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第34話 幕間 芹香の挑発
しおりを挟む034 芹香視点
「アイタタタ……」
そんな控えめな声が聞こえたのは、お昼ご飯を食べた真くんが日課のお散歩に出かけてすぐのことだった。
ソファーに深く腰掛けて大胆に足を組んでいる一華先輩が首を傾げる。
足が長くてなんか悔しい。
一華先輩の視線を追うと、私の妹である詩がベッドでお腹を押さえてゴロゴロと転がっていた。
といってもお腹がつっかえるので左右に寝返りを繰り返すだけだからコメディ映画でも見ているような可愛らしさだ。
「うふふー、ほら見て見て弥生ちゃん、叔母さんが面白いよ?」
でも授乳中の私の天使は目を閉じて胸に埋まっているから見向きもしない。
まん丸いキュートな瞳はまだ見えていないから見られる訳でもないし、話しかけても意味なんて理解できないとは分かっていてもついつい話しかけてしまうんだよね。
幸せいっぱいにおっぱいに吸い付いている至宝の蕩けるくらいにやわらかなほっぺを指でつついているとむずがるような顔になる。
邪魔すんなということなのかな?
そんな表情も愛おしい。
好きな子をいじめたくなる男子の気持ちが今になって良く分かっちゃう。
将来転生することがあれば、もう少しだけ小学生男子のことを許してあげよう。
あれあれ? そんな荒唐無稽な妄想をしてしまうのも真くんの影響かな?
失礼にも真くんは異世界だとか言う外国に転生とか転移? あ、引っ越しか、そう引っ越ししてしまいたいと訴えたんだっけ?
色々投げ出しちゃいたくなっちゃったんだよね。
その理由は詩が友也くんと付き合い始めたから。
それだけじゃないか。
その前は私が真人さんとお付き合いを始めたから?
更にその前は一華先輩が実の姉だと悟ったからだよね。
累積ダメージが限界を突破しちゃった真くんの現実逃避。
うん。可愛い。弥生ちゃんも可愛いけど真くんも可愛い。
一華先輩はともかく私達姉妹を両方好きになってしまうところが可愛い。
詩を好きになるって事は私の面影を求めてって事だもんね。えへへ。
私は真人さんと結婚しているから真くんとは結婚してあげられないけれど、詩なら可能なんだよね。
そんな心の余裕が胸に染み出してくる。
不思議だけど弥生ちゃんを生んでから心穏やかになったのかも。
おっぱいを吸われていると特に凪ぎが来る。
愛しい弥生ちゃんを慈しむ心もおっぱいを吸われている快感も。
お母さんになると包容力が増してしまうのかな?
あはは、違うか。
真くんの現実逃避を笑っていられないなー。
うん、そうだ。
もうそろそろこの良く解らない脱出ゲーム? というやつに終止符を打たれた後のことを考えないといけない時期なんだと思う。女の勘だけど。
真くんのお姉ちゃんとしては別にバカンスみたいなものだから別に気にしないんだけど、あんまり長引くと真人さんの奥さんとしては大問題だよね。
世間的には大事件か。
まるで現代の神隠し的に姉弟義姉妹が揃って失踪とか笑えないね。
一華先輩は真くんと詩の勉強の遅れを気にしているし。
でも元に戻ってもそんなに時間が経っていないんだから気にする必要ないと思うんだけど。そんな風に真くんを擁護したら、「怠け癖と甘え癖がつくだけでマイナスだこの諸悪の根源め!」とゲンコツが落ちた。
酷い先輩だよ。
でも。
そろそろ決着をつけないとだよね?
元の生活に戻った時にどう一華先輩と付き合って真くんとどう向き合うのかを。
そこで、目の前でゴロゴロとしている詩に目が行く。
前はいかにして真くんを盗られないかと気を張っていたというのに、今なら詩が真くんと結婚しても良いなと思えちゃう。
真くんは真人さんの弟で、詩が結婚すれば更に私の弟になる、これ重要。
ダブルで弟とか隙が無い。涎でそう。
姉としていっぱいいっぱい愛でてあげられる。
だけど一華先輩はダメ。
実の姉だし。真くんと結婚とかいやいやセックスとかいやいやキスとか不毛で不潔だ。
何より実の姉という部分が凄く許せない。
だってこんなに弟大好きな姉である私でさえ義理なのに本物とかどうかしてる。神様仕事しろ。
だというのに真くんの子供までちゃっかり授かったりしているし。
姉としての自覚が足りないんじゃないかな?
教師なのに。
真くんの勉強の遅れを心配する前に姉としてのあり方の遅れが問題ですよ一華先輩。
実の弟との間に子供を作ってしまうとか常識を疑います。
「ふむ。おい芹香。詩の様子がおかしいんだが」
「心配いりませんよ一華先輩、ただの前陣痛です」
「ただの、という部分が甚だ疑問だが、緊急事態というわけではないんだな?」
「はい」
妊婦で臨月なんだから当たり前です。
そうかと頷き、大きなお腹を優しげに撫でるふんわりとした黒いロングドレス姿の一華先輩が格好良くて、ちよっと腹が立つんですけど。
あのドレスの裾を摘まんで持ち上げて真くんに禁断の誘惑をしかけているに違いない。姉のくせに泥棒猫。一華先輩なら泥棒女豹か。
でもお生憎様。最近は詩も一華先輩も臨月だから真くんのお相手はもっぱらお姉ちゃんである私です。昨日もうふふーたくさん真くんは私の中にたっぷりとポイントチャージしていました。
出産後に敏感になった姉の体がお気に入りなのか真くんに求められる回数が凄いんだよ? 授乳中は排卵も起こりにくいし気にせずにたっぷり出して弥生ちゃんのためにポイントチャージしてくれている。
もう膣内も出産前の弟おちんちんの形に戻ったかな?
姉として誇らしい。
たくさん射精してから私にぎゅっと抱き付いてくる真くんをよしよしと撫でてあげるのが至高の喜びです。
「まったく、だらしない顔をしおって。おい芹香、詩が動かなくなったぞ」
おっといけないいけない。
真くんのことを考えていてぼおっとしちゃった。
というか大きなお世話です。幸せで酔いそうなんです。絶対赤ちゃん生んだ後敏感になった体で真くんにアヘ顔を晒してしまう一華先輩の痴態を撮ってやるんだから。
いつの間にか弥生ちゃんも満足したのかすやすやと腕の中で眠っている。
起こさないように宝物をベビーベッドに寝かせるとベッドの上の詩を観察。
今は痛みが治まっているのか横を向いて肩で息をしている。
これで10分後くらいに痛みが来るようならいよいよかな?
でも結局最後まで下着姿で通したな。なにを意地張っているんだか。
そんな変わり者な妹のショーツが少し染みている。
破水かな?
陣痛の痛さに興奮して濡らしているとか?
いくらなんでもそれはないか。ないよね?
女子高生とはいえしっかりと体だけは育っている詩だから出産に関しては心配も問題も無さそうだけど。
うんまあ深く考えないでおこう。頑張って元気な赤ちゃんを産みなさい。
「心配ないですよ一華先輩」
うふふーと笑う。
先輩より先んじているという女の余裕です。
敏感に私の優越感を察したのか、一華先輩は苦虫を噛みつぶしたような顔になる。この先輩は本当に負けず嫌いなのだ。
大変気分が良いです。
≪詩様、そろそろご準備が必要でございますね≫
部屋に設置された個室のスピーカーから女の子の声が聞こえた。
初めての出産で不安だろう妹を姉として労ってあげましょう。
なぜだが唇を尖らせている詩の手を取って個室に連れて行く。
ベッドがひとつ用意された分娩室。
私の時の記憶と同じなら、この先は痛みと共に物凄い幸福感に包まれる。
現実世界とは違うんだろうな。
「今からそんなに緊張しなくても平気だよ? 赤ちゃん産むのって想像していたより気持ちよくて幸せな気持ちになるみたいだし」
「鼻からスイカをひねり出す痛みが気持ちいいとか変態発言だし……でも、イテテ、お姉ちゃんには……負けないし」
脂汗を流して強がる妹がとっても可愛い。
「うふふー」
つい笑いがこぼれる。
でもね詩、弥生ちゃんより可愛い子供なんていないんだよ?
負けず嫌いの妹は可愛いから大好きだ。
「そう。頑張りなさい。お願いね、おませちゃん」
≪いえだからですね、私のコードネームは……はぁ、もういいです。お任せ下さいませ芹香様、詩様には最高のご出産をお約束いたしましょう≫
「いや意味分からんし……普通ので良いから」
≪何を仰いますか詩様――≫
扉が閉まるとどことなく落ち着かない一華先輩に目を向ける。
色々複雑な心境なんでしょう。
普段からクールぶっている一華先輩をたたみ掛ける良いチャンスかも。
「一華先輩は元の世界に戻ったらどうするんですか? 赤ちゃんのこととか真くんとのこととか」
「なんだ藪から棒に。そんなことは戻ってから考えるさ」
「また嘘ばっかり」
真面目な一華先輩がそんな行き当たりばったりなことを考えてるはず無いよね。これは私に対する牽制。だから次は。
「芹香こそ、どうする算段なのだ?」
大胆に足を組み直して下着をチラ見させた一華先輩が目を細める。
そう来ますよね。でも私の覚悟は決まってますよ?
「真くんが子供を引き取って母親の正体は隠したまま育てるって言ってますよ?」
「ふん、馬鹿馬鹿しい。それこそただの妄言だ。あの愚弟にそんな甲斐性は無い」
「ですよねー」
じっと一華先輩が切れ長の瞳で私を睨み付ける。
うふふー。
「……なるほど。真二が引き取った子供の面倒を芹香が見るつもりか」
こういう鋭いところは流石だなと思う。
そう。穴だらけの真くんの覚悟だから逆手に取ることができる。
そんなことが可能なのかはともかくとして、子供の面倒を真くんが見るのなら、引取先は真くんの家になる。佐伯家だ。
佐伯家は嫁として嫁いでいる私の家。
私は仮に正体を隠したままでも堂々と弥生ちゃんを育てることができて真くんと暮らすこともできてしまう。
真くんができるだけ心を痛めず解決する唯一と言っても過言ではない方法だと思いませんか?
他家に嫁いだ一華先輩には手も足も出せない完全勝利。
徹頭徹尾のパーフェクトゲーム。
更にこの作戦の肝は詩が味方に付くことですよ一華先輩。
まだ多感な妹がこの先友也くんと真くんとの関係をどう築くのかは未知数だけど、この作戦に反対することは多分ない。なんといっても同居しているし。
見た目には冷静そのものだけど長年の付き合いだから逡巡しているのが丸わかりです。
姉として立つ瀬が無いんですよね。私という義妹にマウントを取られて。
一華先輩は舌打ちでもしそうに眉を潜めている。
うふふー。効いてる効いてる。
「ふん。好きにするがいい」
せっかくの私の挑発に一華先輩はのってこなかった。悔しいくせに。
あ、もしかすると何かアイデアがあるのかな?
頭をフル回転させても出てこない。
負けるくらいなら一生この世界で暮らすとか平気で言いかねないブレない一華先輩だからちょっと心配。
ここはなんとしても阻止しないと。
私と真くんと弥生ちゃんの幸せのために。
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