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あれから2年…
しおりを挟む殿下の突撃訪問から月日は流れ、私は無事ダスメア王国のウェンル学園に入学し2年生になりました。
この1年は本当に平和で幸せでしたわ…
ウェンル学園に入学してから1年間ずっと首席をキープ出来ましたし、優しくて素敵な友人達にも恵まれました。
そして何よりあのクソ殿下こと、ノマイ殿下にずっと会っていませんの。
この1年間、1度も家に帰ってないので会うこともなかったですし、嫌味のこもったお手紙も、悪意に満ち溢れたプレゼントも1回も送られて来ていません。
本来なら、婚約候補の方から手紙やプレゼントが1年間全く来ないなんて問題なのでしょうけど…
むしろ私はウェルカムです。これからもずっとそうしていて欲しいですね!
婚約候補に選ばれたあの日から、ずっと嫌味や罵倒に耐えてきた私に、神様がきっと情けをかけてくれたって本気で信じてました…
取り敢えず学園を卒業するまでの5年間は、平和で幸せな暮らしが出来るって本気で本当に思ってたんです……
「ねえウィル…私泣いてもいいかしら?」
「………いつでもどうぞ」
そう言うとウィルは自分のポケットからハンカチを取り出し、自分の両手を広げてくれた。
12歳になったウィルはまた背が伸びましたが、出会った時と変わらず優しいままです。
私はウィルに飛び付きウィルの肩に顔を埋めます…本当に泣きそうです……
「相変わらずウィルはティアに甘いよね~」
机の上に肘をつけニコニコ笑いながらそう言ったのは、このダスメア王国の第2王子のネイト・コンティ・ダスメア様。
同じクラスで中の良い友人です。
「今回もティア様に同情するわ…泣いてスッキリしたら作戦会議しましょうね?」
最初は哀れむ様な顔をしていましたが、最後の方は黒い笑顔を浮かべながらそう言ったこちらの令嬢はチャウ・リー・ラドウ様。この国の男爵令嬢であり私の親友です。
「俺も同情するが、教室でそれはやめとけよ…まぁ、いつもの事だから気にする奴何て居ないと思うけどな」
こちらのガタイの良い方はスフィア・リター・グッター様で、私の2歳年上でウィルと同い年です。
伯爵家の御子息でありながネイト様の護衛騎士を務めています。
「誰も気にしないわよ」
「ティア様大丈夫?」
「私達も頼ってね?」
他のクラスメイト達もそう言ってくれました。私は本当に良い友人に恵まれた様です。
「みんな…ありがとう」
私は埋めていた顔を上げ、心配してくれた皆にお礼を言います。
いつまでも悲しんでなんていられないものね!私乗り越えて見せるわ。
ガラガラガラ
そんな風に心の中で思った時、私の悲しみの原因の1つが教室の扉を開け入ってきました。
「おい、きみわる女!俺が来たんだからこれからは婚約候補者として俺に仕えろ」
何処から突っ込めば良いのかしら…
私は君の母ちゃんか?それともメイドか?婚約者候補はそんな事する義務何て無いはずなんだけど…
そして、貴方クラス間違えてるわよ?
「おい、聞こえているんだろ‼︎」
一瞬放心状態になっていた私の所にグローツ王国の第1王子ノマイ殿下が、ズカズカと近寄って来ました。
「君はこのクラスでは無いみたいだよ?初めて来たから間違えちゃったのかい?」
ネイト様が私とノマイ殿下の間に入ってくれました。
「あ‼︎ なんだよお前」
お前って…もしかして本当に分かってないの?大丈夫?ノマイ殿下遂に頭いっちゃったの?
「あぁ、失礼。僕はネイト・コンティ・ダスメアだ」
「ネイト?あぁ第2王子か…それより、俺はそこの気色悪い女に用があるんだが…お前どけよ」
……もう驚きすぎて言葉が出ません。
自分から名を聞いたくせに何なのオマエ…というか分かってる?この国の第2王子よ?
なんか前よりヤバくなってる気がするんだけど…
「気色悪い女?はて?そんなレディー今まで見た事ないなぁ~」
ネイト様が後ろ手で私に逃げろと合図してくれてます。何て優しい方なんでしょう…でも私は部屋の隅に居たので逃げる場所無いのですがそれは……
「ああ⁉︎いるだろう、そこに!お前の後ろに隠れている奴だよ‼︎」
クソ殿下がネイト様に詰め寄ってます。
もう限界でしょう…諦めてネイト様の前に出ようとした時急に体が持ち上がりました。
「お嬢様、失礼します」
「え?」
そう言うとウィルは私を持ち上げたまま、窓の方を向きました。
ちょっと待ってウィルさん……貴方もしかしてだけど…
「しっかり捕まってて下さいね?」
ウィルの顔が凄く近い。それに私は『お姫様抱っこ』をされている…きっと普段ならドキドキしたでしょうね?でもねウィル、殿下のコレは今に始まった事じゃないし私耐えられるわよ?
だからね……
「あ‼︎ちょっ…お前、待て!」
ノマイ殿下が叫びました。今だけは私も同意見ですわクソ殿下…
私を抱えたウィルはたった数歩で助走を付け、ウィルの行動を察したクラスメイトが開けてくれた窓の外に飛び出しました…
「ギャーーーー‼︎」
窓の外ですよ、窓の外‼︎
いくらここが2階だからって怖い物は怖いわよ‼︎
私は目を瞑り必死にウィルに抱きついた。耳元で叫んでごめんね。でも、それどころでは無いわ
ドスン!
「お嬢様、もう大丈夫ですよ?」
ウィルの声がした。
本当?私達ちゃんと生きてる?
取り敢えず、瞑っていた目を開け顔を上げる。
「ウィル…私達生きてる?」
「はい、生きてますよ。2階から落ちただけでは死にません、安心して下さい」
ウィルがそう言うなら大丈夫なのね…良かった。いくら死なないとはいえ、出来ればもう2度とこんな経験ごめんだ…
「お嬢様、この後どうしますか?」
そう言いながらウィルが私達がさっきまで居た部屋を見た。私も釣られる様にそこに視線を移した。
そこにはまだ何か叫んでるノマイ殿下、びっくりした顔をしているネイト様、腹を抱えて笑っているチャウにスフィア様。そして優しい顔して微笑んでるクラスメイト達が居た…
クソ殿下は放って置くとして…
ネイト様は後ろを向いていたしね。それに逃げろと合図した相手が窓の外に居るんだもん…そりゃ驚いた顔するし、それが普通よ…
でも、なぜネイト様以外の皆は微笑んでいるのかしら…若干2名腹抱えてるし。
もしかして私の友人達って少し変わっているのかしら?
「お嬢様?」
「………ウィル、申し訳ないんだけどね…」
まぁ少し変わっていたとしても、良い友人達であることは変わりないわね。もうその事について考えるのを止めるわ。
もうそろそろ、現実と向き合おうかしら…
「あの、本当に申し訳ないんだけどね…」
「?」
「私…腰抜けちゃったみたい……なの…」
めっちゃ恥ずかしいんだけど…
助けられた癖に耳元で叫ぶわ、腰抜かすわ…今日だけで私ウィルに嫌われそうなんだけど…
でも、漏らさなかった事は褒めて欲しいわ。最悪の場合、失神しながら漏らす何てこともあるんだからね!むしろ私耐えた方?何て口が裂けても言わないけどね……
「ウィル…本当にごめんね。重いでしょう?それに足も痛いわよね…」
いや~、本当にごめんね。
飛び降りたんだもん、足痛くない訳ないわよね。むしろ折れてるんじゃ……
「ウィル、私を今すぐ放り投げて!」
折れたなら立ってるのも辛いはず。それなのに私を抱いたままなんて…絶対痛いわよね?
「お嬢様?急にどうしました?」
手をバタバタさせ始めた(実際はそんなに動けなかった)私をウィルは不思議そうに見ている。
「だって貴方、足痛めてるでしょう?それなのに私を抱いたままでは、更に悪化させてしまうわ」
私は早口でウィルに訴える。ウィルが痛いのは私も嫌よ。
「ふふふ、もしかして僕の心配してくれたの?」
ウィルが優しい笑顔になった。ウィルの口調が昔みたいになってる……
「僕ワの国で修行もしてきたから、この学校の屋上から落ちても多分平気だよ?」
マジか…ウィルは嘘を付かないから、きっと本当なのだろうけど…ワの国って結構物騒な所なのね
「そうなの?ウィルがそう言うなら大丈夫ね…」
「はい」
ウィルはニコニコしながら私を見ている。
さて、取り敢えず今日は部屋に戻ろうかしら…腰抜かした状態じゃ授業何て受けれないものね……決してサボろうとしている訳では無いわよ
「じゃあ、申し訳ないんだけど私を部屋まで運んでくれないかしら?重いだろうけど、ごめんね…」
「姫様は全然重くなんてないよ?寧ろもっと肉を付けるべきだよ」
あらあら…久しぶりの姫様呼びだわ。ワの国に行くまではいくら注意してもウィルは、私の事『姫様』って呼んでたのよねぇ。何だか昔に戻ったみたいで少し楽しくなってきた。
「ありがとう私の騎士様」
「……‼︎」
私の部屋に向かい始めたウィルにそう言った。この反応を見るに、ウィルも覚えてたのね。
小さい時ウィルはよく私に『僕はティア姫様を守れて、もっと美味しいお菓子も作れる騎士になるんだ』って言ってくれたのよね。懐かしいわ……
ふとあの頃のウィルの顔が、今のウィルの顔と重なった。
「ウィル…貴方随分大人になったのね……」
あの頃から5、6年しか経っていないはずなのに、今のウィルが凄く大人っぽく見えた。癖っ毛でいつもフワフワしている茶色い髪の毛も、アンナに似て少し細くゴンザベアと同じ少し青みがかった黄色い瞳。そしていつも優しい笑顔を私に向けてくれる所…あの頃と変わらないはずなのに、違って見えた。
「……私を置いて行かないでね…」
ふいにそんな言葉が私の頭に浮かんだ。
けど口には出さすに飲み込んだ。
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みやび様の新作を気に入りまして 此方へ来ました。
何やら面白そうで、続きも読みたいです!
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ありがとうございます。
凄く嬉しいです(*´꒳`*)
最近更新を止めてし待っていたのですが、そう言って頂けてモチベが凄く上がったので続きを書いていこうと思います。