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第四章 転機
第十一話
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「いや。直接、来て良かったよ」
エルンストさんは、不思議な安心感がある人だった。
もともと落ち着いた性格の人だったけど、学院にいた頃よりも、ずっと大人になっている。
私は馬車に乗り込むなり安心感から泣き出して、そして今は疲れ切っていた。
やっぱり、自分の感情がおかしくなっている気がする。
ただ、疲れたっていう感覚だけがある。
「この手紙と、君がくれた手紙で、大体の事情がようやく分かった」
「妹の手紙は、ついさっき手に入れたものなんです」
エルンストさんが妹の手紙を繊細な指先で丁寧に折りたたんだ。
「これは、僕が預かっていても、いいかい?」
「はい。すいません。私、なんだか疲れてしまって」
「それはそうだと思う。ひとまず、君の安全を確保したいんだ。あと、ほんの少しだけ、頑張ってくれ」
エルンストさんが私の手を取ってきた。
「一番大切なのは、他の事情とか状況じゃないよ。君自身だ」
「エルンストさん?」
「大変だったのは分かる。つらかったのだと思う。今は、頭の片隅で分かってくれればいい」
私の手に口づけをしてくれた。
「この国の学院にいた頃、僕はずっと君を見ていた。ただひたすらに可憐な人だった。僕はずっと、憧れていた。きらきらと自分を少しでも輝かせようとしている女性は数え切れないほど見てきたけど、君のようにぼんやりと、けれども崇高に、まるで内部から優しく発光する花のように、儚げでありながらも強く輝いている人は一人もいなかった」
そして、優しく微笑んできた。
私の中の全てを、溶かしてくれるかのような笑顔。
「君は世の中に絶望したかもしれない。けれど……もう一度、チャンスが欲しいんだ。君の、君しか持たない輝きを捨て去らないで欲しいんだ。今はどうか、それだけを考えておくれ」
とても疲れていて……けれど、言われていることの意味は、ぎりぎり理解できたと思う。
エルンストさんが、馬車の運転手の人に声を張り上げた。
「馬車を出してくれるかい? 戻ろう!」
「戻る? 王都にですか? 私はどっちにしろそのつもりだったんですけど……」
「違うよ。僕はこれから、君を誘拐する」
「え?」
「理由は簡単だ。僕の目的は最初からそれだし……それ以上に、ここにいたら、君が駄目になってしまう。馬車だから、それほど落ち着かないかもしれないけど、しばらく休んでいてくれ。見るからに、疲れ切っている」
そういえば最近、ほとんど寝ていなかった。
なにせ、寝につこうとしたら、脳裏に妹の笑いが浮かんでくる。
それで仮眠のような睡眠をとって、こっちに来てからは、朝起きるなり、メイクで誤魔化すのが習慣になっていた。
隣に座るエルンストさんが、優しく私の肩に手を回してきて、自分の方に私の身体を倒してくれた。
彼の足の上に、自分の身体がのる。
「エルンストさん……私、どうすればいいんだろ……?」
「さっきも言った通り、今は、君自身が大切だ」
エルンストさんが、上から私の頭に手を置いて、そして撫でてくれる。
こんな……心地のいい感覚なんて、本当にいつ依頼だろう……?
エルンストさんは、不思議な安心感がある人だった。
もともと落ち着いた性格の人だったけど、学院にいた頃よりも、ずっと大人になっている。
私は馬車に乗り込むなり安心感から泣き出して、そして今は疲れ切っていた。
やっぱり、自分の感情がおかしくなっている気がする。
ただ、疲れたっていう感覚だけがある。
「この手紙と、君がくれた手紙で、大体の事情がようやく分かった」
「妹の手紙は、ついさっき手に入れたものなんです」
エルンストさんが妹の手紙を繊細な指先で丁寧に折りたたんだ。
「これは、僕が預かっていても、いいかい?」
「はい。すいません。私、なんだか疲れてしまって」
「それはそうだと思う。ひとまず、君の安全を確保したいんだ。あと、ほんの少しだけ、頑張ってくれ」
エルンストさんが私の手を取ってきた。
「一番大切なのは、他の事情とか状況じゃないよ。君自身だ」
「エルンストさん?」
「大変だったのは分かる。つらかったのだと思う。今は、頭の片隅で分かってくれればいい」
私の手に口づけをしてくれた。
「この国の学院にいた頃、僕はずっと君を見ていた。ただひたすらに可憐な人だった。僕はずっと、憧れていた。きらきらと自分を少しでも輝かせようとしている女性は数え切れないほど見てきたけど、君のようにぼんやりと、けれども崇高に、まるで内部から優しく発光する花のように、儚げでありながらも強く輝いている人は一人もいなかった」
そして、優しく微笑んできた。
私の中の全てを、溶かしてくれるかのような笑顔。
「君は世の中に絶望したかもしれない。けれど……もう一度、チャンスが欲しいんだ。君の、君しか持たない輝きを捨て去らないで欲しいんだ。今はどうか、それだけを考えておくれ」
とても疲れていて……けれど、言われていることの意味は、ぎりぎり理解できたと思う。
エルンストさんが、馬車の運転手の人に声を張り上げた。
「馬車を出してくれるかい? 戻ろう!」
「戻る? 王都にですか? 私はどっちにしろそのつもりだったんですけど……」
「違うよ。僕はこれから、君を誘拐する」
「え?」
「理由は簡単だ。僕の目的は最初からそれだし……それ以上に、ここにいたら、君が駄目になってしまう。馬車だから、それほど落ち着かないかもしれないけど、しばらく休んでいてくれ。見るからに、疲れ切っている」
そういえば最近、ほとんど寝ていなかった。
なにせ、寝につこうとしたら、脳裏に妹の笑いが浮かんでくる。
それで仮眠のような睡眠をとって、こっちに来てからは、朝起きるなり、メイクで誤魔化すのが習慣になっていた。
隣に座るエルンストさんが、優しく私の肩に手を回してきて、自分の方に私の身体を倒してくれた。
彼の足の上に、自分の身体がのる。
「エルンストさん……私、どうすればいいんだろ……?」
「さっきも言った通り、今は、君自身が大切だ」
エルンストさんが、上から私の頭に手を置いて、そして撫でてくれる。
こんな……心地のいい感覚なんて、本当にいつ依頼だろう……?
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