上 下
77 / 90

3-17離れ離れになりたくない

しおりを挟む
「ここはもう危険だ!! 早くアクアたちに伝えて逃げよう!!」

 俺はそう状況を確認するとすぐにアクアたちに合流した、バールゲルト国側の街の外壁に敵が押し寄せてきていた。まだ中には入られていないが、早くこの街を出ないと戦争に本格的に巻き込まれる恐れがあった。俺が空から舞い降りると真っ先にアクアに抱き着かれた、そんな可愛いアクアを抱きしめてから俺は今の状況を皆に伝えた。

「レン様にドラゴンになって貰い、乗せてもらって逃げるのはどうでしょう」
「『隠蔽ハイド』の魔法じゃ、ドラゴンの強い気配を消せない、それは最後の手段だな」
「……シエル」
「俺様は嫌だぜ、人間同士の争いごとはどうでもいいけど、ドラゴンが敵に背中を見せて逃げるなんて恥だ!!」

「それなら街の外壁は『浮遊フロート』と『隠蔽ハイド』の魔法を使って乗り越えて……」
「そうだ、リッシュ。そこからは『飛翔フライ』と『隠蔽ハイド』の魔法で逃げるのが一番良い」
「『飛翔フライ』の魔法はシエルが一番上手く使えるの、レンも一応使えるの。でもアクアは使ったことがないの」
「リッシュは使えなかったよな、それじゃ俺様とシエルとで『飛翔フライ』と『隠蔽ハイド』の魔法を使うか」

「それではそれぞれの体重を考えてシエル様が僕を、レン様がアクア様を『飛翔フライ』で連れて飛んで頂きましょう」
「この戦場から早く逃れるにはそれしかないな。レン、アクアのことを頼んだぞ」
「……シエルと離れるの嫌なの、……でもそれしか今は方法がないの」
「おお、チビ偉いじゃねぇか。一応ってな、俺様もシエルと同じくらい速く飛べるさ。チビを絶対にシエルのところに帰してやるぜ」

 そうして皆の意見をまとめた俺たちはまずは街の外壁を、『浮遊フロート』と『隠蔽ハイド』の魔法を使って乗り越えた。それから近くの森にいってそれぞれが黒いローブを被り、念の為に顔も隠して空へと飛び立つことになった。離れる前にアクアは俺に一度だけぎゅっと抱き着いてきた、俺もアクアの無事を祈ってしっかりと抱きしめた、そうしてアクアを親友のレンに託した。

「行くぞ、リッシュ。『隠蔽ハイド』と『飛翔フライ』!!」
「シエル様、アクア様たちに合わせて飛んでください」

「アクアとレンも行くの」
「おうチビ、心配すんな俺様が守ってやるぜ。『隠蔽ハイド』と『飛翔フライ』!!」

 こうして俺たちは戦場近くの森から空へと舞い上がった、目的地はとりあえず戦場から離れる必要があったので、近くにある第三国のフラワーリング国の街にしていた。俺が先頭になってアクアたちから離れ過ぎないように飛んでいった、飛んでいる間に横を向けば戦場を見ることになった。焼け焦げている荒野や傷だらけの岩と大地、それに沢山のボロボロになった遺体が地を埋め尽くし、それを踏み越えて敵国の人間がさっきまでいた街を襲おうとしていた。

「アクア!! レンにしっかり捕まって、戦場の方は見るな!!」
「うん!! 分かったの!!」

 アクアは必死に戦場から目をそらしていた、レンもアクアのことをしっかり抱きしめて、そちらを見せないようにしていた。レンの『飛翔フライ』は良く魔法制御ができていた。俺は決してアクアを置いていかないように飛び、絶対にアクアとレンの二人を置いて飛び過ぎたりしなかった。そうして昼になるまで飛び続けたら国境を越えていたその時だった、崖の隙間を飛んでいた俺たちはワイバーンの群れに襲われた。

「レン、アクアを頼んだ!! アクア、絶対にレンから離れるな!!」
「シエル様、奴らがきます。『風斬撃ウインドスラッシュ』!!」

 俺とリッシュに近づいてくるワイバーンは、リッシュの『風斬撃ウインドスラッシュ』で切り裂かれて空から落ちることになった。とはいえどうしようもないことに数が多過ぎた、俺はアクアたちを見守りながら飛ばなければならなかった。だからワイバーンへの攻撃はリッシュに任せて、俺はアクアたちを見失わないように努めた。

「『聖なる守りホーリーグラウンド』!! シエル!? レン、シエルたちから離れないで!!」
「そうしてるぜ!! でもちょっとこのワイバーンの数は厄介だ!!」

 俺たちは全部で五十を超える数のワイバーンに一斉に襲われたのだ、アクアは攻撃の初級魔法しか使えなかったから、防御だけに専念して『聖なる守りホーリーグラウンド』の魔法でレンと自分を守った。とはいえそれでは一時的な防御しかできず、敵の数が減っていかなかった。俺とリッシュは賭けに出ることにした、レンになるべく俺たちの傍に来てもらってからそうした。

「皆様、風の反動にお気をつけください!! 『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの暴風撃ストームアタック』!!」

 リッシュが風の上級魔法を使ったのだ、広範囲の風の上級魔法はやすやすと、ワイバーンたちの体を切り刻んだ。俺とレンは反動の風がくるから『飛翔フライ』の魔法制御に精一杯に力を使っていた。リッシュの生み出した暴風の嵐はこっちにまで影響を及ぼした、そうして俺は見たレンの魔法制御を突破して風がアクアたちを飲み込むのを見た、レンとアクアはそうしてワイバーンたちと共に下へと落ちていった。

「アクア――!! レン――!!」

 俺は『飛翔フライ』の魔法を制御して、しばらく風の嵐がおさまるまで待った、そしてアクアたちの後を追って下へと落ちるように飛んだ。大丈夫、大丈夫だ。レンはきっとアクアを守ってくれる、そうレンはとても強いドラゴンなんだ。俺は自分に言い聞かせるようにそう思い続けた、リッシュも俺に落ち着いて飛ぶようにと注意してくれた。崖の下は川になっていた、そうして俺たちより先に落ちたはずの、アクアとレンの姿はどこにも見えなかった。

 この崖の隙間はワイバーンたちの巣だったのだ、そんなやつらは無視して俺たちはアクアとレンを必死に探した。ここは川から外れた水場があるからか蚊が多くて、空を飛んでいる俺たちにも群がってきた。しかしどこにもアクアとレンは見当たらなかった、俺はアクアやレンが死ぬはずが無いと思った。アクアは防御の上級魔法まで使える賢い俺の大切な家族だ、それにドラゴンであるレンは強くて優しい俺の親友だ。

「シエル様、大丈夫です。レン様はドラゴンです、決してこの程度で死ぬわけがない。だから、アクア様もきっと無事です」
「ああ、リッシュ。そうだ、そのとおりだ。川に流されたのかもしれない、下流を探してみよう」

 だからもし二人が川に流されたなら、下流を探すべきだと思って俺たちは『飛翔フライ』の魔法で低く飛んでいった。ワイバーンたちの巣があっても、低く飛んでいる間は襲われなかった。そうしてとうとう海まで出てしまった、だがそこまで探してもアクアとレンの姿は見つからなかった。俺はアクアのことを想うと心臓が痛くなった、親友であるレンを信用していたが、できればアクアは俺自身で守ってやりたかった。

「シエル様、もう日が暮れます。夜の空を飛ぶのは危険です、どこかに降りて休息をとってください」
「リッシュ、アクアやレンは無事かな? きっと無事だよな?」

「もちろん無事ですとも、レン様は誇り高きドラゴンですよ!! きっとアクア様をお守りしています」
「ああ、そうだな。ちょっとだけ休もう、さすがに俺も疲れた」

 そうして俺たちは海の近くの砂浜へと降りた、そこに簡単に天幕をリッシュが作ってくれた。その中で俺は眠ろうとしたが、アクアたちのことを思うと睡魔がやってこなかった。明日もアクアやレンを探して俺は飛ばなければならなかった、なのにどうしても眠ることができなかった。そんな俺を見かねてリッシュが俺に魔法を使った、『眠りスリープ』の魔法を使ってどうにか眠らせてくれた。

 それでやっと俺は眠りに落ちることができた、夢の中ではアクアやレンの姿を見た。俺はその二人を一生懸命に追いかけたが、二人に追いつくとそれは俺の手の中で砂になった。そうして砂がどんどん増えてきて、俺の足元まで埋まってしまった。もう俺はここから動けない、大切なアクアを助けることもできないし、親友のレンを探すこともできなかった。

 そんな恐ろしい夢を見て、俺は翌日飛び起きた。もうリッシュは起きていて、ちょうど朝日が顔を出すところだった。俺はその太陽の光を見て母さんを思い出した、母さんはいつも朝起きたら世界の大きな力と接続して、その日を生きていくための力を貰っていた。それならばレンもそうではないだろうか、俺は苦手だったが世界の大きな力と繋がってみた。

”レン、どこにいる? アクアも無事か?”
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

「声劇台本置き場」

きとまるまる
エッセイ・ノンフィクション
きとまるまるが書いた「声劇台本」が投稿されている場所です。 ーーー利用規約↓↓ーーー ・ここに置いてある台本は自由に使っていただいて構いません。どこで使っていただいても構いません。 ・使用する際の許可は必要ありません。報告していただけたら、時間があれば聴きに行きます。 ・録画や録音を残していただいても構いませんが、どこかにアップロードする場合はお手数ですが一言ください。 ・使用する場合、「台本名」「作者名」をどこかしらに記載してください。広めてください。 ・「自作発言」とか「過度な改変」などはしないでください。 ・舞台やドラマCD等で台本を使用する場合は、一度ご相談ください。(有料公演やイベント販売等、利用後に利益が発生する場合は、台本使用料をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。 ※投げ銭で利益が発生するアプリなどで使用する場合は、利用規約を守っていただけるのであればご相談なく使用していただいてかまいません。台本使用料も、今のところいただく予定はありません。 ・男性キャラを女性が演じるなど、違う性別で演じることはOKです。ただし、必ずキャラクターの性別で演じ切ってください。キャラの性別転換はNGです。(不問キャラは性別転換OK) ・「アドリブ」に関しては、使用してる台本の世界観が壊れない程度のものでお願いします。過度にやられると自分の作品をぶち壊されてる感じがして聞いてて悲しくなります。 ・連絡は、作者のTwitterのDMまでよろしくお願いします(@kitomarumaru) ーーーーー

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

処理中です...