俺は死んでるんです

アキナヌカ

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002君と一緒

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 岩場の上に何人もの人が現れて、そうして槍を落としてきた。俺はローラを抱えて荷馬車の下に滑り込んだ、そうやって振ってきた槍が冒険者たちに突き刺さるのが見えた。

「”白く深い霧”、”大きな光の盾”」

 俺はまた白くて自分の前も見えない霧を発生させて、それと同時に皆を守るように上に向けて盾を作り出した。盗賊たちがまた槍を落としてきたが、その槍は光の盾にはじかれて土の上に転がった。どうやら盗賊達は大きな岩の上に全員が乗っているようだった。

「”焼ける岩上”」

 だから俺は彼らが乗っている岩場の温度を上げていった、しばらくすると靴が焼けてしまうくらいに岩は熱くなった。これには盗賊もたまらず飛び降りて来た、そうして落ちてきた盗賊を俺は一人ずつ始末していった。今度は逃げようとする盗賊もいなかった、もしかしたら足が焼けていて逃げられなかったのかもしれないが、俺は岩から落ちてきた盗賊を全員の息の根を止めた。そうしてから深く白い霧を解除して、俺はローラの手を引っ張って荷馬車の下から外に出した。

「わぁ、凄い光景だ。血の海だな、ローラ」
「そうですね、これで盗賊は全ていなくなったでしょうか」

「多分、いなくなったんじゃないかな。二十人くらい死んでるし」
「今回はこっちにも被害が出ましたね」

「ああ、槍が刺さった冒険者たちは大丈夫だったかな」
「……お気の毒に一人お亡くなりになったようです」

 上からの槍が刺さった冒険者の一人は死んでいた、さすがの俺も死んでたんじゃどうしようもなかった。他にも槍がかすって怪我をしている冒険者が二人いた、冒険者という職業も危険で大変なものだった。

「俺は商人で良かった、おっと故人の前で失礼だな」
「でも、以前のラウルは冒険者に憧れていたじゃないですか」

「世の中を知らなかったんだよ、それっ一体何歳の時だ」
「十歳くらいの時、やっぱりなるなら冒険者だよなって言ってました」

「止めて、忘れて、そんな黒歴史」
「駄目です、忘れません。ラウルのことは全て覚えています」

 そんな話をしている間に冒険者たちの手当と埋葬も済んで、また商隊は街道を進みだした。盗賊の襲撃もなく平和に今度は進んでいった、森の中に埋葬された冒険者は気の毒だったが、だからといって遺体を担いで運ぶほどの余裕がある冒険者仲間もいなかった。遺体を埋葬した後、仲間の冒険者が埋葬場所に向けてこう声をかけていた。

「こんな森の中ですまねぇなぁ、ソル」

 そうして商隊は進み、ハンデルの街についた。商隊の隊長はそこで高く売れそうなら荷物を売り、その代わりに何か別の物を仕入れたりしていた。もちろん俺とローラも荷物の積み下ろしという仕事をした。そして宿屋を借りたのだが十人部屋という大部屋だった、一人死んでしまったから九人になっていたのが、少しばかり俺に寂しさを感じさせた。

「明日、出発だ。それまで自由にしていていいぞ」

 そうして俺とローラはハンデルの街の中を見物することにした、それと夕食を自費で済まさなければならなかった。

「ラウル、食事は露店で済ましましょう。安上りです」
「そうだね、ローラ。くうぅ、いつかは店で食べたいなぁ」

「この国を出てしまうまでの辛抱です、この国を出たら自由に何でもできますよ」
「そうだな、国境まではもう少しだ」

 元々俺達が住んでいたレオパール王国は小さい国なのだ、だから首都から国境までもそんなに距離が無い。そんなに小さい国なのに父上はこう言っていた。

「七種の精霊使いを手に入れた、これで戦争をしかけられる。レオパール王国は大きく成長する!!」

 もう少しで俺は戦争の道具にされるところだった、でも歴史では俺と同じ七種の精霊使いが、大きく国土を変えてしまったという文献が残っていた。父上の言っていたことも妄言ではなかったのだ、俺は父上に利用される前に城を出れて良かったと心底ホッとしていた。そして露店で串焼きを買ってローラと一緒に食べた、何の肉か分からないが熱くて脂がのっていて美味かった。二人で銅貨二枚で食事が済んだ、お財布に優しい良い店だった。

「美味しかったな、ローラ」
「ええ、何のお肉が分からなかったけど、美味しかったです」

「あれだけ安いことからして魔物の肉かな?」
「魔物も適切な処理をすれば、食べられるそうですから」

「まぁいいや、お腹はいっぱいになったし、街を見てまわろうか」
「そうですね、せっかくですから色々と見てまわりましょう」

 こうして短い休憩時間をローラと一緒に街を見てまわった、俺の知らない色んな物があって、ローラが色々と解説してくれた。そんなふうに楽しい時間を過ごして俺たちは宿屋に帰った、すると女性陣はお湯を貰って体を綺麗にするように拭いていた。もちろん部屋の隅で幕を張って男性陣からは見えないようにしていた、俺もローラから綺麗にするように言われていたから、同じように幕を張って体をお湯で綺麗に拭いておいた。

「誰もお前の体なんか覗かねぇよ!!」
「女か、お前は!?」
「旅が終わったら、風呂に入ればいいのさ」
「女みたいな奴だな、お前」

 散々な言われようだったが、できれば風呂には毎日入った方が体に良かった。それが出来ない時にはせめてお湯で体を綺麗に拭いておくべきだった、そうした方が感染症などにかかる確率が減るからだ。俺はなんで男は体を綺麗に拭かないんだろう、そう不思議に思いつつ使ったお湯の片付けをすると、それぞれに与えられたベッドで寝た。俺はちゃっかりローラの隣のベッドを確保していた、男性陣からぶーぶー言われたがもちろん譲るつもりはなかった。

「おやすみ、ローラ」
「おやすみなさい、ラウル」

 国境まではあと少しだった、このハンデルの街でも第三王子の訃報を噂に聞いた。誰も俺が生きているとは考えていないようだった、でも何かのきっかけでバレないようにしよう、そう思いつつローラにおやすみの挨拶をして眠った。

「そらっ、皆。行くぞ!! 寝ぼけてる奴は置いてくぞ!!」

 翌日は商隊の隊長の大声で目が覚めた、俺はさっさと身支度をして女性陣から配られたパンの朝飯を食べた。固いパンだったが、ここにアイスクリームとあんこを乗っけたら美味しいのにな、そうこっちの世界では叶わないことを考えながらの食事だった。そうして商隊はハンデルの街を出て行った、しばらく山道が続いて国境警備所があった。そこで商隊の隊長はお役人と話をして、荷馬車に違法なものがないか確認してもらった。とうとうこれでレオパール王国とはお別れ、ディアトロフィ王国へと俺たちは入った。俺とローラは目を合わせて微笑み合った、やっと故郷の国を脱出できたのだ。

「あー、ディアトロフィ王国だと思うと空気が美味い」

 そうして俺たちは新しい国に入り、順調に旅は進んでいった。そうして俺たちは目的地のドロールの街に入った、何の問題もなく商隊は街に入って、荷物の積み下ろし作業も終わった。俺達商人の手伝いには銀貨五枚の賃金が支払われた、特にローラが初めて自分の自由にしていいお金だと喜んでいた。そうやって、俺達は商隊と別れた。

「ラウル、私の初めて稼いだお金です!!」
「うん、良かったなぁ。前は稼いだお金は全部、父親にとられていたもんなぁ」

「まずはお財布を買いにいきたいです!!」
「いいよ、それじゃあ行こう!!」

 そういうわけで俺達はまずはローラのお財布を買いにいった、ローラはしっかりとした鎖がついた首から吊るすタイプのお財布を買っていた。俺もそういうタイプのお財布を使っている、何故ならスリが怖いし、財布を落としたりしたら大変だからだ。こうしてローラのお財布も確保できたので、俺は改めてローラに聞いてみた。

「ローラ、俺達は自由になった」
「はい、そうです。ラウル」

「ローラは自由になった、それでも俺と一緒に来てくれるか? 俺はローラが好きだから一緒に居たい」
「もっちろん一緒ですよ、ラウル」

 俺はローラとまだ一緒に旅ができるようだ、俺の告白はさりげなくスルーされてしまったが、また良いムードの時にローラに聞いてみようと思った。そうしていると遠くからか焦った声が聞こえてきた、同時にこっちに走ってくる人影があった。

「おいっ、スリだ。そいつはスリだ、捕まえてくれ――!?」
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