12 / 222
第十二話 血が滾ることもなくはない
しおりを挟む「なぁ、やっと相手が決まったのか?それじゃあ、ちょっと殺ってみる?」
「んー、俺は止めとく、坊主が強いのは知ってるからな」
俺が相棒のメイスくんを壁に立てかけてからちょっと殺気を出して、これから相手をしてくれる先輩方を見た。別に本当に相手を殺す気はない、殺す気はないが、殺していいと思うぐらい気をぶつけておき、今後の為に相手を多少痛めつけてもいいだろう。
先輩方は首から下げているプレートから見て、鉄が大半、銀も数人といったところだった。俺の知り合いのランク銀のおっちゃんは、元々俺の実力を知っているので、素早く丈夫そうな石造りの鍛錬場の端っこに移動した。
ギルドの俺の売りたいものにケチをつけてくれた女がフフッと笑って戦闘開始を宣言する。何人かの先輩方が相手をしてくれるらしく、こちらへとやってきた。
「フフッ、それでは新人さんに先輩として優しくご指導をお願いします」
「お、おう」
「よろしく頼むぜ、先輩」
それから始まった手合せの結果?言う必要があるだろうか、鍛錬場は明るかったので闇に光る瞳のことも気にせずに済んだ。
街の外に広がっているような森のように、障害物も何もない。ただ、単に力と、技と、速さを駆使した疑似的な戦いだ。
「おっ、先輩の武器は同じメイスか、参考にしてみるよ!!」
「つっ!!おうりゃっ、っ!!せぇい!!なんで、がっは!!」
何人かメイスを使う先輩もいたので、その時だけは少し時間をとって、相手の棒術をよくよく観察してみた。
避ける速度はきちんと人間らしく見えるように手加減をした、それでも俺はヴァンパイアだ。
「うぐぁ!!」
「ガアッ!!
「ちっ、ガハァ!!」
「きゃあ!?」
「うそぉ!!」
いやぁ、ここの冒険者ギルドの先輩は優しい方々だった。最初は俺がまだ若いことを考慮したのだろう、なんと彼らは手加減までしようとしていた。
もちろん、そんな優しい先輩に対して俺は誠実に対応した。彼らの動きを見切れるように、始めは体の動きの観察から避けることに集中し、ほどほどに相手が疲れた瞬間を見て、掌を肺のある辺りに叩きつけた。
「なんでっ!!」
「こいつっ、ツッ!!」
「やぁ!?」
「っせい!ぐわっ!!」
俺が本気でやっていたなら、それでも肋骨を圧し折り、俺の手が相手の体を貫通したと思う。もちろん、そうならないように俺は細心の注意を払った。相手が男性の場合は気絶させることもあったが、女性の場合は一応は寸止めにしておいた。
俺の方は最初から最後まで手加減をして、先輩達の相手をしていった。鍛錬場には三十人近くの先輩がいたのだが、十を超えた辺りで俺の手合せは終了した。
「おーお、やっぱり幻じゃなかったのか。凄ぇな、坊主。しかも、全部を素手だけでやっちまうとか。お前、そのメイスを持ったらどれだけ強いんだ?」
「さぁ?それがいまいち、よくわかんないんだ、おっちゃん。俺が住んでいたところは田舎だったからな、おっちゃんみたいな強い人もいなかったんだ」
俺が十数人ほど、優しい先輩方のご指導をもらっている間。商隊でお世話になった銀の冒険者のおっちゃんは、最初から最後まで楽しそうに見物していた。
俺を盗人扱いしやがったギルドのおねえさん、いやもうあれはババアでいい。買い取りババアは段々と顔色が悪くなって、最後は慌てて銀貨50枚を用意しにいった。ははははっ、人を簡単に盗人扱いするからだ、ざまぁみろ!!
「それじゃ、おっちゃん。ラビリスにいるならまた会いそうだから、またな」
「また、お会いしましょう。それでは」
「おう、またな。坊主、その調子で頑張りな」
俺は銀のおっちゃんと気持ち良く挨拶を交わして、銀貨50枚を手に入れてギルドを出ていった。結局、マジク草もここで買い取りして貰えた。あの買い取りババアも次はケチをつけてきたり、みみっちいことはしないだろう。俺がギルドを出る頃には、もう夕暮れであり街には夜が訪れつつあった。
「なぁ、ミゼよ。俺は少しばかり全力で夜の散歩を楽しみたい」
「……かしこまりました、このミゼは宿屋で荷物番をしておきます。ああ、通行料を持って出かけることをお忘れなく」
おお、ダメ使い魔であったミゼも最近少しずつ役に立ってきたような気がする。俺は言われたとおり、少額をいれた財布の一つをしっかりと体にくくりつけた。
激しく動くのに邪魔になる『魔法の鞄』は今回はミゼに見張りを命じて預けておく、俺はミゼを宿屋の部屋においてからすぐに外に出ていった。
街の中をできるだけ早く、かつ目立たないように歩いて外壁をめざす。人目がなくなったことを確認して『隠蔽』を使い、助走をつけて外壁を駆けあがりそのまま森へと身を躍らせた!!
『衝撃!!』『氷撃!!』『風撃!!』『衝撃!!』
いつもの鍛錬のように完全に夜になった森を走りぬけつつ、初級魔法を夜間にも動く適当な小動物に向けて連射した!!魔力はそのまま、俺の体を流れる血と同じく、俺の思うがままにその力を出現させる!!
俺は移動を繰り返しつつ、敵を想定して無詠唱でそのまま魔法を使い続けた。ただし、火はダメだ。火災を起こす危険がある、そのくらいの理性はしっかりと残っている。
体が軽い!軽すぎる!!足りない、もっとだ、溢れる力を使いたいのに使える相手がいない!!
「降下!!からの、回避!?上昇、ははははっ、もっと、もっと、速く!!」
ヴァンパイアの翼は魔力という力の塊だ、使っている間は当然だが全力で走るよりも、ずっと、ずっと、魔力を大きく消耗する。そして、空を駆ける速さを求めれば、消費する魔力もそれに伴うように増えてしまう。
でも、俺は今、全力で空を駆けて見たかった。翼を出して空高くまで飛翔すると『幻!!』試しに俺と鏡合わせの幻を作り出してみる、俺が空を駆ければ当然だが影を写すように幻も動く、俺もそれ以上にはやく動けるようにまた空を駆ける。
そんな単純な遊びを繰り返した、俺の魔力の半分以上を使いきるまで、心の高揚感は続いて止めることができなかった。
一晩が過ぎて夜が明け始めた頃にはようやく俺も一息ついた、そしてただの全力疾走で、街の近くにあるお気に入りの大樹の一つまで戻ってきた。
消費した魔力を世界に流れる力、空中を漂う力を吸収して少しずつだが回復させる。それに加えて、大樹からも生気をゆっくりと貰い、体力も回復させる。
そんな草食系ヴァンパイアである俺は、少しだけ独り言を零した後に浅い眠りについた。
「うーん、気をつけないとこの破壊衝動は、癖になってそのうち誰かを殺ってしまうかもしれん」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる