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1-22王と呼ぶには値しない

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「見ろ、ランコントルだぞ!!」

 商隊の誰かがそう声をあげた、俺は目の前にある高い壁に囲まれた都を見て驚いた。そうして中に入るとまた驚いた、フィーレの街よりもずっと大きくて道幅が広かった、店なども沢山並んでいて中には俺のまだ知らない物が売っていた。今すぐにあちこちを見に行きたい気持ちを抑えて、まず商業ギルドで運んできた商品を引き渡した。それから二日は自由時間だった、二日経ったらまたフィーレの街に戻るのだ。

「えっとツカサがもしあったら買ってきてくれ、そう言ったのはみそとこめだったな。ジュジュたちへのお土産は日持ちするお菓子でいいかな?」

 そんなことを考えながら俺はランコントルの都を歩いた、水道があちこちに整備されていて下水道もあった。フィーレの街にも同じものはあったが、未だに井戸を使っている住人も少なくはなかった。それ以外にも都は綺麗に整備されていて、俺はいろんな店を見てみて皆へのお土産を探した。そしてせっかくだから貴族が住んでいる特別区や、その先にある王宮なども見てみたかった。だから夜になってから『隠蔽ハイド』の魔法で自分の姿を隠して行ってみた、そこには煌びやかな世界が広がっていた。

 夜でも街灯が沢山ついていて明るかった、とある貴族の家の食卓には今まで俺が見たこともない、とても豪華な食事が並んでいたのが窓から見えた。そうして俺は人間の王様というものが見てみたかったので、そのまま王宮にこっそりと忍び込んでみた。普通の平民だったら正気かどうか疑われるような行為だ、でもこの国で一番に偉い奴を俺はどうしても見てみたかったのだ。ドラゴンでいえば最強と言われるドラゴンだろう、人間では一番の権力を持つ奴のことを見てみたかったのだ。

「貴女は、今日も本当にお美しい」
「随分、お久しぶりですわね」
「今日はまた変わった料理が出るようですな」
「知っていますか、あの方は浮気なさっているとか」
「ふふっ、知っていますわ」

 王宮というところもキラキラと灯が沢山ついていて、宝石や金銀の飾りを沢山つけた人々で大広間がいっぱいだった。今日は何かのお祭りなのだろうか、俺はしばらくいろんな人間を観察していた。そうしているうちに楽器が大きな音を立て、貴族っぽい人々が二手に分かれて並んで誰かを待っていた。そうしてやってきた人間は見た目は豚のようだった、とにかく太っていてその体を他の貴族に支えられていた。もう一人の入って来た人間は俺にはまだまともに見えた、派手な宝石で着飾った年をとった貴族の女性のように見えた。

「国王陛下と王妃様ね」
「次は王太子様たちが来るわ」
「絶対に次の王太子妃になるのよ」
「気に入られなくては」
「王太子さまだ」

 俺はあれが人間の王なのかとがっかりした、人間の王様は自分では戦う力を持たないようだ。もしかしたら物凄く頭が良いのかと思ったが、それはこの場では確かめることができないことだった。見たかったものを見たので俺はこっそりと王宮を抜け出した、一応は一番に国では警備が固いであろう場所に行ってきたので、追っ手には特に気をつけて俺は都で借りている宿屋へこっそりと戻った。

「ドラゴンには弱い王様はいないからな、というか王様自体が普通はいないもんなぁ」

 ドラゴンはそれぞれ自由に生きていく生き物だ、だから王という存在を必要することがほぼなかった。何か世界の非常時には自然とドラゴンが集まって、その場で一番強く賢いドラゴンが命令することはあった。でももちろんその命令を聞かなくてもいい、それはどのドラゴンに許されている自由で、世界の危機だからといってドラゴン族が必ず動くとは限らなかった。

「これはもう都の観光に期待するしかないだろ」

 それから一日で俺は味噌と米というものをようやく見つけて買った、それからジュジュたちにも都にだけある名店の、日持ちがするというクッキーの一種のお菓子を買った。それ以外は都のいろんなところを見てまわった、俺の見た目が子どもだったから入れてくれない場所も多かった。俺は人間でいえば十三歳くらいの子どもにしか見えなかった、劇場というものにはお金を払えば入れて、そこで立ち見だったが演劇というものを見て楽しんだ。

「うえっ、ここでもドラゴンスレイヤーを見るとは」

 俺が最初に見た劇は面白おかしい恋愛ものだったから違ったが、ドラゴンスレイヤーが今の一番人気のある劇らしかった。お話としては街を襲う恐ろしいドラゴンを、突然現れた美しく強い青年が退治する、そういうお話らしくてしかも最後にはお姫様と彼は結婚するのだ。そうして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ、その演劇では被害者になるドラゴンの俺からすると、うんざりするくらい人間に都合の良い話だった。

「まぁ人間が見るんだから、人間に都合の良い話になるのは当然か」

 自由時間である二日が過ぎて俺は都で仕入れた物、それらをまた馬車に積み込んでいった。俺が小さいから役に立たないとか言っている、そんな護衛の冒険者がいたが無視するのが一番だった。そうして俺は王宮とか、演劇とか、公園とか、入れて貰えなかった国立図書館など、色んな場所を思い出してみながらまた旅に戻った。

 その帰りの旅の途中である真夜中のことだった、妙に大きな気配が近づいてくる気配したので、俺は見張り当番じゃなかったが飛び起きた。そしてすぐに見張り当番の奴のところに行って、妙に大きな気配がした方を見ろと忠告した。でも見張り当番は俺のことを胡散臭げに見て、真面目に俺の話を聞かなかったから、俺は無理やりにその頭を大きな気配の方に向かせた。

「いきなり何すんだ!! このチビ!?」
「いいから見ろ!! そして何が見えるか大声で言え!!」

「ああ、なんも……、嘘だろ。おいっ皆ぁ起きろ!! 盗賊だ!!」
「最初からそう言ってればいいんだよ!!」

 俺が飛び起きて感じた妙な気配は、盗賊が乗っていたランドラゴンが十数頭いるからだった。こいつもドラゴンと名がついてはいるが、要は二本足で速く走るトカゲだ。肉食性で狂暴だが小さい頃から飼えば、意外とよくなつく騎獣になるらしかった。護衛に雇われていた冒険者もやっと飛び起きてきた、俺の商隊は三十人くらいの人間がいたが、もちろん全員が戦えるわけじゃなかった。

 戦えるのは十名ほどの冒険者だけだった、俺がさてともし使うならどの魔法にしようかな、あまり目立ちたくないなと考えている間に戦いになった。俺の隣にいる商人なんかはいつでも逃げ出せるように、馬にくらわせる鞭から決して手を放さなかった。俺の商隊の冒険者はほとんどが銀の冒険者でまぁまぁの腕前だった。俺が何もしなくても勝てるかと思った、でもランドラゴンは狂暴でもう少しで前足で踏みつけた冒険者を食おうとした。

「それじゃ、『電撃槍ライトニングストライクスピア』!!」

 だから俺はあまり実力をみせたくないから手加減した、十分に手加減してランドラゴンだけを狙って、そうして雷撃の槍を十数本だけ空から降らせてやった。魔法一つだけだがそれだけで良かったんだ、盗賊の中にはランドラゴンごと雷撃に焼かれた者たちもいた、でも向こうが殺そうとしたのだからこっちだってその相手を殺していいのだ。雇われている冒険者は最初は俺の魔法の威力に唖然としていたが、立ち直るのは盗賊より早く結果的に俺の商隊は無事だった。

 それから俺のことをチビだの、ガキだの言う奴がいなくなった。まぁ魔法使いは貴重だからな、混戦時に敵と味方を区別して、敵だけに攻撃魔法を当てられるとなればもっと希少だ。俺自身はおかげで煩くからかわれることが無くなった、それで終わりで済めばよかった。今度は図々しくも俺にうちに入ってもいいんだぞと勧誘する冒険者が出始めた、もしくは商隊の隊長にうちの店の専門護衛になってもいいんだからねと言われた。

「だからツンデレか!? それは母さんだけで間に合ってるつーの!!」

 なんとも言い難い気持ちとツカサやジュジュたちへのお土産を持って、俺はフィーレの街にどうにか帰ってきたのだった。久しぶりに帰ってきた街はいつもと変わりがなかった、一カ月くらい留守にしたが何も起こっていないように見え平穏そのもので安心した。商業ギルドに荷物の引き渡しの手伝い終わるともう俺は自由だった、だからジュジュたちにお土産を渡したり、次の月の日にツカサに会って味噌と米を渡したりした。

「みそ汁と米!! ああ、何も思い残すことはない!!」
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