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第八十五話 海の藻屑になる気はない
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俺達は海路を使ってツクヨミ国に向かう旅の途中だった、そこで二人部屋の借りた船室で魔石の加工を行い戦力増強を図ることにした。
「それではいきます、『望みの姿に変化し創造されよ』」
「おっ、成功だな。これで魔法銃のダークがまた強くなるな、ディーレ」
「高位ヴァンパイアの魔石です、その威力はどれほどのものになるのでしょうか」
ちょっと前に手に入れた高位ヴァンパイアの残した魔石、それをディーレが魔法で加工して魔法銃のダークの方に組みこんでいた。ディーレはまたうっとりと魔法銃を眺めて、今にも頬ずりしそうな様子だ。
「……凄い、また魔力が通りやすくなってますし、威力の方も多分かなり上がっています」
「ディーレがまた強くなった、俺も相棒のメイスを改良してみようか。だが、このメイスはこれはこれで完成品だからなぁ」
「持っていても軽くなったと言われてましたから、少し重い素材で別のメイスを作ってみてはいかがでしょうか」
そんなディーレをみて俺も武器の能力向上がしたくなった、したくなったが俺の持っているメイスはなかなかの名品なのだ。俺が攫われたヴァンパイアの屋敷から慰謝料として持ってきた品だが、これはもう完成品で手を加えるところがない。
材質は不明だが魔力を良く通してくれて、相手に打ちこむ時に『重力』の魔法を使ってより打撃の威力が増すという優れものなのだ。
「いっそ打撃武器そのものを変えるという選択肢もあるが、モーニングスターとか持っていたら外見が凶悪すぎる」
「棘付きの鉄球ですものね、持ち運びが大変そうです」
「私もそれはちょっと、……棘のあるツンデレもいいですが、冷静に現実を見ると面倒なんですよねー」
またミゼが分からんことを言いだした、つんでれ?のツンとはモーニングスターの棘のことだろうか、それじゃでれって何なんだろう。ミゼの不思議発言はもうあまり気にしてはいけない、いちいち考えてると時間の浪費になることが多い。
船室で俺達は戦力増強していたり、のんびりと日常会話を楽しんでいた。すると、ぐらりと船が大きく揺れた。これは、また面倒事の気配がする。
「またか!?…………万が一沈没されては堪らん、仕方がない。上に行ってみるか?」
「海の旅というのも危険なのですね、神よ僕らの旅路をお守りください」
「うっぷっ、普通にしていれば平気ですが、こう揺れると気持ち悪いです」
海の旅というのも陸の旅と同じく危険があった、俺達が船の甲板に出てみるともう見慣れた光景だ。クラーケンの触手が船縁や、船の柱の何本かに巻き付いていた。
「やれやれ、『追氷岩!!』」
「石撃弾で壊します、『浮遊』」
「うわわわっ、こっちにもきました。『氷撃!!』」
俺とミゼの魔法でクラーケンの触手を凍らせてしまう、そこをディーレの持つライト&ダークという魔法銃が、小さいが威力のこもった石の弾を撃ちこみ氷ごとクラーケンの触手を破壊していった。
船の旅ではとにかくこのクラーケンという魔物に襲われることが多かった、だから各船には必ず魔法使いを雇っているものだが、俺達の船の魔法使いはお世辞にも役に立つとはいえなかった。
この触手に捕まったら骨くらい軽く折れてしまう、俺達は触手に捕まらないように回避しながら魔法を行使した。ディーレも俺たちの魔法に合わせて、どんどん凍った触手を撃ち砕いていった。
クラーケン本体は滅多に上まではこない、触手をいくつか撃退してやれば、それで大抵は今回のように逃げていってしまう。
ただ、運が悪いとそのクラーケンの触手に捕まって、そのまま餌として海に引きずり込まれてしまうこともある。
「おいっ、あの魔法使いはどこに行った?俺達は客であって、この船の用心棒じゃないんだ。毎回、毎回、金も貰ってないのに働かせるな!!」
「…………それが、その」
「なんだ、ハッキリと言え!!」
「あの役立たずはあんたらが来てくれる前に、クラーケンの触手に捕まって海の底に行っちまったよ」
「…………この先の航海、どうするんだ?」
「…………それで船長があんたらと話をしたいと言っている」
この船に雇われていた魔法使いは新人冒険者だった、新人だが中級魔法まで使えるというので雇われていた。しかし、実際はやっと中級魔法が一、二個使えるくらいの腕前で、はっきりと言えば役に立たなかった。
クラーケンの触手に捕まってから時間が経っているし、もう助けても溺死か圧死していることだろう。頭の痛い話だ、ただでさえ海上では俺は碌に食事もとれずに弱体化しているというのに。
何と言っても海の上だ、草食系ヴァンパイアにとって食べれるものが少ない。果物などを大量に『魔法の鞄』に入れてきて、それから生気を頂いているという状態なのだ。
「頼む、次の陸地まででいい。あんたらを護衛として雇いたい、もちろん船賃は無しにするし、次に上陸する島まで三日くらいだ。金貨3枚で雇われてくれないか」
「………………クラーケンを退治した時に出る船の損害は払わないぞ、そう条件に入れてくれ」
クラーケンに襲われると甲板の物が壊されることも多い、酷い時には柱が真っ二つにされてしまうという。それだけ力が強いモンスターだっていうことだ、船旅とは俺の思った以上に危険なものだった。
俺達だって船が壊されると困る、そこに付け込んでただでクラーケン退治をしろなどと言わないだけ、この船長はマシなのかもしれない。とりあえず、書面できっちりと契約書を書かせておいた。貰えるものはしっかりと貰っておく主義だ。
「レクスさんはなるべく魔力を温存してください、碌に食事もとれてないから体がキツイでしょう。無理はしないで、横になっててください」
「すまん、まぁあと三日くらいなら大丈夫だと思う。……砂漠より船旅の方が危険だとは思わなかった」
「海の上には植物などありませんから、海の中なら海藻などがありますが、クラーケンの良い的になってしまいますね」
草食系ヴァンパイアである俺の食べ物は文字通り、草木などの植物達の生気である。半月ほどの旅だから、その間は果物くらいで生気を補えると思っていた。今度はもっと量を増やして、『魔法の鞄』に入れておこう。
「うぅ、船旅は揺れるし、碌に食事がとれない。次からは陸路で行きたいが、ツクヨミ国は島国なんだよなぁ。帰りもこの状態になるわけだ、……辛い」
俺は魔力と体力を温存すべく船室で横になっていた、草食系ヴァンパイアとしてわりと危機的な状況かもしれない。
ぼんやりと俺はいつも食事をする時のような感覚を味わっていた。ここには何も植物がないのに、眠くなってとても大きな力の中で、眠ってしまいそうな感覚が俺を包んでいた。
”それじゃ、レクス。元気でね、もっと早く私に近くなってね”
俺の頭の中に唐突にフェリシアの言葉が浮かんだ、あいつに近くなるとはどういうことだろうか。あいつはどうして強いんだ、あの魔力は個人に納まるような量ではない。だったら、どこからあいつは魔力を……
「ん?」
しばらくして俺は目が覚めた、どうやら本当に眠ってしまっていたらしい、まだ船は陸地についていないようだった。だが、俺の中では異変が起こっていた。
「どうして、魔力も体力も全て回復しているんだ?」
「それではいきます、『望みの姿に変化し創造されよ』」
「おっ、成功だな。これで魔法銃のダークがまた強くなるな、ディーレ」
「高位ヴァンパイアの魔石です、その威力はどれほどのものになるのでしょうか」
ちょっと前に手に入れた高位ヴァンパイアの残した魔石、それをディーレが魔法で加工して魔法銃のダークの方に組みこんでいた。ディーレはまたうっとりと魔法銃を眺めて、今にも頬ずりしそうな様子だ。
「……凄い、また魔力が通りやすくなってますし、威力の方も多分かなり上がっています」
「ディーレがまた強くなった、俺も相棒のメイスを改良してみようか。だが、このメイスはこれはこれで完成品だからなぁ」
「持っていても軽くなったと言われてましたから、少し重い素材で別のメイスを作ってみてはいかがでしょうか」
そんなディーレをみて俺も武器の能力向上がしたくなった、したくなったが俺の持っているメイスはなかなかの名品なのだ。俺が攫われたヴァンパイアの屋敷から慰謝料として持ってきた品だが、これはもう完成品で手を加えるところがない。
材質は不明だが魔力を良く通してくれて、相手に打ちこむ時に『重力』の魔法を使ってより打撃の威力が増すという優れものなのだ。
「いっそ打撃武器そのものを変えるという選択肢もあるが、モーニングスターとか持っていたら外見が凶悪すぎる」
「棘付きの鉄球ですものね、持ち運びが大変そうです」
「私もそれはちょっと、……棘のあるツンデレもいいですが、冷静に現実を見ると面倒なんですよねー」
またミゼが分からんことを言いだした、つんでれ?のツンとはモーニングスターの棘のことだろうか、それじゃでれって何なんだろう。ミゼの不思議発言はもうあまり気にしてはいけない、いちいち考えてると時間の浪費になることが多い。
船室で俺達は戦力増強していたり、のんびりと日常会話を楽しんでいた。すると、ぐらりと船が大きく揺れた。これは、また面倒事の気配がする。
「またか!?…………万が一沈没されては堪らん、仕方がない。上に行ってみるか?」
「海の旅というのも危険なのですね、神よ僕らの旅路をお守りください」
「うっぷっ、普通にしていれば平気ですが、こう揺れると気持ち悪いです」
海の旅というのも陸の旅と同じく危険があった、俺達が船の甲板に出てみるともう見慣れた光景だ。クラーケンの触手が船縁や、船の柱の何本かに巻き付いていた。
「やれやれ、『追氷岩!!』」
「石撃弾で壊します、『浮遊』」
「うわわわっ、こっちにもきました。『氷撃!!』」
俺とミゼの魔法でクラーケンの触手を凍らせてしまう、そこをディーレの持つライト&ダークという魔法銃が、小さいが威力のこもった石の弾を撃ちこみ氷ごとクラーケンの触手を破壊していった。
船の旅ではとにかくこのクラーケンという魔物に襲われることが多かった、だから各船には必ず魔法使いを雇っているものだが、俺達の船の魔法使いはお世辞にも役に立つとはいえなかった。
この触手に捕まったら骨くらい軽く折れてしまう、俺達は触手に捕まらないように回避しながら魔法を行使した。ディーレも俺たちの魔法に合わせて、どんどん凍った触手を撃ち砕いていった。
クラーケン本体は滅多に上まではこない、触手をいくつか撃退してやれば、それで大抵は今回のように逃げていってしまう。
ただ、運が悪いとそのクラーケンの触手に捕まって、そのまま餌として海に引きずり込まれてしまうこともある。
「おいっ、あの魔法使いはどこに行った?俺達は客であって、この船の用心棒じゃないんだ。毎回、毎回、金も貰ってないのに働かせるな!!」
「…………それが、その」
「なんだ、ハッキリと言え!!」
「あの役立たずはあんたらが来てくれる前に、クラーケンの触手に捕まって海の底に行っちまったよ」
「…………この先の航海、どうするんだ?」
「…………それで船長があんたらと話をしたいと言っている」
この船に雇われていた魔法使いは新人冒険者だった、新人だが中級魔法まで使えるというので雇われていた。しかし、実際はやっと中級魔法が一、二個使えるくらいの腕前で、はっきりと言えば役に立たなかった。
クラーケンの触手に捕まってから時間が経っているし、もう助けても溺死か圧死していることだろう。頭の痛い話だ、ただでさえ海上では俺は碌に食事もとれずに弱体化しているというのに。
何と言っても海の上だ、草食系ヴァンパイアにとって食べれるものが少ない。果物などを大量に『魔法の鞄』に入れてきて、それから生気を頂いているという状態なのだ。
「頼む、次の陸地まででいい。あんたらを護衛として雇いたい、もちろん船賃は無しにするし、次に上陸する島まで三日くらいだ。金貨3枚で雇われてくれないか」
「………………クラーケンを退治した時に出る船の損害は払わないぞ、そう条件に入れてくれ」
クラーケンに襲われると甲板の物が壊されることも多い、酷い時には柱が真っ二つにされてしまうという。それだけ力が強いモンスターだっていうことだ、船旅とは俺の思った以上に危険なものだった。
俺達だって船が壊されると困る、そこに付け込んでただでクラーケン退治をしろなどと言わないだけ、この船長はマシなのかもしれない。とりあえず、書面できっちりと契約書を書かせておいた。貰えるものはしっかりと貰っておく主義だ。
「レクスさんはなるべく魔力を温存してください、碌に食事もとれてないから体がキツイでしょう。無理はしないで、横になっててください」
「すまん、まぁあと三日くらいなら大丈夫だと思う。……砂漠より船旅の方が危険だとは思わなかった」
「海の上には植物などありませんから、海の中なら海藻などがありますが、クラーケンの良い的になってしまいますね」
草食系ヴァンパイアである俺の食べ物は文字通り、草木などの植物達の生気である。半月ほどの旅だから、その間は果物くらいで生気を補えると思っていた。今度はもっと量を増やして、『魔法の鞄』に入れておこう。
「うぅ、船旅は揺れるし、碌に食事がとれない。次からは陸路で行きたいが、ツクヨミ国は島国なんだよなぁ。帰りもこの状態になるわけだ、……辛い」
俺は魔力と体力を温存すべく船室で横になっていた、草食系ヴァンパイアとしてわりと危機的な状況かもしれない。
ぼんやりと俺はいつも食事をする時のような感覚を味わっていた。ここには何も植物がないのに、眠くなってとても大きな力の中で、眠ってしまいそうな感覚が俺を包んでいた。
”それじゃ、レクス。元気でね、もっと早く私に近くなってね”
俺の頭の中に唐突にフェリシアの言葉が浮かんだ、あいつに近くなるとはどういうことだろうか。あいつはどうして強いんだ、あの魔力は個人に納まるような量ではない。だったら、どこからあいつは魔力を……
「ん?」
しばらくして俺は目が覚めた、どうやら本当に眠ってしまっていたらしい、まだ船は陸地についていないようだった。だが、俺の中では異変が起こっていた。
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