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1-28どう考えたってあり得ない

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「まぁ、そんな夢を見るのは自由だろ」

 そんなことがあってから何日かして、俺はラントの街行きの商隊の手伝いを引き受けた、商隊護衛と違って食事の用意や荷物の管理をする細々した仕事だ。ラントの街は俺の故郷に一番近い人間の街だ、運が良ければ街であかり姉さんに会えるかもしれなかった、いや俺がこっそりと母さんやあかり姉さんの様子を見にいってもよかった。

 だからこの仕事を引き受けたのだ、そうしてジュジュたちやツカサにも家族に会ってくる、そう話して俺はこの旅をとても楽しみにしていた。でも俺がついていくことになったのは二十名くらいの小さな商隊なのに、何故か盗賊たちに何度も何度も襲われることになった。俺たちは明らかに異常な数の盗賊の襲撃を受けた、それでも俺もはじめは盗賊団が増えているのかなと思っていた。

「『電撃槍ライトニングストライクスピア』」

 俺は最初のうちは商隊を護衛することは、商隊に雇われている冒険者の仕事だから放っておいた、だが彼らだけでは守りきれないという時には魔法を使った。魔法で軽く数人の盗賊を片付けた、冒険者にはもちろん傷一つつけなかった。俺はもうどう動いてる敵だろうと自由に魔法を必ず当てることができた、たとえ敵と味方が乱戦になっていても俺の魔法制御にはもちろん問題なかった。

 最初のうちは冒険者たちは俺の助力に感謝して礼を言ってくれた、でも何度も盗賊に襲われるうちに礼も言わず俺が手伝うのは当然だと言いだした。俺は商隊の隊長に文句を言いにいった、俺が引き受けたのはラントの街への商隊の手伝いだけだったからだ。商隊の隊長も困っていてこんなに小さな商隊を執拗に狙う盗賊団など普通はいないから、だから今だけは冒険者たちの機嫌を損ねたくないから我慢してくれと言われた。

「おい、俺の傷を治してくれ」
「私もよ、ポーションか回復魔法を」
「回復役の魔力がもうない」
「うっ、傷を負ったままじゃ、もう戦えない」
「傷を治してくれよ」

 雇われている冒険者はこんなことも言ってきた、商隊に雇われているとはいえ、傷を負ったら治すのはその冒険者の仕事のうちだ。だから商隊の隊長も売り物のポーションなどを渡すわけがなかった、雇われている冒険者たちはそれに文句を言いだした。俺は銅の冒険者、つまり新人が多かったから、そんなことを言われているのかと思った。でも俺はおかしい何かが違う、どこかがおかしいと違和感を覚えた。

「隊長、あの冒険者たちはどう考えてもおかしい、もう冒険者ギルドに文句を言ったほうがいい」
「そうだね、私もどうもおかしいと思う。あの様子では商隊を守ってくれそうにない、護衛の冒険者たちを代えてもらおう」

 雇われている冒険者は特に俺に文句を言った、初対面なはずなのに最初のうちこそ大人しかったが、だんだんと俺が悪いと言いだすようになった。俺は絶対にその冒険者たちの傷を魔法で治さなかった、俺は商隊の隊長に次の街で冒険者ギルドに訴えるように言った、商隊の隊長もあまりにも悪い冒険者の態度にそれを承諾した。

「今まですまなかった、今度こそ俺たちに護衛を任せて欲しい」

 そうして次の街で冒険者を入れ替えるということになるはずだった、だがその時だけは冒険者全員が団結していた、冒険者ギルドにそろって良い態度をとりやがった。だから商隊の隊長も彼らを解雇することができなかった、冒険者ギルドの人間は反省しているようだから、それにまだ新人が多いからと冒険者たちを庇った。俺はその決定に納得がいかなかった、だから戦闘準備をしておくことにした。

「うっ、傷が痛む」
「治せるなら治して欲しい」
「ケチな奴だ」
「俺たちは怪我をしてるのに」
「君は魔法が使えるんでしょう」

 やはり街を一歩出ると冒険者たちの態度はまた悪くなった、そうしてやたらと俺に魔法での回復を要求してきた。俺はそれがそもそも変だと思っていた、俺が回復魔法を使えるのを知っている人間は少なかった。それこそあかり姉さんやジュジュたち、それにツカサだけのはずだった。誰かが少しでも俺に魔力の消費をさせようとしている、そう感じた俺は決して冒険者たちに回復魔法を使わなかった。

「『電撃槍ライトニングストライクスピア』!!」

 次に襲ってきた盗賊たちは俺が最初に動いて、一人を除いて全滅させてから俺はその一人に近づいた。何故ならこいつに俺たちの商隊を襲った理由、どうしてわざわざこの商隊を襲ったのかと聞こうとしたのだ。

「なぁ、なんで俺たちの商隊を狙って襲ったんだ?」
「そ、それは………………ひぃ!?」

 すると冒険者の一人が盗賊を殺そうと剣を振るった、俺はその剣を左手の親指と人差し指で掴んで止めた。その冒険者の顔が真っ青になった、盗賊である男は殺されかかったので悲鳴を上げた。

「なぁ、なんで止めたんだよ。冒険者なのになんで、盗賊への尋問を止めさせたんだ?」
「ははっ、何を言ってるんだ。盗賊なんてすぐに殺す、それが当たり前だろう」
「嘘だ!! お前ら俺を殺そうとしたな!! 話が違う!!」

 その盗賊の言葉を合図に、今度は冒険者全員が俺を襲った。へぇ俺を殺すつもりなら俺に殺されても文句は言えなかった、しかし俺は冒険者たちからの攻撃をまずは避けた。でもお返しに俺は全員を順番に殴りつけて死ぬ寸前の状態にしてやった、それから捕まえた盗賊の生き残りはペラペラと話し出した、顔を仮面で隠しているとても強い男が、捕まえたこいつの盗賊団にある日やってきた、その男に盗賊たちは最初は退治されそうになった。

「俺たち盗賊団はその金髪の男に大金を貰って頼まれたんだ、そうしなければ俺たち全員を必ず殺してやると言って脅された、それにできれば金髪に蒼い瞳のガキを生かして捕まえろとも言われた!!」

 その盗賊団は大金を貰ってこの商隊を襲い続けろと言われたそうだ、商隊を守る冒険者たちのことは戦えないから大丈夫だと言われていた。そう盗賊の生き残りは素直におそらく全部を話したので、とりあえず殺さずに生かして捕まえておいた。俺にはそいつが嘘を言っているようには見えなかった、どうしてこの商隊を襲うのかと疑問に思っていたが、盗賊たちはこの商隊ではなく俺を狙っていたのだ。

「隊長さん、どうやら狙われてるのは俺だ。街はすぐそこだから引き返した方が良いと思う」
「ああ、私もそう思う。冒険者たちの態度はやはりおかしい、本当に盗賊とぐるなんだ」

 俺たちはすぐに近くの街の商業ギルドに引き返した、そうしてから冒険者ギルドに苦情を言った。今度は冒険者ギルドも放っておかなかった、捕まえておいた冒険者全員を尋問した。冒険者たちは手が滑ったんだとか、盗賊を殺した方が良かったんだとか、そもそも俺が盗賊たちと組んでるんだとか言いだした。もちろん、そんな冒険者たちのそんな苦しい言い訳は通じなかった。

 俺はとても嫌な予感がした、だから商業ギルドに引き受けていた、商隊の手伝いの依頼を辞めさせてもらった。そうして街を出てすぐに近くの森に行き、そこから『飛翔フライ』の魔法で俺の故郷に飛んでいった。四半刻もたたずに母さんのいるはずの洞窟に着いたのに、奥の部屋は空っぽで肝心の母さんは何故かそこにいなかった。自分の縄張りを見回りに行っているのかとも思った、でも母さんの持っている大量のお宝が消えて無くなっていた、俺は母さんに何か遭ったんじゃないかと思い焦った。

「シエルくん!!」

 俺はあかり姉さんの住んでいる小屋に向かった、焦っていたので何の警戒もしていなかった、ノックもせずに俺は扉を開けた。その次の瞬間に俺は頭に激しい衝撃を受けた、俺は誰かに何か固い物で思いっきり頭を殴られた。目の前の世界がぐるりとまわり、あかり姉さんの悲鳴じみた声が聞こえた気がした。でももう一回何かで頭を強く殴りつけられ、それから俺は何も分からなくなった。

「シエルくん、起きて!! お願い、死なないで!!」
「あ……かリ……姉さん……?」

 次に起きた時には俺は魔法封じの鎖で、そんなもので体をぐるぐる巻きにされていた。いつもと違って声を荒げているあかり姉さん、そう彼女の姿は見えないが俺のすぐ近くにいた、俺は起き上がりたかったが酷い頭痛がしてできなかった。頭から血が流れているのを感じた、髪の毛は俺自身の血で顔にはりついていた。俺たちは母さんの洞窟にいるようだった。そして、俺は見た。俺を襲った犯人たちの姿を、ぐるぐると回る視界でなんとか見ることができた。

「あはははっ、シエル。私のこと覚えてた?」
「忘れるわけがないわよね」
「これから、良い事を教えてあげるし」
「ドラゴンという魔物を神の名において退治するのです」

 そいつらはドラゴンスレイヤーのパーティだった、リーダーのハルトは相変わらずニヤニヤと笑っていた。でもその笑い方に違和感を覚えた、こいつはハルトという人間は女じゃなかった、この笑い方と声は男のものだった。ハルトの見た目は女っぽかったがいつもと違った、その豪快にはだけている胸は真っ平で、ハルトが女ではないという現実を俺に突然つきつけた。そうしてズキズキと酷く痛んでいる俺の頭、それをハルトの奴は思いっきり足で踏みつけやがった。

「よう、シエル。ようやく俺が男って気づいたか? 俺は綺麗だから女にも見えただろ、女に見えてた方が得なこともあるんだぜ、もっとも夜の俺は女も男もどっちもいけるんだけどな」
「お前……のことな……んか……興味ない」

「そう言わずに早く泣き喚いてくれ、そうしてお前の母親のドラゴンを呼ぶんだよ」
「……何を……言ってる……」

「早く言わないと死んじまうぞ、お前のHPもう残り少ないからな」
「な……んで……?」

 そこでハルトは俺の頭から足をどけて、倒れている俺に向かってかがみこんで話しかけてきた。とても楽しそうにハルトはニヤニヤと笑いながら、恐ろしい秘密を俺に打ち明けようとしていた。それはずっと俺の中で違和感になっていたことだった、ハルトが男だってことだけじゃないそれだけじゃなかった。そうして虫の足をちぎる子どものような顔で、ハルトは俺に向かって醜く笑いながらこう言った。

「俺って本当はな、高橋春斗っていうんだ。あはははっ、これでも俺は迷い人なんだぜ」
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