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第四十二話 今回だけは仕方ない

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ウィズダムまであと少しという村でのことだった、その街道沿いの村には買い物か宿泊などができないか、今までのようにそう考えて立ち寄っただけだった。

「お前さん達、冒険者だろ。村長のところへ行ってくれないか、化け物が出るんだ」

だが俺たちは村に入ったとたんに男たちに囲まれた、そうして相手はこっちの都合はお構いなしで勝手に話し始めた。

「化け物?」
「レクスさん、それは大変です!?」
「はぁ~、安定のディーレさんでございます。くそっ、中身も優しいとかイケメン過ぎるやろ」

話しかけられて俺はまずディーレの様子を見た、案の定このお人好しは放っておけませんと顔にでていた。ミゼはもう慣れたもので、そんなディーレのフードの中からため息を一つ吐いていた。冒険者ギルドを介していない依頼は厄介なことになりやすい、そう本にはあったが今回はあえて無視して村長とやらに会いにいった。

「………………ヴァンパイア・・・・・・だよ」

会いに行った村長はかなり年配の男性で、完全に白髪の老人だった。そして、簡潔に一言だけで状況を伝えた。

「……へぇ」
「……ヴァンパイアですか」
「……それは、なんということでしょう」

そう村長に会いに行って言われた一言が問題だった、ヴァンパイア。それが本当なら下位でもかなり危険な相手だ、ただの人間がヴァンパイアを討伐するのなら、冒険者ギルドから腕のたつ冒険者を複数送ってもらわないといけない。もしくはこの村の領主から、私兵を出してもらわないと適わない相手だった。

「それが本当なら俺達だけでは無理だ、冒険者ギルドか領主に使いを出した方がいい」
「もう出しているんだ、君たちにはどちらかの応援がくるまで居て欲しい!!」

「居て欲しいと言われても、ヴァンパイアという化け物が本物なら鉄と銅の冒険者一人ずつでは無理だ」
「それでも冒険者をしているだけあるだろう、私たち村人では戦うこともできない」

「…………具体的にはどーしろと、俺たち二人がいても戦力差は絶望的だぞ」
「そこをなんとか!!頼むから、この村を守ってくれ」

そこで俺の服をくいっくいっと引っ張る者がいる、振り向かなくてもわかるディーレだ。俺もヴァンパイアと聞いては放っておけない、俺はヴァンパイアについて知りたい。興味もあるが草食系ヴァンパイアである俺としては、ヴァンパイアが一体何なのかが知りたくてたまらない。

「…………応援がくるまでだ、俺たちは居るだけだぞ。それに勿論だが礼金は貰うぞ」
「ああ!!ありがとう!!少なくて申し訳ないが一日に一人銀貨5枚を出そう!!」

本当なら銅と鉄の冒険者が一人ずつというパーティで、この依頼を即決で引き受けるのはかなり不自然だった。だから俺はしばらくは不満だという顔で村長を見ていたが、しぶしぶといった様子で依頼を引き受けた。そうして村の使っていない部屋を一つ貸してもらった。

「さて、本当にヴァンパイアなのか」
「本物でしたら大変です、……今の僕ではほとんど力にはなれません、ついていけばかえって足手まといになるでしょう。どうかレクスさんに神のご加護を、僕ができることは村全体に守りの魔法をかけることくらいです。」
「下位ヴァンパイアだとしても、人間では出せないスピードで動きます。ディーレさんは強くなりましたが……、まったくもって仕方ありません!!くくくっ、このミゼとお留守番というニート生活を極めましょう!!」

最後のあたりディーレのフードの中にいたミゼの奴は堂々とさぼると言い放った、にーと?という言葉は分からないが、何となくこの従魔が仕事をさぼろうとしているという気配はわかった。だが、それも今回ばかりは仕方ない。

下位ヴァンパイアでも本物だったらかなり危険な相手だ、今のディーレでは反応くらいはできると思う。俺と模擬戦をかなりしているからだ、だがそれは俺が『重力グラビティ』の魔法を使って体を重くしての話だ。実戦でディーレが下位ヴァンパイアと戦ったら、……勝つ確率はどうしても高いとは思えなかった。

「ヴァンパイアの強さは単純に力だ、力はスピードを生み出す。ディーレの言う通り一人と一匹は留守番だ、今回は俺が単独で行ったほうがいいだろうな」
「申し訳ありません、お力になれず。神よ、レクスさんに勝利への導きを」
「まぁ、レクス様なら大丈夫でございます。というわけで私はディーレさんとニート生活を極めておきます」

「ん、ディーレには村を守るという重要な任務があるからな。ミゼはそのディーレを守れ」
「お力をお借りします、ミゼさん」
「……もうっ、まったくもう仕方ありません。ニートらしくありませんが頑張りましょう」

こうして俺たちは二手に分かれた、村を守るディーレとヴァンパイア本体をたたく俺とだ。当然、まだ日が高いうちに俺は村長から聞いた、ヴァンパイアが現れるという古城の跡地に向かった。

「こういう城だとか、屋敷だとかにはいい思い出がないんだよな。『広範囲ワイドレージ探知ディテクション』」

俺は古城の跡地に入っていった、今のところおかしな気配はない。『広範囲ワイドレージ探知ディテクション』にも近くに生き物やモンスターの反応がほとんどない、ということはこの古城にヴァンパイアが住んでいるわけではないらしい。でも一つだけ小さな反応があった、そこで俺はかん高い声に話しかけられた。ついでに声の方向から、小石まで飛んできたのでもちろん避けた。

「帰ってよ!!私は何を言われたって帰らないから!!どうせ、あなたも父に言われてきたんでしょう!!」
「…………お前は誰だ?」

俺は村長からヴァンパイアがいること、犠牲者がまだ生きて村にいること。そして、そのヴァンパイアが時おり古城に現れるということしか聞いていなかった。

「私は彼の恋人よ!!お願いだから!!お願いだから!!……私たちを放っておいて」
「…………いきなりそう言われてもだな、俺には何が何だか分からない」

「あなた、父から私のことを聞いてないの?」
「だからお前は誰だ?その父親から聞くって何のことだ?」

俺に石を投げやがった女は村にいるにしては美人だった、髪は薄い茶色で光の加減によっては金色にも見えた、瞳は青く澄んでいて少なくとも話が通じない馬鹿女ではなさそうだった。

「父は村長よ、私はウィルの恋人なの。って、どうしたの。貴方、頭なんて押さえて」
「……いや、少しトラウマが蘇った」

村長の娘、そして父親の言うことを聞かない気の強さ。今となっては思い出したくもない、俺の知り合いにそんな馬鹿なメスがいた。……俺の女への興味の無さは間違いなくあのくそメスが原因だ。俺は目の前にいる女が、そんなくそメスではないことを祈りながら話を続けた。

「俺は村に現れたヴァンパイアがこの古城の跡地にくる、そう聞いて偵察に来た冒険者だ」
「私はコレディよ。ああ、貴方は父に騙されたのね」

「……俺が騙された?」
「ウィルはヴァンパイアなんかじゃないわ、彼はただの旅人よ」

さて村長と目の前のコレディとかいう女、どちらが真実を語っているのだろうか。俺は草食系とはいえヴァンパイアだ、だから感覚が人間よりも遥かに鋭敏だ。心音や発汗の様子からして、今のところどちらも真実を語っているように感じた。

そもそも村長が嘘を言っていたならば俺はこんな依頼を受けていない、だが困ったことに目の前の女も本当のことを語っているように見える。どちらもが正しくて、しかしどちらかが間違っている。そして、おそらくは間違っているのは女の方だ。

「……ヴァンパイアは同じ人間のところに何度も現れると聞く、コレディ。お前の恋人は本当に人間なのか?何故、村ではなくこんな古城に現れる?」
「それは私と旅人のウィルの関係を父が反対したからよ」

「……秘密の恋人というやつか?」
「そう、私たちは恋人同士なの」

ヴァンパイアは犠牲者を嬲るのが好きだという、このコレディという女は恋人だと信じているようだが、果たして実際はどうなのだろうか。俺たちが問答をしている間に近づいてくる気配があった、俺は油断なく周囲を見渡した。しばらくすると人間が歩くような音がして、そしてそいつは姿を現した。

「コレディ、会いたかったよ。僕の恋人」
「ウィル!!」

現れたのはただの人間に見えた、だが俺が見たヴァンパイアは二人だけだ。一見は人間に見えても、実はそうじゃないかもしれない。それに現れた男には怪しい点があった、白髪で真っ赤な瞳の相当な美形・・だった。

これはミゼに聞いたことがある、あるびのっというやつではないだろうか。めらにんという色素を作る物が欠乏していて、このように白髪だったり赤い瞳をもっているという、ミゼはそういう奴らは物語では大抵は美形だと言っていた。

だがこれは現実だ、だからこそこの美貌・・は不自然な気がした。俺が見た二人のヴァンパイアは性格はともかく、どちらも相当な美貌を持っていた。とりあえず俺はコレディとウィルの間に立ちはだかった、このウィルという男が人間なら特に問題はないだろう。相手が人間なら、話せば分かるはずだ。

「ちょっと待った、このコレディの村は今ヴァンパイアに襲われている。だから、あんたを、ウィルだっけ、あんたを近づかせるわけにはいかない」
「止めてよ、ウィルはヴァンパイアなんかじゃない。私の恋人よ!!」

俺の制止をふりきって、コレディはウィルのところへ行こうとした。これが人間同士のただのかけおちなら、俺も知ったことではないのだが今は男の正体が知りたい。だが俺のこの行動は悪手だった。

「…………コレディ、君は浮気をしたのか!?」
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