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1-16死ぬより辛いことしかない

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「それじゃ、皆。俺がこの辺りを調べてみる、少し離れるけど待っていてくれ」
「シエル、貴方も消えてしまうなんて嫌よ」
「なにか自信があるのですわね」
「きっと神の導きがシエルにはあるのです」

 俺のことを心配するジュジュたちに俺は力強く笑ってみせた、それだけの自信があったが上級魔法をジュジュたちの前で使うわけにはいかない。ジュジュたちはとても心配そうに俺を送り出してくれた、俺は彼女たちから見えない位置についたら、すぐに魔法を使うことにした。初めて使う魔法だから多少の不安はあった、でもキリエの元気な笑顔を思い浮かべて俺はその魔法を使った。

「『広範囲ワイドレージ探知ディテクション』」

 するとすぐに広い死の森の中の生物を探知することができた、小さい反応は小動物だろうから大きな反応だけ探した。近くにある三つの反応はジュジュたちだ、でも少しばかり遠くに何故か三十人くらいの反応があったのだ。俺はこれはおかしいと思ってすぐにジュジュたちと合流した、そして三十人くらいの人間が通った痕跡があると言った。

「そんなに沢山の人間が死の森に、おかしいわね」
「死の森にわざわざ近づく人間はいないわ」
「別の商隊、いえそれにしてもおかしいです。神は確かめよと言っておられます」

 俺はジュジュたち三人を案内しながら、死の森の奥へと進んでいった。時々ゾンビやグールが出たが、魔法が使える俺とリリーの敵ではなかった。それに出会ったゾンビやグールもおかしかった、古い戦場の戦士というよりは、ごく普通の冒険者のような身なりをしていたのだ。まだ新しい遺体からうまれたアンデットだった、だから余計におかしな話だった。

「ジュジュ、リリー、アマーリエ。もう三十人の近くまで来ている、ここからは魔法も無しで静かに様子をみよう」
「ええ、わかったわ。ゾンビやグールは斬り倒して進みましょう」
「魔法を封印ね、わかったわ」
「神よ、どうか非力な私たちをお守りください」

 そうしてこっそりと森の中を進んだら、やがて山があり洞窟らしきものが見えてきた。そこには見張りの人間が二人だけ立っていた、これ以上は強行突破しなくてはならなかった。何故ならば見張りをしている人間がどうみても普通の人間じゃなかった、服は汚いが鎧や剣はしっかりと持っていた。俺の服をくいくいっと引っ張って、真っ青な顔色になったジュジュがこう言った。

「シエル、あれは賞金首よ。ここは盗賊の隠れ家なんだわ」

 その言葉に俺と他の仲間たちも頷いた、死の森の行方不明者は死者に誘われているのではなかった。死の森という隠れ蓑の中にいる盗賊が攫っていたのだ、キリエは無事でいるだろうかとそれだけが気になった。そうして俺たちは作戦をねることにした、手練れの盗賊たちがいる中に無策で、何も考えず飛び込んでいくわけにはいかなかった。

 俺たちは短く作戦会議をして、そうしてから行動を始めた。この作戦で一番に肝心だったのはアマーリエだった、彼女は盗賊たちから見つからない少し山の上にある、安全な離れた場所である曲を歌い始めた。それは鎮魂を願う歌だった、死者を慰めその魂の解放を願う歌だった。彼女が小さな声で歌い始めてからすぐ、腐りかけたゾンビやグールが次々と現れ始めた。

「よし、ジュジュ、リリー、作戦どおりに」
「ちょっと心が痛むけど、キリエの為だもの仕方がないわね」
「こういう肉体労働は魔法使いの仕事じゃないわよ」

 俺たちは山の上に現れたゾンビやグールを下にある洞窟、つまりは盗賊の隠れ場に蹴り落としていったのだ。アマーリエが歌ったのはただの鎮魂を願う歌だが、俺も知らなかったがゾンビやグールにはそういう歌によってくる習性があるそうなのだ。だから気の毒だがアマーリエの歌につられてきた、ゾンビやグールを俺たちは囮として、次々と俺たちは盗賊の隠れ家に放り込んでいった。

 当然だが盗賊の隠れ家はすぐに大騒ぎになった、そうして火の魔法を操る者も出始めて、ゾンビやグールはどんどん退治されていった。その隙に俺は『隠蔽ハイド』という魔法を使って、一人だけでこっそりと盗賊の隠れ家に侵入した。ジュジュたちが騒ぎを起こしてくれている間に、キリエたちを先に見つけたいと探しにきたのだ。

「おい、なんだこのゾンビとグールの数は!!」
「知らねぇよ!!」
「何でよってきやがる、くそ野郎!!」
「畜生!! 燃えてなくなりやがれ!!」
「おい、また来るぞ!!」

 盗賊たちは大変混乱してくれていた、俺にとってはとても良い事だった。だから俺は隙をみて一人でいる盗賊を殺したり、そうやって少しずつ敵を減らしながら隠れ家の洞窟に入っていった。通路は意外と広くもしかしたら古代の遺跡なのかもしれなかった、そうして『広範囲ワイドレージ探知ディテクション』で離れた五人を探したら、ようやく奥の部屋の鉄格子の中に閉じ込められている人々を見つけた。そこにはキリエもいた、良かった彼女は無事のようだった。

「キリエ!! 無事か!!」
「ああ、シエル!! なんとかね、私は無事よ!!」

 シーフのキリエは少し薄汚れていたが、どこにも怪我はしてなさそうだった。俺はひとまず人質全員の無事を確認して、キリエにこう簡単に俺たちの作戦を説明した。

「キリエ、ここの鉄格子を更に土魔法で塞いでいく、ジュジュたちと盗賊を全て倒したらまた来る」
「分かった、気をつけてね」

 それから俺は『硬石槍スートンスピア』でキリエ達がいる牢への道を塞いだ、あとはジュジュたちと合流するために外に出ながら盗賊退治だ。あいかわらず俺は『隠蔽ハイド』の魔法を使っていたから、その姿は敵には見えず不意打ちし放題だった。二十三、二十四、そしてこれで最後の二十五だ。俺は盗賊の隠れ家にいた盗賊たちを全て殺してしまった、相手もこっちを殺すつもりだったろうから、少しばかり気分は悪いが後悔は全くしていなかった。

「終わりだよっと」

 そうして俺が合図の『火炎球フレイムボール』を空に打ち上げると、ジュジュたちもやがて山から下りてきた。そして俺の牢を塞いでいた魔法を解除して、それから近くの部屋で牢の鍵を見つけて、人質になっていた五人を無事に助け出せた。だが中にはどうも服が破れていて性的暴行を受けた女性もいたようだ、俺をみるとビクッと震えてジュジュたちに抱き着いて震えていた。

「あいつら、処女以外は金にならないからって酷いことをしたのよ。ああ、できるならもう一度殺してやりたい!!」

 そうキリエが言うので俺は一つ思いついたことがあった、賞金首になっている者は首だけを氷漬けにして持って帰ることになった。だがそれ以外の体は高い土壁の牢を作り出して、その中に全員を置いておくことにしたのだ。こうしていれば魂は汚れた土地の影響で世界の大きな力に帰れない、誰かよっぱど親切な聖職者が来て、彼らに浄化魔法を使ってくれない限りそのままだった。

「こうすれば、こいつらの魂はずっとここでこのままさ」
「…………うん、分かった」

 盗賊たちの魂はこの死の森でずっと苦しみ続けていくのだ、キリエは俺からそう説明されてどうにか納得した、神官であるアマーリエもこの罰に対して反対しなかった。

「さぁ、皆。フィーレの街へ帰りましょう」
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