上 下
110 / 123

説得3

しおりを挟む
「そんな奴が、聖人であるべき魔術士を束ねてるなんて、聞いて呆れるっ。
だから不祥事を起こさせて、その地位を剥奪すべきなんだよ!」

「っ、確かにっ、大魔導師様がやった事は許される事じゃないと思うわ。
だけどやっぱり、罪のない陛下を犠牲にするのは間違ってるわっ」

「間違ってたってどうでもいいよ!
そんな綺麗事は、僕と同じ目に遭ってから言って欲しいねっ。
そもそも、あいつが先に間違いを犯したんだし。
その血を受け継いでるから、僕も自分さえ良ければどうでもいいんだよっ」

「ううん!ニケは違うわっ。
ニケはとても優しい人だから……
だから誰かを犠牲にしたら、後悔して余計苦しむはずっ」

「っっ、知ったふうな事言うなよ!
あんたは所詮、王太子しか見てないクセにっ……
王様を助けようとしてるのも、結局王太子のためだろうっ!?」

「確かにっ、サイフォス様のためでもあるわ。
けど同じくらい、ニケにもそんな真似させたくないのっ。
これ以上、ニケが苦しむのは嫌なの!
だって……
私にとっては、本当に大事な人だから」
と、邪魔者なんかじゃない事を精いっぱい伝えるヴィオラ。

 その言葉にニケは、胸をどうしようもなく締め付けられる。

 嬉しくて……
なのにその愛は、決して手に入らない事がやるせなくて。
それでも、欲しくて堪らなくて。
そしてどうしても、大魔導師が許せなくて。
苦悩の表情を浮かべると……

「……わかったよ」
と呟くニケ。

「ニケ!」

 しかしヴィオラが「ありがとうっ」と続けたところで、その言葉が「ただし!」と遮られる。

「……ただし、代価はあんただ」

「えっ……
それって、私の命って事?」

「まぁ似たもようなもんかな。
そう、あんたの人生を僕にくれるなら……
代わりに、王様の命を救ってあげるよ。
それも悪化したとこだけじゃなく、病気自体を治してあげるよ」

「っ、陛下のご病気を治せるのっ!?
待ってそもそも……
どうして病気の事を知ってるのっ?」

「あぁ前に、王宮に納められた物に魔法をかけたって言ったよね?
その中の、王様の部屋に届けられた水晶で、様子を覗いたり、遠隔魔法で探ったりしたからだよ」

「すごい、そんな事まで出来るなんて……」

 とはいえ。
闇魔術士である自分が、身バレの危険を冒してまで助けるわけにもいかず……
大魔導師と和解出来たら、治療をしてあげようと思っていたのだ。
そしてそうすれば、父親に認められたり褒められたりするんじゃないかと……
幼少期に拗らせた淡い期待を、心の奥底に抱いていたという訳だった。


 一方ヴィオラは……
国王の病気でサイフォスが、ずっと辛く大変な思いをして来たのを知っているからこそ。
その回復が何よりも、サイフォスの力になれる事だと考え。
そのためなら自分の人生など、いくら差し出しても構わないと思っていた。

「……わかったわ。
でも私の人生を、どうあげればいいの?
何が欲しいの?」

 するとニケは、「はぁ、鈍感だな」とため息をついて、言いにくそうに答えた。

「だから……
僕の伴侶になれって言ってんの!」

「伴侶?
って、えええっ!
どうして私とっ!?」

「ああも!全部言わなきゃわかんないっ?
あんたに惚れてるからに決まってるだろ!?
他にあんたと居て、どんなメリットがあるっていうんだよっ」

 思わぬ告白に、胸をズキュンと撃ち抜かれるヴィオラ。

 しかし、あまりに予想外な展開に。

「ずっ、ずいぶん辛口な告白ね……」
としか返せず、混乱する。

 対してニケも。
ーーほんと何言ってんだ!
と自己嫌悪しながら。

「うるさいなっ……
こーゆーの初めてだから仕方ないだろっ」
と片手で頭を抱えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

処理中です...