上 下
48 / 128

2-15黄金の本には秘密がある

しおりを挟む
「……の薬が156本? ……の薬が20本? ……これはもしかして、普通の本じゃないのか」

 僕がしばらく金の表紙の本を開いて見ていると、なんと次々に内容が書き変わっていった。何の薬なのか分からなかったが、その本数がだんだんと減っていったのだ。他のページでも同じようなことが何度も起こった、どの薬も次第にその数を減らしていったのだ。そんな状態の黄金の本を見て僕は思った、これはただの記録を残す本ではなかったのだ。これは現在進行形で動いている薬品庫の目録だったのだ、あのエテルノのダンジョンにある薬の全てを管理する本だった。

「もしかしてエテルノのダンジョンから、誰かが外に薬を持ち出すと数が減る、そういう仕掛けなのか!?」

 僕はその黄金の本の仕掛けに気づいて、慌てて後の方のページから目的の物を探しはじめた。エリクサーは最も重要な薬の一つだろうから、その数が管理されて書いてあるのなら最後の方に違いなかった。そうして僕が最後のページを見てみると、確かに最後のページにエリクサーと書かれていた、その本数は残りたったの1本だった。僕はそのエリクサーの数を見て物凄く焦った、今すぐにエテルノのダンジョンに行きたくなった。

「いや駄目だ!! ……もう今日は時間が遅い、今からエテルノのダンジョンに行って、そして無事に帰ってくるのは無理だ」

 だから僕は深呼吸を何度かして自分を落ち着かせた、とにかくエリクサーが必ず1本は残っているのだ。カイトのような余程の幸運に恵まれない限り、そのエリクサーを見つけるのは難しいはずだった。だから焦るなと自分に言い聞かせた、焦ってあの危ないエテルノのダンジョンに、やみくもに飛び込むのは危険だからだ。そして、黄金の本をもう一度最初から最後まで目を通してみた。

 そうしたら表紙の裏に描かれている模様に気がついた、それはよく見てみると地図だったが一体どこの地図だろうか、そんなのは決まっているエテルノのダンジョンの地図だった。でもエテルノのダンジョンは入る度に姿を変えるダンジョンだ、地図なんか役に立たないというのがカイトの話だった。でもそれが間違っていたとしたら、実はエテルノのダンジョンには地図があるとしたら大変な話だった。

「僕たちはエテルノのダンジョンに行くたびに、異世界に飛ばされているんじゃない、どこかの別の場所に古代遺跡がきっとあるんだ」

 黄金の本の裏表紙にある地図は広い一つの大きな島になっていた、だがよく見てみると今まで僕たちが作った地図、エテルノのダンジョンの地図にあてはまる箇所がいくつもあった。僕たちは毎回違った異世界に飛ばされていると思っていたが、いいやその推測は間違っていてそうではないのだ。僕たちは同じ世界のどこかにある別の島に『転移』していた、実はエテルノのダンジョンにはしっかりとした地図があったのだ。

「今までエテルノのダンジョンという場所に、バラバラな入り口から毎回そこに入っていた。だから誰もそこが同じ世界だとは考えなかった、そこの正確な地図を作ろうとしなかったんだ」

 これは今までの考え方を覆す大きな発見だった、この黄金の本を見つけて本当に良かった。そうでなければエテルノのダンジョンは異世界に繋がるダンジョン、そう勘違いをしていたままくじ引きのような薬の捜索を続けていたはずだ。それが今度は話が全て変わってくる、この地図を元に動くことができたなら、少なくとも同じ場所を探すという間違いをしなくてすむのだ。

「ソアン、ちょっと聞いてくれ。大事な話なんだ!!」
「リタ様!? はい、何でしょうか!!」

 僕は慌てて裏庭にいるソアンを呼びにいった、そうして今までの仮説をソアンに話して聞かせた。ソアンはしばらく驚いていたが、実際に数が変わっていく黄金の本をみて、その裏表紙に描かれた地図を見てからようやく理解してくれた。これからはこの地図を元にエテルノのダンジョンを少しずつ探していく、いろんな建物も描かれていたからそういった場所を中心に探した方が良さそうだった。

「ソアン、これで少なくとも同じ場所を探すということはなくなる」
「はい、リタ様。これは凄い本です、物凄い発見です!!」

「明日からまたエテルノのダンジョンに行こう、この地図と比べてみながらエリクサーを見つけるんだ」
「残り1本のエリクサーですね、ですが運だけの勝負ではなくなりました」

「ああ、丁寧に調べていけばいつかは見つかるはずだ。誰かに先をこされることだけが問題だけど」
「それもまた運です、精一杯やって見つからなければ、私たちはエリクサーとは縁が無かったのです」

 ソアンと明日のことを話しあって僕らは夜までは鍛錬して、そうして早めに眠りにつくことにした。だがなかなか興奮して眠れなかった、その夜の短い夢の中では誰か別の人がエリクサーを持っていく、そんな嫌な夢を何度も見て目が覚めてその度に眠りなおした。そうして、翌日は最悪だった。僕の病気がまたでてしまったのだ、体が鉛のように重かった。起きてエリクサーを探しに行きたいのに、僕の体はちっとも僕の思いどおりには動いてくれなかった。

「落ち着いてください、リタ様。」
「分かっている、ソアン。こんな状態ではエテルノのダンジョンには行けない」

「ええ、でもそんなに落ち込まないでください、これは焦るなという森の導きかもしれません」
「そうかもしれないけど、やっぱり僕は自分のことが情けないよ」

「リタ様はご立派です!! 黄金の本をほぼ解読しました!! エテルノのダンジョンの秘密にも気がつきました!!」
「そうなんだけどね、今の僕は自由に動ける体が欲しいよ。ソアン」

 誰かに焦るなと言われているような気がした、確かに今の僕は心はすごく興奮していて、うっかりすると簡単な罠にでも引っかかりそうだった。僕の病気の症状が出たらできることはほとんどない、体が動かせないから何もできないし、心のほうも思考力が鈍っているから良い考えはでてこないのだ。大体がこういう時の僕は悲観的に考えてしまうのだった、きっとこうして僕が動けないでいるうちに、どこかの誰かがエリクサーを手に入れてしまうのだ。

「エリクサーを手に入れられなかったらどうしようか、ソアン」
「何も変わりません!! リタ様はゆっくりと休んでお心を治せば良いのです!!」

「ソアンがそう言ってくれると、なんだかエリクサーも大した薬じゃないみたいだよ」
「何千年か何万年か前のお薬です!! 今も効果があるのかは分かりません!!」

「ふふふっ、そうか。そうだね、そうかもしれないね。ソアン」
「ええ、リタ様。決して焦る必要はないのです」

 ソアンが落ち着いて僕の話し相手をしてくれたから、僕は体は動かなかったけどやたらと焦る気持ち、そんな厄介な感情は随分と落ち着いてしまった。そうエリクサーが手に入らなくてもいいのだ、その時は僕自身の回復力を信じて、ゆっくりと休んで心の病気を治していけばいいのだ。なにもエリクサーが見つからなければ死ぬ、僕はそんな恐ろしい病気ではないのだからいいのだ。

 それから7日間も僕は動けなかった、仕方がないので黄金の本を時々眺めながら過ごした。幸いなことに最後のページにあるエリクサーの数が変わることはなかった、つまり僕たち以外の誰かがエリクサーを手に入れてはいないのだ。この本の良いところはもう一つあった、エリクサーらしきものを見つけた時に、その『鑑定アプレイゾル』を誰に頼めばいいのか悩んでいたのだ。

 だがこの黄金の本があればエリクサーを持ち出したら分かる、その残りの数が0になったら持ち出したその薬がエリクサーなのだ。そうなったら誰か信頼できる人物に『鑑定アプレイゾル』して貰えばよかった、そうして貰えば冒険者ギルドなどで騒がれることもなく、見つけたエリクサーを領主など貴族に狙われる心配もなくなるのだ。

 特に領主の長男であるフォルクなどは難癖をつけて、僕たちからエリクサーを取り上げかねなかった。その心配が少しだけ減ったというわけだ、少しだけ重いけれどもこの黄金の本は手放せなくなった。

「あとは全ては運任せか、……僕はあまり運は良くないんだけどね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天使の住まう都から

星ノ雫
ファンタジー
夜勤帰りの朝、いじめで川に落とされた女子中学生を助けるも代わりに命を落としてしまったおっさんが異世界で第二の人生を歩む物語です。高見沢 慶太は異世界へ転生させてもらえる代わりに、女神様から異世界でもとある少女を一人助けて欲しいと頼まれてしまいます。それを了承し転生した場所は、魔王侵攻を阻む天使が興した国の都でした。慶太はその都で冒険者として生きていく事になるのですが、果たして少女と出会う事ができるのでしょうか。初めての小説です。よろしければ読んでみてください。この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも掲載しています。 ※第12回ネット小説大賞(ネトコン12)の一次選考を通過しました!

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...