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2-30戦い抜いて倒れる

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「いい加減にうるっさいのです!!」

 そう言い放ったソアンが偶然にあった足場になりそうな岩の上から、毒を塗った槍をデビルベアの王目掛けて投げつけた。デビルベアの王はその槍を右手の爪で弾いたが、すぐにソアンが投げた二本目の槍が迫っていて、その鋭い槍はデビルベアの王の頬に命中した。今度は苦痛の混じった咆哮が周囲に鳴り響いたが、ソアンはそんな声には動じず更にデビルベアの王だけを狙って槍を投げつけた。

「即死しない程度の毒だとはもどかしい、でも取り扱いを考えるとこの程度でしょうか」
「ソアン、そのままデビルベアの王の気をひいてくれ。ジーニャス、皆の守りを頼みます」

「分かりました、リタ様。どんどん槍を投げますよ!!」
「おう、分かったリタよ。皆の守りはこの大魔法使いに任せておけ!!」

 ソアンの活躍もあって兵士や魔法使いは落ち着きを取り戻した、再び魔法や弓矢それに槍などでデビルベアたちを倒していった。デビルベアの王が開き直りこちらに突撃して、正面からこの軍の陣形を崩そうとした。

「『完全なるパーフェクト聖なる守りホーリーグラウンド!!』」

 ジーニャスの三度目の上級魔法がデビルベアの王の攻撃から皆を守った、でももう三度目の魔法だったからジーニャスの残りの魔力が心配だった。上級魔法は僕だって5回か6回しか使えない、人間であるジーニャスの限界はどのくらいなのだろうか、その守りの魔法が消えてなくなる前に僕は集中した。魔法で大事なのは応用力だ、だから僕は通常の魔法を構築しなおして、そうして特別な上級魔法を使った。

「猛毒の槍よ、敵を貫け。『全てを貫きしペネトレイト猛毒なりし槍ポイズンスピア!!』」

 僕がここで使ったのがカイトから樽で預かった物だ、あれはマンチニールの木の樹液だった。それらを魔法で硬い槍に変えて僕はデビルベアの王だけを狙った、十数本の猛毒の槍が全てデビルベアの王に突き刺さった。デビルベアの王は槍を払い落とそうとしたが、そうすれば槍は猛毒の樹液へと変化した。それらの猛毒をくらったデビルベアの王は怒り狂った、そうして怒りに任せてやみくもに突撃を繰り返した。

 相手を倒すだけの量の猛毒を既にその体の中にうちこんだ、あれだけのマンチニールの木の樹液だ。たとえデビルベアの王でも死は免れなかった、だが炎が消える前に燃え上がるように、デビルベアの王は攻撃を繰り返した。ジーニャスと僕は交代で上級の防御魔法を使った、そしてソアンが止めだというようにデビルベアの王に槍を打ち込んだ。

「いい加減にしてください、これで最後です!!」

 ソアンが兵士が持ってきていた最後の槍を投げつけた、デビルベアの王はそれを防ごうとしたがふらつき右目に見事に命中した。デビルベアの王が弱っているのは確かだった、配下のデビルベアたちの中には戦わずに逃げ出すものまでいた。僕とジーニャスは最後の上級魔法を使った、それは同時に全く同じ魔法が戦場に放たれた。

「「『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの熱界雷ライトニング!!』」」

 ジーニャスがこの魔法をよく使うので僕もそれにあわせた、激しい落雷が起きてデビルベアたちを襲い倒していった。デビルベアの王も例外ではなかった、生き物が焼ける匂いを漂わせながら、ついにデビルベアの王がドスンと横に倒れた。しばらくは警戒したがもうその王が起き上がってくる気配はなかった、しばらくして兵士と魔法使いの間から歓声があがった。ようやくデビルベアの王が倒れた、恐ろしい化け物を倒すことができたのだ。

「完全に死んでいるのか確かめろ、死んでいるのなら肉や内臓を抜いて皮だけでも持ち帰るぞ」
「ソアン、ごくろうさま。ジーニャス、皮を持ち帰ってどうするんです?」
「リタ様もお疲れ様です!! もしかして剥製にして飾るんですか?」

「こいつのおかげで軍にも、冒険者にも犠牲者が沢山出た。死体を持ち帰って加工する、それを飾ることでダンジョンとは恐ろしい場所だがそれでも諦めなければ、こんな敵にも勝利することもできるのだと分かるだろう」
「今回の勝利の象徴と、次の冒険者たちへの戒めにするのですね」
「できるなら戦いたくありません、リタ様が上級魔法を使えたから勝てました」

「リタとソアン、それに戦った全ての者よ。それなりの褒美を用意するから、それを貰いに早く帰るぞ!!」
「できるだけ早く戻りましょう、僕は使った薬の効果があまりもう長くもちません」
「リタ様、寒いのですか? これで大丈夫ですか?」

 森の中の祠からここまでの戦いでもうすぐ一刻が経とうしていた、僕はクレーネ草の薬の効果がなくなってくるのを感じていた。寒さや不安などがやってきて今すぐに帰りたかった、森の精霊は普段どおりに戻り落ち着いていたが僕は心細かった。そんな僕をソアンが抱きしめてくれて嬉しかった、温かい彼女の体温が僕を癒してくれた。僕は持ってきていた冬用のマントを着つつ、ソアンに支えられて帰ることになった。

 ジーニャスは言ったとおり一人の犠牲も出さなかった、常に兵士や魔法使いたちを守ることを考えて、上級の防御魔法で僕たち全員を守りきった。全てが迂闊なフォルクに比べると雲泥の差だった、ここまで慎重で仲間思いな上に立つ者もなかなかいなかった。僕は薬の副作用からくる寒さに震えつつ、温かいソアンの手に支えられてエテルノのダンジョンから出た。

 この改良したクレーネ草の薬は効くのも一刻ほどだが、副作用も一刻ほどで短いのはそこだけは良かった。デビルベアの王の皮を持って領主の館に帰り着く頃には、僕はもう回復していてずっと温めてくれていたソアンにお礼を言った。

「ソアン、いつもありがとう」
「どうしたしましてです、リタ様」

 そうして帰ってきた皆が気を抜いた時、騒ぎは軍の守りが一番に固いところで起きた。僕たちが兵士たちが騒いでいるのでいってみると、血塗られた短剣を持ったフォルクが、馬乗りになってジーニャスを押さえつけていた。ソアンがいつもの大剣の腹の部分でフォルクを殴り飛ばした、僕はジーニャスにかけよって刺された腹の傷の具合をみた、すると内臓の深いところまで傷ついていた。

 ジーニャスの腹部からの出血が止まらず、治療班の中にも魔法使いの中にも、誰も上級魔法を使える者がいなかった。だから僕は迷わずにまたクレーネ草の薬を飲んだ、そうしてジーニャスの命を助けるために回復の上級魔法を使った。

「『完全なるパーフェクト癒しヒーリングの光シャイン』」

 ソアンが僕が薬をまた使ったことに驚いて、完全にフォルクを気絶させるまで殴って、それから僕に抱き着いてきた。ジーニャスの傷は回復の上級魔法で綺麗に治った、失血はしたがジーニャスは無事に起き上がった。だが僕は目の前がクラクラして思わずそこに蹲った、考える力がとても早くなりその早さについていけずに頭痛がした。クレーネ草は毒草でもあるのだ、ソアンが注意してくれたことを僕は思い出したが、他にジーニャスを助ける方法が無かったから後悔はしなかった。

「リタ様、リタ様、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫。ソアン。ただ頭が混乱して、ううっ、酷く頭痛がするんだ」
「俺の為にすまん、すぐに医者を呼べ!! クレーネ草の解毒薬を持ってこい!!」

「クレーネ草には解毒薬があるのですか!?」
「いつもそれを適量混ぜて薬を作っている、でも今それが効くかどうか、分からない……」
「リタ、しっかりしろ!! 英雄がこのくらいで気を失うな!!」

 英雄とは一体誰のことなんだろうと僕は思った、とにかく頭痛が酷くて頭の回転が早くなり過ぎて辛かった。それからのことはよく覚えていない、ソアンの声がずっとしていたのはなんとなく覚えていた。でも僕はそのまま気を失ってしまった、ソアンを心配させてはいけないと思うのに、クレーネ草の薬の効果に抗えなかった。どのくらいの時間が経っただろう、僕はソアンが小さく泣いている声で目が覚めた。

「ううぅ、リタ様、どこにも行かないでください。ぐすっ。わ、私が行けない場所に、どうかお一人で行かないで」
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