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第九十七話 いつまでも傍にはいられない

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俺達はムラクモ国で生まれた武術を習いにきていた、この武術は女性や子どもなど力が弱い者が学ぶと役に立つのだという。そんなことをムラクモ国のギルドで聞いて、さっそく教えて貰おうと訪れたのだ。

「いや、これは面白い!!」
「レクスさん、大丈夫ですか」
「……珍しいです、レクス様が人間に負けています」

「凄いな、組み手をしたと思った瞬間に転がされた」
「良かった、ご無事ですね。レクスさんに膝をつかせるとは面白い武術です」
「合気道にちょっと似ているような、そんな難しそうな武術です」

これだけでもムラクモ国にきた甲斐があったと俺は思う、武術は今までにも習って練習もしていたが、この武術はまた違っていて面白い。

相手との間合いを活かして一瞬で相手の死角入るように動く、または体の中心をしっかりと保ち相手の攻撃をさばいていく武術だ。

「本当に面白い、これだけでもムラクモ国にきた甲斐があった!!」
「相変わらず、レクスさんは自分の知らないことや、新しい発見が好きですね」
「もうこうなったら、何があっても動かないでしょう」

冒険者ギルドからすすめられた道場だったが実に面白い、俺はその日のうちにいくつかの型を覚えてしまった。……ディーレの奴はもっと凄い、他の人が戦っているのを見ているだけで、その技を自分のものにしていた。天才の本気は怖い。

「新しい技術を身につけるというのは面白いな」
「手加減ありの武術だけなら、僕がレクスさんに勝つかもしれませんよ」
「ディーレさんの言ってること冗談ですまないです、天才って怖い」

俺達は体験入学という形で紹介された道場に数回通ってみた、一通りに型は覚えたので後はディーレと組み手をして復習して覚えればいいだろう。

「忘れないうちにディーレ、しばらくは毎日組み手をしような」
「いいですよ、普段勝てない分。レクスさんから一本とってみせます」
「はうぅ、美形がまた一段と強くなってしまう。何も学べない自分が悔しい!!」

俺達が泊まっている宿屋に帰るとまた手紙が一通届いていた、ツクヨミ国にいるソウヤからの手紙だ。最近になって内容はいつもとほとんど同じだが、毎日のようにこっちに手紙が届くのだ。

『レクスさん、ムラクモ国は楽しいですか?ツクヨミ国にもまだまだ楽しいことはありますよ、どうか早く帰ってきてください。ソウヤ』

「なぁ~んかこの手紙、嫌な予感がするんだよな」
「帰ってきてくださいと言われても、僕達はツクヨミ国の出身ではないですし」
「レクス様かディーレさんに恋情をもたれて、などという感じもありませんね」

どこか必死さが滲み出ているような手紙だ、ソウヤは末席でも王族だし何かが起こることを知っているのだろうか。

ムラクモ国とツクヨミ国なら圧倒的に後者が優れている、今までムラクモ国が独立していられたのは、この国が険しい山々に守られていたからだ。

「嫌な予感はするが、ツクヨミ国に行ってみるか」
「ソウヤさんにも会いたいですしね」
「レクス様の嫌な予感が外れてくれればいいのですが……」

次の日に俺達はムラクモ国の迷宮に入ることにした、ディーレの脳内地図ではこの迷宮がツクヨミ国に繋がっているからだ。

本当なら『飛翔フライ』で飛んで帰るのが一番早いのだが、それでは俺達が上級魔法が使えると相手に教えてしまうようなものだ。

「この水没しているところを右だな、『ラージウォーターバブル』」
「はい、それから先でまた曲がって進みます」
「素直に山道を下ったほうが早かったのではないでしょうか」

そりゃ、ミゼの言う通りに山の斜面を『浮遊フロート』を使いながら滑り下りても早くツクヨミ国に辿りつけるだろう。だけど、山の斜面を『浮遊フロート』を使いながら滑りおりるって、結構速さもあるし落下してるみたいで怖いと思うぞ。

だから地道に迷宮の中を俺達は進んでいるのである、今回はツクヨミ国への移動が最優先だから狩りはせずに、偶々出会った魔物だけを倒しつつ進んでいった。

「おお、出口だ。んん?」
「なんでしょう、騎士達が出口を見張っています」
「あからさまに怪しいですね」

俺達は迷宮を出ていく前に打ち合わせをしておいた、そして俺は魔法を使う準備をした。集中して魔法を的確に行使する。

「『誘われしインバイト抗えないレジスト深き眠りスリーピング』」

俺は見張りをしていた兵士を全員眠らせてしまった、そうしてからディーレとミゼにも頼んで、面倒だが兵士たちの身体を探らせてもらった。するとある命令書を一人の兵士が持っていた。

『金の冒険者レクス、鉄の冒険者ディーレ、両名を丁重に王城までつれてくること』

どうやらこの兵士達は金の冒険者であるレクスと鉄の冒険者ディーレ、つまり俺とディーレを探している。俺とディーレの似顔絵までついていたが、一体何で俺たちが追われるはめになったのかが分からない。これは事情を知ってそうなソウヤに聞くのが一番だろう。

俺は王城近くで『広範囲ワイドレージ探知ディテクション』を使い見覚えのある気配を探してみた、王城だけあって人がごちゃごちゃ多過ぎる。だが、一際魔力の高い気配が一つあった、どうやらお目当ての人物をとらえたようだ。

「ディーレ行くぞ、どうやらソウヤは王城の奥にいるらしい。ある程度は近づかないと話を聞くこともできん」
「わかりました、『隠蔽ハイド』で姿を隠しながら、王城に向かうことにしましょう」
「なにやら不穏ですね、ソウヤさんの身に何があったのでしょうか?」

俺達は王城の近くにある建物に身を隠し、『思念伝達テレパシー』を使ってソウヤに呼びかけてみた。

『おい、ソウヤ。聞こえるか、態度には出すなよ。俺がムラクモ国に行っている間に何があったんだ?』
『――――!?聞こえる、聞こえるよ。レクス、早くこのツクヨミ国から逃げて、王様がレクス達が上級魔法の使い手だと知ってしまったの、それも全て私のせいなのごめんなさい!!』

『俺達は何もしていないし、上級魔法の使い手でもないが、このまま逃げたほうがいいんだな?』
『私がレクス達は魔力量が多過ぎる、上級魔法の使い手かもしれないって喋ってしまったの。それで王様が貴方達を探しているわ、お願いだからこの国にはもう帰ってこないで』

『そうか、上級魔法の使い手なんて俺達も随分と買いかぶられたものだ。そんなものとは縁がないんだが面倒事は嫌いだ、この国を離れることにする。今まで楽しかったぞ、ありがとう。ソウヤ』
『僕もです、楽しい毎日でした。ソウヤさん、貴女に神のご加護を』
『残念でございますが、従魔は主人を選べません。ソウヤさん、お元気で』

『ごめん、ごめん、ごめんなさい。他人に言うつもりはなかったの、ただ私の仲間がいるって浮かれていたの、本当にごめんなさい、どうかいつまでも元気でいて、……私の……初めての…………本当のお友達……』

俺達はソウヤとの別れをすませるとそのまますぐに王城を離れた、この様子ではツクヨミ国全体に検問が行われているだろう。

ムラクモ国へ逃げるか、ツキシロ国に行くか。後者では恨まれているようだから、向かうならムラクモ国だな。

「――――本来なら、こんな手は使いたくなかったんだが仕方がない。今から俺が変装するがお前ら笑ったり、からかったりするなよ」
「はい、大丈夫ですよ、そんなことはしません」
「なんでしょうか、こんな場合ですがわくわく致します」

まずはムラクモ国まで国境は無視して『飛翔フライ』と『隠蔽ハイド』の魔法で隠れて飛んでいった、緊急事態だから飛翔の魔法にあわせて俺自身の翼も使って最短距離を飛行した。

そして、ムラクモ国で一番早く出る船のチケットと食糧などを買い込んだ。念には念をいれて乗船時にも注意した。

「ランク鉄と銅の冒険者さんだね、うわぁ、美人だねぇ」
「……………………」
「す、すみませんこの子は無口なんです」

「そんなに美人なのに勿体ない、お嬢さんが笑うとますます美人に見えるよ」
「……………………」
「あああああの、もういいでしょうか?」

「はい、ペットの分も合わせて、チケット三枚確かに受け取ったよ」
「……………………」
「それじゃ、乗りますね。はい、失礼します」

俺は再び女性の『ヴィジョン』でムラクモ国を出る船に乗り込んだ、その前に冒険者ギルドで名は変えなかったが、性別を変えて銅の冒険者になってきたのだ。あとはその冒険者証を持って、船に乗ってしまえばこちらのものだ。

俺が女性じゃないとバレて騒がれても、俺の男である本来の冒険者証を見せればいい、ただの船員の見間違いだの一言で済む。

ヴィジョン」の魔法はなかなかに難しい、集中していないとすぐに元の姿に戻ってしまうし、触られれば幻の姿だと分かってしまう。

「あー、あー、うっとおしかった。何がお嬢さんだ、畜生!!」
「あっ、レクスさんが男性の姿に戻って、僕は何だかほっとしました」
「私としましては女性のままでも構いません、というか是非そっちで!!…………あ~れ~って私を簀巻きにしないで下さい――!!」

船室は二人部屋でようやく俺は女性の変装を解いた、もう二度とやるまいと思っていたのに忌々しい。それもこれもツクヨミ国の王様のせいだな、そう憤る俺にディーレがポツリと言った。

「上級魔法が使える限り、安全な地はどこにもないのでしょうか」
「…………人間がいてそこに権力とか戦争が絡んでくる限り、俺達に安全な場所はないな」

上級魔法の使い手はその多くは孤独だ、堂々と力を示せば国から大事にされるかわりに、ひどく恐れられもする。ソウヤの最後の言葉が、彼女が抱えこんでいる孤独の大きさを表している。

かといって力を隠して生きていくなら、他人とは違うんだという思いを抱えざるをえない。……俺にディーレという友ができたのは幸いだった、ディーレの方もそう思っていてくれればいいのだが。

「そういえばこの船はどちらに向かうのでしょう?」

ミゼの問いにディーレがビクッと反応した、恐る恐るというように俺達にこの船の行き先を告げた。

「すいません、この船が一番速くて空きがあったんです!!」

もはや土下座せんばかりに謝っているディーレの調子がおかしい、そんなに俺達が行ってはいけない国があっただろうか。まさか……

「この船はフロウリア国に向かう船なのです」
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