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2-19その首を切り落としたい

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「いや、領主さまの軍にかかれば、そんな魔物は簡単に退治できるでしょう」
「既に商人ギルドと冒険者ギルドにも依頼しています、それではよろしくお願いいたします」

 そう言うと領主さまの使いの人は帰っていった、それから商業ギルドに行ってみると本当に俺宛てに、冒険者ギルドではレン宛てに依頼がきていた。俺たちはこの依頼をどう考えて、どうするかを適当な飯屋で昼食をとりながら考えた。何でも相手の魔物は大きなデビルスネークらしかった、毒を吐くこともあって領主さまの軍だけでなく多くの冒険者も討伐に参加するようだった。

 レンもよく考えてくれていた、ドラゴンにとっては魔物と戦うのは日常茶飯事のことだ。だから旅の途中でドラゴンに戻って戦うなら楽勝だった、でも人間として戦うのならデビルスネークの大きさにもよるが危険があった。アクアもいっぱい考えてくれていた、どんなことを考えているのかは分からなかったが、とりあえず可愛いから俺は考えてくれることが嬉しかった。

「それでどうする? アクア、レン。この依頼を受けてみるか?」
「アクア分かんない、いっぱい考えたけど分かんなかった」
「戦ってもいいんじゃねぇか、たかだかデビルスネークから逃げたら恥だ」

「それなら解毒をし続ける為の魔法がいるな、しかも中級魔法でそれができる魔法だ」
「あっ、それならアクア覚えてるから教える!!」
「すげぇなチビ、そうか中級魔法しか使えねぇな。それは……、ちょっとだけ厄介だな」

「そうなんだ、上級魔法の使い手がいればすぐに片付く依頼なんだけどな」
「アクアもいっぱい魔法を使って頑張る!!」
「分かったぜ、チビ。俺たちに解毒の中級魔法を教えてくれよ」

 レンも上級魔法の使い手が国に狙われることくらいは知っていた、だから俺たちはどれだけ大きいのか分からないが、デビルスネーク相手に中級魔法だけで勝たなければならなかった。ちなみにアクアが一生懸命に教えてくれたが、実は俺は解毒の中級魔法をもう知っていた。でもアクアが俺たちの役に立てると嬉しそうだったから、俺は何も知らないふりをして解毒の中級魔法を習った。

「アクアもよく勉強しているな、アクアはやっぱり可愛いな、それに凄く偉いな」
「うん、アクアはまだまだ勉強するの」
「お前さてはもう知って……、まぁいいか。チビ、解毒の中級魔法はこの二つだな」

 でも基本的に俺たちの仕事は最初は戦いではなかった、あくまでも領主の軍の手伝いが仕事だった。だから俺たちはデビルスネークを倒す必要はなかった、でも何があるかは誰にも分からなかったから、俺たちはいつでも戦えるようにはしていた。アクアも戦うのは同じことだったがアクアには十歳だったから、商業ギルドからも、冒険者ギルドからも、最初はアクアのことを街に置いていくように言われた。

「アクアを置いていくなら、俺もこの依頼を断ります」
「アクアはシエルとレンと一緒にいるの」
「ああ、そうだな。このチビがいねぇと、なんか調子がでねぇ」

 でも俺がそれなら依頼を断ると言うと、商業ギルドのデビルスネーク退治に参加できた、商業ギルドの隊長もそれならとアクアの参加を認めた。冒険者ギルドでも同じようなことを言われたが、今度はそうするならデビルスネーク退治を断る、レンがそう言ったから冒険者ギルドの隊長も、アクアがデビルスネーク退治に参加することを許可した。

 そうしてバタバタと商業ギルドでは解毒などのポーションなどを用意した、冒険者ギルドでは『解毒アンティドーテ』の魔法を覚えるように冒険者たちに言っていた。そうしてどうにか用意が整ってデビルスネーク退治に行くことになった、隊列を組んだ領主の軍が先に進んでいった。俺たち商業ギルドの人間や冒険者はその後についていった、領主の軍の指揮は顔色を悪くした貴族がとっていた。

「いたぞ、デビルスネークだ!!」

 そのまま二日が何事もなく過ぎた、でも三日目にデビルスネークが現れたのだ。列の最後あたりにいる俺たちにも見えるくらい大きかった、家の二軒くらいの長さと大きさのある巨大なデビルスネークだった。アクアを背負っていた俺はレンに合図を送り、このとても危険になった戦場で離れないように、俺たち仲間同士でできるだけ近くにいることにした。

「勝利は我が軍にあり!!」
「くらえっ、魔物め。『火炎球フレイムボール』!!」
「焼き尽くせ、『火炎球フレイムボール』!!」
「これで死ねぇ、『火炎球フレイムボール』!!」
「くらええぇ、『火炎球フレイムボール』!!」

 予め打ち合わせていたのだろう、領主たちの軍の魔法使いはそろって『火炎球フレイムボール』を使った。辺りに熱気が広がって空気が熱くなった、俺たちはこれで倒せるのかと思いながら、遠くから領主の軍の様子を見ていた。でも巨大なデビルスネークはこのくらいでは死ななかった、むしろ怒り狂って領主の軍に向かってきた。

 巨大な口に飲み込まれた者もいた、体当たりされてふっとばされた者もいた。巨大なデビルスネークはやがて毒霧をふりまいた、これではここにいる全ての者の命が危なかった。だから俺たちもそれぞれが身を守ろうと動いた、三人とも『解毒アンティドの鎧ーテアーマー』という魔法を使って毒を無効化した。

「あああああ、面倒くせぇな!! 上級魔法さえあれば一発なのによ!!」
「こんなに多くの普通の人間がいる、だから仕方がないさ」
「シエル落ち着いてる、レンも落ち着いてチャンスを待つの」

 やがて領主の軍はバラバラになって逃げだし始めた、商業ギルドの人間たちも同じだった、冒険者たちも初めのうちは戦ったがやがて逃げ出した。そんな中で俺たちは素早く近くの山に登っていた、その山の上からは今の状況が良く見えた。大勢の人間たちが仲間や友を置いて逃げ出していった、それから残っている者はほとんどがデビルスネークの毒、それにやられて死にかけている者だけになった。

「それじゃあ、いくぞ。レン、まだ生き残りがいるから、使えるのは中級魔法だけだ」
「ああ、分かってるぜ。ったく人間っていうのは面倒くせぇ!!」
「それじゃあ行くの? シエルとレン、頑張ってー!!」

 俺とレンは同時にデビルスネークに向かって斬りつけた、俺たちが狙っていたのはデビルスネークの首のあたりだった。普通の蛇でもそのあたりが急所だったからだが、デビルスネークは巨大で動きが早く一度では首を斬り落とせなかった。だから俺たちは一度地面に降り立ったが、すぐに巨大なデビルスネークの体にぶつかりそうになった。

「固定してやる、『氷撃槍アイススピア』!!」
「ああ、止まりやがれ。『氷竜巻アイストルネード』!!」
「えーい、『氷撃アイスショット』!!」

 俺は氷の槍でデビルスネークの体の一部を地面に突き刺して固定した、レンは氷の竜巻を起こして気温を下げてデビルスネークの体を切り裂きその動きを鈍くした、アクアは安全な山の上からデビルスネークの頭を魔法で狙っていた。アクアの魔法がデビルスネークの口を氷漬けにした、もうこれ以上デビルスネークは毒霧を吐けなくなった。

「くそっ!! でけぇなこの首!!」
「でも!! 少しずつだが斬れてる!!」
「まだなの、『氷撃アイスショット』!!」

 俺たちは魔法と剣を交互に使いながらデビルスネークと戦った、アクアがデビルスネークの口を氷漬けにして、毒霧のことを気にしなくていいのはとても助かった。そうやって三人で同じ攻撃を繰り返した、そうしてから倒すまでにしばらく時間がかかったが、でもとうとう俺たちはデビルスネークの首を斬り落とした。ああ全くこのデビルスネークは面倒な敵だった、こんな魔物くらいなら上級魔法さえ使えればもっと早く倒すことができた。

「えっと、この蛇さんはどうするの?」
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