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自分を許さない6
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「月奈をCyclamenで見かけるたびに……
やたら壁作ってる雰囲気とか、物憂げに飲んでる姿とかが気になってて。
かと思えば笑顔はすごく眩しくて、めちゃくちゃ可愛くて、そんなギャップにやられたりしてた。
でも諌が気に入ってるぽかったから、特にどうするつもりもなかったんだけど……
クリーニングの事で、初めて関わった時。
諌だけに向けてた笑顔を、俺にも向けてくれたのが嬉しくて。
もっと仲良くなりたいと思った。
なのにお礼も食事も、一杯おごるのですら頑なに拒否するし。
なんか抱えてるふうだったから、俺が守りたいって思うようになったんだ。
だから諌に取られる前に振り向かせたくて、あの手この手で攻めてみたんだけど……
ぜんぜん相手にされないどころか。
近づこうとすればするほど、壁が高くなってる気がして。
だったら逆に、割り切った関係ならどうにかなるんじゃないかと思った。
違ったら、冗談にすればいいだけだし。
そしたら月奈は受け入れてくれたから……
俺はゆっくり、その心の壁を崩していこうと思った。
ただセフレになったからには、警戒されないためにも抱くしかなかったし。
好きだったから、ほんとはもっと抱きたかった。
でも吐け口にしてると思われたくなかったから、なるべく一回で我慢してたし。
身体で愛を伝えてるつもりだった」
そう愛しげに切なげに見つめられて……
ドキリと心臓が跳ね上がる。
そうだね……
確かに誉は、いつも愛があるように抱いてくれてた。
「なのにあいつが現れて……
めちゃくちゃ焦って、我慢出来なくなって。
好きだって言いたくて、だけどまた壁を高くされそうで。
身体だけは独占出来る、誰よりも近い関係まで失いそうで……
プレイで伝える事しか出来なかった」
プレイって、恋人プレイっ?
じゃああれは、全部本音だったって事?
ー「月奈愛してる……
もうどうにかなりそうなくらい愛してるっ」
「好きだよ月奈、ほんとに愛してるっ……
誰にも渡したくないっ」
「月奈も俺だけ見てっ?
俺が一生守るからっ」ー
思い返して、心が燃えるように熱くなる。
「そんな時、妹の事で避けられるようになって。
そのうちに月奈が、あいつに惹かれてるのがわかって……
だけど諦めたくなくてっ、必死に足掻いてた。
それに、あいつには婚約者がいるって聞いてたから、俺にもまだチャンスはあるかもって。
チャラそうな奴だったから、どうせ出張期間中の遊びだろうって。
だから俺は、あいつの事で苦しむ月奈を支えようと思った。
でもあいつとの過去を聞いて、さすがに太刀打ち出来ないと思った。
記憶を失くしても、婚約者がいても、月奈に惹かれずにはいられないあいつと。
あんな辛い思いをしても、何年経っても、あいつを想い続ける月奈の間には……
微塵も入る隙なんかないって。
わかってたんだけど、諦めきれなかった……
それでもそばにいたかった。
だから協力したり相談に乗ったりして、みっともなくしがみついてたっ」
そう苦しげに顔を歪める誉に、胸が矢継ぎ早に貫かれて。
「待って、うそ待って……」
今さらのように、それらが思い起こされる。
ー「1%でも可能性があるなら、いくらでも待つ」ー
あたしの、そんな気持ちを知りながら……
ー「そんなに好きなんだな……
なのに、何で諦められないんだろうなっ…」ー
そう言った、やり切れない様子の誉。
ー「あいつとはもう、そういう関係になった?」ー
そんな場所に自ら送って……
思わず引き止めた様子で、あたしの腕を切なげに掴んでた誉。
ー〈すぐに聞いてあげれなくてごめん〉ー
いつだって優しくて……
他の男の話のために、出張から帰るや否や駆け付けてくれた誉。
ー「これ以上月奈を苦しめたら、その時は許さない」ー
いつも心配してくれて、助けてくれて、守ってくれてた誉。
いったい今まで、どんな思いで協力してくれたんだろう……
どんな気持ちで相談に乗ってくれたんだろう!
ぐわりと涙が込み上げて、息も出来ないくらい苦しくなって……
心が潰れそうになる。
「ごめっ……
今までずっと、ごめんなさいっ……」
知らなかったとはいえ、あたしはずっと誉を傷付けてた。
もう誰にも甘えたくなかったのに……
誉に甘えて、結局こんなふうに苦しめてた。
「っ、月奈は何も悪くないっ。
たとえ壁を高くされても、何度断られたとしても、気持ちを伝え続ければ良かったのに……
こんな攻め方しか出来なかった、自分が悪いだけだからっ」
「ううんっ、あたしが誉に甘えたからっ!」
「俺は嬉しかったよ!」
その言葉と同時、ぐっと抱き寄せられて。
ぎゅうっとその温もりに抱き締められる。
「月奈に甘えられて、頼られて、すごくすごく嬉しかった。
だから、これからも甘えてほしい。
俺が一生守るからっ、ずっとそばにいてほしい。
月奈、愛してるっ……」
その途端、ぶわりと涙が堰を切る。
「ありがとうっ……
そんなに愛してくれて、ありがとう……
なのに、ごめんなさいっ。
誉の気持ちには、応えられない」
「……んっ、わかってる。
だけど俺が、待つって言ったら?
月奈があいつの事を忘れるまで……
俺だって、何年だろうといくらでも待つよ。
だから、利用でもいいからっ、ただそばにいてほしいんだ」
「っっ、ごめんなさいっ……
あたしは風人を、一生忘れられない。
絶対結ばれない運命でも、風人じゃなきゃダメなのっ」
だからきっと、誉に惹かれながらも……
ついその心を求めながらも……
割り切った関係という一線を、越える気にはなれなかったんだろう。
「……やっぱりそっか。
月奈の壁の中には、その心の中には、あいつじゃなきゃ入れないんだな……
だから俺は、義理堅い月奈の"力になってくれる約束"を利用して。
また割り切った形で、結婚に漕ぎつけようとしたんだ。
ほんと、最後までズルくてごめん」
そう言って誉は……
ぶんぶんと首を横に振るあたしから、ゆっくりと身体を離した。
「ズルくなんかないよっ。
それは誉の優しさじゃん。
そうやって割り切った関係にする事で、あたしの気持ちを守ってくれてた。
無理やり踏み込もうとせずに、あたしの心を大事にしてくれてた。
他にもたくさん、あたしはほんとに大事にしてもらってた。
だから……
誉がこんなに大事にしてくれた事も、あたしは一生忘れない」
すると誉は瞳を滲ませて……
「月奈っ!」
再びあたしを抱き締めた。
「愛してるっ、愛してる……
どうにもならなくても愛してるっ」
そうぎゅっと、ぎゅううと抱きしめる誉が……
愛おしくて。
「ありがとうっ……」
あたしもぎゅうっと抱き返した。
「っっ、俺こそありがとう……
これからを頑張る、力になったよ。
でももうちょっと充電したいから……
もう少しだけ、こうしててい?」
「んっ……
いくらでも、いいよっ?」
そうして、さんざん身体を重ね合ってきたあたしたちは……
最後にただぎゅっと、いつまでもぎゅっと。
心から抱き合って、終わりを迎えた。
やたら壁作ってる雰囲気とか、物憂げに飲んでる姿とかが気になってて。
かと思えば笑顔はすごく眩しくて、めちゃくちゃ可愛くて、そんなギャップにやられたりしてた。
でも諌が気に入ってるぽかったから、特にどうするつもりもなかったんだけど……
クリーニングの事で、初めて関わった時。
諌だけに向けてた笑顔を、俺にも向けてくれたのが嬉しくて。
もっと仲良くなりたいと思った。
なのにお礼も食事も、一杯おごるのですら頑なに拒否するし。
なんか抱えてるふうだったから、俺が守りたいって思うようになったんだ。
だから諌に取られる前に振り向かせたくて、あの手この手で攻めてみたんだけど……
ぜんぜん相手にされないどころか。
近づこうとすればするほど、壁が高くなってる気がして。
だったら逆に、割り切った関係ならどうにかなるんじゃないかと思った。
違ったら、冗談にすればいいだけだし。
そしたら月奈は受け入れてくれたから……
俺はゆっくり、その心の壁を崩していこうと思った。
ただセフレになったからには、警戒されないためにも抱くしかなかったし。
好きだったから、ほんとはもっと抱きたかった。
でも吐け口にしてると思われたくなかったから、なるべく一回で我慢してたし。
身体で愛を伝えてるつもりだった」
そう愛しげに切なげに見つめられて……
ドキリと心臓が跳ね上がる。
そうだね……
確かに誉は、いつも愛があるように抱いてくれてた。
「なのにあいつが現れて……
めちゃくちゃ焦って、我慢出来なくなって。
好きだって言いたくて、だけどまた壁を高くされそうで。
身体だけは独占出来る、誰よりも近い関係まで失いそうで……
プレイで伝える事しか出来なかった」
プレイって、恋人プレイっ?
じゃああれは、全部本音だったって事?
ー「月奈愛してる……
もうどうにかなりそうなくらい愛してるっ」
「好きだよ月奈、ほんとに愛してるっ……
誰にも渡したくないっ」
「月奈も俺だけ見てっ?
俺が一生守るからっ」ー
思い返して、心が燃えるように熱くなる。
「そんな時、妹の事で避けられるようになって。
そのうちに月奈が、あいつに惹かれてるのがわかって……
だけど諦めたくなくてっ、必死に足掻いてた。
それに、あいつには婚約者がいるって聞いてたから、俺にもまだチャンスはあるかもって。
チャラそうな奴だったから、どうせ出張期間中の遊びだろうって。
だから俺は、あいつの事で苦しむ月奈を支えようと思った。
でもあいつとの過去を聞いて、さすがに太刀打ち出来ないと思った。
記憶を失くしても、婚約者がいても、月奈に惹かれずにはいられないあいつと。
あんな辛い思いをしても、何年経っても、あいつを想い続ける月奈の間には……
微塵も入る隙なんかないって。
わかってたんだけど、諦めきれなかった……
それでもそばにいたかった。
だから協力したり相談に乗ったりして、みっともなくしがみついてたっ」
そう苦しげに顔を歪める誉に、胸が矢継ぎ早に貫かれて。
「待って、うそ待って……」
今さらのように、それらが思い起こされる。
ー「1%でも可能性があるなら、いくらでも待つ」ー
あたしの、そんな気持ちを知りながら……
ー「そんなに好きなんだな……
なのに、何で諦められないんだろうなっ…」ー
そう言った、やり切れない様子の誉。
ー「あいつとはもう、そういう関係になった?」ー
そんな場所に自ら送って……
思わず引き止めた様子で、あたしの腕を切なげに掴んでた誉。
ー〈すぐに聞いてあげれなくてごめん〉ー
いつだって優しくて……
他の男の話のために、出張から帰るや否や駆け付けてくれた誉。
ー「これ以上月奈を苦しめたら、その時は許さない」ー
いつも心配してくれて、助けてくれて、守ってくれてた誉。
いったい今まで、どんな思いで協力してくれたんだろう……
どんな気持ちで相談に乗ってくれたんだろう!
ぐわりと涙が込み上げて、息も出来ないくらい苦しくなって……
心が潰れそうになる。
「ごめっ……
今までずっと、ごめんなさいっ……」
知らなかったとはいえ、あたしはずっと誉を傷付けてた。
もう誰にも甘えたくなかったのに……
誉に甘えて、結局こんなふうに苦しめてた。
「っ、月奈は何も悪くないっ。
たとえ壁を高くされても、何度断られたとしても、気持ちを伝え続ければ良かったのに……
こんな攻め方しか出来なかった、自分が悪いだけだからっ」
「ううんっ、あたしが誉に甘えたからっ!」
「俺は嬉しかったよ!」
その言葉と同時、ぐっと抱き寄せられて。
ぎゅうっとその温もりに抱き締められる。
「月奈に甘えられて、頼られて、すごくすごく嬉しかった。
だから、これからも甘えてほしい。
俺が一生守るからっ、ずっとそばにいてほしい。
月奈、愛してるっ……」
その途端、ぶわりと涙が堰を切る。
「ありがとうっ……
そんなに愛してくれて、ありがとう……
なのに、ごめんなさいっ。
誉の気持ちには、応えられない」
「……んっ、わかってる。
だけど俺が、待つって言ったら?
月奈があいつの事を忘れるまで……
俺だって、何年だろうといくらでも待つよ。
だから、利用でもいいからっ、ただそばにいてほしいんだ」
「っっ、ごめんなさいっ……
あたしは風人を、一生忘れられない。
絶対結ばれない運命でも、風人じゃなきゃダメなのっ」
だからきっと、誉に惹かれながらも……
ついその心を求めながらも……
割り切った関係という一線を、越える気にはなれなかったんだろう。
「……やっぱりそっか。
月奈の壁の中には、その心の中には、あいつじゃなきゃ入れないんだな……
だから俺は、義理堅い月奈の"力になってくれる約束"を利用して。
また割り切った形で、結婚に漕ぎつけようとしたんだ。
ほんと、最後までズルくてごめん」
そう言って誉は……
ぶんぶんと首を横に振るあたしから、ゆっくりと身体を離した。
「ズルくなんかないよっ。
それは誉の優しさじゃん。
そうやって割り切った関係にする事で、あたしの気持ちを守ってくれてた。
無理やり踏み込もうとせずに、あたしの心を大事にしてくれてた。
他にもたくさん、あたしはほんとに大事にしてもらってた。
だから……
誉がこんなに大事にしてくれた事も、あたしは一生忘れない」
すると誉は瞳を滲ませて……
「月奈っ!」
再びあたしを抱き締めた。
「愛してるっ、愛してる……
どうにもならなくても愛してるっ」
そうぎゅっと、ぎゅううと抱きしめる誉が……
愛おしくて。
「ありがとうっ……」
あたしもぎゅうっと抱き返した。
「っっ、俺こそありがとう……
これからを頑張る、力になったよ。
でももうちょっと充電したいから……
もう少しだけ、こうしててい?」
「んっ……
いくらでも、いいよっ?」
そうして、さんざん身体を重ね合ってきたあたしたちは……
最後にただぎゅっと、いつまでもぎゅっと。
心から抱き合って、終わりを迎えた。
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