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3-5ミーティアがアウフに口説かれる
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「なんて美しい声!! そして美しいその姿!! 一目惚れです、俺とつきあってください!!」
「ええとな、お客さん。あたしはそのな、今は彼氏は募集してないねん」
「そんなことを言わずにここで出会ったのも運命!! どうか俺とつきあってください!!」
「いややわ、困った。そんなこと言われても信じられんわ」
「一度でいいから俺を信じてみてください、そしてぜひ結婚を前提にした交際をお願いします!!」
「あたしは歌って稼ぎたいだけやねん、それ以上のことはお客さんには望まんしなぁ」
僕たちが宿屋に帰るとミーティアに見たことのない男性、いや少年と言った方がよさそうな小柄な子、黄色い髪に同じ色の瞳の少年が話しかけていた。ミーティアも少年の年齢が若すぎると思ったのか、それとも客には手を出さないのがルールなのか困り果てていた。そうしてこっちを見ると密かに僕に合図を送ってきた、僕はソアンに荷物を任せていつも被っているローブを頭だけ外し、とても元気のよさそうな少年の方に歩いていった。
「やぁ、ミーティア。ちょっとだけ一人にしてごめん、この子はどこの誰だい」
「お客さんやねん、ごめんな。お客さん、あたしはこの師匠以上の男しか相手にせんねん」
「な、なんと!?」
僕はミーティアが困っているようだったから、少しだけ彼女に近づいてその髪に触れて、まるで彼氏のようなふりをしてみた。上手くできたかは女性とつきあったことがないから分からない、でも少年をどうにか驚かせるには十分だったようだ。周囲にいる常連客やソアンは僕とミーティアがつきあっていない、そのことを知っているが誰もそれを少年に教えようとはしなかった。だから、少年はこう言いだした。
「エルフ!? しかも凄い美形とは!! 相手として不足なし!!」
「うん、つまりは僕はミーティアにふさわしくないと?」
「そのとおりです、この俺ことアウフの方がミーティアさんにはふさわしいのです!!」
「それはミーティアが決めることじゃないかな?」
「うっ!? 今日はこれくらいにしてやるです――!!」
「ええと、そんなに慌てると転ぶよ。アウフくんだっけ、あああ」
アウフと名乗った少年は初恋なのか、ミーティアに振られた衝撃で何もない場所で転んだ。そうしてしばらく動かなかったが、意外と俊敏な動きでバッと起き上がり、宿屋にある酒場を出ていった。そうしてから僕はミーティアから離れた、触れていた髪からも手を放した。ミーティアはため息をついていた、吟遊詩人は酒のはいった客の相手もするから、変な者にからまれることも多かった。ソアンが荷物を抱えながら、そんなミーティアを大丈夫ですかと労わっていた。
「でもあのアウフという少年、お酒は飲んでいなかったようだね」
「まだ子どもみたいでしたし、声変わりもしていませんでしたし、成人しているのかも怪しかったですね」
「いきなり店に入ってきたんねん、それであたしを口説きだしたんや。いやぁ、モテる女は辛いわ」
「シーフだったのかな、短剣に動きやすそうな服と防具だった」
「多分、冒険者見習いか、成人していれば冒険者でしょうね」
「それじゃ、また来るんかいな。お客さんなら歓迎やけど、彼氏は募集しとらんちゅーねん」
「また来た時にはそれはそれで対処しよう」
「すっぱりと振られても、あれは諦めそうにないですね」
「ああ、もうやけやわ。今日は恋にちなんだ曲を歌うでー!!恋人がおらんやつは覚悟しい!!」
その後のミーティアは大人の女性の魅力的な声で、恋がどれほど情熱的で素晴らしいかを歌ってみせた。彼女も吟遊詩人としての誇りがあるのだ、だからどんな歌でも手抜きなどはしなかった。僕でさえ思わずこんな情熱的な恋人が欲しくなるような、そんな曲を次々と歌ってみせたくらいだった。いいなぁ、僕もこんな魔法も使えないエルフでもいいなら、優しい恋人がいずれは欲しいと思った。
「良い歌だね、ソアン」
「はい、リタ様」
「僕もいつか家族になってくれるような、そんな優しい恋人が欲しくなった」
「ミーティアさん歌が上手くなって……、ってもちろん、その方の性別は女性ですよね。リタ様!!」
「え? 恋に落ちる時に相手は選べないって母が言っていたから、考えたことはなかったけどもしかしたら男性かもしれないね」
「なななななんとっ!! 男性!? リタ様のお母さまはなんて先進的なご教育を!?」
僕たちエルフの間で同性愛は別に禁止されていない、子どもが生まれないから薦めてられてはいないけど、それでも恋に落ちるときは落ちるので禁止はされていなかった。村の中にも同性同士の恋人も少数派ではあったがいた、女性同士の時も男性同士の時もあった。それはソアンも知っていると思っていたが、よく考えればソアンは村の皆から一歩引いた関係だったから知らなかったのだ。
「ソアン、たとえ同性同士であっても恋は禁止されていないんだ」
「はい!? で、でも私はリタ様の恋人に、に、には。じ、じょ、女性がいいかな~なんて思います!!」
「うーん、確かに同じエルフで女性の方が生まれる子供、その子は素晴らしい素質を持つだろうね」
「り、リタ様はやっぱり同じエルフの女性。そ、そのほうが恋人だと良いですか?」
「いや、恋に落ちる時は落ちるらしいから。同じエルフで女性が良いというのは、ただの村を思っての理想論だね」
「そうですか、それならば安心しました。エルフに限定されてしまうと、……ハーフエルフの私じゃ勝負にもならないし」
ソアンは最後の方の言葉を消え入るような声で言った、だからエルフに限定されてしまうとまでしか、僕には彼女の言っていることが聞き取れなかった。僕の恋人はエルフでも人間でもいいが、できれば同じ寿命を生きることができる者が良かった。好きになった者に先に旅立たれるのは辛そうだ、その点僕の両親は最期まで一緒にいて亡くなった。それは密かな僕の理想像でもあった、事故で死にたくはないが亡くなる時も一緒に恋人とはいたかった。
その日のミーティアは恋の曲ばかり歌って皆を酔わせた、だから酒場では奥さんや恋人の話題で盛り上がった。ミーティアもしっかりとおひねりを貰って稼いでいた、彼女も吟遊詩人として強かに成長しているのだ。僕とソアンはそれからいつも通りの日課をこなすと眠りについた、翌日も僕は朝から起きることができたから良かった。心の病気で動けない日は少しずつ減っている気がした、このまま治っていけばいいのにと願った。
「それじゃ、リタ様。今日はどうしましょうか」
「冒険者ギルドの掲示板を見て、何もなければエテルノのダンジョンで魔物を狩ろうか」
「それではクレーネ草の薬を使われるのですね、仕方がないですけど効果は小の方ですか?」
「効果は小の中級魔法まででいいだろう、エテルノのダンジョンからデビルベアの王は消えた、上級魔法が使える効果大は必要なさそうだ」
「でもまずは冒険者ギルドの掲示板のチェックですね、何か面白い依頼があると良いですね」
「エテルノのダンジョンにも慣れた、でもそう油断していると危ないね」
もうエリクサーはエテルノのダンジョンにはないが、ダンジョンとしてはフォシルのダンジョンより、エテルノのダンジョンの方が人気があった。なんといってもフォシルのダンジョン、通称ぷよぷよダンジョンはスライムしか主に出ないからだ。それよりはエテルノのダンジョンでデビルベアなどを狩って、肉や毛皮をいただくほうが儲けが良く効率的だった。
僕たちは朝食を終えると冒険者ギルドに行った、そうしたら思わぬ再会が二つ待っていた。最初に冒険者ギルドの掲示板を見たが、特に目新しい依頼はなかった。だからエテルノのダンジョンに行こうとしたら、僕に声をかけてくる者がいたのだ。それは僕と同じエルフだった、以前に冒険者ギルドで見たことがある、短い銀の髪に美しい緑の瞳をしたエルフが僕に話しかけてきた。
「同胞であるエルフに大いなる力の加護があらんことを、俺はイデアールという。君も俺と同じエルフなのかな」
「同胞であるエルフに大いなる力の加護があらんことを、僕はクアリタ・グランフォレ、よくリタと呼ばれているエルフです」
「これは嬉しい偶然だ、久しぶりに同胞であるエルフを見た」
「そうですか、近くにはエルフの村もありますよ」
「そうか、ここのエルフは随分とこのオラシオン国で大事にされているようだ」
「プルエールの森のエルフはオラシオン国、この国と不可侵条約を結んでいますから」
僕に話しかけてきたエルフの少年はイデアールと名乗った、長いからイデアで良いとも言った。まだ声変わりが始まったくらいの少し低めの声をした少年で、おそらくはソアンと同じ150歳くらいだろうと僕は思った。それから僕はソアンをその少年に紹介した、僕の養い子でハーフエルフだと伝えた、ソアンもにっこりと笑顔でイデアに挨拶をした。
「そうか、ハーフエルフか。それは村では辛い目にあっただろう、今は辛くはないのかい」
「リタ様がいてくれるので、辛いことは何もありません」
「それは良かった、俺もハーフエルフは何人もみてきたが、皆あまり周囲に受け入れて貰えていなかった」
「私たちは良くも悪くも二つの種族の混じった存在ですから、ご心配してくださってありがとうございます」
「今日は良い出会いに恵まれた、世界の大いなる力に感謝しなくてはね。可愛いお嬢さん」
「えへへへっ、そんなふうに言われるとてれてしまいます!!」
同じくらいの年齢であるイデアとソアンはすぐに仲が良くなった、僕とソアンとではやはり年齢による差が100年ほどある、同世代と話すのはソアンにとって嬉しいことなのだ。それは僕にとっても嬉しいことだったが、ソアンがイデアばかり見ていると何故か不安にもなった。ソアンをとられてしまうのではと、そんな子どものようなことを僕は思ってしまった。
「ああ――!!あのにっくき俺の恋敵です――!?」
そんな時だった、冒険者ギルドの入り口でアウフという少年が声をあげたのだ。昨日の夜にミーティアを口説いていた少年だった、僕は正直なところ頭を抱えたい気分になった。皆の注目がただでさえ美しいエルフであるイデアに集まっていたのに、それに加えてアウフの大声が更に注目を集めることになったからだ。
「ええと、アウフくん。ここは冒険者ギルドで仕事を貰う場所だ、それ以外で騒ぐところじゃ……」
「うるさい、この美人なエルフめ!! 俺はお前に決闘を申し込むんです――!!」
「それはミーティアをかけてかい? 人間は賭ける対象にならない、そんな決闘は受けられない」
「ううう、うるさいな。それじゃ、俺の誇りにかけての決闘です!!」
「僕にはその決闘で得られる物が何も無い、ますますそんな決闘は受けられない」
「なんだよ!? エルフっていうのは臆病者ぞろいです? 決闘なんてできない弱虫ぞろいなのです?」
アウフという少年は僕を挑発してきたが、年長者である僕からすると子供が屁理屈をこねているだけ、そういうふうにしか見えず当然だが決闘を受ける気にはなれなかった。だがそこでイデアがアウフに話しかけた、エルフというのならイデアもそうだった。そしてこのくらいの年の少年は理屈ではなく、感情で動きやすいものだった。
「エルフを侮辱する人間、それなら俺がその決闘を受けよう」
「ええとな、お客さん。あたしはそのな、今は彼氏は募集してないねん」
「そんなことを言わずにここで出会ったのも運命!! どうか俺とつきあってください!!」
「いややわ、困った。そんなこと言われても信じられんわ」
「一度でいいから俺を信じてみてください、そしてぜひ結婚を前提にした交際をお願いします!!」
「あたしは歌って稼ぎたいだけやねん、それ以上のことはお客さんには望まんしなぁ」
僕たちが宿屋に帰るとミーティアに見たことのない男性、いや少年と言った方がよさそうな小柄な子、黄色い髪に同じ色の瞳の少年が話しかけていた。ミーティアも少年の年齢が若すぎると思ったのか、それとも客には手を出さないのがルールなのか困り果てていた。そうしてこっちを見ると密かに僕に合図を送ってきた、僕はソアンに荷物を任せていつも被っているローブを頭だけ外し、とても元気のよさそうな少年の方に歩いていった。
「やぁ、ミーティア。ちょっとだけ一人にしてごめん、この子はどこの誰だい」
「お客さんやねん、ごめんな。お客さん、あたしはこの師匠以上の男しか相手にせんねん」
「な、なんと!?」
僕はミーティアが困っているようだったから、少しだけ彼女に近づいてその髪に触れて、まるで彼氏のようなふりをしてみた。上手くできたかは女性とつきあったことがないから分からない、でも少年をどうにか驚かせるには十分だったようだ。周囲にいる常連客やソアンは僕とミーティアがつきあっていない、そのことを知っているが誰もそれを少年に教えようとはしなかった。だから、少年はこう言いだした。
「エルフ!? しかも凄い美形とは!! 相手として不足なし!!」
「うん、つまりは僕はミーティアにふさわしくないと?」
「そのとおりです、この俺ことアウフの方がミーティアさんにはふさわしいのです!!」
「それはミーティアが決めることじゃないかな?」
「うっ!? 今日はこれくらいにしてやるです――!!」
「ええと、そんなに慌てると転ぶよ。アウフくんだっけ、あああ」
アウフと名乗った少年は初恋なのか、ミーティアに振られた衝撃で何もない場所で転んだ。そうしてしばらく動かなかったが、意外と俊敏な動きでバッと起き上がり、宿屋にある酒場を出ていった。そうしてから僕はミーティアから離れた、触れていた髪からも手を放した。ミーティアはため息をついていた、吟遊詩人は酒のはいった客の相手もするから、変な者にからまれることも多かった。ソアンが荷物を抱えながら、そんなミーティアを大丈夫ですかと労わっていた。
「でもあのアウフという少年、お酒は飲んでいなかったようだね」
「まだ子どもみたいでしたし、声変わりもしていませんでしたし、成人しているのかも怪しかったですね」
「いきなり店に入ってきたんねん、それであたしを口説きだしたんや。いやぁ、モテる女は辛いわ」
「シーフだったのかな、短剣に動きやすそうな服と防具だった」
「多分、冒険者見習いか、成人していれば冒険者でしょうね」
「それじゃ、また来るんかいな。お客さんなら歓迎やけど、彼氏は募集しとらんちゅーねん」
「また来た時にはそれはそれで対処しよう」
「すっぱりと振られても、あれは諦めそうにないですね」
「ああ、もうやけやわ。今日は恋にちなんだ曲を歌うでー!!恋人がおらんやつは覚悟しい!!」
その後のミーティアは大人の女性の魅力的な声で、恋がどれほど情熱的で素晴らしいかを歌ってみせた。彼女も吟遊詩人としての誇りがあるのだ、だからどんな歌でも手抜きなどはしなかった。僕でさえ思わずこんな情熱的な恋人が欲しくなるような、そんな曲を次々と歌ってみせたくらいだった。いいなぁ、僕もこんな魔法も使えないエルフでもいいなら、優しい恋人がいずれは欲しいと思った。
「良い歌だね、ソアン」
「はい、リタ様」
「僕もいつか家族になってくれるような、そんな優しい恋人が欲しくなった」
「ミーティアさん歌が上手くなって……、ってもちろん、その方の性別は女性ですよね。リタ様!!」
「え? 恋に落ちる時に相手は選べないって母が言っていたから、考えたことはなかったけどもしかしたら男性かもしれないね」
「なななななんとっ!! 男性!? リタ様のお母さまはなんて先進的なご教育を!?」
僕たちエルフの間で同性愛は別に禁止されていない、子どもが生まれないから薦めてられてはいないけど、それでも恋に落ちるときは落ちるので禁止はされていなかった。村の中にも同性同士の恋人も少数派ではあったがいた、女性同士の時も男性同士の時もあった。それはソアンも知っていると思っていたが、よく考えればソアンは村の皆から一歩引いた関係だったから知らなかったのだ。
「ソアン、たとえ同性同士であっても恋は禁止されていないんだ」
「はい!? で、でも私はリタ様の恋人に、に、には。じ、じょ、女性がいいかな~なんて思います!!」
「うーん、確かに同じエルフで女性の方が生まれる子供、その子は素晴らしい素質を持つだろうね」
「り、リタ様はやっぱり同じエルフの女性。そ、そのほうが恋人だと良いですか?」
「いや、恋に落ちる時は落ちるらしいから。同じエルフで女性が良いというのは、ただの村を思っての理想論だね」
「そうですか、それならば安心しました。エルフに限定されてしまうと、……ハーフエルフの私じゃ勝負にもならないし」
ソアンは最後の方の言葉を消え入るような声で言った、だからエルフに限定されてしまうとまでしか、僕には彼女の言っていることが聞き取れなかった。僕の恋人はエルフでも人間でもいいが、できれば同じ寿命を生きることができる者が良かった。好きになった者に先に旅立たれるのは辛そうだ、その点僕の両親は最期まで一緒にいて亡くなった。それは密かな僕の理想像でもあった、事故で死にたくはないが亡くなる時も一緒に恋人とはいたかった。
その日のミーティアは恋の曲ばかり歌って皆を酔わせた、だから酒場では奥さんや恋人の話題で盛り上がった。ミーティアもしっかりとおひねりを貰って稼いでいた、彼女も吟遊詩人として強かに成長しているのだ。僕とソアンはそれからいつも通りの日課をこなすと眠りについた、翌日も僕は朝から起きることができたから良かった。心の病気で動けない日は少しずつ減っている気がした、このまま治っていけばいいのにと願った。
「それじゃ、リタ様。今日はどうしましょうか」
「冒険者ギルドの掲示板を見て、何もなければエテルノのダンジョンで魔物を狩ろうか」
「それではクレーネ草の薬を使われるのですね、仕方がないですけど効果は小の方ですか?」
「効果は小の中級魔法まででいいだろう、エテルノのダンジョンからデビルベアの王は消えた、上級魔法が使える効果大は必要なさそうだ」
「でもまずは冒険者ギルドの掲示板のチェックですね、何か面白い依頼があると良いですね」
「エテルノのダンジョンにも慣れた、でもそう油断していると危ないね」
もうエリクサーはエテルノのダンジョンにはないが、ダンジョンとしてはフォシルのダンジョンより、エテルノのダンジョンの方が人気があった。なんといってもフォシルのダンジョン、通称ぷよぷよダンジョンはスライムしか主に出ないからだ。それよりはエテルノのダンジョンでデビルベアなどを狩って、肉や毛皮をいただくほうが儲けが良く効率的だった。
僕たちは朝食を終えると冒険者ギルドに行った、そうしたら思わぬ再会が二つ待っていた。最初に冒険者ギルドの掲示板を見たが、特に目新しい依頼はなかった。だからエテルノのダンジョンに行こうとしたら、僕に声をかけてくる者がいたのだ。それは僕と同じエルフだった、以前に冒険者ギルドで見たことがある、短い銀の髪に美しい緑の瞳をしたエルフが僕に話しかけてきた。
「同胞であるエルフに大いなる力の加護があらんことを、俺はイデアールという。君も俺と同じエルフなのかな」
「同胞であるエルフに大いなる力の加護があらんことを、僕はクアリタ・グランフォレ、よくリタと呼ばれているエルフです」
「これは嬉しい偶然だ、久しぶりに同胞であるエルフを見た」
「そうですか、近くにはエルフの村もありますよ」
「そうか、ここのエルフは随分とこのオラシオン国で大事にされているようだ」
「プルエールの森のエルフはオラシオン国、この国と不可侵条約を結んでいますから」
僕に話しかけてきたエルフの少年はイデアールと名乗った、長いからイデアで良いとも言った。まだ声変わりが始まったくらいの少し低めの声をした少年で、おそらくはソアンと同じ150歳くらいだろうと僕は思った。それから僕はソアンをその少年に紹介した、僕の養い子でハーフエルフだと伝えた、ソアンもにっこりと笑顔でイデアに挨拶をした。
「そうか、ハーフエルフか。それは村では辛い目にあっただろう、今は辛くはないのかい」
「リタ様がいてくれるので、辛いことは何もありません」
「それは良かった、俺もハーフエルフは何人もみてきたが、皆あまり周囲に受け入れて貰えていなかった」
「私たちは良くも悪くも二つの種族の混じった存在ですから、ご心配してくださってありがとうございます」
「今日は良い出会いに恵まれた、世界の大いなる力に感謝しなくてはね。可愛いお嬢さん」
「えへへへっ、そんなふうに言われるとてれてしまいます!!」
同じくらいの年齢であるイデアとソアンはすぐに仲が良くなった、僕とソアンとではやはり年齢による差が100年ほどある、同世代と話すのはソアンにとって嬉しいことなのだ。それは僕にとっても嬉しいことだったが、ソアンがイデアばかり見ていると何故か不安にもなった。ソアンをとられてしまうのではと、そんな子どものようなことを僕は思ってしまった。
「ああ――!!あのにっくき俺の恋敵です――!?」
そんな時だった、冒険者ギルドの入り口でアウフという少年が声をあげたのだ。昨日の夜にミーティアを口説いていた少年だった、僕は正直なところ頭を抱えたい気分になった。皆の注目がただでさえ美しいエルフであるイデアに集まっていたのに、それに加えてアウフの大声が更に注目を集めることになったからだ。
「ええと、アウフくん。ここは冒険者ギルドで仕事を貰う場所だ、それ以外で騒ぐところじゃ……」
「うるさい、この美人なエルフめ!! 俺はお前に決闘を申し込むんです――!!」
「それはミーティアをかけてかい? 人間は賭ける対象にならない、そんな決闘は受けられない」
「ううう、うるさいな。それじゃ、俺の誇りにかけての決闘です!!」
「僕にはその決闘で得られる物が何も無い、ますますそんな決闘は受けられない」
「なんだよ!? エルフっていうのは臆病者ぞろいです? 決闘なんてできない弱虫ぞろいなのです?」
アウフという少年は僕を挑発してきたが、年長者である僕からすると子供が屁理屈をこねているだけ、そういうふうにしか見えず当然だが決闘を受ける気にはなれなかった。だがそこでイデアがアウフに話しかけた、エルフというのならイデアもそうだった。そしてこのくらいの年の少年は理屈ではなく、感情で動きやすいものだった。
「エルフを侮辱する人間、それなら俺がその決闘を受けよう」
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