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4-16戦うたびに強くなる

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「継母からあの娘は虐待されていた、しつけの範囲を超えていると気づくべきだった」
「しつけと虐待の区別は難しい、父上そんなに思い悩まないでください」

 ジーニャスは自分の父親を責めなかった、確かにその頃にマーニャがゼーエン家に引き取られていれば、その後の悲劇は何も起きずにすんだ。でも過去をいつまでも悔やんでも変えられないのだ、マーニャは自力で家を逃げ出してそうしていつしか復讐鬼になった。関係ない人も巻き込んだ復讐をはじめたのだ、ジーニャスは警備隊や冒険者ギルドにマーニャを捕まえるように命令を出した。

 そんなことをしている間、ジェンドとエリーさんは領主やシャールの護衛を引き受けてくれた。彼らにとっては人間の些細な出来事でしかなかったのかもしれない、でもエリーさんは意外と人間という種族を注意深く見ていた。そうしてシャールが遊び疲れて眠ってしまっている間に、ジェンドと話し合ったりしていた。エリーさんはジェンドにまず意見を求めた、ジェンドはドラゴンの常識で考えて答えた。

「人間はとても難しいな、ドラゴンなら争えば決闘ですむ」
「ジェンド、それが人間なの。難しい心を持って壊れやすいようで強い、そんな強かな種族なのよ」

「エリー、そうなのか。でも、ドラゴンより強い種族ではないだろう」
「どの種族にも強みも弱みもある、ドラゴンは強いけれど完璧ではないわ」

「だから他の種族を勉強するのか、複雑で難しい俺は頭が痛くなりそうだ」
「そしてどの種族でも女性の心は難解なのよ、私の心もそう今もとても複雑な気持ちだわ」

 ジェンドとエリーさんは全てを聞いてそんな話をしていた、確かにどの種族にも弱みも強みもあるのだ。人間は体はそんなに強い種族ではなかったが、心は強い感情を持てば強い種族でもあった。あのマーニャのように強い復讐心を持てば、何百人も人間を殺せる恐ろしい存在にもなれるのだった。これからもマーニャは復讐を続けるだろう、おそらく彼女が満足するまでそれを続けるのだ。

「ソアン、右だ!! 気をつけて!!」
「よっと、これで終わりです!!」

 僕とソアンは街の近くの森でフェイクドラゴン退治を続けていた、僕がソアンに強化魔法をかけると、彼女は軽々とフェイクドラゴンの首を一刀両断した。でもその後でソアンは自分の首を傾げていた、僕も少しソアンの動きに違和感を覚えていた。ソアンの動きはいつもどおりで悪くなかった、でもこのフェイクドラゴンは攻撃の仕方が独特だった。だから退治するのにいつもより時間がかかった、その間に別のフェイクドラゴンが集まってきた。

「『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの熱界雷ライトニング!!』」

 僕はソアンを巻き込まないように上級の攻撃魔法を使った、十数匹の集まってきていたフェイクドラゴンをそれで倒せた。でも上級魔法は一日に5、6回しか使えない、僕たちはあまり森の奥まで行かずに引き返すことにした。そうしながら僕とソアンはお互いに考えていたことを話しあった、どうもフェイクドラゴンがだんだんと強くなっているのだ。

「リタ様、少しですがフェイクドラゴンが強くなっています」
「ああ、ソアン。僕もそう感じた、マーニャは一体どれだけフェイクドラゴンを持っているんだ」

「彼女はドラゴンの研究家だと言っていました、だったらいろんな個体を持っているのでは」
「厄介な話になる、僕たちくらい強いなら倒せる。でも、新人の冒険者にはもう絶対に無理だ」

「冒険者ギルドに警告を出して貰いましょう、そうしないとまた犠牲者が出ます」
「ああ、そうしよう。これ以上、マーニャの復讐の犠牲者を増やしたくない」

 僕とソアンは動ける日は毎日、フェイクドラゴンを狩っていた。もう報酬は多過ぎて寄付もするが、ジーニャスに預けるようにしていた。それだけ毎日フェイクドラゴンを狩っても追いつかないのだ、アングルス家は家畜を育てるのが得意な家だったと聞いた。だったら牛や豚などの家畜を育てるように、フェイクドラゴンを育てていても不思議はなかった。

 冒険者ギルドは近隣の森の奥に行かないようにと警告を出した、僕たち冒険者の報告やジーニャスの働きかけがあったからだ。それで新人の冒険者が無茶をするのは止められた、大抵は熟練の銀の冒険者がフェイクドラゴンを倒していた。かなりのフェイクドラゴンを倒したので、その皮などはもう市場であまり売れなくなった。

 だがフェイクドラゴンの魔石には良い値段がついた、だからまだ他の土地からきた銀の冒険者がとどまってくれていた。そうでなかったらゼーエンの街はもっと危険な状態になっていた、僕たちはフェイクドラゴン退治をしながらマーニャを探していた。大抵のマーニャを知っている冒険者は戸惑っていた、このフェイクドラゴンの発生原因が彼女だと信じられないと言っていた。

「なぁ、師匠。ほんまにマーニャが犯人なん?」
「ミーティア、残念ながらおそらくマーニャが、このフェイクドラゴンを出している犯人だ」
「そうなんです、ミーティアさん」

「あの子は一途なところがあったけど、こんな大変なことをするなんて思わんかったわ」
「僕もそこの椅子で酒を飲んでいたマーニャが懐かしいよ、そんなに危険な人物には見えなかった」
「この酒場もよく利用されてましたよね、マーニャさん」

「信じられんけど、師匠の言うことやから信じるわ。もう、一言あたしに相談しろちゅーねん!!」
「そう誰かに相談して欲しかった、もうあとはマーニャが無事に見つかるといいね」
「ええ、改心してくれるといいです。彼女の復讐は酷過ぎます」

 ジーニャスも相変わらず忙しそうにしていた、マーニャの捜索とフェイクドラゴンへの対応に追われていた。そうしながら彼は婚約者であった彼女を思いだそうとしていた、会ったことがあるなら記憶があるはずだと探していた。でもどうしても思い出せないと彼は言っていた、魔法のこと以外に興味がなかった頃だとは記憶していた。そんな日々を過ごしながら、ある日エリーさんが僕とソアンに言いだした。

「私はジェンドのことが男性として好きです、ですからジェンドにも受け入れて貰いたいと思います」
「そうですか、ジェンドがとても喜びますよ」
「良かったです、早くジェンドに教えてあげてください」

「……そう簡単な話ではないのです、ジェンドには辛い話になると思います」
「エリーさん、どうしたんですか」
「何かあったんですか?」

「何もありません、そう何もないことが問題ですが、今のジェンドなら大丈夫だと思って話します」
「………………」
「………………」

 そうしてエリーさんは領主の館の広い庭にジェンドを呼び出していた、僕たちも聞いていいと言われたので一緒に庭にでていた。エリーさんは真剣だが少し悲しそうな顔をしていた、ジェンドも真剣な顔をしていた、彼は養い親であるエリーさんに本当に惚れているのだ。もうすぐ夜になる夕暮れの中で、エリーさんはジェンドにこう言いだした。

「ジェンド、貴方が私は好きです。でも、私は貴方の子どもを産めません」
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