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1-21同じ時間を生きられない

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「縛りプレイって楽しいけど、誰にも話せないのは寂しいな」

 俺は考えた末に良い事を思いついた、そうして思いついたら即実行した。あかり姉さんと同じ迷い人である神殿の神官長をしているツカサを訪ねたのだ、この前にドラゴン騒ぎで来た時は寄付を要求されたが、今回はそんなこともなくしばらく待つとツカサの部屋に通された。そうしてツカサが控えている神官たちに下がってよいと命令して、それからしばらく経ってツカサからもう自由に話していいと合図があった、だから俺は遠慮なく縛りプレイのことを話させてもらった。

「それでな、ツカサだから話すけどな!!」

 それだけじゃない俺の大切なあかり姉さんという、にほんからきたツカサと同じ迷い人がいることも話してきかせた。ツカサが良い人間だということが、俺にはもう十分によく分かっていたから、遠慮なくあかり姉さんのことも話すことができた。多分だがツカサと同じにほんという国からきた迷い人の話だ、だから彼は興味深そうに頷きながら俺の話を聞いてくれた。

「縛りプレイか、それはまた面白いことを見つけたね。それに私とその女の子も同じ国から来たんだ、時空を渡った時間もそう変わりないが、到着する時間はズレていたようだね」
「ふーん、それで俺はまた強くなってる? ツカサならすてーたす?で分かるだろ」

「ああ、また強くなっている。上級魔法が四、五回は使えるんじゃないかと思う」
「うわー、すっげー、なぁ。そのツカサのすてーたす? ってなんでもわかるのか?」

「名前と種族名、それから体力と魔力の総量。そして各能力値くらいは分かってしまうんだ」
「おお、そんな便利なものが使えるなんて迷い人は凄いな。…………でも生きる世界が変わってしまった時は、やっぱり落ち込んだよな」

 ツカサはもう何十年も昔の話だよと笑って自分のことを話してくれた、両親とは若い頃に事故で死に別れて、つきあっている女性も親しい友人もいなかったそうだ。だからこの世界に来て自分の才能に気がついたら、もう夢中になって一生懸命に神学の勉強をした。そうして気がついたらこの街の神官長になっていた、そんなツカサという一人の人間の話だった。

「月の日は神殿もお休みだから、次からはその日に来るといい。もちろん、緊急事態の時はいつでも大歓迎だ」
「分かった、月の日だな。ツカサはあかり姉さんに会ってみたいか?」

「もう少し私が若かったら彼女に会って、もしかしたら結婚を申し込んだかもしれないね」
「うっ、ツカサは良い奴だけど、あかり姉さんを簡単にはやらないからな」

「私がもう少し若かったらの話だよ、もう孫と話しているような気分になるだろう。いつか、会ってみたいとは思うよ」
「俺が縛りプレイから解放されたら会わせてやるよ!!」

 ツカサは俺の言葉ににこにこと穏やかに笑っていた、俺のことも孫を見るようなものなのか、そういう優しい視線をずっと感じていた。それからだ、俺は月の日にはツカサのところへ遊びに来るようになった。何でもないフィーレの街のことを話したり、あかり姉さんに教わった料理を持って遊びに行ったりした。逆にツカサはにほんという国の制度で良いものだけ、それだけをこの街に作りたいという話をしてくれた。

 俺は縛りプレイという行為のことが、にほんのことが分かってくれる人間と話せて満足だった。ツカサも月の日はいつもお菓子を用意してくれていたり、魔法で分からないことがあったら教えてくれたりした。そうやって俺は上級の回復魔法まで覚えた、もちろん上級魔法が使えることは俺とツカサの秘密だった。もう一つツカサは迷い人は良い人間ばかりじゃない、黒髪と黒い瞳の人間を見たら気を付けるように言っていた。

「黒髪に黒い瞳の迷い人には気をつけなさい、彼らが必ずしも善人とは限らない」
「分かった、あかり姉さんとツカサは特別なんだな!!」

 人間に悪い面があるのは俺ももうよく知っている、だから今の人間の力では救えない『貧民街スラム』なんてものがあって、そこでは力も金もない人間がよく殺し合って死んでいた。この神殿には孤児院があるそうだが、そこに来るのを嫌がって『貧民街スラム』で暮らしそして死んでいく子どもも多かった。孤児院は食事をくれるが労働や勉強をするように、そう子どもたちを教育するから嫌われることがあるのだ。

「ツカサもいろいろと大変だよな、でも元気で長生きしろよー」
「ふふっ、そうだね。最近は新しい楽しみもできたから、できるだけ長生きすることにするさ」

「そうだ、そうだ、百歳なんてあっという間さ」
「さすがにドラゴンは言うことが違う、君の話を聞いていると本当に百年でも生きていけそうだ」

 その時に俺はツカサがか弱い人間だということに気づいた、百歳は大丈夫かもしれないが二百年もすれば、もうツカサは確実にここにはいないのだ。だから体に良い薬草や食べ物がとれると、月の日にツカサに差し入れするようにした。人間は百歳だって生きられないかもしれないのだ、俺はできるだけ長くツカサに生きていて欲しいと思った。

 俺の考えくらいはツカサはお見通しだったようで、そんなに心配しなくても百歳くらいは生きてみせるよ、そう力強く言って俺の頭を優しく撫でてくれた。人間と過ごしていてとても寂しいところはこんな時だ、俺とツカサは生きる時間が違うのだ。それは俺とあかり姉さんにも言えることだった、俺はあかり姉さんが元気でいると良いんだけど、そうツカサに話しながらこの街で暮らしていた。

「君のお母さんは強いドラゴンなんだろう、ならあかりさんもきっと元気でいるだろう」
「うん、俺の母さんは強いドラゴンだ。あかり姉さんも、昔は俺より強かった」

「シエル、もっと強いドラゴンになるといい。体だけじゃなくて、そう心のほうもね」
「心はどうやって鍛えたらいいんだ、体と違って鍛えられないぞ」

「いろんな経験をするんだよ、その一つ一つが君をとても強くしてくれるのさ」
「経験か、…………うん。なんとなく分かった、本当になんとくだけどさ」

 そんなふうに俺の街の生活は穏やかに過ぎていった、だけどツカサに言われたから俺はフィーレの街、そこからちょっと外にも出るようになった。ドワーフの集落に行って知らないものを見つけたように、商隊の護衛や手伝いで違う街をまわるようになったんだ。そんな時は必ずジュジュたちやツカサに連絡していった、そして帰ってきたらいろんな話をして皆と経験とやらを分かち合った。

「今度は首都のランコントルにも行くんだぜ!!」

 そうジュジュたちやツカサに連絡しておいた、このメナート王国の首都とはどんなところだろう、そう思いながら俺は少し長い旅に出ることになった。片道だけで半月はかかる旅だ、首都が一番に発展していると聞いているが、一体どんな場所なのか楽しみだった。ドラゴンスレイヤーのことなんかは気になったが、母さんは強いから心配ないと思って旅に出た。

 初めて会う商業ギルドの人間や、護衛の冒険者からは体が小さいと馬鹿にされた、だけど気にしないようにした。そいつらと仲良くしようとは思ってなかったし、仲良くしたところでいい人間だとも思わなかったからだ。それよりもツカサやジュジュたちにどんなお土産を買うか、そんなことを気にしながら旅をしていたくらいだった。そんな日々が順調に過ぎて、やがて商隊は目的地についた。

「見ろ、ランコントルだぞ!!」
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