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2-15これから友達になればいい

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「えっとぉ、『完全なるパーフェクト癒しヒーリングの光シャイン』」

 アクアの綺麗な心の中をうつしだすような眩しい光がして、レンティスタの両手はもう元通りの丈夫な両手に戻っていた。俺ももうレンティスタを捕まえておく理由がなくなったので解放した、レンティスタは元通りに綺麗に治っている両手を閉じたり開いたりしていた。俺はアクアの頭をよくやったねと思いっきりなでた。アクアも嬉しそうに笑っていた、俺もその笑顔に嬉しくなって笑い返した。

「嘘だろ!? なんだって迷い人がこんな上級魔法を使えるんだ!?」
「もう痛いとこなぁい? ええとドラゴンさん」

「ねぇよ!! いや、ないよ!! ああもうどうして、迷い人なんかに借りができるんだ!?」
「良かったねー!! おててがなくなったらご飯も食べられないもん」

「うぅ、こっちくんなって!! 分かったよ!! その迷い人はてめぇの家族だ!! 畜生!!」
「そうだよ、アクアはシエルの大切な家族なんだって!! ふふっ、ドラゴンさんはシエルの友達?」

「はぁ!? わっかんねーよ!! 俺様にはそんなこと分かんねぇよ!!」
「シエルー!! このドラゴンさんはシエルの友達なの?」

 レンティスタは分かりやすく体中を真っ赤にして慌てていた、そうして見ると俺と同じくらいの年齢のただの背が高い人間の男の子に見えた。だから俺はアクアを大切に抱き上げて、そうしてからレンティスタに向かって言ってみた。ドラゴンが命を賭けて決闘という話し合いをしたからには、レンティスタには少なくとも俺の話を聞く義務が生まれたのだった。だから、俺は最初に思った通りのことを言った。

「そうだね、アクア。俺たちの友達候補だよ、なぁドラゴンくん。君さえ良かったら俺たちと友達にならないか?」
「はぁ!?」
「お友達候補なの!? それじゃあそろそろレンティスタって呼んでいい?」

「そうだな、ドラゴンくん。君の名前をアクアと俺はこれから呼んでいいかな?」
「何言ってんのかマジで分かんねぇ!!」
「えっと、お名前はなぁに? ってシエルは言ってるんだよ」

「その様子なら大丈夫そうだから、レンティスタ。いや、レンと呼ぶことにしよう」
「勝手に俺様をお友達にすんな!?」
「違うよ、レン。お友達候補だよ、やったぁ!! おっきいお友達候補ができたね!!」

 アクアは俺という家族ができたことはもう知っている、でもお友達候補ができるのは初めてのことだった。だからアクアは無邪気に笑って喜んでいた、今まで孤児院のお友達と遊ぶことはできても、本当のお友達にはなれなかったからだ。いつも孤児院の子とどんなに楽しく遊んだって、旅を続ける為に別れという終わりがあった。でもこのレンという新しいお友達にはそれがなさそうだった、だからアクアはとっても喜んだのだ。俺よりも随分と背の高いお友達候補だった、俺は素直に背が高くて良いなと思った。

「分かった、俺様をてめぇの子分にするつもりだな!?」
「俺はお友達の方が良いけど、子分になりたいならそれでも良いよ」
「レンはシエルの子分になった」

「いや子分になりたいわけねぇだろ!?」
「それじゃ、やっぱりお友達でいいのかな。レン」
「新しいお友達!! やっぱりレンは新しいお友達なの!!」

「くぅ~~~~!! てめぇの子分になってやる、でも俺様がてめぇに勝つまでの話だからな!!」
「そうか、俺はお友達が欲しかったけど、子分ができるのもまぁ悪くはないな」
「レンはシエルの子分になった、じゃあアクアとも遊んでくれる?」

「それは嫌だ!! 俺様の体に触るな!!」
「レン、俺の子分になるんなら、アクアのことを黄金よりも宝石よりも大切にしろ」
「触れなくたって一緒にお喋りはできるもんね、ねぇレン!!」

 俺は予定外だったが友達の代わりに子分を手に入れた、アクアのような迷い人が苦手なようだったが、アクアは可愛いから一緒に旅をしていれば二人は仲良くなっていけるはずだ。俺はそんなふうに最初のうちは軽く最初は考えていた、レンにも重くて辛い過去があることをその時の俺は知らなかったのだ。そうして俺の子分になったら当然だけど、俺たちは一緒に街にも行くことになった。

「へえぇぇ、レンは冒険者だったのか」
「すごーい、冒険者」
「凄くねぇよ、ただの銅の冒険者だよ!!」

「それじゃ、冒険者ギルドにも自然に入れるな!!」
「シエル、お宝の情報を貰えるの」
「ああ!? お宝だ? そんなものなかなかねぇに決まっているだろ」

「なんだレンはしてないのか? せっかく冒険者ギルドにいるのに?」
「シエル、優しく教えてあげればいい」
「なっ、なんだよ。俺様に一体何をさせる気だ!?」

 俺は別に特別なことをするつもりはなかった、冒険者ギルドにレンと一緒に行ったのも掲示板を見た。ただそれだけのことで済んだ、俺の欲しかった情報は十分に手に入った。俺とアクアはこれから何をするのか分かっていた、レンだけが首を傾げながら俺たちについてきた。そうして俺たちが向かった先は山奥にあるとても大きな盗賊団だった、なんでも二百人くらいはいるという盗賊団だった。

「それじゃ、レンも顔を隠してくれ。後は黙って俺たちの後をついて来ればいい」
「そうなの、最初は基本的に見学からなの」
「お、おい!? 一体何をどうするつもりなんだ?」

「「盗賊退治だよ」」

 そこで俺とアクアが言ったことはもちろん同じことだった、俺はいつもどおりにアクアを背負って、盗賊団の正面の門から堂々と中に入ろうとした。もちろん簡単には入れて貰えなかった、でもこれもいつもどおりのことだった。

「てめぇら、ここがラクーン盗賊団だって分かってんのかガキどもが!!」
「うん、たった今だ。確認ができて嬉しいよ、『電撃槍ライトニングストライクスピア』」
「そうそう、今日もいつもどおり」
「おいおいおい、何やってんだてめぇら!!」

「え? だから盗賊退治だよ。大丈夫。俺の子分は盗賊の生き残りがいるうちは、俺たちの本当の名前を呼ばずにただついてきてくれ」
「そうただついてくるだけ、そんな簡単なお仕事」
「いやいやいや、そんな仕事ねぇだろ!!」

 いやここにはそんなお仕事があるのだった、二百人も盗賊がいるという話だったからと俺たちも張り切っていた。俺はいつもどおりに前に現れて抵抗する人間は、いとも容易く次々とショートソードで殺していった。アクアは時々上から降ってくる矢や魔法を、『聖なる守りホーリーグラウンド』で完璧に防いでくれた。そして場所が分かった弓使いや魔法使いは俺が『電撃槍ライトニングストライクスピア』で複数人を一度に焼き殺した。そうして俺たちと一緒についてきているレンが盗賊と戦って、どうしてだろうかだんだん真っ青な顔色になっていった、やがて動いている盗賊らしき人間は一人もいなくなった。

「アクア、さあ宝探しだぞ」
「うん、シエルの金貨と銀貨をいっぱい集める」
「ええええええ!? いいのか、そんなことしていいのか!?」

 何故だか騒ぐレンを置いておいて、俺とアクアは離れ過ぎないように注意しながら、いろんな部屋を一つずつ調べていった。さすがは二百人もいる盗賊団だけはあった、お宝は隠し部屋に隠されていたのだった、でも俺よりも勘が良いアクアがその部屋を見つけてしまった。あとはわくわくのお宝集めの時間だった、金貨と銀貨をいっぱい俺の『魔法マジックの箱ボックス』に放り込んでいった。その間、何故だか知らないがレンは魂が抜けたような顔をしていた。

「ああ、レンも一応は敵を倒してくれたし、今回のお宝は二人で山分けだな」
「うん、アクアのお宝はシエルのもの、でもレンのお宝はレンのもの」
「ああああああ!? その金はてめぇらの物じゃねぇから、盗賊の被害者の物だから!!」

「何を言ってるんだ、レン。ここの領主が盗賊の被害者に本当に、正直に金を返すことはないだろ」
「うん、領主とはそういうもの」
「いやいやいや、それでも良いのか!? こんな金を貰っていいのか!?」

「いいに決まっている、ただしこの方法を使う時には、決して名前や顔を知られてはならないんだ」
「だからアクアも黒いローブを着て、鼻まで黒い布で覆っておく」
「おいおいおい、それ犯罪者の仕事だから、犯罪だから顔をだせねぇんじゃねぇか!!」

 俺たちは首を傾げたがドラゴンの世界にそんな法律は無い、だから俺はそう言って呆然としているレンを力強く説得してみた。それにもう一つ、とっても大事なことを伝えておいた。

「あっ、もうレン。俺たちについてきた時点で共犯だからな、俺たちは運命共同体って奴だ」
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