上 下
25 / 90

1-25強くカッコいい男になってみたい

しおりを挟む
「ああ、早く大きくカッコよくなりたいなぁ」
「ふふっ、シエルはこんなに可愛いのに勿体ないわね」
「危ないですわ、今だって可愛いが過ぎるのですわ」
「そうそう、可愛くていいんだよ」
「神は言っておられます、可愛いこそ正義!!」

 相変わらず俺はジュジュたちと仲が良い、俺の可愛さに皆がメロメロのようだった。可愛いと言って頭をなでなでされるのも悪くないが、逆に俺がもっと大きくて大人な男になって、ジュジュたちの頭をなでなでしてみたいものだ。そう言ってみたら俺の髪の毛がふわふわになるまで、可愛いとジュジュ達からなでなでされてしまった。むぅ、何故こうなった。

「まだ成長期だからな、背が伸びるとは思うんだけどさ」

 人間の図書館にある本の中には牛乳を飲むとよいと書いてある本もあった、でも牛乳なんて牛を飼っている家の子じゃないとなかなか飲めるものじゃないのだ。運動をすると良いと書いてある本もあったが、既に俺は毎日のように走り回っているし、時には魔物と戦っているのでそれは十分だ。背が伸びる薬なんかあったらいいのにな、昔そう言ったらあかり姉さんは努力が大切なのと言ってた。

 身長はまぁいい、そのうちにきっとぐんぐんと伸びだすのだ。多分。ではカッコいいとは何だろうか、俺の友達になったケントニスは、彼は間違いなくカッコいいドラゴンだった。よく彼のことを思い出してみると態度が紳士的だった、うっ俺は人間のいろいろあるマナーもよく知らなかった。相手が女性だったら種族を問わず大切にしていて酒場でモテていた、うっ俺はジュジュたちくらいしか女性を知らないしモテたこともなかった。

 ちなみにドラゴンスレイヤーというパーティの痴女たち、あの四人のことを俺は女性だと認めていなかった、あんなのは美しい女性とは言わないのだ。そうあれはただの発情したメスだった、発情期のメス猿とほとんど変わりなかった。いやあんな碌でもない生き物たちはどうでもいいのだ、俺は改めて友達であるケントニスのことをまた考え分析してみた。

 そう他にもケントニスのカッコいいところを俺は考えてみた、彼は何をするにも余裕というものを感じさせた。とても強いのにまだ強くなろうとしていたし、弱い俺にも優しく厳しく剣や戦い方の稽古をしてくれた。お金も沢山持っていたし、時には誰にでも気前よく奢ってくれた。余裕、俺にはまだ余裕がないのだ。それに人間のマナーを学ぶ必要もある、紳士的な美しい所作というものはカッコいいのだ。

「というわけなんだ、ツカサ」
「あっはははっ、シエルは思いもしないことを言うものだ。いや、だからこそ面白い」

「俺はわりと本気なんだぞ、人間のマナーとやらを学んでみたい」
「そうだね、基本的には相手を不快にさせないことだ。それ以上の細かいことは、私が知る範囲で教えよう」

「しばらくは月の日はマナーの練習だな!! ツカサ!!」
「シエル、君が思う以上にいろいろとあるぞ。挨拶、姿勢、食事の仕方、言葉遣い、貴族との接し方、それに女性への優しい心遣いなどだね」

 俺は月の日のツカサに会える短い時間で沢山のマナーを学んだ、確かにこれは頭が混乱するくらいに難しかった。飯を食べるのにカトラリーを何本使うんだ、ご飯は美味しく食べるのが一番だろと頭が爆発しそうになった。それでも俺は紳士的な男になりたくて色々と学んでいった、ツカサの所作も落ち着いていて紳士的で綺麗なものだった。ツカサという見本がとても良いから、マナーとは難しいが学びがいはあった。

「でも、鍛練は何より大事だよな!!」

 強さはなによりも大事なことだ、こればっかりはドラゴンとして譲れなかった。だから月の日以外の六日はほとんど外に出て魔物を狩っていた、俺は縛りプレイを更に難しくしてみた。デビルベアと素手で戦って無傷で勝利することなどだ、無傷のまま素手で倒すとなると難易度が更に上がった。魔法さえ使えればすぐに倒せる相手だが、無傷のまま素手でとなると強い力が必要になった。

 デビルベアの攻撃の仕方を注意深く観察するようになった、そうしないとあっという間に爪での傷を受けた。振り下ろしてきた爪のある手を逆に掴んで、俺の体全体を使ってそのまま関節を圧し折ることを覚えた。残りは牙がある頭だったが、何度何度も挑戦して失敗を繰り返したが、とうとう俺は首を掴んで圧し折れるようになったのだ。

 最初の一頭を無傷のまま素手で倒した時には爽快感すら感じた、ずっとやってきたことが報われたような気がしたのだ。でも迷宮や他の地域にはもっと強い敵がいるはずだった、デビルベアだけで満足してしまってはいけなかった。俺は強くなりたいもっともっと強くなって、あかり姉さんや母さんを守れるくらいの最強のドラゴンになるのだ。

「これはどうやって倒したんだ?」
「……首だけ折れてるみたい」
「えっと、そんなことできるの」
「拳法家でも無理だぞ」
「本当に貴方が倒したのですか?」

 首を圧し折ったデビルベアを解体しようとしているときだった、偶々知らないパーティと出くわしてしまった。俺は全く見覚えのない冒険者たちだったが、首が折れている以外は綺麗なデビルベアの体を見て驚いていた。俺はどう答えようか悩んだすえに、なんかこう魔法で倒したことにした。ドラゴンは嘘が嫌いだが、こういう場合は仕方がないと思った。だからこう深く考えずに答えたんだ、それは俺が適当に考えた言い訳だった。

「えっと、風魔法でちょちょいっとな」
「その魔法!! 教えてください!!」

 そのパーティの魔法使いから俺は両肩をがっしり掴まれて、そう凄い勢いで迫られてしまったのだった。と言われても実際には俺は素手で倒したので、どう答えればいいのか分からずに大変困った。

「えっと、デビルベアの首にだけ当てる、そんな小さな竜巻みたいなもんだ!!」
「……なるほど」

 その時はそれでどーにか相手の魔法使いは納得してくれた、しかしその後も何度か似たようなことがあった。その度に俺は魔法のせいにしたから、街での俺の評判がとんでもないことになっていった。『竜巻の魔法使い』だとか、『烈風の魔法使い』だとか、『暴風の魔法使い』だとかだった。そして冒険者にならないかという知らないパーティからの勧誘が増えた、デビルベアとも単独で戦えるような強い魔法使いは貴重だからだ。

「あーん、シエル。どうこのドラゴンスレイヤーに来ない?」
「来てくれたら、ふふっ。素敵な夜を過ごせるわよ」
「私の寝技も見せてあげるよ!!」
「神の名のもとに共に戦うのです、もちろん夜も」

 俺は街での勧誘は逃げれる時はもちろん逃げた、特にドラゴンスレイヤーの痴女四人組からは逃げまくった。ジュジュたちのパーティは俺が冒険者になるのを嫌がっている、それをよく知っているので何も言わずにいつもどおり接してくれた。俺はハルトというドラゴンスレイヤーのリーダー、奴がどうも気に入らなかった。何かを見透かしているような目をしていた、そして俺のことを獲物みたいに奴は見ていた。

 俺は何かを忘れているような気がしていた、ハルトというリーダーの何かを見落としていた、ハルトの金髪に蒼い目を見るたびにそう思った。何かとんでもない間違いをしてしまっているようで俺は焦っていた、それでとにかくドラゴンスレイヤーの彼女たちには捕まらないように逃げた。一方でドラゴンスレイヤーの方も少し焦っているようだった、彼女たちはまだ二頭目のドラゴンを倒すことができていなかったからだ。

「ドラゴンの住処を探すのが難しいのです、見つけてしまえば後は観察して弱点を見つけるだけです」

 ドラゴンスレイヤーのリーダーであるハルトはそう言い訳をしていた、それでもドラゴン以外ならフェイクドラゴンくらいは楽に倒してくるパーティだった。だからフィーレの街の皆はドラゴンスレイヤーの実力を疑ったりしなかった、正々堂々と本当はドラゴンを倒していないじゃないかとか、そんなことを考え疑っているのは街の中で俺だけだった。

「なんか嫌な予感がする、あいつは信用できない」

 俺はそう思ってもっと鍛練するようになった、ツカサからマナーを学んだりもしていたが、それ以外の時間は全て強くなるために使っていた。でも俺が強くなればなるほど、ドラゴンスレイヤーのハルトからの視線も凶悪なものになった。彼女たちはいつも俺を見る度に楽しそうに笑っていたし、俺をパーティに勧誘する言葉が会う度に優しくかけられた。だが俺にとってはどうしても気持ちが悪い感じがあり、決してハルトたちのことを信用することができなかった。

 母さんやあかり姉さんのことも心配だった、母さんはとても強いドラゴンだが、人間は卑怯で手段を選ばないことがあるからだった。心配で毎日飛んでいきたいくらいだったが、そんなに頻繁に会いに行ってしまったら、それこそ母さんやあかり姉さんを危険にさらすかもしれなかった。だから強く拳を握りしめて我慢して、俺にできることをやっていた。そんなある日のことだった、ジュジュたちから声をかけられたのだ。

「ねぇ、シエル。ダンジョンスタンピートって知ってる?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

「声劇台本置き場」

きとまるまる
エッセイ・ノンフィクション
きとまるまるが書いた「声劇台本」が投稿されている場所です。 ーーー利用規約↓↓ーーー ・ここに置いてある台本は自由に使っていただいて構いません。どこで使っていただいても構いません。 ・使用する際の許可は必要ありません。報告していただけたら、時間があれば聴きに行きます。 ・録画や録音を残していただいても構いませんが、どこかにアップロードする場合はお手数ですが一言ください。 ・使用する場合、「台本名」「作者名」をどこかしらに記載してください。広めてください。 ・「自作発言」とか「過度な改変」などはしないでください。 ・舞台やドラマCD等で台本を使用する場合は、一度ご相談ください。(有料公演やイベント販売等、利用後に利益が発生する場合は、台本使用料をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。 ※投げ銭で利益が発生するアプリなどで使用する場合は、利用規約を守っていただけるのであればご相談なく使用していただいてかまいません。台本使用料も、今のところいただく予定はありません。 ・男性キャラを女性が演じるなど、違う性別で演じることはOKです。ただし、必ずキャラクターの性別で演じ切ってください。キャラの性別転換はNGです。(不問キャラは性別転換OK) ・「アドリブ」に関しては、使用してる台本の世界観が壊れない程度のものでお願いします。過度にやられると自分の作品をぶち壊されてる感じがして聞いてて悲しくなります。 ・連絡は、作者のTwitterのDMまでよろしくお願いします(@kitomarumaru) ーーーーー

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

処理中です...