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溺愛してください ~溺れるような愛をください、だって私も貴方を愛しているから~
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「今日も君は可愛いな、シャイン。ほらっ、あーんして」
「デクス様、えっと私は一人で食べられます」
「俺の手からは食べたくないのかい、シャイン?」
「いいえ、そんなことはありません!? ……いただきます」
私はシャイン・コンセプト・ディアノイアという名の公爵令嬢だ、私は銀色の髪に金色の瞳をしていた。デクス様は私の婚約者で正式なお名前は、デクス・イデア・ストラストという、このストラスト国の第一王子で王太子だった。デクス様は金色の髪に綺麗な蒼い瞳をしていて、とてもカッコいい美男子だった。そして今は私に綺麗にカットしたいろんなフルーツを、デクス様自ら私に食べさせて幸せそうにしていた。
「美味しいかい、シャイン?」
「はい、とっても美味しいです」
「でもシャイン、ちょっと顔が赤いようだ」
「ええと、デクス様が優しくて嬉しいのです」
だがここは私たちの通うフロンティア学園の食堂だった。だから私たちは皆からの注目の的だった、まだ入学したばかりだから私たちは目立っていた。でも私にとって婚約者の第一王子デクス様に甘やかされることは日常だった、私の婚約者のデクス様はとても愛情深い方で、私のことを溺愛するように可愛がった。だから一日中ずっとデクス様は時間が許す限り、私の世話を焼いて楽しんでいらっしゃった。
「ごちそうさまでした、デクス様」
「うん、今日も綺麗に全部食べてくれたね」
「はい、デクス様。それでは確か、次の授業は魔法学です」
「そうだったな、それじゃ君と一緒に移動することにしよう」
そう言ってデクス様は私を抱き上げて食堂を出て行った、周囲の皆はポカンと口を開けて驚いていた。私は確かに少しだけ幼い頃から体が弱くなってしまったが、デクス様に抱き上げて運んで貰わなくても歩けた。でもそう言うとまたデクス様がすねてしまうので、私は何も言わずにとても嬉しそうなデクス様に、優しくお姫様だっこをされて運ばれていった。
「デクス様、ここの魔法の言葉が分かりません」
「ああ、ここは『筋力強化』だな」
「ありがとうございました、デクス様」
「俺に何でも聞いておくれ、シャイン。だから教師なんて男は、君は見なくていいよ」
私はどの授業でも分からないことがあったら、デクス様に全て聞くことにしていた。デクス様は頭がとても良くて全ての授業をもう全部覚えていた、だから学園に通う必要も無かったのだが、私が学園に通ってみたいと言ったので、一緒にこのフロンティア学園に通うことになった。私は外の世界をあまり見たことがなかったので、このフロンティア学園は面白いところだと思った。
「それじゃ、ちょっとだけ俺は離れるから、またすぐに会おう」
「はい、デクス様。私もお手洗いに行って参ります」
「悪い人についていったら駄目だよ、シャイン」
「はい、気をつけます。それでは、また後でお会いしましょう」
私とデクス様が離れるのは学園ではお手洗いに行く時だけだった、それ以外の時間はデクス様とずっと一緒に私は過ごしていた。私自身はそんな生活に慣れていたから平気だった、でも周囲の皆はそれが面白くなかったようだ。私がお手洗いをすませて手を洗っていると、女子トイレには数人の貴族令嬢が集まってきていた。
「貴方、婚約者だからといって!! デクス様を一人占めしないで!!」
「そうです、貴方のおかげで入学式イベントが起きませんでした!!」
「デクス様は第一王子でお忙しいのよ!! デクス様の手を煩わせないで!!」
私は一部意味不明なことを言われたが、デクス様が私のことを溺愛するのはいつものことだった。だからそういう文句は私にではなくデクス様に、直接はっきりと言ってくださいと言った。そう私が言った途端にまた数名の貴族令嬢は怒りの声をあげようとした、でもそれよりも強くガンガンと女子トイレのドアを叩く音がした。
「シャイン!! また具合が悪くて倒れているのか!?」
そうデクス様がドアの外から言ったかと思うと、次の瞬間にはそのドアはデクス様に蹴り飛ばされて破壊された。私に文句を言っていた貴族令嬢たちは皆そろって黙ってしまった、そうして女子トイレであるのにデクス様が私を探して中に入ってきた。私は少々貴族令嬢と思われる方から文句を言われたが、それを正直に言うと冗談ではなく彼女たちが処刑されるので、黙ってデクス様に抱き着いてそれからこう言った。
「手を洗っていたら少し眩暈がしただけなのです。デクス様、それでは次の授業に……」
「眩暈だと!? 授業なんかに出ている場合じゃない、いつものように主治医に診て貰おう」
「まぁ、それではそうしましょう。確か保健室に主治医の先生がおられます」
「そうだな、シャイン!! それでは、さっさと保健室に行くことにしよう!!」
そう言ってデクス様は私を抱き上げて保健室まで走って行かれた、保健室には私の主治医の先生がいてくださって、一応私の体調を診て貰ったが特に問題はなかった。だから私は少し遅れてしまったが、次の授業にデクス様と一緒に参加した。教師は事前に何か言われているのか、私たちに何も注意をしなかった。
「デクス様、私とお話していただけませんか?」
「それは政治の話か? 宰相と話すくらい重要な話か?」
「え!? いっ、いいえ。ただ私はデクス様と仲良くなろうと思って……」
「それなら、必要ない。俺にとって貴様の千の言葉より、シャインの吐息の方が聞く価値がある」
授業の間の休み時間にさっき私に話しかけた、貴族令嬢の一人がデクス様に無謀にも話しかけてきた。デクス様は一応それが政治に関係するのか、宰相と話すくらい価値があるのかを確かめた。そしてそんな価値もない話だと分かると、その貴族令嬢との話をバッサリと打ち切ってしまわれた。デクス様はいつでもどこでもこんな調子だった、国を治める為に必要な話と私の言葉以外は全く聞く気がなかった。
「それではデクス様、授業も全て終わりました。いつもどおり、一緒に帰りましょう」
「ああ、ようやく二人きりなれる。シャイン、俺は嬉しい!!」
「はい、デクス様。私も嬉しいです、それでは王宮へ帰りましょう」
「そうだな、シャイン。それではどうぞ馬車へ、俺のお姫様」
私とデクス様は馬車に乗って王宮へ帰ることになった、馬車の中ではデクス様がお膝の上に私を乗せていた。私もそれがいつものことだったので気にしなかった、人目がなくなって私を遠慮なく抱きしめるデクス様を見ていた。そうしてとてもデクス様が幸せそうに笑ったので、私もデクス様に向かって自然と微笑んだ。
「ああ、俺の婚約者がこんなに可愛い!!」
「まぁ、デクス様もとってもカッコ良いのに、可愛らしいお方ですわ」
「そんなにシャインに褒められると、俺はそれだけで幸せだ!!」
「それは良かったです、デクス様。私もとても幸せです、本当に今が幸せです」
そうして王宮に着くと、私はデクス様のエスコートで馬車から降りた。私とデクス様はまだ結婚していなかったが、私がいないとデクス様がおかしくなるので、私はもう王太子妃の部屋に住んでいた。いや正確にはデクス様が私を放してくれないので、デクス様の王太子の部屋に住んでいるも同然だった。私が唯一王太子妃の部屋を使うのは、それはお風呂に入る時だけだった。
「シャイン、今日のお風呂は気持ち良いかい?」
「はい、今日の授業は難しくて、少しだけ疲れました」
「そうか、それならお風呂が終わったら、俺と一緒にその授業を復習しよう」
「はい、ありがとうございます。デクス様、それじゃもう上がりますね」
私がお風呂に入っている間もデクス様は、お風呂場の外で私を待っていた。そうして今度はデクス様がお風呂に入り、私はそのお風呂場の外で待つことになるのだった。それから今日の授業で分からなかったところを私はデクス様と復習した、デクス様は私に分かりやすく勉強を教えながら、王太子の仕事も同時に凄い速さで終わらせていった。
「それでは、おやすみなさい。デクス様」
「俺の愛しいシャイン、おやすみ」
「はい、デクス様も良い夢を」
「良い夢を、シャイン」
こうして私たちは一緒にベッドで眠りについた、フロンティア学園の皆もやがて私とデクス様に慣れていくことだろう、今までもそうだったから私はそう思っていた。そうして私は一旦眠りについたが、デクスさまの声で目が覚めた。デクスさまは私の名前を呼びながら泣いていた、私はその涙をハンカチで拭ってそれからデクス様にぎゅっと抱き着いた。
「ああ、シャイン。俺の、俺だけのシャイン」
「デクス様大丈夫です、私はデクス様だけのシャインです」
「……そうか、……良かった」
「デクス様、良い夢を」
私はそう言ってデクス様を抱きしめながら、デクス様の頬にキスをしてあげた。するとデクス様は嬉しそうに笑ってそうして深く眠ってしまった、デクス様が魘されるのには理由があった。それはまだ私とデクス様が婚約して間もない五歳だった子どもの頃の話だった、私たちは一緒に馬車に乗っていたところを政敵に襲撃されたのだ。その敵たちに馬車は崖の上から落とされて、私はデクス様を少しでも庇おうと抱きしめた。
「馬車が落とされます、デクス様!!」
「何ということだ!? 一体誰の仕業だ!?」
「デクス様、危ない!! 『障壁』!!」
「シャイン!?」
私はその時に一つだけ魔法を習っていた、それは『障壁』という一番簡単な防御魔法だった。私はその魔法をデクス様を中心にしてかけた、その時の私の全力を使ってデクス様だけでも守ろうとした。馬車は崖の下に落とされてバラバラになったが、『障壁』の魔法のおかげでデクス様は奇跡的に無傷ですんだ、でも私は少し『障壁』の中心を離れていたのでいくつかの骨が折れていた。
「シャイン!! 死ぬな、シャイン!!」
「デクス様、ご無事ですか?」
「ああ、俺は無事だ!! だから、シャイン、君も死ぬな!!」
「けほっ、大丈夫です。きっと助けがきます、デクス様」
それから私たちが助け出されるまでに三日かかった、崖から馬車ごと落とされて私たちは死んでいると思われていた。でも私たちはどうにか三日、お互いを励ましながら生き延びていた。私の折れた骨は三日後すぐに上級の回復魔法がかけられて治った、でもそれから私は少し病気がちになった。デクス様はそんな私を心配して私の実家である公爵家に通い続けた、そうしていつしか私を深く溺愛するようになった。
「もうそんなに昔のことを気にして、私を溺愛しなくてもいいんですよ」
「………………それは違う」
「あらっ、デクス様。起きていらっしゃったんですか? 一体何が違うのでしょうか?」
「シャイン、俺は心から君を愛している。だが、それは君に命を助けて貰ったからだけじゃない」
私はデクス様が私のことだけを異常に溺愛するのは、昔の私がデクス様の命を助けたからだと思っていた。だからそれを否定されて私は首を傾げた、デクス様は真っ赤な顔をして私の手を握りしめた。とても体温が高くて温かい大きな男性の手だった、そうして私の冷えきっていた手をデクス様は温めてくれた。そしてデクス様は真っ赤な顔をして、私に不器用なキスをした。
「うぅ、はぁ、ええっと、デクス様?」
「大好きだよ、俺のシャイン」
「はい、私も、むぐっ、うぅ」
「はっ!? シャイン、大丈夫か!!」
デクス様は私にしばらく夢中になってキスをした、それは不器用だったが優しくて甘いキスだった。私はデクス様とのキスを可愛いと思った、自分より大きな男の人に抱きしめられて、少し乱暴にキスをされたのに少しも怖くなかった。でもデクス様があんまり私にキスをし続けるから、私は呼吸ができなくてデクス様に倒れ掛かった。そうしたらデクス様はキスを止めて、今度は物凄い勢いで私に喋り始めた。
「俺はシャインが本当に好きなんだ、好きになったのは命を助けて貰ったせいもある。でもそれだけじゃない、俺に笑ってくれる可愛い笑顔、俺に話しかけてくれる綺麗な声、それに何より俺を愛してくれる君の温かい気持ちが好きなんだ。本当なら今すぐ抱いてしまいたいくらい好きだ、まだ成人していないから我慢しているが絶対に君への気持ちは変わらない、それどころか酷くなっていくばかりなんだ」
「あらっ、まぁこれ以上私がデクス様に溺愛されたら、私は本当に溺れてしまうかもしれませんわ」
「むしろそうなって欲しい、俺は本当は君が一人で何でもできることを知っている。王太子妃教育でも君は物覚えが良く何でもできる、でも俺だけに本当は頼って欲しい、他の奴には絶対に渡したくない。本当にシャインが俺の愛情に溺れてしまえば良い、でも君は心が強いしっかりとした女性だ。だから俺を上手く甘やかして溺愛することを許してくれる、でも本当に心から俺の愛情に溺れてはくれない」
「そんなことは決してありません、私は十分にデクス様からのその激しい愛情に、いつも溺れてしまっていますわ」
私はそう言って愛おしいデクス様を抱きしめた、すぐにデクス様からも強く抱きしめ返された。そうしてデクス様は私のことをぎゅうっと強く抱きしめて、本当に息ができないくらいに抱きしめて放さなかった。私はデクス様を愛していたからそれでも本当に幸せだった、デクス様は私が愛情に溺れていないと言ったが、私だって十分にデクス様から溺愛されて楽しんでいた。
「俺は溺れるくらい君のことを愛しているんだ、シャイン」
「はい、それはよく分かりました。デクス様」
「こんなどうしようもない俺だが、どうか俺から逃げないでくれ」
「ええ、デクス様。私も貴方を溺愛していますから、シャインはどこにも逃げません」
私はデクス様の本音を聞いて心が震えた、それは恐怖ではなくデクス様から愛されているという喜びからだった。この私を溺愛してくれる愛おしいデクス様、私は彼をいつの間にか心から愛していた。政略結婚だとどこかで思っていたが、それを吹き飛ばすくらいにデクス様の愛情は深かった。そう私はもうとっくにデクス様の愛に溺れて、そしてそんなデクス様のことを溺れるように愛していた。
「デクス様、フロンティア学園に通うのは止めましょう」
「シャイン、本当か!?」
「ええ、だってデクス様はもっと私を溺愛したいのでしょう」
「ああ、そうだ!! あんな学園に通っている一瞬だって勿体ない、俺だけの君の時間がもっと欲しいんだ!!」
こうして私とデクス様は一週間もしないうちにフロンティア学園を辞めた、私たちにはあんな学園に通っているよりもお互いに愛し合う時間が必要だった。それからもデクス様の溺愛はまた酷くなったが、私はデクス様を愛していたからそれを許してあげた、そうして彼だけを見て彼のためだけに生きていってあげた。そして後の歴史では私たちのことが、稀に見る溺愛し合った夫婦だったと語られるようになった。
「デクス様、えっと私は一人で食べられます」
「俺の手からは食べたくないのかい、シャイン?」
「いいえ、そんなことはありません!? ……いただきます」
私はシャイン・コンセプト・ディアノイアという名の公爵令嬢だ、私は銀色の髪に金色の瞳をしていた。デクス様は私の婚約者で正式なお名前は、デクス・イデア・ストラストという、このストラスト国の第一王子で王太子だった。デクス様は金色の髪に綺麗な蒼い瞳をしていて、とてもカッコいい美男子だった。そして今は私に綺麗にカットしたいろんなフルーツを、デクス様自ら私に食べさせて幸せそうにしていた。
「美味しいかい、シャイン?」
「はい、とっても美味しいです」
「でもシャイン、ちょっと顔が赤いようだ」
「ええと、デクス様が優しくて嬉しいのです」
だがここは私たちの通うフロンティア学園の食堂だった。だから私たちは皆からの注目の的だった、まだ入学したばかりだから私たちは目立っていた。でも私にとって婚約者の第一王子デクス様に甘やかされることは日常だった、私の婚約者のデクス様はとても愛情深い方で、私のことを溺愛するように可愛がった。だから一日中ずっとデクス様は時間が許す限り、私の世話を焼いて楽しんでいらっしゃった。
「ごちそうさまでした、デクス様」
「うん、今日も綺麗に全部食べてくれたね」
「はい、デクス様。それでは確か、次の授業は魔法学です」
「そうだったな、それじゃ君と一緒に移動することにしよう」
そう言ってデクス様は私を抱き上げて食堂を出て行った、周囲の皆はポカンと口を開けて驚いていた。私は確かに少しだけ幼い頃から体が弱くなってしまったが、デクス様に抱き上げて運んで貰わなくても歩けた。でもそう言うとまたデクス様がすねてしまうので、私は何も言わずにとても嬉しそうなデクス様に、優しくお姫様だっこをされて運ばれていった。
「デクス様、ここの魔法の言葉が分かりません」
「ああ、ここは『筋力強化』だな」
「ありがとうございました、デクス様」
「俺に何でも聞いておくれ、シャイン。だから教師なんて男は、君は見なくていいよ」
私はどの授業でも分からないことがあったら、デクス様に全て聞くことにしていた。デクス様は頭がとても良くて全ての授業をもう全部覚えていた、だから学園に通う必要も無かったのだが、私が学園に通ってみたいと言ったので、一緒にこのフロンティア学園に通うことになった。私は外の世界をあまり見たことがなかったので、このフロンティア学園は面白いところだと思った。
「それじゃ、ちょっとだけ俺は離れるから、またすぐに会おう」
「はい、デクス様。私もお手洗いに行って参ります」
「悪い人についていったら駄目だよ、シャイン」
「はい、気をつけます。それでは、また後でお会いしましょう」
私とデクス様が離れるのは学園ではお手洗いに行く時だけだった、それ以外の時間はデクス様とずっと一緒に私は過ごしていた。私自身はそんな生活に慣れていたから平気だった、でも周囲の皆はそれが面白くなかったようだ。私がお手洗いをすませて手を洗っていると、女子トイレには数人の貴族令嬢が集まってきていた。
「貴方、婚約者だからといって!! デクス様を一人占めしないで!!」
「そうです、貴方のおかげで入学式イベントが起きませんでした!!」
「デクス様は第一王子でお忙しいのよ!! デクス様の手を煩わせないで!!」
私は一部意味不明なことを言われたが、デクス様が私のことを溺愛するのはいつものことだった。だからそういう文句は私にではなくデクス様に、直接はっきりと言ってくださいと言った。そう私が言った途端にまた数名の貴族令嬢は怒りの声をあげようとした、でもそれよりも強くガンガンと女子トイレのドアを叩く音がした。
「シャイン!! また具合が悪くて倒れているのか!?」
そうデクス様がドアの外から言ったかと思うと、次の瞬間にはそのドアはデクス様に蹴り飛ばされて破壊された。私に文句を言っていた貴族令嬢たちは皆そろって黙ってしまった、そうして女子トイレであるのにデクス様が私を探して中に入ってきた。私は少々貴族令嬢と思われる方から文句を言われたが、それを正直に言うと冗談ではなく彼女たちが処刑されるので、黙ってデクス様に抱き着いてそれからこう言った。
「手を洗っていたら少し眩暈がしただけなのです。デクス様、それでは次の授業に……」
「眩暈だと!? 授業なんかに出ている場合じゃない、いつものように主治医に診て貰おう」
「まぁ、それではそうしましょう。確か保健室に主治医の先生がおられます」
「そうだな、シャイン!! それでは、さっさと保健室に行くことにしよう!!」
そう言ってデクス様は私を抱き上げて保健室まで走って行かれた、保健室には私の主治医の先生がいてくださって、一応私の体調を診て貰ったが特に問題はなかった。だから私は少し遅れてしまったが、次の授業にデクス様と一緒に参加した。教師は事前に何か言われているのか、私たちに何も注意をしなかった。
「デクス様、私とお話していただけませんか?」
「それは政治の話か? 宰相と話すくらい重要な話か?」
「え!? いっ、いいえ。ただ私はデクス様と仲良くなろうと思って……」
「それなら、必要ない。俺にとって貴様の千の言葉より、シャインの吐息の方が聞く価値がある」
授業の間の休み時間にさっき私に話しかけた、貴族令嬢の一人がデクス様に無謀にも話しかけてきた。デクス様は一応それが政治に関係するのか、宰相と話すくらい価値があるのかを確かめた。そしてそんな価値もない話だと分かると、その貴族令嬢との話をバッサリと打ち切ってしまわれた。デクス様はいつでもどこでもこんな調子だった、国を治める為に必要な話と私の言葉以外は全く聞く気がなかった。
「それではデクス様、授業も全て終わりました。いつもどおり、一緒に帰りましょう」
「ああ、ようやく二人きりなれる。シャイン、俺は嬉しい!!」
「はい、デクス様。私も嬉しいです、それでは王宮へ帰りましょう」
「そうだな、シャイン。それではどうぞ馬車へ、俺のお姫様」
私とデクス様は馬車に乗って王宮へ帰ることになった、馬車の中ではデクス様がお膝の上に私を乗せていた。私もそれがいつものことだったので気にしなかった、人目がなくなって私を遠慮なく抱きしめるデクス様を見ていた。そうしてとてもデクス様が幸せそうに笑ったので、私もデクス様に向かって自然と微笑んだ。
「ああ、俺の婚約者がこんなに可愛い!!」
「まぁ、デクス様もとってもカッコ良いのに、可愛らしいお方ですわ」
「そんなにシャインに褒められると、俺はそれだけで幸せだ!!」
「それは良かったです、デクス様。私もとても幸せです、本当に今が幸せです」
そうして王宮に着くと、私はデクス様のエスコートで馬車から降りた。私とデクス様はまだ結婚していなかったが、私がいないとデクス様がおかしくなるので、私はもう王太子妃の部屋に住んでいた。いや正確にはデクス様が私を放してくれないので、デクス様の王太子の部屋に住んでいるも同然だった。私が唯一王太子妃の部屋を使うのは、それはお風呂に入る時だけだった。
「シャイン、今日のお風呂は気持ち良いかい?」
「はい、今日の授業は難しくて、少しだけ疲れました」
「そうか、それならお風呂が終わったら、俺と一緒にその授業を復習しよう」
「はい、ありがとうございます。デクス様、それじゃもう上がりますね」
私がお風呂に入っている間もデクス様は、お風呂場の外で私を待っていた。そうして今度はデクス様がお風呂に入り、私はそのお風呂場の外で待つことになるのだった。それから今日の授業で分からなかったところを私はデクス様と復習した、デクス様は私に分かりやすく勉強を教えながら、王太子の仕事も同時に凄い速さで終わらせていった。
「それでは、おやすみなさい。デクス様」
「俺の愛しいシャイン、おやすみ」
「はい、デクス様も良い夢を」
「良い夢を、シャイン」
こうして私たちは一緒にベッドで眠りについた、フロンティア学園の皆もやがて私とデクス様に慣れていくことだろう、今までもそうだったから私はそう思っていた。そうして私は一旦眠りについたが、デクスさまの声で目が覚めた。デクスさまは私の名前を呼びながら泣いていた、私はその涙をハンカチで拭ってそれからデクス様にぎゅっと抱き着いた。
「ああ、シャイン。俺の、俺だけのシャイン」
「デクス様大丈夫です、私はデクス様だけのシャインです」
「……そうか、……良かった」
「デクス様、良い夢を」
私はそう言ってデクス様を抱きしめながら、デクス様の頬にキスをしてあげた。するとデクス様は嬉しそうに笑ってそうして深く眠ってしまった、デクス様が魘されるのには理由があった。それはまだ私とデクス様が婚約して間もない五歳だった子どもの頃の話だった、私たちは一緒に馬車に乗っていたところを政敵に襲撃されたのだ。その敵たちに馬車は崖の上から落とされて、私はデクス様を少しでも庇おうと抱きしめた。
「馬車が落とされます、デクス様!!」
「何ということだ!? 一体誰の仕業だ!?」
「デクス様、危ない!! 『障壁』!!」
「シャイン!?」
私はその時に一つだけ魔法を習っていた、それは『障壁』という一番簡単な防御魔法だった。私はその魔法をデクス様を中心にしてかけた、その時の私の全力を使ってデクス様だけでも守ろうとした。馬車は崖の下に落とされてバラバラになったが、『障壁』の魔法のおかげでデクス様は奇跡的に無傷ですんだ、でも私は少し『障壁』の中心を離れていたのでいくつかの骨が折れていた。
「シャイン!! 死ぬな、シャイン!!」
「デクス様、ご無事ですか?」
「ああ、俺は無事だ!! だから、シャイン、君も死ぬな!!」
「けほっ、大丈夫です。きっと助けがきます、デクス様」
それから私たちが助け出されるまでに三日かかった、崖から馬車ごと落とされて私たちは死んでいると思われていた。でも私たちはどうにか三日、お互いを励ましながら生き延びていた。私の折れた骨は三日後すぐに上級の回復魔法がかけられて治った、でもそれから私は少し病気がちになった。デクス様はそんな私を心配して私の実家である公爵家に通い続けた、そうしていつしか私を深く溺愛するようになった。
「もうそんなに昔のことを気にして、私を溺愛しなくてもいいんですよ」
「………………それは違う」
「あらっ、デクス様。起きていらっしゃったんですか? 一体何が違うのでしょうか?」
「シャイン、俺は心から君を愛している。だが、それは君に命を助けて貰ったからだけじゃない」
私はデクス様が私のことだけを異常に溺愛するのは、昔の私がデクス様の命を助けたからだと思っていた。だからそれを否定されて私は首を傾げた、デクス様は真っ赤な顔をして私の手を握りしめた。とても体温が高くて温かい大きな男性の手だった、そうして私の冷えきっていた手をデクス様は温めてくれた。そしてデクス様は真っ赤な顔をして、私に不器用なキスをした。
「うぅ、はぁ、ええっと、デクス様?」
「大好きだよ、俺のシャイン」
「はい、私も、むぐっ、うぅ」
「はっ!? シャイン、大丈夫か!!」
デクス様は私にしばらく夢中になってキスをした、それは不器用だったが優しくて甘いキスだった。私はデクス様とのキスを可愛いと思った、自分より大きな男の人に抱きしめられて、少し乱暴にキスをされたのに少しも怖くなかった。でもデクス様があんまり私にキスをし続けるから、私は呼吸ができなくてデクス様に倒れ掛かった。そうしたらデクス様はキスを止めて、今度は物凄い勢いで私に喋り始めた。
「俺はシャインが本当に好きなんだ、好きになったのは命を助けて貰ったせいもある。でもそれだけじゃない、俺に笑ってくれる可愛い笑顔、俺に話しかけてくれる綺麗な声、それに何より俺を愛してくれる君の温かい気持ちが好きなんだ。本当なら今すぐ抱いてしまいたいくらい好きだ、まだ成人していないから我慢しているが絶対に君への気持ちは変わらない、それどころか酷くなっていくばかりなんだ」
「あらっ、まぁこれ以上私がデクス様に溺愛されたら、私は本当に溺れてしまうかもしれませんわ」
「むしろそうなって欲しい、俺は本当は君が一人で何でもできることを知っている。王太子妃教育でも君は物覚えが良く何でもできる、でも俺だけに本当は頼って欲しい、他の奴には絶対に渡したくない。本当にシャインが俺の愛情に溺れてしまえば良い、でも君は心が強いしっかりとした女性だ。だから俺を上手く甘やかして溺愛することを許してくれる、でも本当に心から俺の愛情に溺れてはくれない」
「そんなことは決してありません、私は十分にデクス様からのその激しい愛情に、いつも溺れてしまっていますわ」
私はそう言って愛おしいデクス様を抱きしめた、すぐにデクス様からも強く抱きしめ返された。そうしてデクス様は私のことをぎゅうっと強く抱きしめて、本当に息ができないくらいに抱きしめて放さなかった。私はデクス様を愛していたからそれでも本当に幸せだった、デクス様は私が愛情に溺れていないと言ったが、私だって十分にデクス様から溺愛されて楽しんでいた。
「俺は溺れるくらい君のことを愛しているんだ、シャイン」
「はい、それはよく分かりました。デクス様」
「こんなどうしようもない俺だが、どうか俺から逃げないでくれ」
「ええ、デクス様。私も貴方を溺愛していますから、シャインはどこにも逃げません」
私はデクス様の本音を聞いて心が震えた、それは恐怖ではなくデクス様から愛されているという喜びからだった。この私を溺愛してくれる愛おしいデクス様、私は彼をいつの間にか心から愛していた。政略結婚だとどこかで思っていたが、それを吹き飛ばすくらいにデクス様の愛情は深かった。そう私はもうとっくにデクス様の愛に溺れて、そしてそんなデクス様のことを溺れるように愛していた。
「デクス様、フロンティア学園に通うのは止めましょう」
「シャイン、本当か!?」
「ええ、だってデクス様はもっと私を溺愛したいのでしょう」
「ああ、そうだ!! あんな学園に通っている一瞬だって勿体ない、俺だけの君の時間がもっと欲しいんだ!!」
こうして私とデクス様は一週間もしないうちにフロンティア学園を辞めた、私たちにはあんな学園に通っているよりもお互いに愛し合う時間が必要だった。それからもデクス様の溺愛はまた酷くなったが、私はデクス様を愛していたからそれを許してあげた、そうして彼だけを見て彼のためだけに生きていってあげた。そして後の歴史では私たちのことが、稀に見る溺愛し合った夫婦だったと語られるようになった。
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