァンパイアには有効。それではその魔法を教えてくださると助かります、貴方の処遇もそれ次第かもしれません」
「偉そうな従魔だな、教えてやってもいいけどよ。本当に高位ヴァンパイアには効き目がないぜ」
ロスカという男はミゼの問いかけに知っていることを素直に話した、体が僅かに震えていてもう殺されるとでも覚悟を決めているのかもしれない。
「魔法は教えて貰えるようですが、レクス様。ディーレさんにファンさん、この方をどうなさいますか?」
「……人間を襲っている様子が無い、それに誰もこいつを退治してくれと頼まれてもいない」
「……犠牲になっている動物が可哀そうですが、それも生きていく為に必要なことなのなら、他の人間でも別の動物にしていることです」
「……抵抗しない相手を攻撃するのは僕の一族では誇りに反する、レクス。ねぇ、どうしよう」
俺たちはロスカという男を殺す動機が見つからなかった、確かに猫や鳥などの小動物を襲っているようだが、それは他の人間が豚や牛を殺すのと同じような理由からだった。つまりは生きていく為に必要だからしていることだ、それを責める権利は俺たちにはなかった。俺はそう開き直って、男に話しかけた。
「とりあえず、ヴァンパイアに対抗する魔法を教えてくれ」
「ああ、良いぜ。死ぬ前に誰かに伝えたいと思っていた、下手に話すとヴァンパイアに狙われるから、ずっと皆に喋りたいと思っていた。『永き灯』」
ロスカは『永き灯』の魔法で灯を灯すと、適当に落ちていた木を拾ってそのへんの地面に、俺たちの知らない魔法のことを書き始めた。
「要は太陽の光を使った魔法だ、使う時には必ず目を閉じておけ。お前らの目まで焼かれるぜ」
「そんなに強力な光なのか」
「そうだ、俺のご先祖が何人もそれで目をやられた。なかには完全に失明した者もいた」
「太陽はヴァンパイアを焼き殺す、それで中位くらいのヴァンパイアになら有効なのか」
残念ながら俺が戦う相手は高位ヴァンパイアだ、でもこの魔法がまったく役に立たないわけじゃない。なぜなら、ヴァンパイアは真祖から生まれて増える一族だからだ。そうして、低位や中位のヴァンパイアが生まれる。グールやゾンビなんかの出来損ないになることもあったな。
「日光網膜症でございますね、太陽の強い光線が目に入って、網膜を火傷させてしまうことでございます。サングラスや下敷きなどでは、太陽の光が通過してしまうので防げません。太陽は専用のグラスなどを通さない限り、決して直視してはいけません」
「さんぐらす、したじき、ミゼ。それは一体なんのことだ?」
「ええとぉ、お気になさらず。こちらで言えばガラスに近いものでございます、どっちみちこの辺りにはありませんので、レクス様が手に入れることはないでしょう」
「お前は一体どこからそんな知識をもってくるんだ」
ミゼが変なことを知っているのはいつものことだ、太陽を直視してはいけないとは知らなかった。まぁ、眩しいからよほどの変人以外はそんなことをしないだろう。それよりもロスカという男が教えてくれた魔法が気になった、使う時には目をつぶれと言われたがそれでは隙ができてしまう。
「これがその魔法か、太陽の光を思いながら唱える。その強さは魔力の強さ次第か、それは普通の魔法と同じだな」
「低位や中位くらいのヴァンパイアならこれで倒せた、それ以上の化け物がいるなんて知らなかったんだ」
ロスカが教えてくれた魔法は二つ、『強き太陽の光』これは対個人用の魔法だ。もう一つは集団用の『完全なる強き太陽の光』、これは上級魔法を扱えるくらいの魔力が必要そうだ。
「それでお前はこれからどうする」
「は!?…………俺はこれから殺されるんじゃないのか?」
「最初はそう思っていたが、お前からは人間の血の匂いがしない。それに種類は違うが動物を狩るのは、普通の人間だってやっていることだからな」
「…………それならこれからも俺は夜の世界を生きていく、それが俺をヴァンパイアにしやがった貴族への復讐なんだ。いつかは強くなって、そいつを殺してやりたい」
「高位ヴァンパイアを殺すのは難しいぞ」
「分かってるさ、もう100年以上は生きてるからな。100を超えたあたりで数えるのは止めた、10年くらいごとに移動して、故郷に帰ってきてみたらあんたらに会った」
俺たちはまた驚いた、100年以上このロスカという男は生きているのか。だから失われた魔法を知っているわけだ、そうしてヴァンパイアへの復讐の為に生き延びてきたからこそ、自分の最期だと勘違いして俺たちにも失われた魔法を教えてくれた。
「この魔法のことを教えたことで、お前は高位のヴァンパイアに狙われるかもしれない」
「構わん、一矢報いてやりたい。もう一つ魔法を教えてやる、これは俺のオリジナルのものだ」
ロスカは更にもう一つ魔法を教えてくれた、『永遠の死への眠り』、だがこの魔法の構造は太陽とは関係が無い精神魔法だ。それに加えてこの難しい魔法だと、代償が必要になるほどの大量の魔力がいるはずだ。
「相手が完全に油断している時か、これはないだろうが相手が望んだ時、もしくは自分の命と引き換えにしか発動できない魔法さ。長い時間をかけて組み立てたが、当然使ってみたことはない」
「……なるほど一応、覚えておこう。ああ、店で騒ぎを起こした詫びをしないとな」
俺はロスカに金貨を20枚ほど革袋に入れて渡した、慎ましい平民なら一年は暮らしていけるだけの金だ。ロスカは俺たちに殺されないと知ると、それを遠慮なく受け取った。
「あんたらもヴァンパイアには気をつけな、俺が言うのも変だがこうなった後で後悔しても遅いぞ」
「……もうどうしようないくらいに関わりがあってな、教えてくれた魔法は役に立つと思う」
「今夜はもう死んだかと思った、でもまだ生き残っていられる。動物たちには悪いが、俺も何かの血がなきゃ生きていけない」
「それでも吸血欲を動物で抑えているだけで凄い」
ヴァンパイアは人間の血の誘惑に耐えられないものだと思っていた、だがそうではない現にここに100年以上も耐えて生き延びている者がいる。
「人間の血を飲むくらいなら死ぬさ、俺にもそのくらいの意地があるんだ」
「そうか、そのままでいてくれ。そうでないとあんたの退治を依頼されるかもしれない」
「……その時は痛みがないように頼むぜ、抑えてはいるが血の誘惑は強い」
「分かった、それじゃあな」
俺たちは森の中で別れた、もうロスカという男に聞くことはなかった。それよりもこれからのことが大切だ、低位や中位のヴァンパイアには有効な魔法が手に入った。
「あとはこれを実際に使ってみないといけないな」
「そうですね、効果があるか試してみないと他人に教えることができません」
「それって難しい、ヴァンパイアに会わないと使えない魔法だし」
「そうでしたら近くで魔法が盛んな国を探してみると良いでしょう、魔法使いというものは新しい魔法が大好きです。使えるかどうかはともかく、人に伝えておくのは大事だと思います」
ヴァンパイアたちが容易に手を出せないくらいの強国で、魔法に強い興味を持っている国に行かなければならない。明日は冒険者ギルドで、その下調べから始めないといけないな。
俺たちは宿屋に帰って、それぞれが眠りについた。俺はしばらく眠れなかった、元々睡眠時間が短いせいもある。高位ヴァンパイアにも有効な魔法は本当にないのだろうか、魔法とは想像から生まれる技術だ、だったらそれを作り出すこともできないものか。考え出すとますます眠れなくなったが、明日の為に短い眠りに落ちた。
「うわっ、酷い」
「なんだよ、あれ」
「人間か!?」
「見ちゃだめよ!!」
「ああ、神様」
俺は短い眠りから飛び起きた、宿屋の外が突然うるさくなったからだ。ファンも同じく起きていた、少し遅れてディーレも目覚めた、ミゼだけはまだ眠っていた。だが、嫌な気配を感じてミゼも連れて外に出た、宿屋の前には血まみれになった男が転がっていた。
俺はその気配を覚えていた、さっき別れたばかりのロスカという男だった。切り刻まれた男自身とそれとは違う血の匂いがした、むせかえるような他人の血の匂いだった。
男はうわごとのように何かを言っていた、ずっと同じ言葉を繰り返していた、そして今も血の誘惑と戦い続けていた。もう体からは本物のヴァンパイアの気配がしていて、いつ群衆に飛びかかってもおかしくなかった。
「…………頼む……、…………本物の……ヴァンパイアに……、…………なりたくない……」
俺はロスカのヴァンパイアに敗れたその姿を目に焼き付けた、そして群衆に紛れたままで魔法を一つ唱えた。相手が望んでいる時なら使える、そうロスカは言っていた。ロスカはもう明らかに人として生きられないが、たった一人で100年以上も戦っていた男を、このまま太陽が昇るまで待って焼き殺したくはない。
「『永遠の死への眠り』」
俺の魔法でロスカという男は死んだ、俺は魔力をかなり多く失ったが、相手の抵抗が無かったからそれだけで済んだ。やがて夜警の者がやってきてその遺体を調べていた。そのまま遺体はどこかへと運んでいかれた、集まっていた群衆の話では他にも何人か被害が出たらしい。
「…………神よ、御許に召された方々に永遠の安らぎをお与えください」
ディーレがロスカが倒れていた場所で静かに祈りを捧げた、俺たちの行動はヴァンパイアに筒抜けになっている。これは教わった魔法を広める前に対策をしなければならない、その為にはあの場所にもう一度行く必要ができた。俺たちは目的地を変えて、その朝早くにまた旅に出た。
俺たちはその言葉を聞いて驚いた、ヴァンパイアハンターが本当にいたのは昔のことだと思っていた。だが、このヴァンパイアは元はヴァンパイアハンターだと言った。
「……本当にヴァンパイアハンターだったのか、この国にヴァンパイアがいたのはかなり昔のことだろう」
「死ぬ間際に嘘をついてどうなる、それで俺はどうされるんだ。国に引き渡して火刑か、どっちみち太陽が出てきたら、それだけで焼けて死ぬけどな」
俺は判断しかねた、このロスカという男をどう扱っていいか分からない。仲間たちを振り返ってみる、ディーレやファンもどうしていいのか分からない、ミゼを除いて皆そんな顔をしていた。
「本当にヴァンパイアハンターでしたら、ヴァンパイア用の魔法を知っているでしょう。それがどうして返り討ちにあっているんです?」
「なんだよ、この猫。人間の言葉を喋るのか、珍しい従魔だな。魔法のことまで知ってるとは、あんたら本当に何者だ?」
唯一ミゼだけが臆せずにロスカという男に問いかけた、ディーレのフードの中から彼の肩に上ってそのまま男に話しかけたのだ。
「私たちはヴァンパイアを倒す魔法を探していました、ですがそれを使うヴァンパイアハンターがこの様子では、まともな役には立たない魔法のようですね。」
「うるせえな、役に立たなくはない。だが高位のヴァンパイアには効かないんだ、俺だって退治しに行って初めてそれを知った」
「なるほど、低位や中位のヴァンパイアには有効。それではその魔法を教えてくださると助かります、貴方の処遇もそれ次第かもしれません」
「偉そうな従魔だな、教えてやってもいいけどよ。本当に高位ヴァンパイアには効き目がないぜ」
ロスカという男はミゼの問いかけに知っていることを素直に話した、体が僅かに震えていてもう殺されるとでも覚悟を決めているのかもしれない。
「魔法は教えて貰えるようですが、レクス様。ディーレさんにファンさん、この方をどうなさいますか?」
「……人間を襲っている様子が無い、それに誰もこいつを退治してくれと頼まれてもいない」
「……犠牲になっている動物が可哀そうですが、それも生きていく為に必要なことなのなら、他の人間でも別の動物にしていることです」
「……抵抗しない相手を攻撃するのは僕の一族では誇りに反する、レクス。ねぇ、どうしよう」
俺たちはロスカという男を殺す動機が見つからなかった、確かに猫や鳥などの小動物を襲っているようだが、それは他の人間が豚や牛を殺すのと同じような理由からだった。つまりは生きていく為に必要だからしていることだ、それを責める権利は俺たちにはなかった。俺はそう開き直って、男に話しかけた。
「とりあえず、ヴァンパイアに対抗する魔法を教えてくれ」
「ああ、良いぜ。死ぬ前に誰かに伝えたいと思っていた、下手に話すとヴァンパイアに狙われるから、ずっと皆に喋りたいと思っていた。『永き灯』」
ロスカは『永き灯』の魔法で灯を灯すと、適当に落ちていた木を拾ってそのへんの地面に、俺たちの知らない魔法のことを書き始めた。
「要は太陽の光を使った魔法だ、使う時には必ず目を閉じておけ。お前らの目まで焼かれるぜ」
「そんなに強力な光なのか」
「そうだ、俺のご先祖が何人もそれで目をやられた。なかには完全に失明した者もいた」
「太陽はヴァンパイアを焼き殺す、それで中位くらいのヴァンパイアになら有効なのか」
残念ながら俺が戦う相手は高位ヴァンパイアだ、でもこの魔法がまったく役に立たないわけじゃない。なぜなら、ヴァンパイアは真祖から生まれて増える一族だからだ。そうして、低位や中位のヴァンパイアが生まれる。グールやゾンビなんかの出来損ないになることもあったな。
「日光網膜症でございますね、太陽の強い光線が目に入って、網膜を火傷させてしまうことでございます。サングラスや下敷きなどでは、太陽の光が通過してしまうので防げません。太陽は専用のグラスなどを通さない限り、決して直視してはいけません」
「さんぐらす、したじき、ミゼ。それは一体なんのことだ?」
「ええとぉ、お気になさらず。こちらで言えばガラスに近いものでございます、どっちみちこの辺りにはありませんので、レクス様が手に入れることはないでしょう」
「お前は一体どこからそんな知識をもってくるんだ」
ミゼが変なことを知っているのはいつものことだ、太陽を直視してはいけないとは知らなかった。まぁ、眩しいからよほどの変人以外はそんなことをしないだろう。それよりもロスカという男が教えてくれた魔法が気になった、使う時には目をつぶれと言われたがそれでは隙ができてしまう。
「これがその魔法か、太陽の光を思いながら唱える。その強さは魔力の強さ次第か、それは普通の魔法と同じだな」
「低位や中位くらいのヴァンパイアならこれで倒せた、それ以上の化け物がいるなんて知らなかったんだ」
ロスカが教えてくれた魔法は二つ、『強き太陽の光』これは対個人用の魔法だ。もう一つは集団用の『完全なる強き太陽の光』、これは上級魔法を扱えるくらいの魔力が必要そうだ。
「それでお前はこれからどうする」
「は!?…………俺はこれから殺されるんじゃないのか?」
「最初はそう思っていたが、お前からは人間の血の匂いがしない。それに種類は違うが動物を狩るのは、普通の人間だってやっていることだからな」
「…………それならこれからも俺は夜の世界を生きていく、それが俺をヴァンパイアにしやがった貴族への復讐なんだ。いつかは強くなって、そいつを殺してやりたい」
「高位ヴァンパイアを殺すのは難しいぞ」
「分かってるさ、もう100年以上は生きてるからな。100を超えたあたりで数えるのは止めた、10年くらいごとに移動して、故郷に帰ってきてみたらあんたらに会った」
俺たちはまた驚いた、100年以上このロスカという男は生きているのか。だから失われた魔法を知っているわけだ、そうしてヴァンパイアへの復讐の為に生き延びてきたからこそ、自分の最期だと勘違いして俺たちにも失われた魔法を教えてくれた。
「この魔法のことを教えたことで、お前は高位のヴァンパイアに狙われるかもしれない」
「構わん、一矢報いてやりたい。もう一つ魔法を教えてやる、これは俺のオリジナルのものだ」
ロスカは更にもう一つ魔法を教えてくれた、『永遠の死への眠り』、だがこの魔法の構造は太陽とは関係が無い精神魔法だ。それに加えてこの難しい魔法だと、代償が必要になるほどの大量の魔力がいるはずだ。
「相手が完全に油断している時か、これはないだろうが相手が望んだ時、もしくは自分の命と引き換えにしか発動できない魔法さ。長い時間をかけて組み立てたが、当然使ってみたことはない」
「……なるほど一応、覚えておこう。ああ、店で騒ぎを起こした詫びをしないとな」
俺はロスカに金貨を20枚ほど革袋に入れて渡した、慎ましい平民なら一年は暮らしていけるだけの金だ。ロスカは俺たちに殺されないと知ると、それを遠慮なく受け取った。
「あんたらもヴァンパイアには気をつけな、俺が言うのも変だがこうなった後で後悔しても遅いぞ」
「……もうどうしようないくらいに関わりがあってな、教えてくれた魔法は役に立つと思う」
「今夜はもう死んだかと思った、でもまだ生き残っていられる。動物たちには悪いが、俺も何かの血がなきゃ生きていけない」
「それでも吸血欲を動物で抑えているだけで凄い」
ヴァンパイアは人間の血の誘惑に耐えられないものだと思っていた、だがそうではない現にここに100年以上も耐えて生き延びている者がいる。
「人間の血を飲むくらいなら死ぬさ、俺にもそのくらいの意地があるんだ」
「そうか、そのままでいてくれ。そうでないとあんたの退治を依頼されるかもしれない」
「……その時は痛みがないように頼むぜ、抑えてはいるが血の誘惑は強い」
「分かった、それじゃあな」
俺たちは森の中で別れた、もうロスカという男に聞くことはなかった。それよりもこれからのことが大切だ、低位や中位のヴァンパイアには有効な魔法が手に入った。
「あとはこれを実際に使ってみないといけないな」
「そうですね、効果があるか試してみないと他人に教えることができません」
「それって難しい、ヴァンパイアに会わないと使えない魔法だし」
「そうでしたら近くで魔法が盛んな国を探してみると良いでしょう、魔法使いというものは新しい魔法が大好きです。使えるかどうかはともかく、人に伝えておくのは大事だと思います」
ヴァンパイアたちが容易に手を出せないくらいの強国で、魔法に強い興味を持っている国に行かなければならない。明日は冒険者ギルドで、その下調べから始めないといけないな。
俺たちは宿屋に帰って、それぞれが眠りについた。俺はしばらく眠れなかった、元々睡眠時間が短いせいもある。高位ヴァンパイアにも有効な魔法は本当にないのだろうか、魔法とは想像から生まれる技術だ、だったらそれを作り出すこともできないものか。考え出すとますます眠れなくなったが、明日の為に短い眠りに落ちた。
「うわっ、酷い」
「なんだよ、あれ」
「人間か!?」
「見ちゃだめよ!!」
「ああ、神様」
俺は短い眠りから飛び起きた、宿屋の外が突然うるさくなったからだ。ファンも同じく起きていた、少し遅れてディーレも目覚めた、ミゼだけはまだ眠っていた。だが、嫌な気配を感じてミゼも連れて外に出た、宿屋の前には血まみれになった男が転がっていた。
俺はその気配を覚えていた、さっき別れたばかりのロスカという男だった。切り刻まれた男自身とそれとは違う血の匂いがした、むせかえるような他人の血の匂いだった。
男はうわごとのように何かを言っていた、ずっと同じ言葉を繰り返していた、そして今も血の誘惑と戦い続けていた。もう体からは本物のヴァンパイアの気配がしていて、いつ群衆に飛びかかってもおかしくなかった。
「…………頼む……、…………本物の……ヴァンパイアに……、…………なりたくない……」
俺はロスカのヴァンパイアに敗れたその姿を目に焼き付けた、そして群衆に紛れたままで魔法を一つ唱えた。相手が望んでいる時なら使える、そうロスカは言っていた。ロスカはもう明らかに人として生きられないが、たった一人で100年以上も戦っていた男を、このまま太陽が昇るまで待って焼き殺したくはない。
「『永遠の死への眠り』」
俺の魔法でロスカという男は死んだ、俺は魔力をかなり多く失ったが、相手の抵抗が無かったからそれだけで済んだ。やがて夜警の者がやってきてその遺体を調べていた。そのまま遺体はどこかへと運んでいかれた、集まっていた群衆の話では他にも何人か被害が出たらしい。
「…………神よ、御許に召された方々に永遠の安らぎをお与えください」
ディーレがロスカが倒れていた場所で静かに祈りを捧げた、俺たちの行動はヴァンパイアに筒抜けになっている。これは教わった魔法を広める前に対策をしなければならない、その為にはあの場所にもう一度行く必要ができた。俺たちは目的地を変えて、その朝早くにまた旅に出た。
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