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逃亡2

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「……それ、お前みたいな無礼者は初めてだって聞こえるんだけど」

「もうっ、卑屈に取らないでよ。
ニケがそんなふうに飾らない人だから、私も自然体でいられたし。
だから一緒に居て、すごく楽しかったし。
いつも親身に相談に乗ってくれたから、これほど心を許せたし。
そうやって私や私の気持ちを守ってくれた人だから……」

「……だったら尚更。
今の僕は自分の都合で、あんたの気持ちや人生をめちゃくちゃにしてるんだから。
そんな奴、もう大事に思えるわけないだろっ」

「ううん。
この選択は私が決めた事で、ニケに強制されたわけじゃない。
それにニケは、私の気持ちまでは奪おうとしてないし。
サイフォス様を想う気持ちごと、受け入れてくれてるじゃない」

「そりゃあ、その気持ちがどれだけ揺るぎないのか、最初から分かってたし。
分かった上で、あんたの事が欲しかったから……」

 切なげに告げられた最後の台詞に、思わずズキュンと不意打ちをくらうヴィオラ。

「っっ、なんだか……
ニケからそんな事言われると、ものすごく照れくさいんだけどっ……」

「っっ!うるさいなっ。
だからって、わざわざ口に出さないでくれるっ?
僕の方が照れくさくなるんだけど!」
そう言って、プイとそっぽを向くと。

 馬車のずっと後方に、驚くべきものを捉えて目を見張る。

「嘘だろ、もう突き止められるなんて……」

 えっ?とヴィオラも、ニケの視線を辿ると。

ーーあれはまさか……
サイフォス様!?
えええ!どうしてここにっ?

 そうそこには、馬に跨り物凄いスピードで追いかけてくるサイフォスがいた。

「なんでこんなに早くバレたんだ?
……あんたまさか、書き置きで助けを求めたのかっ?」

「そんな事するわけないでしょう!?
そもそもその時には、逃亡手段も経路も知らなかったんだしっ」

「でも浮光石とか、手掛かりや目印を残す事は出来るだろっ?」

「ふこうせきって?
それに、ずっと一緒に居たのに何が出来るって言うのっ?」

「……分かんないならいいや。
それに、あんたはそんな事する人間じゃないし……
疑ってごめん。
けどあまりに有り得ない状況すぎて……」

「ううん、疑うのも無理はないわ。
私も見つかった事に驚いてるし」

「……とにかく。
向こうの方が馬車より圧倒的に早いから、魔法で妨害させてもらうよ?」

 サイフォスを心配するであろうヴィオラに、そう断りを入れるニケ。

「……でも怪我だけは、絶対にさせないで」
逃げるためには仕方ないと苦渋の決断をして、そう条件を付けるヴィオラ。

「もちろんそのつもりだけど……」

 しかしサイフォスは……
一寸先も見えないほどの豪雨に打たれようとも、燃え盛る炎に包まれようとも、ものともせずに突進し。
行く手を阻もうとする草木を切り倒し、落石の中をくぐり抜け、傷だらけになりながら迫ってくる。

「ねぇニケお願い!
怪我はさせないでって言ったでしょう!?」

「いやさせたくなくても、妨害しないわけにはいかないしっ。
これでも当たんないようにめちゃくちゃ頑張ってんのに!
向こうが危険を顧みずに強行突破して来るんだから仕方ないだろうっ?」

「そうかもしれないけどっ……
もうっ、どうしていつも自分の身体を大事になさらないのっ?
そもそも護衛も付けずに、どうして1人で追いかけてくるのっ?」

「今頃気付いた?
だから尚更、有り得ないんだよ」

 そう、居場所を突き止められた事も、それがこれほど早い事も然りだが……
大魔導師までも眠らせた危険な闇魔術士を、王太子ともあろう者が一人で追いかけてくるなど、言語道断だからだ。
本来ならまずは捜索隊を置き、十分な策を練り、それに特化した騎士隊が攻め込むはずなのだ。
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