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しおりを挟む俺の護衛対象であるお嬢は昔からすっごく我儘だ。
「ねぇ、サン。私次からはここの教会に行くわ」
また始まった。今度は市内マップのある一箇所を指さながら我儘発動だ。
「この間あんな目に遭ったのに、何考えてるんだか……ダメに決まってるでしょう、行きたいなら庶民向けの教会じゃ無くて警備がしっかりしてる貴族用の所にしてください」
「いやよ。他の貴族が行ってないからこそ行く価値があるの。ほら早く準備しなさい」
他の貴族が居ないのに何の価値があるんだか……
今まで行っていた所より段違いに汚いし小規模なのはお嬢だって知ってる癖に……全く。
「あぁもう分かりましたよ。ただし、リサも連れて行ってください。流石に警備0のところに俺一人は無理です」
「うふふ、その位私だって分かってるわ。ほら早く行きましょ」
お嬢は早速リサを引き連れて玄関に向かっていった。
コウが運転する馬車に乗り片道2時間もかけてやっと教会に辿り着いた。以前までは30分位で着いてし馬車が苦手な俺からしたら苦痛でしかないのだが、お嬢は案外ケロっとしている。
俺が馬車から先に降り、周りの安全を確認してからお嬢とリサを降ろす。此処は予想通り教会と呼んで良いのか分からない位みすぼらしく、馬車の置き場所すらもない位小規模な所だった。
それに今日は週に一度皆が教会に集まる日にも関わらず、空席が目立ち子供か老人しかいないホール。勿論平民しかおらず、貴族専用の祈りの場なども存在していない。
普通の令嬢だったらこんな所連れてこられたら悲鳴を上げるだろうし、自ら進んで教会内に入って行く令嬢はお嬢だけだろう。
教会内に入った所、護衛とメイドを引き連れたお嬢にびっくりしたのかこの教会の司祭らしき男性がすっ飛んできた。
「司祭様、急な訪問申し訳ございません。どうか私もこの教会で祈りを捧げさせてください」
司祭が何か言う前にお嬢が先手を打った。
教会は誰もが祈りを捧げられる所と一応は謳っているから断る事は困難だろう。
「えぇ、それは構いませんが………責任者である私が言うのもアレですが、此処は平民向けの寂れた所です。とても貴方様が気持ちよく祈りを捧げる場所ではないと思うのですが………」
「そう、なら問題ないわね。それでは私達は他の皆様の邪魔にならない様に端移動いたしますわ。本日はよろしくお願いします」
司祭様の分かりやすい断りの言葉を華麗にスルーし、お嬢は俺達を連れて端の方の席に座った。
そこからは何処の教会でも変わらない祈りの時間や司祭のお言葉を聞き、ただ過ぎる時間を俺はぼぉ~っと過ごした。
「随分熱心に祈っておりましたね」
お祈りが終わり帰ろうとした時、司祭が声をかけて来た。優しそうな顔と声に、清潔ではあるがとても質素な祭服を着ている。
「えぇ、私には力も権力もありません……ただ祈ることしかできない傲慢で我儘な令嬢ですから」
一瞬淋しそうな顔をし、すぐに貴族令嬢の笑顔を張り付けてお嬢はそういった。
「本当に傲慢で我儘な方は自分でその事には気付きません。そう思えるって事は、貴方様は他人を思いやれる優しい方という事です。此処はとても貴族の方が好んでくる様な所では有りません。でもだからこそ貴方の様に心から祈りを捧げる方には丁度良いのかも知れませんね……」
司祭はそう言うと頭を下げた。
「先程は大変失礼致しました」
「いいえ、平民の方用の教会に貴族の私が前触れもなく乗り込んだのが行けないのです。こちらこそ申し訳ございません」
今度はお嬢が司祭に頭を下げた。
「大変おこがましいとは思いますが、また来ても良いでしょうか?」
「ええ勿論。お待ちしてます」
その言葉を最後にお嬢はもう一度司祭に礼をし、出口に向かった。
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