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4-12愛情と憎しみは同じである

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「エリー!! エリー!! まだ俺はエリーと一緒にいたい!! ううん、ずっと一緒にいたいよ!!」
「ジェンド、私はまだ貴方が男性として好きかどうか分からないの。大切で可愛い養い子、それだけは確かなの、これだけは絶対に変わらないわ」

「うん、俺はずっと養い子でもいいから、子どもでいいからエリーと一緒にいたいよ」
「いつかきっとちゃんと返事をするわ、こんなに可愛い養い子ですもの、真剣に考えて私は返事をしたいのよ」

「俺は待ってる、ずっと待ってるから。エリー、もう俺のことを捨てないで」
「貴方は私の命より大切な子、私から貴方を捨てるわけがないわ」

 エリーさんは大切そうにジェンドの体を抱きしめた、彼女も少しだけ泣いていて可愛い養い子、ジェンドとまたいられることそれを純粋に喜んでもいた。それから僕たちはこの宿で3つの部屋に分かれて過ごすことになった、僕とソアンの部屋、ジェンドの部屋、エリーさんの部屋だ。ジェンドはよくエリーさんの部屋にいて、彼女にベッドで膝枕などしてもらって甘えていた。

 そうしているとジェンドがまだ成人前の子どもに見えた、エリーさんの言った通りジェンドは体は成人してしまったが、まだ養い親が必要な子どもなのだった。ジェンドはゼーエンの街をエリーさんに案内もした、孤児院のことはとてもよく話していた。養い親がいない子どもが多いんだと、エリーさんにそれに驚いたと語っていた。

 エリーさんは口数は少なかったが、ジェンドの話を真剣に聞いていた。人間の常識も彼女は理解していて、ジェンドが危なっかしい時には注意していた。人間はドラゴンを時に殺すこともある、ドラゴンの体という素材は人間の世界では貴重品だった。だから人間の世界で暮らすなら、人間らしく振る舞うように優しくジェンドに言い聞かせていた。

「エリーさんが来てくれて良かったよ、ジェンドも本当は寂しかっただろうから」
「はい、リタ様。本当にそうです、私も急にリタ様から嫌われたら泣いちゃいます」

「僕にとってソアンは大切で可愛い養い子だよ、それだけはずっと変わらないよ」
「ええ、リタ様。それが嬉しいのです、変わらないものって大切なものです」

 そんな一方でゼーエンの街の状況は悪くなっていた、フェイクドラゴンが現れ続けるものだから、商人たちがゼーエンの街を避けるようになっていった。僕たちもそしてジーニャスも、犯人であるバントルという男を探していた。だが誰が匿っているのか分からないが、全く彼は姿を現さなかった。それなのにフェイクドラゴンは街道に現れるのだ、全く厄介なことに変わりはなかった。

 だがそんな時に警備隊から知らせがきた、バントルらしき男を『貧民街スラム』で見かけたという話だった。本当だったのなら上級魔法が使える人間が相手だ、ジーニャスは僕たち皆に知らせてきた。僕たちはエリーさんを紹介し、僕とソアン、ジェンドにエリーさん、そしてジーニャスとで廃屋に踏み込んだ。

「バントル!! 貴様にはゼーエンの街に不利益な召喚を何度も行った疑いがかかっている!!」

 そこで皆で踏み込んでみたものはかなり不快なものだった、バントルという男は確かにそこにいた。だがその男はもう生きてはいなかった、何人かの人間と一緒にその男は死んでいた。亡くなって数日は経っていそうだった、その遺体はお互いに殺し合ったのか酷い有様だった。持ち物からその一人がバントルという男だとようやく分かったくらいだ、では誰がいったいどうして上級魔法が使える人間を殺した。

 謎がますます深くなった、ジーニャスはとりあえず間違いなく遺体がバントルだと確認した。オラシオン国の都から人を呼んで確認してもらった、上級魔法が使える人間は登録が必要だから、亡くなった時にも報告が要るのだった。そしてバントルは亡くなっていたのにフェイクドラゴンはまた現れた、僕たちは訳が分からなくなった。

「あ~ら、貴方たちも飲みにきたの?」
「お前は変わらんな、また酒ばかり飲んでいるのか」

 相変わらずジーニャスが街におりてくると、マーニャが現れて彼をからかった。ジーニャスは当然だが酒など飲んでいる場合じゃなかった、ゼーエンの街の経済が非常に危ない状況なのだ。最近では元気が良いのは、フェイクドラゴン退治で稼いでいる冒険者だけだった。それ以外の街の民はドラゴンの襲撃を恐れて、ますます家に閉じこもりがちになっていた。

「酒は弱い毒だぞ、そんなに飲むと危ない」
「心配してくれるの~、誰かと違って優しいわね。坊や」

 そんな中でマーニャはフェイクドラゴン退治で稼いでいた、そうしてその報酬で酒場で飲んでいることが多かった。それだけの実力がある銀の冒険者だった、ジーニャスへの態度は悪いが彼女も街を守るために働いていた。ジェンドが酒の飲み過ぎを止めようとすると、そんな時はジェンドに向かって優しく笑っていた。

 マーニャはジーニャス以外には良い人間のようだった、銀の冒険者としてソロでも動けるくらいに強かった。フェイクドラゴン退治にもソロで行っているようだった、そうして空を飛ばれる前に魔法で仕留めるのだと言っていた。空を飛ばれてしまっても魔法使いのマーニャなら、雷を落とすとか戦う術があった。

「あたしは儲かっていいけどね、領主さまの跡取りは大変ね」
「どうして俺のことを知っている?」

「もう何回街に降りてきたと思うの、警備隊からちょっと聞いたのよ」
「お前の態度は、貴族に対する不敬罪だと思わんのか」

「そ~んなちっちゃいことで、あたしを捕まえるほど暇じゃないでしょ」
「ふん、確かにな。それにお前と飲んでいる余裕もない」

 ジーニャスとマーニャはいつもこんな感じだった、マーニャがどうしてジーニャスに意地が悪いのか不思議だった。酒が入っていない時の彼女は頼れる冒険者だった、冒険者ギルドでマーニャの評判を聞いたが、おおむね腕が良い冒険者だという答えが返ってきた。僕にはマーニャの態度が小さな棘を飲みこんだ、そんなふうに引っかかっていた。

「あれは執着ですね、愛情を超えた執着です」
「あっ、エリーさんもそう思いますか」

「ソアンさんもそうですか、愛情が裏返れば憎しみに変わります」
「そうなんですよね、発情はしていないけどジーニャスさんに拘るってところが愛の裏返し」

「あれでは彼女自身も幸せになれません、もっと素直な気持ちに戻らなくては」
「あれだけこじれちゃったら、それも難しいかもしれないです」

 ソアンとエリーさんはそんな話を宿屋の部屋でしていた、そうかマーニャのジーニャスへの態度は愛情の裏返しなのだ。ジェンドは首を傾げていたが、確かに愛と憎しみは紙一重の感情でもあった。好きなぶん拒絶されたら嫌いになる、愛していた分忘れられたら憎みたくなる、そんな複雑な感情が愛でもあるのだ。

「あはははっ、愛って嘘でしょ。あたしはジーニャスをもっと深く想っているわ」
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