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3-1鉄の冒険者試験に挑戦する

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 とても静かな冒険者ギルドの一室で、沢山の者たちが紙に何かを書いていた。僕も今までの冒険の記憶を思い出しながら、そこで一心に紙を字で埋める作業をしていた。やがて試験官がそれまでと言って、冒険者ギルドの職員が僕たち皆が書いた用紙を回収していった。試験が終わった僕が思わずソアンの方を見ると、ソアンは僕に大丈夫と合図を送ってきた。どうやら彼女も満足いく回答が書けたようだ、あとは二人とも受かっていて欲しいと願うだけだった。

「リタ様、ほらっ私たち筆記は合格です!!」
「ああ、本当だ。良かったよ。ソアン」

「あとは実技と面接だけですね」
「僕は実技が心配だな、魔法が使えないから」

「絶対に大丈夫です、リタ様の体術と短剣術なら試験官に勝てます!!」
「ありがとう、ソアン。君もいつもどおりにできれば、きっと大丈夫だよ」

 僕とソアンは今日は冒険者ギルドに試験を受けにきていた、冒険者としてのランクを上げるための試験だ。冒険者のランクは銅が新人、鉄で一人前、銀で熟練者、金は相当の実力者、白金はそれ以上で幾つかの功績を修めた者となっている。僕たちは今まで新人の銅の冒険者だったが、そろそろ一人前の鉄の冒険者になってもいい、そう思って今回は挑戦しているところだった。

 筆記試験は問題なく二人とも合格したと冒険者ギルドの掲示板の張り紙にあった、次は実技の試験となる試験官と一対一で戦い、戦闘でどれだけ役にたてるかを見られるのだ。僕はこの試験が一番心配だった、心の病気がまだ治っていない僕には魔法は使えない、だからエルフなのに魔法は使わずにこの実技試験に合格しなければならなかった。

 精霊術は使用が可能だが、精霊はとても気紛れだ。呼んだからといって期待していた精霊がきてくれるとは限らない、それどころか呼んでも誰も来てくれないこともよくあることだった。だから精霊術には頼らないようにする、純粋な体術と短剣術で試験官である男性と戦うことになった。30歳くらいの鍛えられた男性の剣士のようで、僕はできるだけの力を使って戦うことにした。

「それじゃあ、こい!!」
「それでは、お願いします」

 僕の試験官の男性は最初は僕を甘く見ていた、だからそのうちに倒してしまおうと僕は短剣を持って相手に向かっていった。そしていきなり武器である短剣を試験官の顔めがけて投げつけた、試験官が驚いて自分の剣で僕の短剣を打ちはらった隙に、僕はその試験官の腕をとって捕まえてしまった。後はその試験官の体を体術にまかせて、思いっきり力をこめて投げるだけですんだ。試験官は最初何が起こったが分かっていなかったが、やがて僕に笑って合格だと言ってくれた。

「エルフなのに魔法じゃなく、体術でくるとは思わなかった」
「はぁ、僕はできるだけ魔法は使いたくないんです」

「まぁ、良い。間違いなく合格だ」
「ありがとうございました」

 僕はきちんと合格して短剣を回収してから、試験場である運動場でソアンのことが気になって探した、そうしたらソアンの大剣に相手の試験官がぶん殴られて空を飛んでいるところだった。あの子はまた物凄く豪快なことをしていた、当然だが相手は鉄の塊である大剣で殴られて無事ではなく、打撃によってしっかりと気絶しているようだった。そんなふうに少々乱暴ではあったが、それでもきちんとソアンも合格を貰えた。

「それではダンジョンでパーティとして、他人に気をつけることとは?」
「ダンジョンに入る順番を守ったり、他人に迷惑をかけないことです」

「他のパーティともめた時はどうします?」
「できるだけ話し合いで解決するか、必要であれば冒険者ギルドの職員を呼びます」

「パーティを組んだ相手との報酬の分け方を教えてください?」
「僕たちの場合は貰った報酬を、その時の人数で公平に分けています」

 最後は面接だったがこれはあまり心配していなかった、何故ならよっぽど危険な発言をしなければ、面接は受かるとミーティアに聞いていたからだった。この面接は一人なら個人で、パーティなら仲間と一緒に受けることになった。僕とソアンはだから二人で面接室に入っていた、それからいろんなことを聞かれたが常識に基づく質問が多かった。最後に面接官の一人で、綺麗な女性の職員がこう言った。

「それではおめでとうございます、お二人を鉄の冒険者だと認めます」

 それを聞いて僕はほっとした、ソアンはえへんっと余裕の表情だった。僕たちはそれから冒険者ギルドの受付で、今までの銅から鉄へと冒険者証を変更してもらった。その間は暇だったので冒険者ギルドに併設されている酒場などで、最近の噂話などを聞いてみたりした。噂というのも馬鹿にできないことがある、全部でたらめな話のこともあるがいくらか真実を含んでいることも多いのだ。

「エルフの吟遊詩人がきているんだって、とても綺麗で美しい男の子よ」
「この前、僕の友達が殺されたんだ。でも警備隊は事故だって言ってるのさ」
「エテルノのダンジョンには、まだエリクサーがきっとある」
「最近、ぷよぷよダンジョンに行く人が減ったわね」
「稼ぐならエテルノのダンジョンで、魔物を倒して魔石の回収が一番かな」
「ジーニャス様が跡継ぎになって、なんだか生活も良くなったわねぇ」
「近頃だが、娼婦や浮浪者が次々と姿を消してるんだってさ」

 僕とソアンはそんな本当がどうか分からない噂を聞きながら少し待って、とうとう一人前の証拠である鉄の冒険者証を手にいれることになった。これで冒険者ギルドから受けられる依頼の範囲が広がるし、身分証としての価値があがることになった。新人の冒険者証はとりあえず身分を保証する、でもあくまでそれはほんの一時的なものだ、そのくらいの価値しかないからあまり人から信用されないのだ。

 でも鉄の冒険者は一人前の冒険者として見られるようになる、依頼される内容も重要なものが増えてくるし、その分だけ報酬もずっと良くなるのだ。だから新人である銅の冒険者から鉄の冒険者になりたがる者は多かった、でも冒険者ギルドもある程度の身分を保証するのだから、そう簡単に合格者は出さないのだ。その試験に受かったのは純粋にただ嬉しかった、ただ村よりこの街に馴染んでいるようで複雑な思いもあった。

「ソアン、良かったね。合格おめでとう!!」
「はい、リタ様もおめでとうございます!!」

「これで僕たちも一人前の冒険者か」
「新人の間にしては今まで、ちょっと信じられない冒険をしてますけどね」

「ああ、もうネクロマンサーや、デビルベアの王と戦うのはこりごりだ」
「平和な冒険者生活にしたいですね、でもそれじゃ冒険って呼べないでしょうか」

 冒険が命の危険をともなうのならできれば止めたい、だが冒険には楽しい部分も確実にあるのだ。例えば今まで知らなかった人々と知り合ったり、今まで隠されていた宝をみつけたりできるのだ。戦うのもいつも鍛錬しているからその成果が出るようで嬉しい、負けてしまうと恐ろしい目にあうだろうが、命がかかった場面では今まではなんとか勝利してきていた。

「冒険も楽しいばかりじゃなけど、でも十分に準備して鍛錬して続けてみたいよ」
「ふふっ、リタ様も冒険の楽しさに目覚めましたか?」

「ソアンと一緒にいると、それだけで冒険みたいだ」
「それはどういう意味でしょうか? 私がなんだかトラブルメーカーみたいです!!」

「え!? とらぶるめーかー? ソアンといると楽しいって意味だよ」
「あっ、はい。そういう意味ですか、私もリタ様といると楽しいです!!」

 僕たちは鉄の冒険者証をもらえて喜んだ、このゼーエンの街に家出してからの苦労が実ったようで嬉しかった。ソアンもとても嬉しそうにしていた、首からぶらさげた鉄の冒険者証をニコニコと笑顔で眺めていた。つい少し前にデビルベアの王をエテルノのダンジョンで倒す戦いに参加した、そのおかげでジーニャスと伯爵になった領主から金貨100枚あまりも貰ってしまい、僕たちはアクセサリ屋で派手ではないが重い装身具を身につけていた。

 冒険者はある意味で身につけている物で実力が分かる、装備に十分にお金をかけているということは、それだけ余裕のあるパーティだということだ。僕たちはちょっと銅の冒険者にしては目立ち過ぎる気がしていたところだった、宝石入りの金のブレスレットやアンクレットを沢山身につけているからだ。そう銅の冒険者としてはあまりにも裕福過ぎた、だから鉄の冒険者になったのはそういう意味でも良かった。

 そういえば他に宝物として金と銀の本も見つけたのだが、その重要性を話したうえでジーニャスに預かって貰っていた。僕たちのいる鍵のかかる宿屋よりも、領主の館のほうが常に見張りもいるし安全だからだ。僕たちがプルエールの森に帰る時には返してもらう予定だ、ジーニャスのことは信頼しているのでこのことは心配していなかった。

「うわぁ、リタ様。あれみてください、すっごく綺麗」
「え? ああ、エルフだね。村じゃみたことがないから、他の里か村のエルフかな」

 冒険者ギルドの受付の近くにいた僕たちは、綺麗な短いキラキラと輝く銀の髪に森を表したような緑の瞳、そんな美しくて綺麗な150歳くらいのエルフを見た。冒険者証が銅だから人間の街に出てきたばかりのエルフかもしれない、ソアンがポッと頬を赤くして見入っていた。僕はそれが少し面白くない気持ちがした、でも何故そんな気持ちがするのかは分からなかった。

 僕たちが見ていたエルフは周辺の注目の的だった、僕は普段はフードを被っているから目立つことはない、エルフがあまり目立ちすぎて良い事もないからそうしていた。でもそのエルフはまだ少年だからだろうか、他人の視線をまったく気にすることなく、冒険者ギルドの掲示板などを確認すると去っていった。

「リタ様みたいに綺麗なエルフもいるんですね、いやでもリタ様が少年の頃はもっと美少年だったです」
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