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第百四十八話 まだ彼女には会っていない

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「レクス、ああ、無事なの。今までどうしてたの、私の目の届かないところになんてどこに!?」
「フェリシア、お前こそ最近会わなかったが、元気にしていたのか」

俺は街道にいきなり現れたフェリシアに驚いた、だがフェリシアが進出鬼没なのはいつものことだ。それよりも元気そうな姿が見れて嬉しい、思わず皆の前だがフェリシアを軽く抱きしめていた。

「…………レクス、今までどこにいたの?」
「さぁ、俺にも分からない。小さな村にいた、あれは隠れ里というものだろうな」

「私以外をこうして抱きしめたりしなかった?」
「ああ、すまない。しばらく会えなかったから、つい。誰も他には抱きしめたりしてない」

そこで俺はフェリシアの体を離そうとした、でも逆にフェリシアに胸元を掴まれて離れられなかった。そのまま珍しく焦った様子でフェリシアは問いかけてきた、そういえばいつも彼女に付いてきているキリルもいない。俺は何か大切な記憶を思い出しかけたが、強いフェリシアの声がそれを遮った。

「レクス、本当にどこにいたの?正直に言って!!」
「それはできない、あそこは隠された村だった。どこにあったか分からないし、フェリシアが知らなくてもいいと思う」

「それを決めるのは私だよ、私は1か月もレクスを見ることができなかった」
「そんなに経っていたか、もしかして時間の流れも違うんだろうか。大丈夫だ、危険なことは何も無かった」

「もうレクスをこのまま持って帰りたい!!お願いだから早く私のところに来て!!」
「フェリシア?」

俺は目の前にいるフェリシアが実体でないことに気づいた、これは限りなくフェリシアに近いが何かが違っている。いや、いつもフェリシアと会う時には奇妙な違和感があった。この姿は魔力の塊だ、俺が空を飛ぶ時の翼などに近い、フェリシアの体の一部分だけがここに来ているのだ。

「フェリシア、お前こそ一体どこにいるんだ・・・・・・・
「…………まだレクスには来れないところ、そこで本当の私と早く会って、そして……」

フェリシアの姿はだんだんと薄くなって消えてしまった、フェリシアは最後の言葉は俺にだけ聞こえるように言った、俺は思いもしなかったその言われた言葉に驚いた。

『そこで本当の私と早く会って、そして…………助けて…………』

祝福されし者は大きな力を持っている、そのフェリシアが助けてとはどういうことだろう。それを聞く前にフェリシアは消えてしまった、俺はそれをどうすることもできなくて、たった今まで彼女を抱きしめていた手を見た。しばらくそうしていてから、皆に聞いてみた。

「…………ディーレ、ファン。それに一応はミゼ。今のフェリシアをどう思った?」
「レクスさん、彼女はいつになく焦っているようには見えました」
「僕は分かったよ!!レクス。あの祝福されし者は、いつも精神だけを飛ばしていたんだ」
「えっ!?ファンさん、あのリア充の雰囲気に満たされた、私にとっての死の空間で何が分かったんですか?」

俺が感じ取ったことをファンも同じように感じたらしい、あのフェリシアは本物じゃない。ファンが言うことを信じるなら、精神だけの魔力の塊だ。俺はどうやら本物のフェリシアにあったことも無いようだ、一体どこに本当の彼女はいるんだろう。

「俺たちが今までに会っていたフェリシアは本物じゃない、限りなくそれに近い分身のようなものだな」
「精神だけ飛ばしたというのは、魂がレクスさんに会いに来ていたということですか」
「ディーレが言っていることが近い、魂と精神は厳密には違うけど、心だけがレクスに会いにきていたんだ」
「む、難しい話になってまいりました。つまり本物のフェリシアさんは、どこか別のところにいらっしゃるのですね」

「ああ、多分。…………あまりそこは良い場所ではないんだろうな」
「レクスさん」
「どうする、レクス」
「レクス様?」

俺としては助けを呼んでいるフェリシアを探し出してやりたい、だが世界のどこを探せばいいのかも分からない。俺が祝福されし者に近くなれば見つけられるのだろうか、だったらその為にもっと強くならなければならない。

「プログレス国へ向かおう、フェリシアのことは気になるが探しようがない。それにフェリシアと会う時は、きっと大勢のヴァンパイアが出迎えてくれるだろうからな」
「少し旅を急ぎましょう、レクスさんの翼で飛べばかなり早くつけます」
「飛んでいくんだね、その方が確かに早いや」
「また空の旅でございますか、方角を間違えないように気をつけましょう」

プログレス国までは半分ほどの道のりを来ていた、空を飛んでいけばもっと早く着くことができるだろう。急ぐ必要はないと思っていたが、フェリシアのあの姿が気にかかった。

「それじゃ、命綱にしっかり捕まっておけよ。『飛翔フライ!!』」
「神よ、僕らの姿をお隠しください、どうかその先にも光の導きがありますように。『隠蔽ハイド』」
「導きがありますようにだね、『隠蔽ハイド』」
「はわわわ、この旅の仕方はなかなか慣れません。ジェット機でしたら乗り物酔いもしなかったのですが、うっぷっ」

俺たちは『飛翔フライ』の魔法と、『隠蔽ハイド』を二重にかけて空を飛んでいった。時々は村や街、都におりて宿を借りる。それか野宿で過ごした、俺は『飛翔フライ』の魔法と、自分の翼で飛べる最高の速さで飛んでいった。

地図がないのが辛い、精密な地図は軍事機密扱いになるから、ごく簡単なものしか売っていない。だから、プログレス国へ一直線に飛ぶことはできなかった。それでも半月ほどでどうにかプログレス国につくことができた。

「ここがプログレス国か、何というかはっきりというと田舎だな」
「この国は主要な貿易通路から外れていますから、だからこそヴァンパイアにとっては好都合なのかもしれません」
「今でも出るのかな、ヴァンパイア」
「猫を狙うようなヴァンパイアもいるでしょうか、もしいたらシュールでございますね」

「それじゃ、ヴァンパイアのことを調査したいが」
「駄目ですよ、レクスさん。貴方が一番に疲労してるんですから、少し休みをとりましょう」
「えっと、こっちに公園があるみたい。僕とミゼが何か食べ物を買ってくるから、レクスたちはそこで休んでいて」
「屋台で買い込みますか、食べ歩きもその国の醍醐味でございます」

プログレス国の都には立派な公園というか、もはや森のようなものがあったのでそこで休ませてもらった。小さな森が国の中にあるという変わった国だったが、草食系ヴァンパイアの俺には有難い。

「さすがに半月、飛び続けるのは疲れた」
「2、3日はお休みしましょう。そんな様子ではヴァンパイアと戦えませんよ」

「そうだな、さてお目当ての魔法があるといいだが」
「探せばきっと道は見つかります、それがどんな道かはその時の楽しみです」

公園になっている森には俺たち以外にも人がいた、俺は大樹の下で横になって食事をさせてもらった。こうやって植物たちに触れていると、ゆっくりとだが回復していくのが分かる。

「レクス、ディーレ。ご飯、買ってきたよ――!!」
「大量でございます、おっと『浮遊フロート』」
「おう、待っていたぞ」
「お疲れ様です、ファンさん。ミゼさん」

草食系ヴァンパイアとして食事をした後は、おやつ感覚でファンが買ってきてくれたスープやジュースを飲んだ。ファンは両手いっぱいに、ミゼは『浮遊フロート』の魔法で、一人と一匹はとても大量に食料を買ってきた。

「レクス、喜んで。この国にも図書館があるんだって」
「ヴァンパイア退治を代々していた家もあるそうですよ」
「そうか、それじゃ休んだら行ってみないとな」
「レクスさん。2、3日は無理は駄目ですからね」

俺はディーレにきつく言われて3日間それから休ませてもらった、ディーレとファンはその間にこの国のことを調べに行ってくれた。ミゼは俺の護衛と言って宿屋にいたが、ふと気がつくと居眠りしてやがった。まぁ、この半月の旅は強行軍だったからな、小動物のミゼには辛かったのだろう。

「ん、もう十分に休んだ。今日から俺もヴァンパイアに効く魔法を探す」
「僕も銀の冒険者なので図書館を使えました、ファンさんも有料ですが僕と一緒にいるという条件で、国立図書館に入ることができました」
「古そうな本でヴァンパイア関係を『残留思リーゼチュアルソート』してみたよ、だけどまだ何も見つからない」
「私は国立図書館には入れませんし、その前で待機しております。やったね、ニート生活再び!!」

そうしていろいろと調べたのだが、国立図書館はまずハズレだった。そもそも昔、ヴァンパイアによって一度火災にあっていることが分かった、その時に俺の欲しい魔法も燃えてなくなったらしい。

ヴァンパイアと代々戦っているという家にも行ってみた、だが戦っていたのは昔の話でその頃に使われていた武器、それくらいしか残っていなかった。『残留思リーゼチュアルソート』にも反応はなかった。

「これはまずいな、どこから調べればいいんだか」

念願のプログレス国に来たものの、俺たちの調査は暗礁に乗り上げかけていた。するとだ、図書館の外でうろつくなどしていた、そんなミゼの奴が奇妙な情報をもってきた。

「レクス様、ヴァンパイアに効く魔法は分かりませんが、ヴァンパイア本人がいるそうですよ」
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