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3-07いつまでも遊んではいられない

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「シエル、あの子とっても綺麗。まるで、人間じゃないみたい」
「ああ、本当だな。とても綺麗な男の子だ」

 俺たちは見たのはとても綺麗な男のだった、服装は普通の村人よりボロボロの服を着ていたが、月の光のような銀髪と青空のような綺麗な青い瞳をしていた。アクアくらいの年齢の男の子で、その子は俺たちに向かって花が咲いたような、とても綺麗な笑顔を見せて話かけてきた。その声さえもとても綺麗な声で、まるで美しい小鳥が喋っているようで、俺とアクアはお互いにちょっとだけ驚いた。

「こんにちは、商人さん。僕はセレーノ、そこの女の子と遊びたいんだけど……、駄目かな」
「ああ、アクアとか。アクア、どうする?」
「アクアはシエルの手伝いをするの」

「お願いだよ、僕と遊んでくれる子が他に誰もいないんだ」
「村の他の子どもと遊ばないのか?」
「お友達がいないの?」

「どうしてだろうね、僕のことを皆が無視するんだよ。だから、僕と一緒に遊ぼうよ」
「アクアはどうしたい?」
「うーん、それなら……」

 そうしてアクアがセレーノの誘いに頷きかけた瞬間だった、リッシュが突然アクアに近づいてその口を塞いでしまっていた。そうしてリッシュは険しい顔でセレーノを見ていた、その目が何を見ていたのかは俺に分からなかった。だが俺にもその瞬間何かとても嫌な予感がした、アクアの意志は尊重してやりたかった。だがこの世のものとは思えないこの美しい男の子、そのセレーノに向かってアクアに簡単に返事をさせたくなかった。

「アクア、この子と遊ぶなら夜になる前に、絶対に俺たちのところに帰ってこい。これは約束だ」
「うっ、うん、分かったの。シエルとアクアは約束する、絶対に夜までには帰ってくるの」
「アクア様、シエル様との約束をお守りください。それからあの子とどんなに楽しく遊んでも、決して何か約束をしないでください」

「そうだ、アクア。リッシュの言う通りだ、あの子と絶対に約束をするな」
「うっ、うん、分かったの。シエルとアクアは約束する、絶対にあの子とは約束しないの」
「できればお早めにお帰りください、あの子の機嫌をなるべく損ねないようにするといいでしょう」

「それじゃ、アクア。行ってこい、でも約束は絶対に忘れるな」
「うん、分かった。ありがとう、シエル、リッシュ」
「いいえ、大したことではございません、先ほどは口を塞いでしまってすみませんでした」

 それからアクアはセレーノと一緒に遊びに行った、とはいってもアクアも何か感じることがあったのか、俺たちの視線の届く範囲で二人は遊んでいた。俺はその間にリッシュに確かめたいことがあった、俺が感じた悪い予感とは何だったのか知りたかった。だから俺はこっそりと買い物客が来る合間に、リッシュに何故あの時アクアの口を塞いだのか聞いてみた。

「リッシュ、俺も悪い予感がしたからアクアに約束させた、だがこれで良かったのか?」
「シエル様がされたことはとても賢明なことでした」

「あのセレーノという少年は何なんだ?」
「今はまだ確実なことは言えません、でも僕は友人のエルフとの付き合いがある、だからあの気配をよく知っています」

「あの気配とは?」
「………………」

 俺が聞いてみたがリッシュもそれ以上は答えなかった、まだリッシュも自信があることではなかったようだ。俺はアクアと楽しそうに遊んでいるセレーノという少年をよく見た、人間じゃないほど美しい以外はごく普通の少年に見えた。アクアと一緒になって一生懸命に遊び、そしてセレーノは楽しそうに笑っていた。それは普通の村のどこにでもある風景、そうとしかその時の俺には見えなかった、俺はレンから少しだけからかわれた。

「何だよ、シエル。チビに浮気されたのか?」
「レン、アクアはただ無邪気に遊んでいるだけさ」

「でもあのガキ、なんっか変な気配がすんな」
「レンにも分かるのか?」

「ああ、あれはなんだっけ? 思い出せないけど俺様が知ってる気配だ」
「レンも知っている気配」

 俺は今まで感じたことのない気配だった、上手くは言えないがあのセレーノという少年は違う、どうしても違和感がしてならなかった。アクアとセレーノという少年は仲良く遊んでいたが、他にもいる村の子どもたちはアクアたちと遊ばなかった。買い物に来る客の中にも遊んでいるセレーノの姿を見て、その顔を露骨にしかめる者もいたくらいだ。俺は思い切って買い物客にも話を聞いてみた、どうしてセレーノのことを皆が避けるのか知りたかった。

「あの子はこの村の本当の子じゃない」
「赤ん坊の頃に本物のセレーノは消えたんだ」
「きっと本物のセレーノはもう死んでる」
「いくら綺麗な顔をしていても、あの子はセレーノじゃない」
「親も可哀そうさ、本物の子はどこにいるのか分からん」

 俺はセレーノの評判を聞いて少し不気味に思った、でもあの子からは違和感は感じるが悪意は無さそうだった。アクアと遊んでいる様子を見る限り、あの子はいくら綺麗でも普通の子に見えた。リッシュはずっと険しい顔をしていた、それにアクアのことが心配なのだろう、リッシュは遊んでいる二人からずっと目を離さなかった。俺もセレーノの笑顔を見る度に不安が増していった、だからアクアが夜になる前にちゃんと帰ってきてホッとした。

「ただいまなの、シエル」
「お帰り、アクア」
「おう、帰ったか。チビ」
「よくお帰りになりました、アクア様」

 アクアは何事もなく俺たちのところへ帰ってきた、どこも怪我をしている様子もなくいつも通りのアクアだった。それから俺は商品を片付けて借りることになった空き家、そこに皆で行って埃っぽいので少し掃除をした。あとはいつも通りのことだった、『魔法マジックの箱ボックス』から食材を出してスープを作り、以前に買っておいた白パンを一緒に皆で食べた。

 夜は家の床に敷き布を敷いて皆で一緒に眠った、そうしたら夜中に雨が降り出した。俺はこれでは明日は出発できないかもしれない、そう思いながらアクアを抱きしめて眠りにおちた。俺の思ったとおり翌日は酷い雨で急いでいる旅でもないから、俺たちはこの雨が止むまではこの村にいることにした。そう村長にも伝えて空き家を借りる代金を多めに支払った、アクアはこの前の国で買った魔法書をレンと一緒に読んでいた。

 リッシュはそんなアクアをまだ心配そうに見ていた、俺はリッシュが何を考えているのか分からなかったが、それがアクアにとって危険なことだったらいつでも戦えるようにしていた。雨はなかなか止まず、俺たちは暇を持て余していた。そうして雨が降り始めて七日経った日のことだった、ドアが四回ノックされたので俺が警戒しながらドアを開けた、するとずぶ濡れになったセレーノという少年が立っていた。

「こんにちは、あの女の子とまた遊びたくて来ました」
「えっとまた遊ぶの? こんな雨の日に? アクアは……」
「大変申し訳ありませんが、アクア様はもう貴方とは遊びません」

「そうなの? どうして? 女の子はそうは言っていないよ?」
「ええと、リッシュ?」
「アクア様、今だけは僕の言うことを聞いて、どうかシエル様のところへ行ってください」

「ねぇ、遊ぼうよ。今日は雨だけどいいのさ、もっといい遊び場所を知ってるんだ」
「ごめんなさい、アクアはリッシュの言う通りにするの」
「お聞きになりましたか、アクア様はもう貴方とは決して遊びませんよ」

「それは残念だなぁ、僕はその女の子が凄く欲しかったのに」
「シエル!!」
「貴方と意見が合わなくて残念です、ですがどうかこのままお引き取りください」

 アクアはいつにないリッシュの厳しい声を聞いて、俺の腕の中に震えながら飛び込んできた、レンも何かがおかしいと思ったのか剣を抜きかけていた。リッシュはあくまでも丁寧にセレーノという少年に接していた、弓を使おうともしないで丁寧にそう目上の相手と話すようにしていた。そのリッシュの態度にセレーノという少年は残念そうな顔しながら、そうしてずぶ濡れのままで雨の中へと戻っていった。

「リッシュ、彼は一体何だったんだ?」
「アクア、凄く怖かったの」
「あれはリッシュ、あれだ!!」
「ええ、皆さま。僕の推測ですが、あの少年は妖精です」

「妖精? 精霊と同じようなものか?」
「あの子は妖精だったの?」
「ああ、そうだ。なんで俺様は気がつかなかったんだ、畜生!!」
「精霊と妖精はよく似ています、この二つは同じものだと言う者もおります。僕の友人が精霊術を使えるから、それで僕はあの少年の気配が人間ではない、そう精霊に近いものだと気づきました」

「もう少しでアクアはあの妖精に攫われるところだった?」
「嫌!! アクアはシエルと一緒にいるの!!」
「そう騒ぐなよ、チビ。もう大丈夫さ、俺たちがいるからな」
「ええ、あの妖精はもう元の世界に戻るはずです、それでアクア様を連れていこうとした。精霊も妖精も気紛れでこちらの理屈が通じない時があります、ですがもう大丈夫だと僕も思います」

 俺はアクアを抱きしめていたが背筋がゾッとした、もう少しでアクアは俺の手が届かないところに攫われていた。リッシュが俺たちと一緒にいてくれて本当に良かった、そうでなかったらもし俺だけだったらアクアを攫われていたかもしれなかった。アクアは本当に危ないところで助かったのだ、俺は震えがおさまらないアクアをしっかりと抱きしめていた。

「取り替え子がいなくなった、うちの本物の息子が帰ってきた!!」
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