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1-13友達になるなんて素晴らしい

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「同胞である貴方に、大いなる力の加護があらんことを」
「おお、同胞である君に、大いなる力の加護があらんことを!!」

「やっぱりそうか、俺はアルカンシエル、皆にはシエルと言われてる」
「私はケントニス、そう呼んでくれ」

 俺が内心ガクブルでした挨拶は、陽気な明るい声で好意的に返ってきた。そして黒髪に紫色の瞳をもつケントニスという男性は朗らかに笑ってくれた、どうやら嫌なドラゴンではなさそうなので、俺は素直にその笑顔に笑い返した。そのまま俺たちは近くの飯屋に入って、フィーレの街の話を詳しくしたりした。ケントニスが何歳なのかは分からないが、少なくとも俺よりも年上なのは間違いなかった。

「そうか、君は成人したばかりなのだな」
「えっ!? 何で分かるの!!」

「人間としての体の動かし方、話し方、私に対する態度などからだな」
「やっぱり違和感があるか、もう人間として暮らして半年くらいは経つんだが」

「そんなに人間の街にいるとは変わっているな、私などは酒場を一通り楽しんだらすぐ出ていく」
「俺はちょっと一族としては落ちこぼれで……」

 そこからはドラゴンに関する話になったので、俺の借りている部屋に移動して話をした。俺がドラゴンとして落ちこぼれというほど未熟であることや、人間の姿でいる縛りプレイの理由なども話した。ケントニスの方も自分のことを話してくれた、ケントニスは成人して四百歳くらいの若い雄で、交配相手になるメスドラゴンを探して移動しているという話だった。

「私のような交配の相手を探す話はよく聞くが、その縛りプレイというのは初めて聞く話しだ」
「あかり姉さんがえいちぴー?とかえむぴー?とかよく分からないことを言ってた」

「それは体力と魔力の総量のことだと聞いたことがある、シエル。君は確かにまだ未熟だが、縛りプレイとやらで成長をする可能性は確かにある」
「あかり姉さんを疑ったことはないよ、俺は少なくとも一年前よりずっと強くなった」

「おそらくは人間の姿へ君の体を変化させることは、体に重りをつけて訓練しているようなものだ。だから君がドラゴンに戻った時には、きっと前よりもずっと強くなっているだろう」
「ドラゴンに戻れる命の危機って、そんなになくて困ってるけどね。まぁそんな怖いことは無い方がいいし、人間としての生活にも慣れた」

 ケントニスはそんなふうに言う俺をそうかとにこにこと笑って見ていた、だが次に言われたことは俺にとっては意外で衝撃的なことだった。

「君の母上をできれば次の交配相手として、私に紹介してもらいたかったが」
「ええ!? 母さんをケントニスの交配相手に!!」

「だが子育てを終えたばかりなのだろう、彼女には今は休息が必要だろうな」
「ああ、そうですね。はい、そうですね」

「そんなに私を警戒しないでくれたまえ、力の強いメスドラゴンに出会いたい気持ち、これは君にも分かるだろう」
「昔はそんな夢を見てた、最強のドラゴンになって母さんのようなドラゴンと、そうとても強い次世代の子どもを授かる」

 今の俺は人間として生きていくだけで精一杯だ、子どもの頃から思っていた夢が本当に遠い幻のように感じた。そんな俺の額をケントニスはパシンッと指で弾いた、全く痛くはなかったが少しばかり不意打ちだったので驚いた。ケントニスは自信満々に笑っていた、そうして力強い笑顔で俺の不安を吹き飛ばすように言った。

「君の大切な迷い人は信用に値する人間なのだろう、なら何も心配することはない!!」
「うん!! あかり姉さんは信用できる人間だ!!」

「なら君は必ず強くなるのさ、シエル!!」
「俺が強くなる、今よりも強く……」

「ああ、最強のドラゴンになるのだろう!! ならば今は体を鍛え知識を学んでおくんだ!!」
「わっ、分かった!! 頑張るよ!!」

 ケントニスは俺をとても強く励ましてくれた、俺は久しぶりに目の前が開けたような気がした。あかり姉さんを信用してはいたけれど、俺の体の変化はゆっくりとしたものだったからだ。だが他のドラゴンにあかり姉さんのことを改めて信用するように言われて、俺はどこかで僅かに彼女を疑うような気持ちがあったことに気がついた。あかり姉さんを疑っていたなんて俺は馬鹿だ、あかり姉さんを信じきれていなかった大馬鹿だ。

「ケントニス、ありがとう。俺がドラゴンに戻れるようになったら、その時に会えたら決闘してくれ」
「シエル、君がドラゴンに戻れるようになった時、運よく会えたら喜んでその決闘に応じよう」

 ここでいう決闘してくれとは喧嘩してくれという意味ではない、お互いを認め合って力比べをして欲しいという信頼の現れだ。そうして短い時間で俺にはケントニスという友達ができた、それもドラゴンの友達だからとても嬉しかった。ケントニスも楽しそうに笑い、そうして今度はフィーレの街の話に戻っていった。

「それじゃ、酒を飲みに行こう。さぁ、行こう!!」
「え!? 朝から飲むのか?」

「私は新しい人間の街に着いたら、まずは酒場に行くことにしているんだ」
「それならこの下の酒場からだ、他にも美味しいっていう店を紹介するよ!!」

「うむ、できるだけ強い酒があるといい」
「ああ、酒って強いほうがのど越しが良いよな」

 というわけでその日はケントニスと酒場をはしごして飲み歩いた、そしてケントニスに聞いたが俺たちドラゴンにはあるこーる?というものがだ。酒に入っている酔うその成分を分解する力が、それはもう強すぎるくらいにあるらしいのだ。だからほとんどのドラゴンは酒が大好きだし、ケントニスもこうして人間のふりをして、人の街の酒場に飲みにくるくらい酒を愛しているのだった。

「私はしばらくはこの街にいる、人間として剣の指導も大歓迎だ」
「うっそ、マジで!! ぜひ、お願いしたい!!」

「その様子では剣の相手がいなかったのか、対人戦も学んでおくことは大切だぞ」
「俺は商人だから練習相手がいなくて、冒険者にはなりたくないし」

「まぁ、私たちにとって冒険者は天敵のようなものだからな」
「だからケントニスがいる間に学ぶ、毎日行ってやるからな!! 覚悟しとけよ!!」

 それから本当に俺は毎日、ケントニスの泊まっている宿屋に通った。そして街の広場の隅で剣を教えてもらった、ケントニスが使うロングソードは間合いが広く、そして彼は力がとても強かった。俺は何度も地面に敗北して転がったが、こんなふうに剣を教えてもらえる機会はない、だから何度でも立ち上がってケントニスに向かっていった。

「強くなるんだ、シエル。それが我々の生きる意味でもある」
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