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2-03その優しさに慣れていない

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「嫌あああぁぁぁ!!」
「アクア、おいこら俺の服から手を放せって」

「ヤダヤダヤダああぁぁ!!」
「ここは安全だ、神殿の孤児院だぞ」

「こっ、こじいんは怖いとこだもん!!」
「そんなことはない、勉強や運動ができるところだ」

「嘘だあぁぁ!! 嫌あああぁぁぁ!!」
「………………」

 俺はアクアをすぐ近くの街にあった、神殿の孤児院に送り届け事情を話して、快く引き取って貰えるように寄付もした。そうしてアクアを預けてよし俺は宿屋にでも行こうとしたら、今まで大人しかったアクアが俺の服の端を掴んだままで泣き出した。神殿の神官である女性も困った様子だった、でもよくあることらしくどうにかアクアを宥めようとしていた。でもアクアは一向に泣き止む気配が無かった、神官である若い女性がそんなアクアに向かって手をあげようとした。

「ああ、もういい。仕方がない、もうしばらく俺が預かる」
「…………ひっく、ひっく」

 俺は神殿の神官に手を煩わせて申し訳ないと謝罪した、寄付金はそのままでいいからと言って、俺の服から手を放さないアクアをつれて宿屋に向かった。アクアは小さかったからベットは一つでいいだろう、そう思って一人部屋を借りて宿屋がやっている飯屋に行った。アクアは黒パンやスープを少ししか食べなかった、というか固い黒パンはスープに入れておき、そうやって柔らかくして食べるのだと知らなかった。アクアは宿屋のベッドに寝かせたら、しばらくすると大人しく眠ってしまった。

「すー、すー」
「こりゃ、困ったことになった」

 内心で俺は頭を抱えていた、なにしろ生きている人間の女の子だ。そんなものは俺の荷物としては重すぎた、一時的な護衛任務とはわけが違う、アクアに安全と教育を提供する義務が俺にはできたのだ。一人の人間を預かるというのはそういうことだった、なんて重い責任だろうと俺は頭痛がした。でもきっと少しの間だけだ、アクアが他の人間に怯えなくなった。そうしたら孤児院に彼女を入れて、俺とはお別れだと考え直した。

「ひっく、ひっく」
「今度はどうして泣いてるんだ、アクア」

「シエル!!」
「なんだ、俺がいないと泣くのかお前」

 宿屋のベッドの俺の隣で昨日の夜のアクアはよく眠っていた、もういっそ眠っている間に孤児院に置いてこようかと思ったくらいだ。次の日に俺は朝早くいつも習慣で目が覚めて、ぐっすりと眠っていたアクアを起こすことなく、朝の軽い運動を宿屋の裏でした。そうして借りている部屋に戻ったら、部屋の隅っこにいって体を小さくして蹲って、ひっくひっくと言いながらアクアが泣いていた。そして、俺を見つけると一生懸命に立ちあがって抱き着いてきた。俺はわけが分からなかったが、きっと小さい子どもとは皆こうなのだ。

「今日はお前の服と靴を買うぞ」
「お洋服? 新しい靴? アクアの?」

 俺は朝食が済んだらアクアを連れて街の洋裁店に入った、そうしてアクアに合わせた男の子の服を買った。男の子の服にしたのはその方が動きやすいからだった、女の子の服はひらひらとしていて時には下着が見えるから、俺がするような長く歩く旅には向いていなかった。アクアはずっときょとんとしていた、新しい男の子の服を着せられても何も文句は言わないで、ただ新品の服を不思議そうに見ていた。

「シエル、アクアに新しい服を買っていいの?」
「ん? だぼだぼの服をいつまでも体に合わないのに、そのまま着せとくわけにはいかないだろ」

 あっ、下着だけは女物を買ったぞ。そのあたりは洋裁店のお姉さんに頼んだ、お姉さんはアクアに男の子の服を選んだ俺に最初はどうしてと聞いた。でも旅に出てかなり歩く理由を聞くと、アクアに合った男の子の服を選んでくれた、アクアは新しい服を着て店を出た。靴屋では少しばかり問題があった、アクアに合うような靴で、長旅に耐えれるようなものは貴族用で高かった。

「シエル、アクアに新しい靴を買っていいの?」
「まぁ、靴は大事だしな。その代わりにしっかり歩けよ」

 アクアは新しい服と靴を着て嬉しそうにしていた、少しばかり出費したが盗賊団を倒した後だったので、俺としては大した出費ではなかった。アクアは新しい服と靴を喜んで、寝る時も靴を抱いて寝ようとしたからそれだけは止めさせた。次の日の朝は俺はアクアより早く起きたが、アクアを起こしてから宿屋の裏で鍛練をした。アクアはそんな俺をじっと見ていた、何が面白いのか分からないがとにかく見ていた。

「次の街は近いな、アクアを歩かせるか」
「うん、アクアは歩く」

 俺は商業ギルドで次の街までの距離を聞いた、俺の足なら半日でつくような距離だった。馬よりも速い俺の足でならの話だ、当然だが十歳の女の子であるアクアにとってはかなりの距離だった。俺はアクアをわざと長く歩かせて、次の街で孤児院に行きたくなるようにするつもりだった。実際に歩きだすとアクアはずっと汗をかいて必死に歩いていた、だから時々水を飲ませて休憩もほどほどにした。アクアは夜は死んだように眠っていた、俺は短い睡眠をとって危険がないか常に備えていた。

「すー、すー」
「意外と根性があるな、一体それが何日持つかな」

 結果的に普通の人間の倍くらいかかったが、アクアは弱音を言わずに隣の街まで歩ききった。俺は正直なところ驚いた、こんなに小さい人間の力とは思えなかった。だから孤児院に渡すのはまだ先にした、でも俺はいつも行った先の街の神殿に寄付をするようにしてた。だからアクアを神殿に連れていったら、アクアの顔色は真っ青になってしまった、そして俺の服のすそを強く握りしめて放さなかった。俺はその頭をポンポンッと撫でてやり、もちろん孤児院にアクアを置いていったりしなかった。

「お前、本当に根性があるな。ご褒美をやるよ」
「ごほうび?」

 俺は宿屋の厨房を借りて、みそ汁と豚の生姜焼きを作りそれに米を炊いた。そして借りた部屋で大人しく待っていたアクアにそれを見せたら、アクアはとても驚いて俺の顔を見てご飯を見て、それを何度も繰り返した。いい加減に食べてみろと言って食わせたら、一生懸命に特にお米とみそ汁を食べていた。途中から涙を流しながら食べていた、俺はそんなアクアにびっくりしてしまった。

「美味しいよぉ、昔のお母さんのご飯だぁ」
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