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1-23懐かしくて愛おしい

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「みそ汁と米!! ああ、何も思い残すことはない!!」
「いや、それは困る。それは凄く俺が困る、やっぱりツカサに味噌と米は渡せない!?」

「なんと一度渡しておいてから、そんなに酷いことを言う、シエル。みそ汁と米は日本人のソウルフードなのだ!!」
「そ、そうるふーど?」

「よーしよし、うむ。確かに味噌だ、米も理想的な米だ」
「何かよく分からんが、沢山買ってきたから、まだいくらでもあるぞ」

 俺はツカサが好きなら同じにほん人であるあかり姉さん、彼女もきっと好きに違いないとたっぷりと買ったのだ、そして『魔法マジックの箱ボックス』に全て放り込んでおいた。その日は特別にツカサ本人が神殿の台所を借りて料理をしていた、そうしてツカサと一緒に俺も初めてみそ汁と米を食べてみた。みそ汁は海藻と野菜が具でしょっぱくて美味かった、米ももちもちしててみそ汁と一緒に食べると、何も味付けをしてないのに美味しかった。

「……あかり姉さんにも渡してあげたいなぁ」
「会いに行けばいいんだよ、何を遠慮してるんだい」

「だって俺まだドラゴンに戻れてないし、縄張りも持ってないから帰れない」
「ドラゴンにも面倒な決まりがあるんだね、でもこっそり帰るくらいはいいんじゃないかい」

「そうか!? こっそりとだな!!」
「ああ、偶には故郷に帰るといい。十分に気をつけて、こっそりと行っておいで」

 俺はツカサと話して自分の間違いに気づいた、俺は立派なドラゴンになるまでは帰れないと思い込んでいた。でもドラゴンは本来なら自由な生き物なのだ、どこに行っても良いし誰に会ってもいいのだ。そう気づいたら俺はツカサに礼を言ってから素早く動いた、フィーレの街のジュジュたちにちょっと出かけてくると言って、そうして俺は本能のおもむくまま飛び出していったのだ、でもしっかり母さんにも酒精が強めの良い酒を樽で買うのは忘れなかった。

 そうして近くの森まで走っていって、そこからフードをしっかりと深く被って顔を隠して、『飛翔フライ』の魔法で故郷の魔の森まで飛んでいったのだ。四半刻もあればすぐに着く距離だった。俺はまずこっそりと母さんの巣穴に入っていった、大きい洞窟の最奥じゃなくその途中にある大広間で俺は止まった。洞窟の最奥ではなくそこに母さんが珍しくいたのだ、そうしてとてもよく母さんは眠っているみたいだった、それとも本当は眠ったふりをしているのか分からなかった。そんなツンデレぎみの大切な母さんの近くに、とても酒精が強くて良い酒を俺は『魔法マジックの箱ボックス』から出して樽で置いていった。

「あかり姉さん!!」
「シエルくん!!」

 それから魔の森にあるあかり姉さんの住んでいる小屋に行って、久しぶりに俺たちは抱き合って再会を喜んだ。俺は薄っすら涙が悲しくないのに出た、あかり姉さんはポロポロと涙をこぼしてもっと泣いていた。二人して何故だか泣きながら再会を喜んだのだ、そうして俺はお土産に味噌と米をどっさり出してみた。あかり姉さんもこのお土産をとても喜んでくれて、俺はまたみそ汁と米それに生姜焼きをご馳走になった、なんだかどこか懐かしい味でまた俺は泣けてきた。

「シエルくん、ちゃんとご飯食べてる?」
「うん、でもあかり姉さんのご飯が一番美味しい」

「縛りプレイもそのままなのね」
「ああ、俺すっごく強くなったんだ」

「ふふっ、ステータスで分かるわよ」
「そんでさ、俺はあかり姉さん以外の迷い人に会って……」

 どんなに話しても話は尽きなくて、そのままあかり姉さんの家に一泊させてもらった、俺は子どもの頃のようにあかり姉さんと一緒に寝た。あかり姉さんの体温が気持ち良くて、どこかしこも懐かしい匂いでいっぱいで、俺はぐっすりと安心して眠ることができた。でも一泊以上はまだ独立したドラゴンになってないので俺は遠慮した、俺はあかり姉さんが元気でいることを再確認してフィーレの街に帰った。

「あらどうしたのシエル、目がキラキラしてるわよ」
「本当ですわ、さては彼女ができましたわね!!」
「なっ、なんだって私のシエルをたぶらかしたのはどこの女だ!!」
「神の名のもとに滅するのです」

 フィーレの街に戻ってからも機嫌が良い俺にジュジュたちが驚いていた、彼女ができたとか言われたがそんな素敵なものはまだできていなかった。ジュジュたちに色々質問責めにされたが、俺は都の話なんかをしてあかり姉さんのことは話さなかった。迷い人はこちらの人間が知らないことを知っている、できるだけあかり姉さんを知っている人間は少ない方が良かった。

「俺がいない間に何か遭ったりした?」
「ああ、領主さまが正式に変わったわね」
「ロワ・セハルドーテ様ですわ」
「まだ十七歳の子どもだぞ」
「しぃー、なのです。神のお導きは深いものなのです」

「ふーん、それぐらいかぁ」
「あとはドラゴンスレイヤーが煩いわね」
「いつまでもドラゴン退治したこと、それを自慢ばかりしていますわ」
「いい加減にしろってな」
「新しいドラゴンを必ず狩りに行く、神の名のもとにそう言っているようです」

「なるほど、皆が元気で良かった」
「ふふっ、そういえば紫電の魔法使いが商人ギルトにいるみたい」
「ぜひ、私と勝負して貰いたいですわ」
「とっても、可愛い子なんだってさ」
「そして私たち四人の自慢の子なのです、神はそう言っています」

 えっ、それってよく考えなくても俺のことかなと思って四人を見た。すると四人全員の目が笑っていなくて、そのまま冒険者ギルドの鍛練場にぐいぐい引きずっていかれた、そうしてリリーと魔法の打ち合いをすることになった。要するに的に何かの魔法を当てるだけの簡単なことだ、いや昔の俺ならこれすらできなかった、なぜならその頃は初級魔法の一部しか使えなかったからだ。

「えっと、十個ある的に当てればいいのか」
「多く当てたほうの人が勝ちですわ、私が勝ったらシエルの頭をなでなでしますわ」

「それ、いつも普通にしてないっけ?」
「ここ最近はあまりしていませんでしたわ、だから皆でシエルをなでなでしてみせますわ」

 どっかの痴女もどきのドラゴンスレイヤーと違って、ジュジュのパーティには親愛の情をこめて、俺の頭を軽く撫でられたりしてた。あかり姉さんもよくそうしてくれていたから、俺は別に何も気にしていなかった。大人の女性であるジュジュたちからすれば、体が小さい俺は小動物のような可愛さがあるらしいのだ。ちなみにこんなに仲良くなったのにジュジュ達の年齢は知らない、世の中には知らないほうがいいことがあるのだ。

「ようは魔力制御の練習だな」
「はい、そうですわ」

「それじゃ、『電撃槍ライトニングストライクスピア』」
「ほぇ?」

 動いてる敵味方が混戦している状態でも俺は敵だけに魔法を当てたのだ、それが十個とはいえ動かない的に当てるなんて簡単すぎることだった。くぅ~、俺は成長している、確実に成長しているのだ。初級魔法しか使えない俺はどこにいったのだろう、もう中級魔法は半分くらい覚えているのだ。上級だって偏っているが幾つか使えるくらいだからな、俺が全部の的をあてた後は焦ったリリーが真剣に、そう一個ずつ慎重に的に魔法を当てていた。

「こっ、これで最後ですわ。『火炎フレイム』!!」

 リリーが十個全部の的に当てた時には、俺はそこにいた皆と一緒になって拍手していた、それから俺はジュジュたちのパーティに頭をなでなでされまくった。あかり姉さんが四人増えたみたいで、これはこれで幸せだった。ジュジュのパーティはドラゴンを狙っていないし、四人とも世話焼きで優しい良い人間たちだった。俺はあかり姉さんやジュジュたちそれにツカサなどの良い人間、逆に盗賊などの俺を殺そうとする悪い人間がいるんだ、そう人間には二種類の分け方があると改めて思っていた。

「さて、でもまだまだ魔法の勉強をしないとな」

 俺は頭をなでなでされながら、また魔法の勉強をしないといけないと思っていた。あのやる気が無かった頃の自分を蹴っ飛ばしてやりたい、あの時だったら母さんから直接魔法を教えて貰えた、あの時だったら難しい魔法理論について質問ができたのだ。でも俺の才能はあかり姉さんの考えた縛りプレイによって開花したので、昔のことをうじうじ言っても仕方がないのだ。時間は誰にでも平等にながれていく、それを止めることはも誰にもできなかった。

 冒険者ギルドにまた俺は依頼をだして、剣術の上手い人間と戦って鍛練をして、そうして戦いながら魔法を詠唱するようになった。発動はさせないがいつでも発動できるようにはしていた、どんな時でも魔法が安定して使えるようにしたかったのだ。最初のうちは魔力制御が難しかったが、剣術の腕も上がっていくについて、安定して魔法を維持できるようになった。

「いや自分、誰やねん」

 戦う相手も剣だけじゃなくて、槍や弓矢それに魔法使いなどと、色々と戦ってみて学びを深めた。うーん、昔の俺が今の俺をみたら、そう自分で自分につっこみを入れるくらい俺は鍛練していた。何となく嫌な予感がしていたのだ、何かをやっていないと全てを失ってしまうような気がしていた。成長途中の焦りかなと思っていたのだが、それがそうじゃなかったのを知るのはもっと後になってだった。

「ねぇ、聞いた。大きな盗賊団がいるんだって」
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