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1-17安心するのはまだ早い

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「さぁ、皆。フィーレの街へ帰りましょう」

 ジュジュがそう皆に言った時だった、俺はとても嫌な予感がしてジュジュたちを庇い、咄嗟に魔法を使って防御態勢に入った。

「『聖なる守りホーリーグラウンド』!!」

 するとその防御魔法に強い衝撃があった、そうして俺たちは恐ろしいものを見た、醜く歪んだ人間だったものを見つけた。それは大きく膨れ上がったゾンビのようだった、でも俺たちを見て笑ったあたりから知性がある者だと分かった。こいつはなんという魔物だといったか、ええと魔物に関する授業をさぼるんじゃなかった。俺が思い出せないでいるうちに、アマーリエがその正体を思い出して叫んでいた。

「ワイズデッドです!! 戦えない方は離れて!! 神よ、我らに勝利をもたらしください!!」

 そうだリッチのなりそこない、ワイズデッドだ。知性のある手強いアンデッドで、とにかくその力の強さと速さが厄介な奴だ。戦えない者はすぐに山の方へと逃げた、俺たちは残って五人で臨戦態勢をとった。多少でかくて素早いとはいえアンデッドには違いない、こいつが本気になって動きださないうちがいい、俺は神官であるアマーリエに素早く声をかけた。

「早く、浄化魔法で消しちまえ!!」
「無理です、私が使えるのは『浄化ピュア』だけ、焼け石に水なのです!!」

「マジか、それじゃ俺がやる!!」
「ええ!? なんで私より強い浄化魔法が使えるんですか!?」

 俺はアマーリエの浄化魔法に期待していたのだが、それが使えないとなると俺自身が使うしかない、だから集中して大きな光の源へ帰れと願って魔法を使った。

「『浄化の光ピュアフュケーション』!!」

 俺が魔法を唱えるとワイズデッドは白い光に包まれ一瞬だが動きを止めた、だがすぐにゆっくりと動き出してこっちに大岩を投げてよこした。俺たち五人はそれぞれを大岩をうまく避けた、ワイズデッドは笑っていた、こちらを馬鹿にするように歪んだ笑みを浮かべていた。思わず俺はアマーリエに向かって文句を言った、俺は確かにできるだけの全力で浄化魔法を使ったはずだったからだ。

「効かないじゃないか!!」
「はい、貴方の神への信仰心が足りないのです!! でもちょっとですが効いています!!」

 確かに俺の浄化魔法は一瞬でもワイズデッドの動きを止めれた、全く効かないわけじゃないなら何度でもぶちこんでやるだけだ。

「『浄化の光ピュアフュケーション』!!」
「『火炎球フレイムボール』!!」
「ええと、『浄化ピュア』!!」

 俺の浄化魔法が一瞬だがワイズデッドの足を止めた隙に、リリーが火炎魔法をワイズデッドにぶち込んでくれた。アマーリエも雀の涙ほどの効果しかないが、初級魔法を唱えて浄化しようとしていた。火炎魔法がひととおりワイズデッドを焼き尽くしたら、今度はジュジュが止まっている奴に向かって走り、その焼けてもろくなった左手を切り落とした。更にキリエがそのジュジュの背中を蹴って飛び上がり、ワイズデッドの左目をナイフでえぐりとった。

「よっし、もう一度。『浄化の光ピュアフュケーション』!!」

 俺が浄化魔法でワイズデッドの動きを止める、その隙にジュジュたちが攻撃していくといく戦法でいった。ワイズデッドは残った腕で更に攻撃してきたが、俺の浄化魔法でどうしても隙ができるので、こちらとしては戦いやすかった。ああ、ごめんな。俺がもっと強い浄化魔法を使えたら、そうしたら一瞬で楽にしてやれるのにと思った。

「もう眠れ!! 『浄化の光ピュアフュケーション』!!」

 十何回目かの浄化魔法でワイズデッドはとうとう塵になって消えた、俺たちはほとんど怪我をしていなかった、せいぜいが投石の小さなものを受けてできた打撲や擦り傷だけだった。しかしさすがに死の森だけはある、こんな化け物がうろうろしているのだ。俺は魔力を結構使っていたし、ジュジュたちに生存者をまとめて早く帰ろうと話した、もちろんジュジュは力強く俺の提案に頷いた。

「ええ、今すぐに帰りましょう」

 そこから俺たちの動きは早かった、さっさと街道に戻って街まで歩き出した。そうして野営もして数日かかったがなんとかフィーレの街に戻ってきた、俺は皆が心はともかく体は無事に帰れてホッとした、でもそれからがまた大変だった。盗賊団の隠れ家を見つけたことは氷漬けの賞金首がすぐに証拠になった、そうしたら今度は商隊の隊長の判断が問題になった。

 俺は冒険者ですらない商人の下っ端だ、ジュジュたちも新人の冒険者だった。そんな者たちが盗賊の隠れ家を全滅させて帰ってきたのだ、このことはすぐに調査団も送られ正式に確認された。だから俺たちよりも屈強な冒険者の男たちに守られていた、そんな商隊の責任がある隊長が何故に行方不明者、彼女たちの救助ができなかったと責められたわけだ。

「人間ってこんな時がややこしいよな」

 なんだかんだともめたすえに俺は一部の商人から、腕のたつ狩人だと認められるようになった。でも商隊の隊長をしていた商人からは逆恨みされ、商業ギルドにいると睨まれることになった。買取の値段を下げられたりはしていないが、こういうお偉いさんから睨まれるということが厄介だった。逆にジュジュたちは冒険者ギルドに働きが認められて、筆記試験はあったが特別に全員が鉄の冒険者だと認められた。

「いいなぁ、俺はお偉いさんに睨まれて損してるのに」
「ふふっ、シエルの力も認められているわよ」
「あまり気にしないのですわ、魔法の力を見せつければいいのですわ」
「あははは、シエルは気にし過ぎなんだよ」
「神は平等です、貴方もいつかそれが分かります」

 そうやって俺は死の森から帰ってきた、結構な命の危機かと思ったけど、やっぱり俺はドラゴンには戻れなかった。いや戻っていたらそれはそれで大変なことになった、ジュジュたちにも正体がバレてお別れすることになっただろうからだ。俺は強くなっているのは確かだからいいか、人間として生きていくのも悪くないと思っていた。

「そういえばシエル、神官になるって本当?」
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