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3-16自分の気持ちが分からない

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「アクアがシエルといられる時間は短いの、だからアクアは大好きなシエルとずうっと一緒にいたいの!!」

 そう言うとアクアは俺より先に宿屋の部屋に帰ってしまった、いつものように三人部屋だったのでレンやリッシュがアクアを見て驚いていた。アクアは凄く怒っていた、いや悲しんでいたのかもしれなかった、確かに俺はドラゴンでアクアは人間だった。それにいずれアクアは誰かと結婚するだろうから、俺たち二人が一緒にいられる時間は限られていた。

 俺はそこまで考えていなかった、ただアクアが俺と同じくらいの背丈に成長したから、ベッドを別けようと単純に考えていた。俺はなんだか驚いているレンとリッシュに喧嘩しちゃったと合図した、それで二人は何となく空気を察して納得したようだった。アクアは先に俺と寝るベッドに入ってしまっていた、頭まで布団を被っていたからまだ怒っているようだった、俺はそうっとアクアと同じベッドに入った。

「アクア、ごめんな」
「………………」

「アクアのことが嫌いになったんじゃないんだ、また俺は少し変な気を使って間違えたんだ」
「…………手を」

「うん、アクア。どうした、手を?」
「シエルがアクアの手を握って離さないなら、アクアはシエルをもう許してあげるの」

 俺は布団の中でそう言って手を差し出して、ふるふると震えているアクアを見た、アクアは俺に嫌われていないか確かめるように不安そうな顔をしていた。俺はその手をしっかりと握ってそれからアクアを抱きしめた、俺にとってこんなに可愛くて愛おしい女の子は他にいなかった。アクアもぎゅっと俺を抱きしめ返してくれた、どうしてこんなにアクアが愛おしいんだろう、俺は最初に会った頃を思い出したが分からなかった。

 ただアクアは俺にとって大切な家族だった、絶対に手放したくない家族だった、でもアクアの意志は尊重してやりたかった。だからアクアが俺と離れるなら、俺としてははかなり寂しかったが、アクアから離れるつもりだった。でも今の俺はそれが本当にできるのか分からなくなった、だって俺の腕の中にいる震えるアクアがとても可愛かった。そんなアクアを抱きしめているだけで、俺は彼女がとても愛おしいと思えたからだった。

 以前にもこんなことを考えたことがあった、アクアは今では俺の心の中であかり姉さん以上になっていた。そうあの特別な人だったあかり姉さん以上に、俺にとってとても大切な人になっていたのだ。この温かい気持ちを何というのだろうか、アクアのすることなら何だって許せるような気がした、逆にアクアが望まないのならその願いを全て叶えてやりたかった。それくらい俺の腕の中の温かい少女が大切だった、そうして抱きしめるとアクアが嬉しそうに笑ってくれたので、俺は胸が切なくなるくらいアクアが愛おしくてたまらなくなった。

「アクアはこれからずっと、俺と一緒にいてくれるか?」
「うん、アクアはずうっとシエルと一緒」

 そうしてアクアからまた抱きしめられた時、俺は心のどこかがストンッと落ちたような気がした。俺の心がどこに落ちてしまったのかは分からない、ただアクアと俺がずうっと一緒にいるのが当たり前だと思った。アクアの意志ですら俺は大事にしてやれそうになかった、アクアが見ているのは俺だけで良かった。もしアクアがもっと大きくなって誰かを好きになる、そうしたら俺の心臓は止まってしまうかもしれないと思った。

 そんな馬鹿なことを俺は思ったけれど、嬉しそうに幸せそうに俺の腕の中で笑っているアクアを見たら、本当にアクアが離れて行く時には俺は死んでしまうかもとしれない思った。逆にアクアが一緒にいてくれたら、そうしたら何だってできる気がした。俺はアクアの為にどんなに強い敵とだって戦うつもりだったし、アクアが俺に何か望むのならなら何でもしてあげたい、そんな気持ちでいっぱいになって俺は心が苦しいくらいだった。そんなことを感じながら俺は眠りに落ちた、そうして夢の中でも俺とアクアは仲良く一緒にいた。

「というわけだが、俺は何か変な病気なのかな? レン、リッシュ」
「そこまで気づいてて、なんで分っかんねぇーのかお前は!?」
「シエル様も初めての感情なのでしょう、どうか落ち着いてください。レン様」

「アクアの意志を大事にできない、そんな俺は保護者失格だと思うんだ」
「いや、違ぇよ!? 俺様にだって分かるぞ、それは全く違ぇよ!?」
「そうですよ、シエル様はアクア様の最高の保護者です、代わりはどこにもいない保護者です」

「そうかな、それならやっぱりアクアの意志を最優先にしてあげたい。でもそれで俺とアクアが離れるのは嫌なんだ、やっぱり俺はどこか頭か心が変になったのかな?」
「もう嫌だ、こいつは俺様の手におえねぇ」
「いえ、レン様。ご自分で気がついている分、シエル様はご立派だと思います」

 俺は何だかもやもやした気持ちがして、自分のアクアへの気持ちが矛盾していた。だからレンやリッシュに相談してみたのだが、レンからは呆れた目で見られるようになった、リッシュからは微笑ましい視線を注がれるようになった。”私のように友愛と恋情を間違えては駄目よ”、そう俺は以前に会った女性が言ったことを思い出した、俺はアクアに友愛ではなく恋情を抱いているのかとも考えた。

「自分で気づきやがれ!! そうでないとチビが可哀そうじゃねぇか!?」
「ええ、いつか自然に分かることなのです、今はまだその時が来ていないんです」

 レンやリッシュはこう言ってくれた、俺はそれともやっぱり自分のの気持ちが、恋情ではなく友愛なのかと思って悩んだ。それに俺はアクアとまだ交尾をしたいとは思えなかった、それが発情期がきていないからなのか、アクアが大人になっていないからか分からなかった。そうだアクアはまだ大人にもなっていないのだ、だから俺はひとまずこの気持ちを考えないようにしようとした、アクアはまだ子どもなのだから俺の大人の感情を押しつけてはいけなかった。

「お姉さんたち、戦争に行くの?」
「ああ、アクアといったね。あたしらは傭兵団、これから戦争に行くのさ」

「怪我をしないで、無事に帰ってきてね」
「ありがとよ、アクア。あたしらはこれが仕事だ、だから心配はいらないよ」

「アクアはアクシスにまた会いたいの」
「あっはははっ、そうだね。また会おう!! アクア、エリュシオンでまた会おうよ!!」

 そう言ってアクシスたち女性の傭兵団は戦争に行った、アクアは心配そうにその出発を見送った。そうしてからもアクアは不安そうにしていた、一時とはいえ仲良くしてくれたお姉さんたちを心配していたのだ。それにアクシスは不思議なことを言っていた、エリュシオンとは一体何だったのか、俺は今までに読んだ本での知識を思い出してみた。

「エリュシオンとは死後の楽園だ」
「シエルどういうこと?」

「アクア、アクシスは天国でまた会おうと言ったんだ」
「アクシスは死んじゃうの!?」

「いやそれは分からない、俺にも分からないよ。アクア」
「どうして戦争なんてするの、アクアにも分かんない」

 アクアはそう言ってアクシスという女性の為に涙を零した、俺はそんなアクアを抱きしめてやることしかできなかった。アクシスは領主から雇われた傭兵たちだった、傭兵というものはいつも死を覚悟しているのかもしれなかった。いや深く考えればここメティエ国が負けそうなのかもしれなかった、アクシスはそれをそれとなくアクアにいや俺たち全員に、こっそりと戦況を教えてくれたのかもしれなかったのだ。

「皆、俺がちょっと戦場を見てくる。アクアのことを頼む」
「シエル!! アクアも一緒に行く!!」

「アクア今度は大丈夫だよ、レンやリッシュが一緒にいてくれる」
「でもシエル!! やっぱり危険なの!!」

 俺はできるだけ不安を隠して平気なふりをした、実際に『飛翔フライ』と『隠蔽ハイド』を一緒に使えばほとんど敵に見つかる恐れはなかった。だからアクアをぎゅっと抱きしめて安心させてから、俺はこっそりと魔法を使いそっと空へと舞い上がった。そうして俺は見た、焼け焦げて荒野になってしまっている大地を、この街を守ろうとして死んでいった人間たちの無残な遺体を、何より大勢の敵側の人間がこの街に押し寄せてきているのを見た。

「ここはもう危険だ!! 早くアクアたちに伝えて逃げよう!!」
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