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第百二十五話 しっかり備えておいていい

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俺は祝福されし者への修行でうっかりと死にかけた、そうファンがディーレとミゼに証言したから、一人と一匹からかなり酷く心配された。

「レクスは無理をし過ぎたの、僕がもっとよく見てればよかった」
「それは違うぞ、ファン。俺が力を使い過ぎただけた、ファンは悪くない」
「レクスさん、しばらく祝福されし者への修行は止めてください。……どうしても修行をするのだったら、どうか僕がいる時にお願いします」
「レクス様、命大事にでございます!!」

しばらくは俺は病人のような扱いだったが、いつまでもそうしているわけにはいかない。俺に珍しく王様からギルドを通して指名依頼があった、王城にいるあの優しい兄弟王子を放ってはおけない。だから、仲間たちと一緒に王城に行ったら、すぐに王様との非公式な面談があった。

「『魔物の氾濫デビルフロード』の可能性がある?」
「そうだ、我がクナトス国は迷宮の探索が盛んだが、それで分かることもある。ここ最近はどうも魔物の数が増加している、都に溢れだす前に出来るだけ魔物を狩ってもらいたい」

「討伐証明は魔石だけか」
「レクス殿のパーティ以外にもいくつかのパーティに同じ依頼をしてある。具体的にはジャイアントくらいを狩ることができる者たちだ」

「まぁ、『魔物の氾濫デビルフロード』なんて起きたら面倒だからな、俺達のパーティもしばらくは剥ぎ取りより数を優先することにしよう」
「それでは頼んだ」

俺は白金の冒険者としてギルド長に呼びだされて、更に詳しい話しを聞かされた。この王国には知り合いになった王族もいる、『魔物の氾濫デビルフロード』など面倒なことを起こされてはたまらん。

「というわけでしばらくは迷宮で魔物を狩って、狩って、狩りまくりたいと思うんだが、何か質問はあるか?」
「はーい、他の冒険者も同じ階層にくるなら、ファンの魔物のご飯はお預け?」
「そうですね、ファンさんのドラゴン形態を見られると困りますから、人前では食べないほうがいいですね」
「いっそ、形だけ私と同じレクス様かディーレさんの従魔になりますか。そうしたらドラゴン形態で迷宮で活動しても大丈夫です」

ファンはうーんと悩んでいた、食欲とドラゴンの誇りの狭間で迷っているのだろう。俺としては従魔がドラゴンとか有名になり過ぎて怖いから遠慮したい。でも、ファンがそうなりたいなら認める気はある。

「よっし、決めた!!それじゃ、レクスの従魔になる!!……レクスだったら少し迷惑をかけても大丈夫そう」
「おい、なんだその理由は!?……まぁ、別にいいけどな」

「ごめんね、ディーレ。ディーレを信用してないわけじゃないよ」
「はい、分かっています。それに銀の冒険者の僕にはドラゴンの従魔は目立ち過ぎます、レクスさんくらいで丁度いいですよ」

ファンは食欲とドラゴンの誇りの狭間で悩んでいたんじゃないのか、俺かディーレの従魔になるので悩んでいたのか。どちらでもファンの扱いに変わりはないが、俺にしておいた方が無難ではあるな、俺は一応は白金の冒険者だから。しかし、ちょっと俺の扱いが悪くないだろうか。

「お前らなんか酷くないか、俺は目立たない白金の冒険者でいたいのに……」
「それ、無理だと思う」
「……ええと、神は平等に全てを見て下さっているかと」
「白金の冒険者の時点で目立たないなんて、無理にきまっているのです」

なるべく目立たないのんびりとした冒険者生活を送りたいおれに仲間達からの言葉は厳しかった。俺、そんなに目立つことをしてきたっけ?

「ああああああの、それってドラゴンですか?本物ですか?」
「そうだ、さっさと従魔登録を頼む」

ギルドが一番空いている時間帯である昼の時間に、さっといって俺はファンの従魔登録を済ませてきた。その後は、さっさとまるで泥棒のように逃げ出した。

冒険者として間違ったことはしていないのに、この罪悪感は一体なんだろう。俺は普通に静かに暮らしていきたいだけなんだが、ドラゴンが従魔だなんて普通ではあり得ない。

「よぉし、それじゃ。ファンの従魔登録も済んだし、徹底的に迷宮で狩りを始めるぞ。お互いの体力、気力、魔力に注意して休憩を挟んでいこう!!」
「おー!!」
「はい、神よ。あなたの支えで仲間を守る力を僕にお貸しください」
「魔力枯渇に注意していきましょう」

まず最初の獲物はジャイアント、巨人三体だった。ディーレの閃光弾が命中し、更にディーレは目から風撃弾を撃ちこんでそのうちの一頭を仕留めていた。どうやら魔法銃のダークの方がより魔力の微調整が出来るようになり、更に強くなったらしい。

「はい、まずは一体です」
「それじゃ、残りは一体ずつ、俺とファンでやろうな」
「はい、頑張るのです」

俺はいつものごとく壁を蹴って跳躍し、ジャイアントの首筋にメイスを『重力グラビティ』付きで叩きこんでバキバキッと首の骨を叩き折った。

「はっ、まず一体!!」

ファンも器用にジャイアントの体を駆けあがり、相手が反応を示すまえにドラゴンのかぎ爪で、その首を切り裂いて止めをさした。

「僕の勝利!!ねぇ、魔石を探すついでにご飯食べてていい?」
「いいぞ、俺はここに他のジャイアントを引きつれてくる」
「はい、ファンさんとお待ちしております」
「私はいつもどおりに見張りをしておきます」

俺は少し進んだ通路でジャイアントを二体見つけ、その辺に転がっていた岩石を頭にぶつけてこちらに注意を引き付けた。

「お代わりが来たぞ、ジャイアント二体だ!!『重なりオーバーラップし小盾スモールシールド』」

俺は背の高いジャイアントまで跳躍しやすいように、魔法で小盾にもなる足場を増やした。それを蹴って跳躍し、巨人の首にまたメイスを捩るように叩きこんだ。グギャリと嫌な音がして巨人が倒れこむ。

「閃光弾に、風撃弾で止めです!!」

もう一体の巨人はディーレの奴が魔法銃ライト&ダークで仕留めていた。その体にファンが魔石を探しながらかぶりつく。

「レクス様、少々休憩されては?」
「そうだな、ファンが魔石を見つけ終わるまで少し休もう。しかし本当に巨人の数が少し増えているな、『魔物の氾濫デビルフロード』の危険ありか」
「魔力の方も座って少し回復させておきます、『魔物の氾濫デビルフロード』の可能性があるなら潰しておかないといけませんね」
『食べ終わったよ、魔石の周りのお肉だけ食べてきたー!!はい、魔石五個ね』

ファンのこともしばらく休憩させて、俺達はまた魔物を倒すべく立ち上がった。

するといるわいるわ、ジャイアントが四体にサイクロプスを一体見つけた。俺はファンに訊ねる。

「ファン、そのドラゴンの形態のままでジャイアントを仕留められるか?」
『うん、ディーレが閃光弾を撃ってくれたら、きっと大丈夫だと思う』
「わかりました、閃光弾だけ当てた個体を狙ってください」
「私の陰がどんどん薄くなっていく、せめて新手が来ないように見張りをします」

休憩と作戦会議を終えて、俺達は新たな敵へと突撃していった。まずはディーレの閃光弾が敵の視界を焼いた、また一体のジャイアントをディーレは仕留めていた。

ディーレは新しい風撃弾を目という小さな部分から撃ちこんで止めをさすのだが、魔力消費が大きいらしく連発はできないそうだ。

「『重なりオーバーラップし小盾スモールシールド!!』」

俺は新しく足場を生み出して、一つ目のサイクロプスが閃光弾で苦しんでいるうちにメイスをドガンッと叩きこんでその首を叩きおった。続いて同じように視界を奪われて苦しんでいるジャイアントの首をグキリッとねじ切るように叩き折る!!

『いっただきまーす!!』

ファンの奴も視界が利かないジャイアントの喉に見事に齧りついて噛み切った、一体倒した後にすぐにもう一体の喉を噛みきって止めをさしていた。

それからはしばらくファンの魔石探しとお食事の時間だ、俺達は見張りをしながら休息をとった。

こんな事を何度も繰り返しながら、俺のパーティは一日に二十体くらいはジャイアントやサイクロプスを仕留めていた。その魔石をゴロゴロとギルド長の前に転がして依頼達成の証として見せておく。

「ほら、これくらいでいいか?」
「あ、ああ、凄いな。さすがは白金の冒険者だ」

その言葉に俺は首を傾げたが、親しいギルド職員によると俺達以外のパーティは一日に多くても一、二体を仕留めてくるのがやっとだという。

確かにごく普通の人間だけだったら、そのくらいが普通だろう。しまった、狩り過ぎたかと思ったが、『魔物の氾濫デビルフロード』など起こされても堪らないので特に気にすることもなく、ギルド長がもういいというまでそのペースで巨人などを狩り続けた。

さすがに一日に二十体ほどの狩りはキツ過ぎた、迷宮でも時々休憩をとって宿屋ではディーレを一番最初に休ませた。ミゼは見張りぐらいしかしていなかったし、俺とファンは人間以上に体力がある、俺たちのパーティで一番負担が大きかったのはディーレだっただろう。

「ギルド長から『魔物の氾濫デビルフロード』の兆しも薄れたと言われたし、しばらくは迷宮に行くのを止めてのんびり休憩しよう」
「はい、さすがに連日の狩りは疲れました」
「ディーレ疲れてる、僕が肩もんであげるね」
「何にせよ、無事に終わってほっといたしました」

ようやく手に入った平穏な日々を、俺達はしばし楽しむことにしたのだった。狩りは生きる為に必要なだけでいい、それ以上は無駄な殺しでしかない。俺は優しい大樹の下で、好きな本をゆっくり読みたいと思った。
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