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対決3

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「そうか……
だが俺も、応じるわけにはいかない」

「いいや、応じてもらうよ。
こんな事もあろうかと、ってこの状況は予想してなかったけど。
ちゃんと逃げ切るために、予防線を張っといたんだ。
国王は、容態は回復してるけど、まだ目覚めてはないよねぇ?」

 額面通りの状況に、サイフォスは眉を顰めた。

「何をした」

「国王だけ睡眠魔法を解かなかったんだよ。
それだけじゃなく、永久維持の魔法もかけてある。
つまり僕か、僕より強い魔術士が解除しない限り、永遠に眠り続ける。
たとえ僕を殺してもね」

 しかし大魔導師を凌ぐニケより強い魔術士など、いるはずがなく。

「だから国王を目覚めさせるには、僕の要望に応じるしかないんだよ」

 するとサイフォスは、迷いなく答えた。

「そういう事なら、断る」

「っ、はっ?
国王が目覚めなくていいワケ?」

「良くはないが、やむを得ないだろう」

ーーちょっと待って、何を言ってるのっ?
当然ヴィオラも唖然とする。

「いや、あんたこの国の王太子だよね?
個人的な感情より、国や民を優先すべきだろ」

「そうだな、王太子失格だな。
だが俺は……
左右の手で1つずつ、救えるものや救わなければならないものがあろうとも。
ヴィオラを守るためならば、両手でその手を掴むだろう」

 その言葉に、ニケは鋭く胸を貫かれ。
ヴィオラはぐわりと涙が込み上げる。

ーーどうしてっ……
どうしてそこまでっ!

 散々傷付けて来た悪妃を、しかも今は伴侶でもない自分を。
これほど心配して、命懸けで連れ戻しに来てくれた事や……

 国や民を守る立場でありながら。
しかも国王の病気で、ずっと辛く大変な思いをして来た張本人が。
他の男の伴侶となった自分を、何を差し置いても守ろうとしてくれている事に……

 ヴィオラは心が燃え上がるように熱くなり。
胸元を押さえながら、ぼろぼろと大粒の涙を溢れさせた。


「……お前もヴィオラも想うなら、困らせるような事をするな」
サイフォスがそう続けると。

 ニケはぎゅっと唇を噛んで、辛そうに顔を歪めた。

 しかし。
「っっ、分かってるよ……
そんな事自分が1番分かってるよ!
けどどうしょうもないくらいっ、諦められないんだよっ!」

 ずっと孤独に生きていたニケは……
大魔導師への復讐か、はたまた和解かが生きる糧だったが。
どちらも叶わなかった今となっては……
初めて心を開いた存在である、ヴィオラだけが。
その唯一愛した存在だけが、生きる糧になっていたのだ。

「……ならば力ずくで、ヴィオラを解放するまでだ」

「力ずく?
この僕に敵うと思ってんのっ?」

「ああ、思っている。
いくらお前でも、立て続けにこれほどの魔術を使えば。
もうそれほど、魔法体力が残っていないだろう」

「……だとしても、あんたを始末するくらい余裕で出来るよ」

「お前には無理だ。
その気があるなら、あんな生ぬるい攻撃ではなく。
不可抗力を装って、俺を仕留めていたはずだからな。
その点俺は、ヴィオラを守るためならお前を斬る」

「あのさ、さっきのは攻撃じゃなくて防御だし。
魔法で動きを封じたら、何も出来ないよね?」

「じゃあなぜ、俺が追っている時そうしなかった」

「それはっ……」

 そう、サイフォスが凄まじいスピードで馬を走らせていたため。
落馬の危険性を考えて、出来なかったのだ。

 ニケはそれを見透かされたような追及に、返す言葉を無くしてしまう。

「それに、いくらお前でも。
魔法というものは、一瞬でかかるものじゃないはずだ。
よってお前が魔法をかけた瞬間、術がキマる前にその首を刎ねるまでだ」
そう言ってサイフォスは剣を構えた。

「……ふぅん、じゃあやってみなよ」

 実際、何もかもサイフォスの指摘通りだったが……
首を刎ねられる覚悟で、ニケが制止魔法を仕掛けようとすると。

「やめて!」
再びヴィオラが、叫ぶようにして口を挟んだ。

「……はぁ。
次はほんとに消すって言ったよね?」

「わかってるわ。
でもそれを覚悟の上で、絶対にやめさせたかったし。
どうしても、お願いしたい事があるの」

 そう、2人のやり取りを聞く限り。
そしてサイフォスが、こういった事には容赦がないと知っているため。
ニケが魔法をかけるのをやめさせなければ、首を刎ねられる可能性が高いと思ったからだ。
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