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第二十七話 理不尽なんかに負けたくない
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助け出された女性とその両親、婚約者。それぞれが落ち着いてから、どうしてこんな事件が起こったのか俺たちは聞くことができた。
被害者のミーネという女性はこの村で一番美しい女性だったそうだ、だから彼女がロジーという大人しい青年と婚約することを選んだ時、両親とその婚約者以外から反対された。
その婚約することに不満を抱いた者達で結託して、ロジーという青年からミーネを取り上げてやろう、それが今回起こった騒動の主となる動機である。
彼らはお互いに牽制し合っていたから、ミーネという女性は二日ほど監禁されただけで、最悪の結果は避けられた。それだけはこの事件で小さな救いになった。
「レクスさん、どうか私の息子のことを考えてやってください。一時の気の迷いだったんです。盗んだ金銭は多めに返却します、もうお互いに全て忘れたほうがいいでしょう」
盗賊に扮して畑を焼き、村の女性を攫ったこの事件は、解決するまでよりその後が大変だった。
犯人の一人に村長の息子がいたことや、犯人たちをその親類が庇おうをしたからだ、そこだけ見れば親子の情が厚いと見れるかもしれない。
でも俺は絶望的な環境でも、どんなに脅されても屈しなかった女性のことを考えて、その犯人たちをかばう親族の保身的行動を許さなかった。
「それはこの街を治める領主様、子爵と話し合ってください。ギルドを通してもうここで起こったことは、全て伝えていますから」
その子爵とは小さな村を数個、統治している貴族だ。俺はギルドへと女性の救出後に、すぐにこの村を治める貴族へ向けて手紙を書いた。その、主な内容はこうだ。
「実りのある収穫地を焼いて、その作物をダメにしようとした者達がいた。彼らはその村の人間を攫い、また同じ村の者から盗みを行った」
やがて、数日後にはその犯人たち。ミーネさんを攫って、その意思を捻じ曲げようとしていた、醜悪な意思を持つ者達はあまりにも軽い処罰を受けた。
彼ら数人は犯罪奴隷へと身分を落とされたのだ、彼らが行ったことを思えば順当な処分に思えるが、実のところはそうでもない。ある程度は予想していたが、実際の結果に俺は思わず悪態をついた。
「ああ、くそったれ!!これだから、貴族は嫌いなんだ」
「罪を犯した者は犯罪奴隷として、その身分をはく奪されました。彼らに相応しい罰を受けたように思えますが?」
「…………ディーレさんはもう少し、村での生活についてを知った方がよいでしょう」
この地を治める領主が気にかけたのは村人が同じ村人を攫ったことじゃない。税の元になる畑を焼かれたことが領主として問題だったのだ。
同じ村人を襲ったことを重視したのなら、犯罪奴隷に落とされた者達は配置変えにあっただろう。同じ村に住み続けるのではなく、その領主が治める別の村へと移されたはずだ。
「あのな、ディーレ。いくら犯罪奴隷になったと言っても、同じ村に住み続けるんじゃ、被害者もその家族も今後も安心できないんだ。犯罪奴隷を管理するのは主犯であった奴の親である、つまりは村長自身なんだから」
「なっ、それでは奴隷と言っても、今までと何も変わりがないのでは!?」
「そうです、ですからレクス様は怒っておられるのです」
罪を犯した者たちが逆恨みをして、もっと恐ろしいことをミーネ達にするかもしれない。そもそも村長を敵にまわしたミーネや、その婚約者のロジーは他の村人からも一歩身を引かれて、村人の中から徐々に孤立していく可能性すらある。
「村ってのは小さな閉じた世界だ、そこで大事なのは大きな勢力に逆らわず、また村人として周囲に気を配り、決して波風を立てずに同化して生きることが大切なんだよ」
「…………被害にあった方が、更に傷つけられるということですか」
「もう少し領民を大切にする方が領主であれば、また話も違ってきたのですが」
俺が忌々し気にそう説明をすると、ディーレは考え込んでいた。もうこの村で俺達が公にできることはない。事件は全て一応は終わってしまったんだ、その結果には納得できないが、それでももう解決してしまった事なんだ。
「私は大丈夫、あの恐ろしい地下室のことを思えば、必ずロジーと幸せになってみせます」
「早めにミーネと婚姻しようと思います、そうした方が安全でしょう」
「他の村へ、配置変えの希望を出しました、通るかどうかはわかりませんが」
「あの子を幸せにしてあげたい、被害者はあの子なのに……世界って本当に小さくて、……本当に理不尽ね」
ミーネとその両親、また婚約者達は別の村へと配置変えの希望を出した。彼女達は自分達がこれからおかれる厳しい立場を理解しており、またそのことにできるだけ立ち向かおうとしていた。
「本当に助けてくださって、ありがとうございました。私はこのくらいのことには負けません、きっと、きっと、幸せになってみせます」
俺達が助けた女性は美しい笑顔でそうお礼を言ってくれた、彼女はあの恐ろしい拷問にも屈しなかった。これからも戦い続けるのだと、自分の意志を捨てないのだと言った。
それはかつて俺も抱えていた感情だった、村という小さな世界で自分の意志で生きていく為に、決して理不尽な迫害には負けたくない。そう、俺は俺の意志で生きて、自由に生きていきたいと村を出ることも考えていたんだ。
「皆さん、お元気で。あの時、助けてくださったご恩は決して忘れません」
「ああ、ミーネさんこそご両親と、それにロジーさんとお幸せに」
「希望を捨てずに強く生きて下さい、神のご加護が貴女にありますように」
「お幸せに、ミーネさんこそお元気で」
俺達は数日、レート村に滞在した後にデレクの街に戻ることになった。盗賊の討伐依頼に関しては、しぶしぶと苦い表情で村長が達成印を押していた。
いろいろと心配なことはあったが、ここにはもう人間である俺達にはできることは何もなかった。事件に対する裁きはひどく理不尽なものだったが、それはもうくだってしまったのものだったからだ。
レート村から帰ると、ディーレは疲れきっていて夜になるとすぐに眠ってしまった。俺はその様子を確かめてから、従魔であるミゼと話した。
「ミゼ、人間としての俺にできることはもうない。だが、…………人間ではない俺にできることはあるわけだ」
「…………そうおっしゃるような気がしておりました、ご随意にどうぞ」
俺は自分が一番よく活動できる夜に、影のように誰にも見えない、存在しないように動いた。俺が全力で翼を使い飛翔すれば、馬車で走って半日ほどでつくレート村など、僅かな時間で辿り着けた。
「ちっ、くそっ。親父の奴、犯罪奴隷なんかにしやがって」
「お前がさっさとミーネをおとせば良かったんだ、後もう少しだったのに」
「でもさ、犯罪奴隷とはいえ、別に今までと変わらなくね」
「女でいくらかうるさい奴がいるけどな、生意気で気分が悪くなる」
人間である俺はデレクの街で、ランク鉄の冒険者として生きている。でも、ヴァンパイアである俺は、そうっと気配を殺してレート村で愚痴を言い合っていた者達。
俺の今回の獲物である悍ましい人間達に向かって、その背後に広がる暗闇の中からそっと声をかけた。
「なぁ、お前達は俺のような怪物よりも、ずっと、ずっと、恐ろしい生き物だな」
「「「「――――!!」」」」
その場にいた強奪者達、かつてもマリアナが俺の人生を奪おうをしたように、同じ村人から金銭を、酒を、とある女性の誇りを奪おうとした者達は、その夜に揃っていなくなった。
「人から誇りを奪おうとして反省すらしない、だったら逆に奪われても文句は言えないだろう」
俺は草食系とはいえヴァンパイアだ、本気で動けばこんな村人ごとき、俺の影すらとらえることない。
「だから、俺もお前達から奪ってみるとしよう。『失いし生きた記憶』」
俺は彼らがとある女性から大切なものを奪おうとしたように、彼らのこれまで生きた記憶の全てを奪ってみせた。
彼らは今までの記憶を全て失った、まぁ安心して欲しい。これは死ではない、ただ何の記憶も持たない彼らは、人生を最初からやり直すことになっただけだ。
俺が少し夜の散歩をした翌日に、レート村では赤ん坊のようになった人間が、数人見つかることになった。
彼らは高慢さも、自信も、言葉も、知性も、記憶と共に失い。
生まれたばかりの体だけが大きい、精神は本当にただの赤ん坊になっていた。
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「それはこの街を治める領主様、子爵と話し合ってください。ギルドを通してもうここで起こったことは、全て伝えていますから」
その子爵とは小さな村を数個、統治している貴族だ。俺はギルドへと女性の救出後に、すぐにこの村を治める貴族へ向けて手紙を書いた。その、主な内容はこうだ。
「実りのある収穫地を焼いて、その作物をダメにしようとした者達がいた。彼らはその村の人間を攫い、また同じ村の者から盗みを行った」
やがて、数日後にはその犯人たち。ミーネさんを攫って、その意思を捻じ曲げようとしていた、醜悪な意思を持つ者達はあまりにも軽い処罰を受けた。
彼ら数人は犯罪奴隷へと身分を落とされたのだ、彼らが行ったことを思えば順当な処分に思えるが、実のところはそうでもない。ある程度は予想していたが、実際の結果に俺は思わず悪態をついた。
「ああ、くそったれ!!これだから、貴族は嫌いなんだ」
「罪を犯した者は犯罪奴隷として、その身分をはく奪されました。彼らに相応しい罰を受けたように思えますが?」
「…………ディーレさんはもう少し、村での生活についてを知った方がよいでしょう」
この地を治める領主が気にかけたのは村人が同じ村人を攫ったことじゃない。税の元になる畑を焼かれたことが領主として問題だったのだ。
同じ村人を襲ったことを重視したのなら、犯罪奴隷に落とされた者達は配置変えにあっただろう。同じ村に住み続けるのではなく、その領主が治める別の村へと移されたはずだ。
「あのな、ディーレ。いくら犯罪奴隷になったと言っても、同じ村に住み続けるんじゃ、被害者もその家族も今後も安心できないんだ。犯罪奴隷を管理するのは主犯であった奴の親である、つまりは村長自身なんだから」
「なっ、それでは奴隷と言っても、今までと何も変わりがないのでは!?」
「そうです、ですからレクス様は怒っておられるのです」
罪を犯した者たちが逆恨みをして、もっと恐ろしいことをミーネ達にするかもしれない。そもそも村長を敵にまわしたミーネや、その婚約者のロジーは他の村人からも一歩身を引かれて、村人の中から徐々に孤立していく可能性すらある。
「村ってのは小さな閉じた世界だ、そこで大事なのは大きな勢力に逆らわず、また村人として周囲に気を配り、決して波風を立てずに同化して生きることが大切なんだよ」
「…………被害にあった方が、更に傷つけられるということですか」
「もう少し領民を大切にする方が領主であれば、また話も違ってきたのですが」
俺が忌々し気にそう説明をすると、ディーレは考え込んでいた。もうこの村で俺達が公にできることはない。事件は全て一応は終わってしまったんだ、その結果には納得できないが、それでももう解決してしまった事なんだ。
「私は大丈夫、あの恐ろしい地下室のことを思えば、必ずロジーと幸せになってみせます」
「早めにミーネと婚姻しようと思います、そうした方が安全でしょう」
「他の村へ、配置変えの希望を出しました、通るかどうかはわかりませんが」
「あの子を幸せにしてあげたい、被害者はあの子なのに……世界って本当に小さくて、……本当に理不尽ね」
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それはかつて俺も抱えていた感情だった、村という小さな世界で自分の意志で生きていく為に、決して理不尽な迫害には負けたくない。そう、俺は俺の意志で生きて、自由に生きていきたいと村を出ることも考えていたんだ。
「皆さん、お元気で。あの時、助けてくださったご恩は決して忘れません」
「ああ、ミーネさんこそご両親と、それにロジーさんとお幸せに」
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