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第四十四話 楽園までの道が遠い
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「またかああぁぁぁぁあぁぁあぁ!?」
「レ、レクスさん!?」
「ご愁傷さまでございます、しばらく図書館は諦めてくださいませ」
俺はまた絶望を味わっていた、これは以前に体を霧に変えられなくなったくらい。あの時と同じくらい、いやあの時以上の絶望だった。
「お客様、そんなに騒がれても困ります。国立ウィズダム図書館は、貴族かランク銀以上の冒険者にしか、利用できないことになっているのです」
俺達は、いや俺は念願だったウィズダム国の首都、ウィズダムに来ていた。基本的に国の名前は、首都と同じになっている。
少しややこしいような気もするが、国家間で何かの取り決めをする時には、ウィズダム国と記載するので、間違えたりはしないらしい。そもそも、国家間の交渉など滅多にあるものではない。
ってそんな事はこの際、どうでもいいんだ。この国立ウィズダム図書館がまさかの貴族か、ランク銀以上の冒険者しか利用できないなど知らなかった。俺は自分の身分を振り返って嘆く、平民であるのがこんなに辛い日がくるとは思わなかった。
「ほんの二月くらい前にランク鉄に昇格したばかりだからな、いくら俺でもランク銀にはすぐにはなれない。……ああ、見知らぬ知識、想像もできない伝説物語」
「まぁ、その代わりにギルドの図書室が充実していました。そんなにがっかりしないでください、レクスさん」
「冒険者ギルドにも読んだことのない本が沢山ありました、しばらくはそれらを読みながら昇格に備えて地道に頑張っていきましょう」
俺は力なく頷いてディーレやミゼの慰めの言葉を聞いていた、前に会った銀の冒険者のおっちゃんは、一体どのくらいの年で銀になったのだろう。
…………もっとおっちゃんにその辺りの話を聞いておけば良かった、だが後悔しても既にもう遅い。
俺たちはウィズダム国立図書館を追い出された、冒険者ギルドにあとどれくらいで銀の冒険者になれるか、俺は本気で問い合わせようかと思ったくらいだ。
「ランク銀か、2、3年くらいで昇格できるものなんだろうか?」
「レクスさんには沢山の時間があるんですから、お楽しみは後にとっておいてください」
「そうです、レクス様のこれから先の一生は長いのです。むしろ、退屈しないように、いろんな楽しみを少しずつ味わっていくべきでしょう」
確かに不老である俺にはまだまだ沢山の時間があるのだ、ラビリスの街で会った銀の冒険者のおっちゃんくらいまでには俺も銀の冒険者になれるだろう。多分。
そう納得して、俺はまた地道に冒険者稼業に精を出すことにした。ウィズダムにも迷宮への入り口があったから、稼ぐのに困ることはなかった。
ぎっぎゃ!?
ウガアァ!!
ギャアァ!?
ヒィギィイィ!!
ギャギャッ!?
またディーレの魔法銃、ライト&ダークの扱いが上手くなっていた。両手銃を持ち戦う姿には無駄な動きもないし、またディーレはその容姿が優れているので、とても絵になるような姿でどう見てもカッコいい。敵が例えゴブリンだってそれは変わらない。
俺だって顔だけなら美形と言われることが多いが、なんといっても好きなのが殴打武器のメイスである。ディーレが芸術的な絵画になるなら、俺の場合は力強い戦闘を描いた絵画だろうか。まぁ、これもどうでもいい話ではあるんだが。ミゼなら何だろう、貴族なんかの絵に愛玩用として出てくるくらいだろうか。
ドガァ!!と俺がどうでもいいことを考えている間に、ディーレが暗闇からこっそりと近づいていた魔物を、魔法銃のグリップの底で壁面へ殴り飛ばした。
ウギャア!?
ゴブリンが一匹殴られて、そのままぴくぴくと少し動いて死んだ。そう、俺との模擬戦を重ねてディーレは近接戦闘力も上がっていた。ライト&ダークには魔法剣を作れるような硬い金属、ミスリルが使われている。
魔法銃を握るグリップという部分には、握りやすいようにアルラウネの枝を加工してある。だが、その底の部分は硬い金属だ。
ディーレは稀に、その両手銃から生み出される風撃弾の連射をかわされても、その敵を綺麗に『浮遊』で軽くした体で回避するか、持っている銃のグリップの底で殴り飛ばしていた。
「ディーレには蹴り技を教えようかな、それに俺のブーツにも何か金属をつけてみるか」
「はい、僕は頑張って覚えますね」
「お二人が羨ましいです、私の肉球ぷにぷにでは戦闘に関し、魔法以外は役立たずになってしまいます。ああ、プチドラゴンか、何かに生まれたかった!!」
いつも通りのミゼのことは放っておいた、ゴブリンやコボルト、オークなどのザコを倒しながら、俺達は迷宮の30階層くらいを歩いていた。
オーガもいつも通りの連携で数体を倒しておいた、努力をすればするほどに報われる。俺達のパーティはまさに成長期に入ったばかりだ、そうだ魔力だってまだ増えてる。まだまだ成長する見込みがあるのだ、一度くらいの敗北など教訓にはするがもう気にしていない。
「これはついてるな、俺にぴったりの敵がいる」
33階層で一つの行き止まりになっている場所があった、そこにはアルラウネ達が密集して生えていた。言うまでもなく植物系のモンスターだ、つまりは草食系ヴァンパイアの俺との相性がすこぶる良い。
「ニン、ゲン!?」
「タ、ベル?」
「オイシ、ソウ」
「また愚か者がやってきたか、子ども達。馬鹿者共を食べておしまい!!」
その殆どは若木だったのだが、その奥に一際大きな大木のアルラウネがいた。グレイターアルラウネといっていいだろう、思わず俺は口笛を吹いて喜んだ。
「ディーレ、ミゼ。こいつは俺の獲物だ、久しぶりの食いごたえのある魔物だ」
「はい、待機ですね。レクスさんをお守り下さい、神のご加護がありますように」
「レクス様に会うとは、これほどついていないアルラウネもいませんね」
俺が前に出てディーレとミゼがアルラウネ達に攻撃されないくらい下がる、俺はメイスを振りつつ体をほぐして大木であるアルラウネを見上げた。
「たかが人間が、この私に挑むとは愚か者め!!」
俺が以前に倒したアルラウネよりも大物だ、あいつは片言だった。でも、このグレイターアルラウネは、まるで人間のように滑らかに言葉を発した。
「ははははっ、それでも俺との相性は最悪だけどな」
俺はアルラウネが密集している場所へと跳躍する、人の体くらいなら簡単に貫ける強靭な蔦がいくつも俺を襲う。だが、俺は草食系ヴァンパイアだ。
ほとんどの蔦の攻撃は、ヴァンパイアとしての高い身体能力でかわした。稀に俺の体をとらえる蔦があっても、そこから生気を急速に吸い上げて枯らしてしまった。
「なっ、化け物、化け物、化け物が――!?」
「悪いな、俺も腹が減ったら食べるしかない。そう、偶には魔物を食わなきゃな」
俺が普段から食べているのは普通の木々や草などの生気だ、それらは人間の食事でいえば穀物や野菜に分類してもいいだろう。
反対に食べたくなくても食べた中位ヴァンパイアや、このグレイターアルラウネは、俺にとっては生気を食える食事でいう肉にあたると言っていい。だがそこに美味いか、まずいかの違いはある。
本当はもう植物系以外の魔物は、なるべく喰いたくない。中位ヴァンパイアを食った時、なんだか胸やけをおこしたような、そんな奇妙な気分になったもんだ。そんなことを考えながら、俺は楽々とグレイターアルラウネまで近づいた。
「きゃあああぁぁぁあぁぁあぁぁぁ――!!」
そして俺はグレイターアルラウネの幹にたどり着くと、若木たちと同じように急速に生気を吸い上げて食べてしまった。うん、久しぶりに肉を食ったような満足感がある。
「よぉし、帰るぞ。グレイターアルラウネから枝や魔石がとれた、魔法銃のライトの方がこれで更に強くできるぞ」
「うわぁ、ありがとうございます!!良かったです、ライトがまた強くなるんですね」
「魔改造へのまた新たな一歩でしょうか、それはそれでよろしいでしょう」
ディーレが使っている魔法銃は、バラバラに分解ができるようになっている。それは魔石やグリップなどの部品をより良いものに、交換して強くできるようにしてあるのだ。または故障を起こした際に、その部分だけ予備と取りかえる。
実際に、さっそくとばかりにウィズダムで一番の鍛冶屋に持って行って、グリップの部分の作成や魔石の加工をして貰うことになった。
多少の出費があったが、迷宮で毎日のように狩りをしているので、これくらいならば問題ない。とにかくザコは沢山いる、魔石を売却するだけでも金が貯まるのだ。
加工には数日かかるということで、その間はディーレは魔法銃ダークだけで戦っていた。俺とミゼがその分きっちりと補佐したので、特に何も問題は起きなかった。銃本体ではなく部品だったので、数日で加工された物がきっちり出来上がった。
「うわぁ~、また素晴らしい出来です。これでもう少し魔力をこめて強い攻撃を、より速い銃弾を撃てると思います。神とレクスさんに心からの感謝を!!」
「ディーレは結構、ゴブリンやコボルトのザコで稼いでいるからな。ははははっ、もっと強くなって、俺にどんどん感謝していいぞ」
「イケメンがどんどんイケメンになってしまいます、私に残された道はマスコットキャラクターになることでしょうか?」
ディーレは鍛冶屋で作らせた部品を預かると、ライト&ダークを一度分解してから、器用に手慣れた様子で組み立て直してしまい、その完成品に対してうっとりとした笑みを向けていた。
ライトの方はグリップと魔石、ダークはグリップの部分だけ交換している。鍛冶屋にはとにかく部品だけを作らせたので、ディーレが頬ずりをして喜んでいる。魔法銃のライト&ダークの、素晴らしい性能が分からないようだった。鍛冶屋は変な客だとしきりに首を傾げていた、この魔法銃の本来の魅力が全然分かっていない。せいぜいが変わった魔法の杖だと思っていることだろう。
いやあえて分からないように魔法銃を分解させて、一部分の作って貰う部品だけを預けて作らせたのだ。決してライト&ダークの全体像を想像させないようにした。また魔法銃を欲しがる戦闘的な貴族なんか願い下げだ。
それでいい、この魔法銃は一般に普及させるには危険が多い。加えてオーガの皮から俺達は蹴り技をいかせるように、新しいブーツも作っていた。
ブーツに関してよくある、防御と攻撃を兼ねた作りのものなので、特に目立つこともなく普通に受け取れた。ディーレもさすがにブーツには頬ずりはしなかった。そんな俺たちにまだ幼さを残した高い声がかけられた。
「ねぇ、その珍しい魔法の杖。私に売ってくれないかしら?」
「レ、レクスさん!?」
「ご愁傷さまでございます、しばらく図書館は諦めてくださいませ」
俺はまた絶望を味わっていた、これは以前に体を霧に変えられなくなったくらい。あの時と同じくらい、いやあの時以上の絶望だった。
「お客様、そんなに騒がれても困ります。国立ウィズダム図書館は、貴族かランク銀以上の冒険者にしか、利用できないことになっているのです」
俺達は、いや俺は念願だったウィズダム国の首都、ウィズダムに来ていた。基本的に国の名前は、首都と同じになっている。
少しややこしいような気もするが、国家間で何かの取り決めをする時には、ウィズダム国と記載するので、間違えたりはしないらしい。そもそも、国家間の交渉など滅多にあるものではない。
ってそんな事はこの際、どうでもいいんだ。この国立ウィズダム図書館がまさかの貴族か、ランク銀以上の冒険者しか利用できないなど知らなかった。俺は自分の身分を振り返って嘆く、平民であるのがこんなに辛い日がくるとは思わなかった。
「ほんの二月くらい前にランク鉄に昇格したばかりだからな、いくら俺でもランク銀にはすぐにはなれない。……ああ、見知らぬ知識、想像もできない伝説物語」
「まぁ、その代わりにギルドの図書室が充実していました。そんなにがっかりしないでください、レクスさん」
「冒険者ギルドにも読んだことのない本が沢山ありました、しばらくはそれらを読みながら昇格に備えて地道に頑張っていきましょう」
俺は力なく頷いてディーレやミゼの慰めの言葉を聞いていた、前に会った銀の冒険者のおっちゃんは、一体どのくらいの年で銀になったのだろう。
…………もっとおっちゃんにその辺りの話を聞いておけば良かった、だが後悔しても既にもう遅い。
俺たちはウィズダム国立図書館を追い出された、冒険者ギルドにあとどれくらいで銀の冒険者になれるか、俺は本気で問い合わせようかと思ったくらいだ。
「ランク銀か、2、3年くらいで昇格できるものなんだろうか?」
「レクスさんには沢山の時間があるんですから、お楽しみは後にとっておいてください」
「そうです、レクス様のこれから先の一生は長いのです。むしろ、退屈しないように、いろんな楽しみを少しずつ味わっていくべきでしょう」
確かに不老である俺にはまだまだ沢山の時間があるのだ、ラビリスの街で会った銀の冒険者のおっちゃんくらいまでには俺も銀の冒険者になれるだろう。多分。
そう納得して、俺はまた地道に冒険者稼業に精を出すことにした。ウィズダムにも迷宮への入り口があったから、稼ぐのに困ることはなかった。
ぎっぎゃ!?
ウガアァ!!
ギャアァ!?
ヒィギィイィ!!
ギャギャッ!?
またディーレの魔法銃、ライト&ダークの扱いが上手くなっていた。両手銃を持ち戦う姿には無駄な動きもないし、またディーレはその容姿が優れているので、とても絵になるような姿でどう見てもカッコいい。敵が例えゴブリンだってそれは変わらない。
俺だって顔だけなら美形と言われることが多いが、なんといっても好きなのが殴打武器のメイスである。ディーレが芸術的な絵画になるなら、俺の場合は力強い戦闘を描いた絵画だろうか。まぁ、これもどうでもいい話ではあるんだが。ミゼなら何だろう、貴族なんかの絵に愛玩用として出てくるくらいだろうか。
ドガァ!!と俺がどうでもいいことを考えている間に、ディーレが暗闇からこっそりと近づいていた魔物を、魔法銃のグリップの底で壁面へ殴り飛ばした。
ウギャア!?
ゴブリンが一匹殴られて、そのままぴくぴくと少し動いて死んだ。そう、俺との模擬戦を重ねてディーレは近接戦闘力も上がっていた。ライト&ダークには魔法剣を作れるような硬い金属、ミスリルが使われている。
魔法銃を握るグリップという部分には、握りやすいようにアルラウネの枝を加工してある。だが、その底の部分は硬い金属だ。
ディーレは稀に、その両手銃から生み出される風撃弾の連射をかわされても、その敵を綺麗に『浮遊』で軽くした体で回避するか、持っている銃のグリップの底で殴り飛ばしていた。
「ディーレには蹴り技を教えようかな、それに俺のブーツにも何か金属をつけてみるか」
「はい、僕は頑張って覚えますね」
「お二人が羨ましいです、私の肉球ぷにぷにでは戦闘に関し、魔法以外は役立たずになってしまいます。ああ、プチドラゴンか、何かに生まれたかった!!」
いつも通りのミゼのことは放っておいた、ゴブリンやコボルト、オークなどのザコを倒しながら、俺達は迷宮の30階層くらいを歩いていた。
オーガもいつも通りの連携で数体を倒しておいた、努力をすればするほどに報われる。俺達のパーティはまさに成長期に入ったばかりだ、そうだ魔力だってまだ増えてる。まだまだ成長する見込みがあるのだ、一度くらいの敗北など教訓にはするがもう気にしていない。
「これはついてるな、俺にぴったりの敵がいる」
33階層で一つの行き止まりになっている場所があった、そこにはアルラウネ達が密集して生えていた。言うまでもなく植物系のモンスターだ、つまりは草食系ヴァンパイアの俺との相性がすこぶる良い。
「ニン、ゲン!?」
「タ、ベル?」
「オイシ、ソウ」
「また愚か者がやってきたか、子ども達。馬鹿者共を食べておしまい!!」
その殆どは若木だったのだが、その奥に一際大きな大木のアルラウネがいた。グレイターアルラウネといっていいだろう、思わず俺は口笛を吹いて喜んだ。
「ディーレ、ミゼ。こいつは俺の獲物だ、久しぶりの食いごたえのある魔物だ」
「はい、待機ですね。レクスさんをお守り下さい、神のご加護がありますように」
「レクス様に会うとは、これほどついていないアルラウネもいませんね」
俺が前に出てディーレとミゼがアルラウネ達に攻撃されないくらい下がる、俺はメイスを振りつつ体をほぐして大木であるアルラウネを見上げた。
「たかが人間が、この私に挑むとは愚か者め!!」
俺が以前に倒したアルラウネよりも大物だ、あいつは片言だった。でも、このグレイターアルラウネは、まるで人間のように滑らかに言葉を発した。
「ははははっ、それでも俺との相性は最悪だけどな」
俺はアルラウネが密集している場所へと跳躍する、人の体くらいなら簡単に貫ける強靭な蔦がいくつも俺を襲う。だが、俺は草食系ヴァンパイアだ。
ほとんどの蔦の攻撃は、ヴァンパイアとしての高い身体能力でかわした。稀に俺の体をとらえる蔦があっても、そこから生気を急速に吸い上げて枯らしてしまった。
「なっ、化け物、化け物、化け物が――!?」
「悪いな、俺も腹が減ったら食べるしかない。そう、偶には魔物を食わなきゃな」
俺が普段から食べているのは普通の木々や草などの生気だ、それらは人間の食事でいえば穀物や野菜に分類してもいいだろう。
反対に食べたくなくても食べた中位ヴァンパイアや、このグレイターアルラウネは、俺にとっては生気を食える食事でいう肉にあたると言っていい。だがそこに美味いか、まずいかの違いはある。
本当はもう植物系以外の魔物は、なるべく喰いたくない。中位ヴァンパイアを食った時、なんだか胸やけをおこしたような、そんな奇妙な気分になったもんだ。そんなことを考えながら、俺は楽々とグレイターアルラウネまで近づいた。
「きゃあああぁぁぁあぁぁあぁぁぁ――!!」
そして俺はグレイターアルラウネの幹にたどり着くと、若木たちと同じように急速に生気を吸い上げて食べてしまった。うん、久しぶりに肉を食ったような満足感がある。
「よぉし、帰るぞ。グレイターアルラウネから枝や魔石がとれた、魔法銃のライトの方がこれで更に強くできるぞ」
「うわぁ、ありがとうございます!!良かったです、ライトがまた強くなるんですね」
「魔改造へのまた新たな一歩でしょうか、それはそれでよろしいでしょう」
ディーレが使っている魔法銃は、バラバラに分解ができるようになっている。それは魔石やグリップなどの部品をより良いものに、交換して強くできるようにしてあるのだ。または故障を起こした際に、その部分だけ予備と取りかえる。
実際に、さっそくとばかりにウィズダムで一番の鍛冶屋に持って行って、グリップの部分の作成や魔石の加工をして貰うことになった。
多少の出費があったが、迷宮で毎日のように狩りをしているので、これくらいならば問題ない。とにかくザコは沢山いる、魔石を売却するだけでも金が貯まるのだ。
加工には数日かかるということで、その間はディーレは魔法銃ダークだけで戦っていた。俺とミゼがその分きっちりと補佐したので、特に何も問題は起きなかった。銃本体ではなく部品だったので、数日で加工された物がきっちり出来上がった。
「うわぁ~、また素晴らしい出来です。これでもう少し魔力をこめて強い攻撃を、より速い銃弾を撃てると思います。神とレクスさんに心からの感謝を!!」
「ディーレは結構、ゴブリンやコボルトのザコで稼いでいるからな。ははははっ、もっと強くなって、俺にどんどん感謝していいぞ」
「イケメンがどんどんイケメンになってしまいます、私に残された道はマスコットキャラクターになることでしょうか?」
ディーレは鍛冶屋で作らせた部品を預かると、ライト&ダークを一度分解してから、器用に手慣れた様子で組み立て直してしまい、その完成品に対してうっとりとした笑みを向けていた。
ライトの方はグリップと魔石、ダークはグリップの部分だけ交換している。鍛冶屋にはとにかく部品だけを作らせたので、ディーレが頬ずりをして喜んでいる。魔法銃のライト&ダークの、素晴らしい性能が分からないようだった。鍛冶屋は変な客だとしきりに首を傾げていた、この魔法銃の本来の魅力が全然分かっていない。せいぜいが変わった魔法の杖だと思っていることだろう。
いやあえて分からないように魔法銃を分解させて、一部分の作って貰う部品だけを預けて作らせたのだ。決してライト&ダークの全体像を想像させないようにした。また魔法銃を欲しがる戦闘的な貴族なんか願い下げだ。
それでいい、この魔法銃は一般に普及させるには危険が多い。加えてオーガの皮から俺達は蹴り技をいかせるように、新しいブーツも作っていた。
ブーツに関してよくある、防御と攻撃を兼ねた作りのものなので、特に目立つこともなく普通に受け取れた。ディーレもさすがにブーツには頬ずりはしなかった。そんな俺たちにまだ幼さを残した高い声がかけられた。
「ねぇ、その珍しい魔法の杖。私に売ってくれないかしら?」
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