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3-26異世界への誘い

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「あたしが黒木真美と申します、どうか皆さま。あたしが日本に帰る為にお力をお貸しください」

 そう言って深く頭を下げたその女性に悪意は無さそうだった、ただ本当に自分がいた異世界に帰りたいのだと彼女は訴えた。この世界にきてユヴェリーアに拾われて命が助かったが、そうでなければ自分は死んでいたはずだった。早く安全で自分の世界であるにほんという国に帰りたいと彼女は言った、その為に力を貸してくれる俺たちに深く感謝するとも言った。

「マミと呼んでください、あたしはとにかく日本に帰りたい。その為ならこっちの世界で稼いだお金を用意できるだけ払います、ですからどうかあたしを日本に返してください」
「ユヴェリーアから話を聞いて、貴女をにほんへ返す魔法を使います。待ち遠しいでしょうが、もう少しだけお待ちください」
「魔法の習得に時間がかかるの」
「初めての大魔法だからな」
「慎重に行う必要があるでしょう」

「はい、あたしは待ちます。どうか無事にあたしを日本へ返してくださいませ。おや、そこのお嬢さんは日本人じゃないですか、貴女も日本へ帰るためにここへ来たのですか?」
「いや、アクアはこの世界が気に入っていて、この世界に残るんだ」
「アクアはシエルとずっと一緒にいるの!!」
「このチビにとってはにほんより、こっちの世界がいいんだとよ」
「アクア様はもうすっかりこちらの世界に、慣れていらっしゃるのです」

「そうですか、でもできればあたしと日本の話などしてください。あたしはもう帰りたくて、帰りたくて堪らないのです」
「貴女がにほんへ帰りたい気持ちはよく分かりました」
「……日本の話だけならしてもいいの、でもアクアは絶対にシエルと一緒にいるの!!」
「まぁ誰だって故郷には帰りてぇよな」
「ええ、僕も故郷の村にいずれ帰ります」

 その日から俺とレンはユヴェリーアに教えて貰って、異世界へのゲートを開く大魔法の練習を始めた。この大魔法を使っている間は他の魔法は使えなかった、それに魔法を使っている間もどんどん魔力を使うので、異世界へのゲートを開いていられるのは僅かな時間だった。俺はこれは世界の大きな力の触れる魔法だから、リッシュにペンダントに入れた『愛の涙』を預けておいた。

「なかなか難しい魔法だな、三人の息が合わないと発動もできない」
「確かに難しい魔法だぜ、でも俺様にできないわけがねぇ」
「お二人とも同じくらいの力で魔力を使ってください、そうしないと異世界へのゲートが開けません」

「異世界へのゲートをくぐると何があるんだ、もう異世界なのか?」
「いや俺様が聞いた話だと確か違うぞ」
「そのとおりです、異世界へのゲートをくぐると時の道に出ると言います」

「時の道? 異世界じゃないのか?」
「その入り口じゃねぇか?」
「その通りです、異世界への入り口です。その人間が過ごしたいろんな時、その入り口が無数にあると言います」

 そうやって俺たち三人は異世界へのゲートを開けようと魔力の調節をしていた、そうして開いた異世界へのゲートの先には時の道があることも分かった。異世界まではいかずに時の道で引き返した者の話によると、真っ白な空間の中に無数の異世界へのゲートがあって、いろんな違う時が流れているそうだ。俺はそんな異世界へのゲートを不思議に思い、それからいろいろとユヴェリーアに詳しいことを聞いておいた。

「アクアさんはもう十四歳?」
「そうなの、こっちの世界に来てから四年経つの」

「あたしもこっちの世界に来てからそのくらい経つわ」
「そんなに日本に帰りたいの?」

「ええ、帰ったらまず子どもを一番に抱きしめるわ」
「子どもがいるの? 何人いるの?」

「アクアさんみたいな女の子が一人だけいるの、反抗期だから少し離れていたけど、今はあの子が懐かしくて堪らないわ」
「アクアは家族には未練は無いの、お父さんはアクアを助けてくれなかったし、お義母さんはアクアのこといじめたの」

「まぁ、何て酷い!!」
「だから、アクアはこっちの世界の方が好きなの」

 俺たちが異世界へのゲートを開く魔法の練習をしている間、アクアとマミという女性は仲良くなったようだった。同じにほんの人間でしか分からない話もあったのだろう、マミはアクアのことを大切な娘のように可愛がった。アクアも優しくしてくれるマミに懐いていた、そうしていると二人は親子のようだった、リッシュは一人でそんな二人を見守っていた、俺の大切なアクアに何か起こらないか警戒してくれていた。

「それじゃ、とうとう明日。異世界へのゲートを開くことになった」
「マミさんともお別れなの、ちょっとだけ寂しいの」
「しかし難しい魔法だぜ、上手くいくといいけどな」
「私が当日は護衛致しましょう、何者にも邪魔はさせません」

「ユヴェリーアもマミと別れるんで寂しそうだったな」
「マミさんがこっちの世界に来てから、彼女はずっと一緒にいるんだって」
「女の友情ってやつか、それでもにほんとやらに帰りてぇのかよ」
「故郷はやはり特別ですから、マミという人間にとっては友人より大事なのでしょう」

「アクアは俺と一緒にいるよな?」
「もちろんなの、アクアはシエルとずうっと一緒なの」
「ふーん、友人と別れて帰りたがる奴もいるし、そうじゃねぇこともあるんだな」
「大切なものは人それぞれです、それは別に責められることではありません」

 そうして俺たちは眠りにつくことになったが、アクアが俺にしっかりと抱き着いてきていて可愛かった。アクアは元の世界に帰ることよりも俺と一緒にいることを選んでくれた、できるなら俺を伴侶に選んで欲しかった。俺はアクアはまだ妹、まだ子どもと自分に言い聞かせて眠りについた。でもアクアの温かい体から手を放したくなかった。

「いいかい、人間を簡単に信用しないこと。それにあたしの財産を片付けたら、ユヴェリーアは元いた縄張りにすぐに戻るんだ。いろんな人間がドラゴンであるあんたを狙っているんだから、それじゃあ元気でいておくれ。あたしがこの世界に着て最初出会ったのがユヴェリーア、あんたで本当に良かったよ」
「ええ、マミ。私も貴女に出会えて本当に良かった、とても楽しい四年間でした」

 そうして翌日のことだった、マミの屋敷の中でも大きな広場で異世界のへゲートを開くことになった。マミはいろんなことを友人であるユヴェリーアと話していた、人間を簡単に信用しないこと、マミの残った財産を片付けたら、早くユヴェリーアの縄張りに戻ることなどを話していた。それからマミとユヴェリーアは抱き合って別れを惜しんでいた、ユヴェリーアは泣いていた。

「それじゃ、用意は良いか? レン、ユヴェリーア」
「ああ、俺様はばっちりだ」
「私ももう用意はできている」

「それなら魔法を発動しよう」
「全員で力を合わせてだな」
「はい、そうしましょう!!」

 俺とレンとユヴェリーアは三方に分かれるように立った、その三角形の真ん中にゲートが開くはずだった。マミは最後までアクアと何か話をしていた、レンは少し離れたところから邪魔者が現れないか見張っていた。そうして俺たち三人の力を合わせた大魔法がはじまった、最初はお互いの魔力を合わせるところからはじまって、それができるととうとう異世界へのゲートが開かれた。

「『開け異世界への門オープンザゲートアナザーワールド』」

 そうしたらマミは飛び上がって喜んだ、俺たちは魔力を上手くつかって、この異世界のゲートを維持していた。その時だった、マミが嫌がるアクアを抱えて、異世界へのゲートに飛び込んだのだ。俺はアクアの悲鳴が聞こえたが一歩も動けなかった、リッシュもアクアを助けに行こうとしたが、俺に預けられたペンダントがあったから中には入れなかった。

「嫌ぁ!! アクアはシエルと一緒にいるの!! これをリッシュ!!」
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