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4-30拒めない富を与える

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「絶対に手放すな、そうすると豊穣の大地へ繋がるって、……今ならどこと繋がるかしらね」

 誰かがそう呟いて息を吐いた、僕とジーニャスは何が起こるか分からないが、それに備えようとして地面にほとんど落ちた。腕輪を投げた方角が一瞬だけ物凄い光を放った、そこに夜なのに太陽が出現したように辺りを照らした。僕とジーニャスはそれを見ていた、腕輪は小さな爆発のような光を起こして消えた。

 地面に落ちた衝撃で僕はその光を見ていることしかできなかった、でもそれ以上は何も起こらなかった。しばらく呆然としていたがやがて先にジーニャスが立ちあがった、僕もどうにか体を起こしてマーニャが最期に起こした出来事の結果を見た。そこは人気のない場所で虹色の揺らめきをした入り口が出来上がっていた、確かにかの地と繋がっている気配がした、マーニャの三つの輪は消えてかの地への入り口ができていた。

「これは!? もしかしてダンジョンなのか……」
「安定して異世界と繋がっている、アングルス家の残した遺産がこれか」

「ジーニャス、新しいダンジョンの入り口なのですか?」
「おそらくはな。もう爆発するような気配はない、安定してかの地とこの地を繋いでいる」

「最期の遺産、アングルス家が健在だったなら、ここは豊穣と命の溢れる大地と繋がっていた」
「今はフェイクドラゴンのはびこる地だが、こうやって安定して繋がっていれば、このダンジョンを攻略する者は必ずいる」

 ゼーエン家に嫁いでくるはずだったマーニャ、彼女は皮肉なことにゼーエン家に最期に遺産を残した。このまま安定してかの地と繋がっているなら、ここは新しいダンジョンとなってゼーエン家の財産になるのだ。ダンジョンはそれだけで色々なものを生み出す、そこにいる魔物を倒せば血肉や魔石を生み出し続ける、そうこれもまた立派な財産なのだ。

「――!!――――――!!――――タさま、リタ様!?」

 マーニャから与えられた新しいダンジョンを見ながら、僕たちは呆然とその場に立ち尽くしていた。やがて時間が経つにつれてソアンたちの声がしてきた、彼女は一番に僕たちのところに駆けてきた。そうして遠慮することがなく僕をまた地面に押し倒した、僕はソアンを受け止めようとしたがその力に勝てなかった。

「リタ様、酷いです!! 置いていくなんて、私もうリタ様と口をききません!!」
「ごめんよ、ソアン。何が起こるか分からなかった、巻き込みたくなかったんだよ」

「知りません、もう聞きません!!」
「ごめん、ごめんなさい。ソアン」

「だからそう卑怯です!! もうリタ様はずるいです!!」
「そうかな、それもごめんよ。ソアン」

 僕はまた地面に倒されて今度はソアンを抱えて起き上がった、ソアンは僕の無事をしっかりと確かめても僕から離れなかった。そうして駆けつけてくれたエリーさんやジェンド、ゼーエン家の人たちに新しいダンジョンを見てもらうことになった。エリーさんがとても驚いたように言った、長く生きているドラゴンの彼女でも稀にみる現象だった。

「確かに空間が安定して繋がっている、新しいダンジョンが生まれるところを久しぶりに見ました」
「エリー、危なくないのか?」

「ジェンド、こうして安定して空間同士が繋がっているなら大丈夫よ。下手に刺激しなければ何百年でも、何千年でもこのままこの地に残るでしょう」
「そうか、エリーが危なくないならいい」

「危なっかしいのはジェンド、貴方の方よ。人間がどれだけ大きなことをするか分かったでしょう、この種はとても弱いようで実は強い感情の力を持っているの」
「あの人間は弱いくせに強かった、それに自然に逆らうと怖いのも分かった」

 当然のことだが駆けつけてきた人間の中にマーニャはいなかった、誰かが拘束しているのかと聞いたら思いがけない返事がエリーさんからあった。マーニャはあのまま亡くなっていた、ある意味では僕の魔法のせいでもあった。フェイクドラゴンとの急激な融合と、その融合を無理矢理に魔法で正常に戻した、その大きな反動が彼女を襲ったのだ。

「本当に最期のあがきだったのか、彼女は何か言いましたか?」
「豊穣の大地がどうとか、そうよく意味が分からないことを……」
「絶対に手放すな、そう言ってたぞ」

 マーニャが最期に残したものは手放したくてもできないものになった、このダンジョンは財産として長くゼーエン家に残り続けるだろうからだ。ジーニャスは難しい顔をしていた、一連のフェイクドラゴン騒動の犯人が亡くなってしまった。それはかつての婚約者でもあった、やっていることは滅茶苦茶だったが最期までマーニャが執着したのがジーニャスだ。

 とりあえずその日は新しいダンジョンを見張る人を置いて、そうして長い夜はようやく明けることになった。一人の少女だった女性が亡くなった、最期に遺産を残していずれ僕たちも行く、大きな光の世界へと旅立った。その女性は酷く周囲を傷つけたが最期に財産を残した、それは拒否することのできない大きな財産だった。

 その後の調査でゼーエン家は正式にあの場所を新しいダンジョンとして認めた、かの地と繋がっていることも確かめた。そこには果てしなく広がる荒野、安全な体を休めることができる一つの屋敷、それからフェイクドラゴンたちが沢山住み着いている地だった。王家に報告して正式にやがて認められ、そこはマーニャのダンジョンとして開放された。

「師匠、なんでマーニャの名前がついとるん? なんでフェイクドラゴン騒動の犯人が新しいダンジョンなんや?」
「ミーティア、説明すると長い話になるんだ。それにゼーエン家から話すことを禁止された、マーニャの騒動は終わったんだよ」

「なんか意味が分からんわ? 新しいダンジョンで稼げるのは良いことやけど」
「はぁ~、女性は難しいね。僕もそれで困っているよ、ミーティア」

「なんでや師匠? そう言えばソアンちゃん。……かなり怒っとるようやけど、何をしたんや?」
「僕が何をしたというか、守ろうとしたら結果的にソアンを置いていくことになって、それを怒っているんだ」

 後日、僕はミーティアから質問攻めにされた。彼女たち普通の冒険者からしたら意味が分からないだろう、昨日まで一緒にいた冒険者の一人がフェイクドラゴン騒動の犯人で、そしてその騒動はよく分からないうちに終わったことになった。犯人が死亡したと小さく報じられて、そうしてマーニャのダンジョンのできた理由は説明されなかった。

 本当ならばアングルス家が継ぐべき財産だがもう誰もいない、返せるようなものではないしアングルス家自体がもう残っていなかった。王家からは何故ダンジョンができたのかとゼーエン家は問われた、その問いにゼーエン家は王家にこう答えた。古い遺跡の品をマーニャという冒険者が暴走させた、その結果的に生じたダンジョンだと報告したのだ。

 誰も受け継ぐことがいない遺産だった、マーニャ自身でさえ残そうとして残したものじゃなかった。そのマーニャのダンジョンはフェイクドラゴンが多い、だから初心者の冒険者にはとても向かないが、ある程度の実力を持つ者は入っていった。そうして今もゼーエンの街にゼーエン家に富を貰たらしている、フェイクドラゴンの血肉や魔石は身分の上下を問わず富を与えてくれた。

「これでお別れとは、もう会えないわけじゃないけど寂しいね」
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