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混血系大公編:第一部
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ダービー伯は娘を見送った後、もう一度深いため息を吐いて先ほどまで座っていたソファに戻った。先ほどと同じ位置(元は私・イス・アンリの順番で座ってた)のソファに座ろうとすると、ロルフがグイグイと私を真ん中に押し出して座る。そしてイスが当然の顔をして反対隣に座る。
「俺は…?」
「立ってろ」
「ひでぇ!」
執事さんがそっと1人掛けのソファを準備してくれ、アンリはそこに文句を言いつつ座った。それからハリーさんが手配したのか、メイドさんが新たなお茶を注いでくれ、それを一口飲む。ロルフの前にも新たにカップを置いてくれたけど、ガン無視だ。
とりあえず一息つけたところで、ダービー伯が口火を切った。
「英雄殿、娘が大変失礼なことをした。謝罪する」
頭を下げようとするけれど、慌てて押しとどめる。こっちも好き放題やったしね。
「いいえ、私も煽った自覚あるので。先ほどの事はこれで終わりにしましょう」
それよりも話さなければいけないことがあるしね。
「とりあえず、こちらのロルフとレディ・アマニータの間にあったことをハッキリさせましょう。私の聞いた話では、レディがロルフの寝ている所に忍び込み、拘束用の魔道具で身動きできないようにして襲おうとしてきたそうですよ。ロルフがお借りした部屋に、ロルフが引きちぎった拘束具が残っていませんでしたか?」
「…あった。ロルフ殿の忘れ物かと思っていたが…」
「えっ、ロルフ拘束具引きちぎったのか?」
思わず、というふうにハリーさんが口を挟む。まぁ、魔獣も拘束できるヤツですもんね。
「引きちぎったみたいよ。ホント化け物だよねー、コイツ」
「チッ、うるせーなぁ」
「まぁ、でもウチのボスもできると思うぞ!なぁシャトラ」
「あぁ、まぁ、はい…?」
「なに唐突なアピール…」
ちなみにハリーさんの言うボスは、皇帝陛下の事ね。傭兵団時代はボスって呼ばれてたからねー。
「あ、すまない。話を戻してくれ」
「ああ…だが、娘が言ったことも、全くの嘘だとは思えない。嘘にしてはなんというか…生々しい話であったし、父親として頭の痛い事ではあるが、婚約者や妻がいながら娘の誘惑に乗った者は今までに何人もいる。ロルフ殿とて男だ。娘に迫られて全く何もなかったとは…」
「何だとテメェ!!」
ロルフが立ち上がった瞬間に思いっきりタックルをかまし、もう一度ソファに座らせる。
「邪魔すんじゃねぇ!!」
「邪魔しなきゃ殺る気でしょーが!ほらもう、ステイ!!」
「犬かよ!!」
イライラを抑えるためか、お尻を揉んでくるロルフの手をペチンと叩く。
「尻ぐれぇ揉ませろ!」
「こんなとこでやらせるか!耳栓は?どこにやったのよ」
盛大に舌打ちしつつ、ロルフが耳栓を渡してくる。それを受け取り、「ちゃんと私がやるから。ちょっと静かにしてて、ね?」と囁いて、耳にキスしてから耳栓をする。
すると憮然とした表情ではあるけれど、ロルフは腕を組んでソファに背を預けた。
「ふぅヤレヤレ、お見苦しいところをお見せしました」
「い、いや…」
ダービー伯の顔色がちょっと悪い。瞬間的にものすごい殺気向けられたもんね。心臓止まるくらいビビったと思う。ざまぁみろ。
「すごいなシャトラ、猛獣使いのようだな」
なんかそのセリフ誰かからも聞いたー。
「どうも。それで、続きですけれど。ダービー伯は、ロルフとレディが関係を持ったと思ってらっしゃるんですね」
「あ、あぁ…。婚約者である、貴女には申し訳ないが。必要であれば、慰謝料を用意する。その代わりに、責任を持って娘を引き取ってもらいたいと…思っていたが…その…」
ダービー伯がロルフの方を敢えて見ずに、口を噤む。うーん、多分最初は私とロルフの婚約を解消させて、ロルフに引き取ってもらおうと考えていたんだろうな。でもロルフのヤバさを目の当たりにして、「コレ無理じゃね?」と思い始めたんだろう。その後の言葉を継げなくなった彼に代わって、私が口を開く。
「あいにくですが、私は彼と婚約を解消するつもりはありませんよ」
解消なんかしたら監禁りょうじょ…んんッ!が待ってるからネー。…辛い。
「…それならば、貴女が娶ってくれないだろうか」
「…おおん?」
おっとまた変な声出ちゃった。え、このオッサン、いまなんつった?
「えーっと、私の性別女ですけれども…」
「帝国では、同性同士の婚姻は認められている。先々代の皇帝は女性だったが、副王の他に妃を2人娶っていた。おかしな事ではない。それに、貴女は私の娘に美しくて見とれたと言ったではないか。同性にも興味があるのではないか?」
ダービー伯の言葉に急に熱が入る。イスがハッと息を飲んでこちらを見る。いやいや、お前やっぱり…!みたいな顔で睨まないで!そりゃ綺麗な女の人にも見とれちゃうけれど、恋愛対象は男性…のはず…!
そこでふと、過去に私を救ってくれた『彼女』を思い出す。彼女が生きていてくれたら…そうしたら…。
うわぁぁ、自分でもわかんなくなって来た!私って女性もオッケーだったのか?!
「先ほどのやりとりを見て、確信した。情けないが、私は娘を制御することができなかった。だがアマニータをあんなに上手くあしらった貴女なら、きっと娘を制御できるはずだ。安心して任せられる。どうかウチの娘を娶ってくれ!持参金なら言い値でつける!」
「ちょいちょいちょいちょい、待って待ってお願い!おかしな方向になってきたー!!」
敬語も忘れて叫んでしまう。ダービー伯はノリノリで娘を押し付けようとしている。ウソでしょ?!イスはなんかブチブチ文句を言っている。誰が節操無しじゃ!ロルフは目を閉じて黙っている。耳栓してるからね。ハリーさんは面白そうに成り行きを見守っている。助けろや!
カオスと化したこの場で、ただ一人白けた顔で沈黙を保つ男。我が傭兵団のアンリが、ポツリと呟いた。
「団長、証拠あるの忘れてない?」
「俺は…?」
「立ってろ」
「ひでぇ!」
執事さんがそっと1人掛けのソファを準備してくれ、アンリはそこに文句を言いつつ座った。それからハリーさんが手配したのか、メイドさんが新たなお茶を注いでくれ、それを一口飲む。ロルフの前にも新たにカップを置いてくれたけど、ガン無視だ。
とりあえず一息つけたところで、ダービー伯が口火を切った。
「英雄殿、娘が大変失礼なことをした。謝罪する」
頭を下げようとするけれど、慌てて押しとどめる。こっちも好き放題やったしね。
「いいえ、私も煽った自覚あるので。先ほどの事はこれで終わりにしましょう」
それよりも話さなければいけないことがあるしね。
「とりあえず、こちらのロルフとレディ・アマニータの間にあったことをハッキリさせましょう。私の聞いた話では、レディがロルフの寝ている所に忍び込み、拘束用の魔道具で身動きできないようにして襲おうとしてきたそうですよ。ロルフがお借りした部屋に、ロルフが引きちぎった拘束具が残っていませんでしたか?」
「…あった。ロルフ殿の忘れ物かと思っていたが…」
「えっ、ロルフ拘束具引きちぎったのか?」
思わず、というふうにハリーさんが口を挟む。まぁ、魔獣も拘束できるヤツですもんね。
「引きちぎったみたいよ。ホント化け物だよねー、コイツ」
「チッ、うるせーなぁ」
「まぁ、でもウチのボスもできると思うぞ!なぁシャトラ」
「あぁ、まぁ、はい…?」
「なに唐突なアピール…」
ちなみにハリーさんの言うボスは、皇帝陛下の事ね。傭兵団時代はボスって呼ばれてたからねー。
「あ、すまない。話を戻してくれ」
「ああ…だが、娘が言ったことも、全くの嘘だとは思えない。嘘にしてはなんというか…生々しい話であったし、父親として頭の痛い事ではあるが、婚約者や妻がいながら娘の誘惑に乗った者は今までに何人もいる。ロルフ殿とて男だ。娘に迫られて全く何もなかったとは…」
「何だとテメェ!!」
ロルフが立ち上がった瞬間に思いっきりタックルをかまし、もう一度ソファに座らせる。
「邪魔すんじゃねぇ!!」
「邪魔しなきゃ殺る気でしょーが!ほらもう、ステイ!!」
「犬かよ!!」
イライラを抑えるためか、お尻を揉んでくるロルフの手をペチンと叩く。
「尻ぐれぇ揉ませろ!」
「こんなとこでやらせるか!耳栓は?どこにやったのよ」
盛大に舌打ちしつつ、ロルフが耳栓を渡してくる。それを受け取り、「ちゃんと私がやるから。ちょっと静かにしてて、ね?」と囁いて、耳にキスしてから耳栓をする。
すると憮然とした表情ではあるけれど、ロルフは腕を組んでソファに背を預けた。
「ふぅヤレヤレ、お見苦しいところをお見せしました」
「い、いや…」
ダービー伯の顔色がちょっと悪い。瞬間的にものすごい殺気向けられたもんね。心臓止まるくらいビビったと思う。ざまぁみろ。
「すごいなシャトラ、猛獣使いのようだな」
なんかそのセリフ誰かからも聞いたー。
「どうも。それで、続きですけれど。ダービー伯は、ロルフとレディが関係を持ったと思ってらっしゃるんですね」
「あ、あぁ…。婚約者である、貴女には申し訳ないが。必要であれば、慰謝料を用意する。その代わりに、責任を持って娘を引き取ってもらいたいと…思っていたが…その…」
ダービー伯がロルフの方を敢えて見ずに、口を噤む。うーん、多分最初は私とロルフの婚約を解消させて、ロルフに引き取ってもらおうと考えていたんだろうな。でもロルフのヤバさを目の当たりにして、「コレ無理じゃね?」と思い始めたんだろう。その後の言葉を継げなくなった彼に代わって、私が口を開く。
「あいにくですが、私は彼と婚約を解消するつもりはありませんよ」
解消なんかしたら監禁りょうじょ…んんッ!が待ってるからネー。…辛い。
「…それならば、貴女が娶ってくれないだろうか」
「…おおん?」
おっとまた変な声出ちゃった。え、このオッサン、いまなんつった?
「えーっと、私の性別女ですけれども…」
「帝国では、同性同士の婚姻は認められている。先々代の皇帝は女性だったが、副王の他に妃を2人娶っていた。おかしな事ではない。それに、貴女は私の娘に美しくて見とれたと言ったではないか。同性にも興味があるのではないか?」
ダービー伯の言葉に急に熱が入る。イスがハッと息を飲んでこちらを見る。いやいや、お前やっぱり…!みたいな顔で睨まないで!そりゃ綺麗な女の人にも見とれちゃうけれど、恋愛対象は男性…のはず…!
そこでふと、過去に私を救ってくれた『彼女』を思い出す。彼女が生きていてくれたら…そうしたら…。
うわぁぁ、自分でもわかんなくなって来た!私って女性もオッケーだったのか?!
「先ほどのやりとりを見て、確信した。情けないが、私は娘を制御することができなかった。だがアマニータをあんなに上手くあしらった貴女なら、きっと娘を制御できるはずだ。安心して任せられる。どうかウチの娘を娶ってくれ!持参金なら言い値でつける!」
「ちょいちょいちょいちょい、待って待ってお願い!おかしな方向になってきたー!!」
敬語も忘れて叫んでしまう。ダービー伯はノリノリで娘を押し付けようとしている。ウソでしょ?!イスはなんかブチブチ文句を言っている。誰が節操無しじゃ!ロルフは目を閉じて黙っている。耳栓してるからね。ハリーさんは面白そうに成り行きを見守っている。助けろや!
カオスと化したこの場で、ただ一人白けた顔で沈黙を保つ男。我が傭兵団のアンリが、ポツリと呟いた。
「団長、証拠あるの忘れてない?」
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