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第四章 転機
第一話 ローラ姉さま
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私は、おじさまとおばさまの家に帰ってきた。
ヨゼフの屋敷にいたくなかった……こともある。
けど、それだけじゃない。
出てきたおばさまを見て、自分の感情が冷え込むのが分かった。
懐かしさなんて、まるでない。
「まあ……リナ! よく帰ってきたねえ! まったくロクに戻って来ないんだから……私も、あの人も、ずっと心配していたんだよ!」
あの人、というのは、おじさまのこと。
「申し訳ありません、ローラ姉さま」
屋敷にいる女の子は全員、このおばさまのことを「ローラ姉さま」と呼ぶようにしつけられている。
破ったら、鞭打ち。
おじ様よりも二十歳くらい若くぎりぎり三十代、私達がこの屋敷に来たときは、まだ二十代。
姉さまと呼ばせるその気持ちは、分からなくもない。
この人こそ、父が死ぬなり、他に男の人を作ってどこかへ行ってしまった母の妹。
「遠いところ、疲れただろう? 向こうはどうだったかい? 何せ、王都に別邸を構えるほどの貴族様なんだから。色々と苦労もあっただろう?」
「はい、お気遣い頂いて、ありがとうございます。ローラ姉さま」
この人がいないところで「ローラばあ」などと呼べるのは妹だけ。
私は、この人が恐ろしかった。
難癖をつけられては……あるいは難癖すらもなく、鞭でぶたれたことは一度や二度じゃない。
「なに、言ってんだい? そう堅苦しくするもんじゃないよ。ここはお前の家だろう? 帰りたいときに帰ってきたらいいんだ。ただ、私が言っているのは、少しくらい向こうでの様子を知らせる連絡をしてくれてもいいんじゃないかってことさ」
思わず、昔の私への接し方が表に出ようとしたところで、おばさまは明るく言った。
「さあ、入った、入った」
多分……というより間違いなく、私にこんな態度を取っていること自体、おばさまはムカついている。
別に、やめてくれてもいいのに……。
どうせ、私とヨゼフの結婚は……。
婚約破棄なんていう話を知ったら、怒り狂うはず。
「はい……」
「……おやっ、何してんだい? 荷物なんて、そんなのいいから! 侍女にでも持たせておけばいいんだよ……レベッカ! おいっ、レベッカ!」
屋敷の中から慌てて出てきたのは……ボロボロの給仕服を着た侍女。
つぎはぎだらけ。
(お金がないからじゃ、ないんだよね……)
そっちの方が……着飾ったおばさまが美しく見えるから。
この家で、良い服を着させてもらえる女の子は、妹のアンナだけ。
妹は、あくまで娘として育てられていたから……。
その妹を着飾らせて、社交パーティーに連れ出しては「可愛い娘」だとチヤホヤ褒められること……それが、おばさまの趣味。
しかも、それだけじゃない。
昔、妹が愚痴を漏らしていたことがある。
(私目当てで寄ってくる男の人が、あのローラばあの本当の目当てなんだよ)
ヨゼフの屋敷にいたくなかった……こともある。
けど、それだけじゃない。
出てきたおばさまを見て、自分の感情が冷え込むのが分かった。
懐かしさなんて、まるでない。
「まあ……リナ! よく帰ってきたねえ! まったくロクに戻って来ないんだから……私も、あの人も、ずっと心配していたんだよ!」
あの人、というのは、おじさまのこと。
「申し訳ありません、ローラ姉さま」
屋敷にいる女の子は全員、このおばさまのことを「ローラ姉さま」と呼ぶようにしつけられている。
破ったら、鞭打ち。
おじ様よりも二十歳くらい若くぎりぎり三十代、私達がこの屋敷に来たときは、まだ二十代。
姉さまと呼ばせるその気持ちは、分からなくもない。
この人こそ、父が死ぬなり、他に男の人を作ってどこかへ行ってしまった母の妹。
「遠いところ、疲れただろう? 向こうはどうだったかい? 何せ、王都に別邸を構えるほどの貴族様なんだから。色々と苦労もあっただろう?」
「はい、お気遣い頂いて、ありがとうございます。ローラ姉さま」
この人がいないところで「ローラばあ」などと呼べるのは妹だけ。
私は、この人が恐ろしかった。
難癖をつけられては……あるいは難癖すらもなく、鞭でぶたれたことは一度や二度じゃない。
「なに、言ってんだい? そう堅苦しくするもんじゃないよ。ここはお前の家だろう? 帰りたいときに帰ってきたらいいんだ。ただ、私が言っているのは、少しくらい向こうでの様子を知らせる連絡をしてくれてもいいんじゃないかってことさ」
思わず、昔の私への接し方が表に出ようとしたところで、おばさまは明るく言った。
「さあ、入った、入った」
多分……というより間違いなく、私にこんな態度を取っていること自体、おばさまはムカついている。
別に、やめてくれてもいいのに……。
どうせ、私とヨゼフの結婚は……。
婚約破棄なんていう話を知ったら、怒り狂うはず。
「はい……」
「……おやっ、何してんだい? 荷物なんて、そんなのいいから! 侍女にでも持たせておけばいいんだよ……レベッカ! おいっ、レベッカ!」
屋敷の中から慌てて出てきたのは……ボロボロの給仕服を着た侍女。
つぎはぎだらけ。
(お金がないからじゃ、ないんだよね……)
そっちの方が……着飾ったおばさまが美しく見えるから。
この家で、良い服を着させてもらえる女の子は、妹のアンナだけ。
妹は、あくまで娘として育てられていたから……。
その妹を着飾らせて、社交パーティーに連れ出しては「可愛い娘」だとチヤホヤ褒められること……それが、おばさまの趣味。
しかも、それだけじゃない。
昔、妹が愚痴を漏らしていたことがある。
(私目当てで寄ってくる男の人が、あのローラばあの本当の目当てなんだよ)
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